最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和

文字の大きさ
55 / 67
第4章 憎しみの結末

第176話 偽りと契約

しおりを挟む
 親睦会が和やかに終わり、明日の武闘大会が無事に開催される事を皆が疑ってやまないそんな夜。一人だけ、苛立ちを隠しきれない男が居た。

「くそがぁぁ!この俺様を振るだと!!何を考えているんだあの女はぁ!!」

 息を荒げ、ぶつける場所がない怒りの矛先を、叫ぶことによって何とか解消しようと試みる。だがそれも上手くはいかず、彼の怒りは増していくばかりであった。
 
 その怒りを和らげてあげようと、私は心にもない言葉を彼にかけてあげる。

「まぁしょうがないんじゃない?相手が幼い頃からの許嫁だっていうんだし。皇帝になろうっていうんだから、その位は受け入れられる器の大きさ見せてあげないと」

「そんなこと分かっている!!だが私はノスターク帝国の皇子、ハロルド・ウィンブルトンだぞ!!あんな貧相な下級貴族のような奴と天秤にかけられた事自体が、私の沽券にかかわると言っているのだ!!」

 私の言葉は火に油だったようで、彼の怒りは頂点に達してしまう。その怒りを抑えることが出来ず、彼は机の上にのせていたコップを右手の甲で弾き飛ばしてしまった。壁に当たったコップがパリィーンと音を立てて割れてしまう。

 その様子に心底呆れながらも、彼の気分を良くするために私は提案をしてみた。

「そうは言っても、彼女が君を見ようとは思わないだろうし……いっそ洗脳してあげようか?君を心から好きになるようにさ」

 私の能力があれば彼女の心を操ることなど造作もない事。今目の前にいる彼ですら、私に精神を弄られている事を理解していないのだから。だが彼はそんな私の魅力的な提案を、いびつな笑顔を浮かばせながら否定した。

「そんな手を使っては意味がない!あの強情な女の顔を、私自身の力で歪ませてこそ意味があるのだ!あぁぁぁ……私に屈するあの女の姿を想像するだけで達してしまいそうだぁぁぁ!」

 彼は醜い本性を隠そうともせず、顔を歪ませ頬を紅潮させていく。どんな想像を膨らませているのか、私には微塵も興味がないが、下腹部のいきり立った様を見ればその内容も容易に想像できる。あの醜い彼に、頭の中とは言えどそういった対象にされた彼女には、少しばかり同情の感情を抱いてしまう

 だがその歪んだ心を持つ彼だからこそ、私は今この場にいるのだ。

「ほんと気持ち悪いほど歪んでるね。だから私達も君に協力してあげることにしたんだけどさ」

 私達はどうしても、アリス・ラドフォードもしくはハロルド・ウィンブルトンを傀儡にする必要があった。計画を実行するためには両者を同時に傀儡に出来ていれば、よりスムーズに事が運べたのだが、アリス・ラドフォードの洗脳はある邪魔者のせいで不可能になってしまった。
 
 私は邪魔者を排除しようと提案したが、グレンがそれを拒否したため仕方なく計画を変更したのである。今となってはそのお陰で計画の時期が早まったこともあり、グレンには感謝しているのだが。

 そんな事を微塵も知らないハロルドは、私達の事を誰にも言えない秘密を共有した『特別な存在』だと勘違いしている。自分が舞台上で踊らされている操り人形だとも知らずに。

「お前達には感謝している。私の力をこれほどまでに引き出してくれるとはな!!お蔭で、私が皇帝になるのは約束されたようなものだ!『闇の教団』とは今後も良い関係を築いていきたいと思っている」

 饒舌に語るハロルドだが、私はその言葉に笑うことしかできなかった。

「……そういえば、君は大会には個人戦で出場するんだったっけ?」

「そうだ。まぁ大会とは名ばかりで私が優勝するのは決まっているようなものだがな」

「ふぅーん。まぁそうじゃないと私達との約束が守れないもんねぇ」

 彼との間に結ばれた契約。彼の『ノスターク帝国の皇帝をハロルド・ウィンブルトンにする』という願いを聞く代わりに、私達が出した条件。それは『王帝武闘大会で優勝すること』だ。それを成しえなければ私達の関係は闇へと葬られることになっている。

 彼の存在と共に。

 それを彼も理解しているからこそ、優勝すると意気込んでいるのかと思っていたが、そうではなかったらしい。

「それもそうだが、そのために必死になることは無いという事だ。私の力は既に極限の域まで達している!その私を倒せる生徒が居るとでも言うのか?」

 彼の濁った瞳にはそう見えていたのだろう。仮初の力だというのに、さもそれが自分の真の力だと言わんばかりに言う様は、滑稽としか言いようがない。

そんな彼があまりにも可哀想で、君よりも強い存在なんてごまんといるんだよ、とは言えなかった。

「それもそうだねー。まぁ君の頑張りに期待してるよ。頑張ってね」

 そう言うと私は彼に背を向け、手をひらひらさせながら部屋の外へと出ていった。ヴァーランが居ないと、移動が面倒で仕方がない。だがまぁその面倒さもあと数日の辛抱だ。

「もう少し、もう少し」

 来る未来を想像し、愉悦に浸る私の顔は、彼が浮かべていた笑みよりもひどく歪んでいた。
しおりを挟む
感想 169

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。