最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和

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2巻

2-1

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 ウォーレン学園に入学してから約二週間。
 学園のFランクダンジョン最下層にて、ゴブリンロードを倒した俺――アレクは、ボス部屋の奥に転移の陣を見つけた。
 それを踏むと、淡い光が俺を包み込み、一瞬でFランクダンジョンの受付横へと転移した。
 そこには生徒達があふれかえっており、俺が突然現れたことに驚いていた。
 二人いる受付のお姉さんが驚愕きょうがくの表情を浮かべ、うち一人が駆け寄ってきた。

「あ、あの。転移してきたということは……もしかして踏破したのですか?」

 生徒達はその言葉を聞いて、俺の顔とお姉さんの顔を、交互に見始める。周りがどんどん騒がしくなってきた。

「はい。先程さきほどダンジョンボスを倒して、転移の陣を踏んだらここに来ました」
「す、すみません、もう一度お願いします!」

 お姉さんは事実確認のため、『真偽の水晶』を取り出して言った。その様子を、周りの生徒達が食い入るように見つめてる。
 俺は以前、冒険者ギルドで同じことがあったな、と思い出し笑いをする。ギルドマスターのランギルさんは元気だろうか。

「いいですよ。先程ダンジョンボスを倒して、その先にある転移の陣を踏んだらここに来ました」

 お姉さんが水晶の状態を確認する。しばらく待っても、何の変化も起こらなかった。

「……本当のようですね。それでは帰還報告の完了と共に、Fランクダンジョン踏破の登録をさせて頂きます!」
「分かりました。Sクラス所属アレク、只今ただいま帰還いたしました」

 俺はステータスカードをお姉さんに渡す。このやり取りも慣れたもんだ。

「……確認が取れました。アレクさん、Fランクダンジョンの最速踏破、おめでとうございます! 歴代一位の記録です! 引き続き、Eランクダンジョンの踏破を目指して頑張ってください!」

 お姉さんが俺の栄誉を称え、拍手をしてくれた。
 周りにいた生徒達も拍手をしてくれる。勿論もちろん歓声つきでだ。

「すげーな! まだ入学して二週間ってないぞ! しかも一人で攻略ってどんだけ強いんだよ!」
「私あの人と一緒に試験受けたんだけど、『不壊のまと』を半分消し飛ばしたのよ。あれ不正じゃなかったんだわ」

 やがて、ひときわ大きな歓声があがる。生徒達は受付の上を指さしていた。
 見ると、ボードの一番上に『アレク』、その横には『攻略済み』の文字が記載されている。
 こうして俺は、晴れて名誉ある、ダンジョン攻略一番の称号を手に入れたのだった。


 四日後、ネフィリア先生の講義終了後。
 俺はいつものように先生のそばへ駆け寄り、ダンジョン踏破の報告とお礼を伝えていた。

「先生のおかげで、無事にダンジョンを踏破することが出来ました」

 俺がお辞儀をすると、先生は照れながら手を横に振る。

「いえいえ! 講義をしっかり聞いていたアレク君自身の力ですよ! もっと誇ってください!」
「ありがとうございます! でも、先生がくれたこの地図に勇気をもらいました!」

 俺はそう言って地図を取り出した。だが先生は首をかしげる。

「それ、なんですか? 先生そんなもの知りませんよ?」
「え? 俺の部屋の扉に挟んでありましたよ! 先生が心配して、置いていってくれたんでしょ?」
「いえ……先生はアレク君の部屋を知りませんし。それに先生は、特別な理由がない限り、寮には入れないんですよ」
「え……じゃあこれは誰が?」

 先生のものだと思っていたから大切にしていたのに。じゃあ一体誰が?
 俺をおとしめるための偽地図なら、クラスメイトの可能性もあるけど、地図は正確だった。
 俺はもやもやを抱えたまま、講堂を後にして、先生の研究室に同行した。
 先生の研究室は、ツーンとした薬品の匂いがする。この匂いをいだら、先生が近くにいるのが分かるくらいだ。
 その後、先生と暫く談笑したのち、俺は久しぶりに食堂へ向かった。
 今なら生徒達もダンジョン攻略で忙しくしているはず、と思っていたが、食堂は相変わらず混雑しており、空席が見当たらなかった。
 仕方なく購買でパンを購入し、中庭のベンチで昼食をとることにした。
 ベンチに座り、パンを一かじりしながら空を見上げる。
 学園に入学した当初は、友人を作ってワイワイしたいという願望もあったが、それも薄れてきた。
 姓がないからという理由だけで差別し罵倒ばとうしたり、根拠もないのに不正と決めつけうわさを流したりする、ろくでもないやつばかりだからだ。
 この学園に来た一番の目的である、幼馴染おさななじみのアリスとの関係もうまくいっていない。同じく幼馴染のヴァルトとは再会すら出来ていない。
 もしこのまま、アリスと仲直りすることもかなわなければ、学園に来た意味がなくなってしまう。これから俺はどうすればいいんだ。
 一人悲しみに暮れていると、食堂からこちらに向かって男女が歩いてきた。
 男の方は学園の制服を着ており、袖のラインが「青」「赤」となっているので、一年生のAクラスだと分かった。遠くから見ても容姿が整っている。
 そしてもう一人はメイド服を着た女の子だった。特徴的な犬の耳を持つ、亜人の『犬人族』だ。
 二人は真っすぐ、俺が座っているベンチの方へと歩いてきた。
 貴様らもしかして、ここでキャッキャウフフするんではなかろうな! 先生そんなこと許しませんよ! お前達に何と言われようがここをどかぬ! 退かぬびぬかえりみぬ!

「お前がアレクか?」

 男は俺の前に立つと、ベンチに座ることなく声をかけてきた。どうやら俺に用があったようだ。

「そうだけど。何か用か?」

 俺が返事をすると、イケメンはニヤリと笑って、女の子へ顔を向けた。

「ほら見たかニコ! こいつがアレクで合っていたではないか! 私が間違えるわけないだろう!」

 イケメンは腰に手をやり、それ見たことかと自慢げな表情をしている。
 ニコと呼ばれた女の子は、無表情で手をパチパチ叩いていた。
 イケメンは俺の方へと向き直り、俺の名前を再び呼んだ。

「久しぶりだなアレク・カールストン! 貴様の名前をダンジョンのボードで見た時には驚いたぞ! まさかこんな所で再会するとはな、友よ!」

 俺は突然のことに驚き、口に含んでいたパンをのどに詰まらせてしまう。

「ゲホゲホッ。……なんで俺の姓を知ってるんだ」

 俺の実家がカールストン家だと知っていて、「再会」という言葉を使った。だがこんなイケメン、俺は知らないし――

「……お前まさか、ヴァルトか?」

 俺は頭の中から、唯一友人と思われる名前を引っぱり出して呼んだ。
 六歳の時に初めて出会い、最初は仲良くなれそうにないと思ったが、会うたびに話すようになった幼馴染。
 男は満面の笑みを浮かべ、俺の隣へと勢いよく座った。

「そうだ! バッカス家のヴァルト様だ! 久しいなアレク! 最後に会ったのはアリス様の八歳の誕生日会の時だから、八年ぶりか?」
「ヴァルト様、それなら五年ぶりです」

 今の会話で俺は確信した。こいつは間違いなくヴァルトだ。
 言っちゃ悪いが、こいつは少しバカなんだ。簡単な計算でも間違えるし、アランデル語も読み間違えたり、書きミスしたりする。
 ちなみにアランデル語とは、この世界の共通語だ。俺は『言語理解』のスキルがあるため、一番理解しやすい言語、日本語で読み書きをしているけど。

「そうかそうか。それでアレク。なぜあれから顔を出さなかったのだ? パーティーでお前とアリス様と遊ぶのを楽しみにしていたのに。アリス様なんて、号泣してひどかったのだぞ! それに手紙を返さないとは何事か‼」
「あー……色々いろいろあったんだよ。色々さ」
「色々とはなんだ。病気か? それと、なんで貴様は姓を名乗らない。貴族の誇りではないか!」

 久しぶりに会ったヴァルトは、以前より積極性が増している気がする。
 別にこいつに教える必要もないのだが、久しぶりなせいか、俺は口が軽くなってしまった。

「……『鑑定の儀』の結果、職業が『魔導士』でも『魔術士』でもなかった俺は、カールストン家にとって不要な存在になったんだ。だからパーティーに行くことも許されず、お前達に手紙を送ることさえ出来なかった。それから毎日山にこもって、モンスター狩りをしてた。両親とも兄とも顔を合わせることはなくなったよ。食事も別々だったしな」

 ヴァルトは俺の目を見て何度もうなずき、必死に理解しようとしてくれていた。こいつは昔から、友達を大切にする割といいやつだ。

「俺が十一歳の誕生日を迎える頃、兄さんがこの学園の『Aクラス』に入学したから、お前はいらないって遠回しに言われたんだ。だから俺は、この学園の入学金を一人立ちの資金として貰うことで、カールストン家を出ることにしたんだよ。お前とアリスに会うためにな。だから俺は、ただのアレクになったんだ」
「……そんなことがあったのか。だがお前はFランクダンジョンを一人で攻略出来る程の才覚を持っているではないか! そんなお前がなぜ?」
「俺の職業名知ってるか? 『解体屋』だぞ。そんな職業は、平民の仕事だって両親に言われてな。恥さらしとまで言われたよ。今となってはあの家と縁を切れて良かったけどな」

 俺は苦笑して返事をする。重い空気を少しでも軽くしようとしたのだが、ヴァルトはそんなことを気にせず、会話を続けてくれた。

「そうだったのか。だから私達と連絡を取れなかったのだな。だが、こうして再会出来たのなら何も問題はない! それなのに、なぜお前はアリス様と一緒にいないのだ? 友人ではないか!」
「なんでか分からないけど、嫌われてるんだよ。入学してすぐに声をかけたんだけど、『どなたかしら?』って言われたからな」
「そうだったのか。では今週のアリス様の誕生日、貴様は何も渡さないのか?」

 アリスの誕生日という言葉を聞いて、俺は昔の記憶を思い出す。
 そういえば、二回だけだったが、アリスの誕生日会に呼ばれて行ったな。それで髪留めをプレゼントしたっけ。昔の話だ。
 新入生代表の挨拶あいさつの時にはつけていたと思ったんだが、ダンジョン内で見かけた時はつけていなかったから、捨ててしまったのだろう。

「……そうだな。アリスの誕生日は勿論覚えてるけど、どうせ受け取って貰えない。少し待つことにするよ。本当はもうこの学園にいる必要もないと思ったんだけどな。お前がいるなら話は別だ」

 俺は悲しげな表情でうつむき、指をいじり始める。
 本当は渡したいんだけどな。この世界で出来た初めての友人だし。
 そんな俺の思いを知ってか、ヴァルトも悲しげな表情になる。

「……つらかったのだな。私にも分かるぞ、アレク。ニコが我がに来てからというもの、やれ運動しろだの、甘いものを控えろだの、十八時以降の飲食はダメだのと、とても辛かったのだ。本当に死ぬかと思った」

 ヴァルトは涙を流して自分の過去を語った。正直、何言ってるんだコイツという感じだが、ヴァルトのこういうところが俺は憎めない。
 だが、ヴァルトの発言を聞いて、ニコが無表情で説教し始めた。

「ヴァルト様。アレク様と貴方あなたの過去を同列に語れるわけがないでしょう。そんな頭だからSクラスに合格出来ないのですよ。もう少し知恵をおつけになられてはどうですか?」

 おいおい。お付きのメイドといえど、流石さすがにそこまで言ったらまずいんじゃないのか?
 横に座るヴァルトを見ると、やはり怒っているようだ。俺は話をさえぎって話題を変える。

「そういえばヴァルト。ニコさんはお前のお付きの人みたいだが、いつからなんだ? 昔は見かけなかったが。歳も俺達と同じくらいだろ?」
「ん? ニコは私が八歳の時に『奴隷商』で出会ったのだ。酷くやつれていてな。可哀想で、父上に無理を言って購入して貰ったのだ。歳は私達と同じだ!」

『奴隷商』か。俺も父上から聞いたことはあるが、購入しようとは考えたことすらない。俺には、いまだに日本に住んでいた記憶が残っているからだ。

「やつれていたって言ったけど、今のニコさん元気そうで良かったな。お前が主人なんて少し心配だよ、俺は」
「何を言う! ニコはいまだに、一人じゃ寝れないとか言って、私のベッドに入ってくるのだぞ! それに風呂も『れるのが怖い』とか言って、一緒に入らされるのだ! 本来であれば許されない行為なのだぞ? 主人が望んでいるのならばまだしも、奴隷が主人に願うなど無礼にも程がある!」

 ん、なんだって? 同じベッド? 一緒に風呂?

「それとニコ! さっきのは一体なんだ! 貴様、自分がいくら可愛いからといって、主人を馬鹿にするとは何事だ!」

 ん? ん?

「全く……私が貴様のことを好いているから許しているのだぞ。私以外にはそんな態度とるなよ? いくら私でも不敬罪は守ってやれん」

 今は間違いなくシリアスな場面だったろ? 旧友と奇跡の再会を果たして、俺の悲しい過去を知り、再び共に歩もうという展開じゃなかったのか?
 なんでニコも、ヴァルトに惚気のろけられてほお染めてんだよ。

「話はれてしまったがアレクよ! これからも友人として仲良くしていこうではないか!」

 ヴァルトは、自分がニコに愛をささやいているのに気づいてないらしい。
 平然と俺に話を振ってくるので、俺はにっこり笑ってこう言い放ってやった。

「絶対に嫌だ」

 そしてベンチから立ち上がり、ゆっくり食堂に向かって歩き出す。
 喜べヴァルト。たった今、貴様は俺のとっておきリストに名前が加わったよ。『リア充クソ野郎』リストにな。


 翌日、俺は王都の商店街へと足を運んでいた。
 昨日ヴァルトには渡さないと言ったが、アリスの誕生日プレゼントを買いに来ている。やはりチャンスがあれば渡したいから、用意だけはしておこうと思ったのだ。
 しかし、アリスもいいお年頃の女の子だ。ほとんど女性経験がない俺は、何をプレゼントしたらいいか迷っていた。

「戦闘に使える武器か? 収納袋もいいよな。あとは……ポーション系か」

 俺は悩みに悩んだ結果、サンフィオーレ魔具店へ向かった。
 武器は好みがあるだろうし、収納袋もアリスなら所持しているはずだ。だったらいざという時のために、消耗品をプレゼントするのがいいだろう。
 二度もぼったくりにってから、もう行くまいと決めていたのに、こんなにすぐに行く羽目になるとは。
 店の前に着いた俺は、ため息をこぼしながら扉を開けた。
 扉の上についていた鈴が音を立てると、カウンターで頬杖ほおづえをついていたフィーナさんがこちらに顔を向けた。

「いらっしゃーい! 本日は……ってアレク君か。もしかして、ポーション全部使っちゃったの?」
「こんにちは。ポーションは残ってますよ、一つも使ってません」
「あらそう。じゃあ何の用? もしかして杖を買いに来たとか⁉」

 フィーナさんの目が、「カモが来た!」というようなものに変わる。杖は高価だけど、俺ならすんなり買うと思ったのかもしれない。

「杖は今後も買いませんよ。今日は……その……」

 俺ははっきりと伝え、今日の目的を伝えようとしたが、急に恥ずかしくなって口ごもってしまう。

「じゃあ一体何買いに来たのよ。それ以外の商品は売ってないわよ?」
「今日はその……プレゼントを買いに来たんです」
「そうなのね! 相手は学生? 魔法は使うの?」


 プレゼントと聞いて表情が明るくなるフィーナさん。椅子いすから立ち上がり俺の方へ歩いてくる。

「残念ながら魔法は使わない人なんです。ただ久しぶりにプレゼントするので、いいポーションをあげようかなと」
「そっかー残念。でもそれなら、とっておきのポーションをプレゼントしなきゃね!」

 フィーナさんはそう言うと、奥の部屋へ駆けていった。
 とっておきともなると、金貨五十枚くらいだろうか。今の俺の財力なら全然余裕で買えるな。
 五分程して戻ってきたフィーナさんは、豪華な装飾が施された箱を抱えていた。それをカウンターに置き、俺を手招きする。

「うちのお店に置いてある中でも最上級のポーション。『フルポーション』よ!」

 開かれた箱の中には、装飾つきのフラスコのような形をしたびんが一本入っていた。かなり高価なポーションであることが分かる。

「フルポーションて、どんな効果があるんですか? 聞いたことがないもので」
「かなりレアな商品だから、知っている人も少ないわよ! 普通のポーションはり傷や打撲だぼくを治して、体力を少し回復してくれる。ハイポーションは骨折や深い傷の治癒に効果があって、体力を多く回復してくれるわ! このフルポーションはね……なんと! 腕とか足とか切断されてもくっつけられちゃうのよ! 消滅とかしちゃってたら無理なんだけどね」
すごいですね! そんな効果があるなんて、冒険者からしたら喉から手が出る程欲しいんじゃないですか?」
「でしょでしょ! 使い方は、切り落とされた部位をくっつけながら直接かけるか、飲むか。ちなみに飲んだ方が後遺症もないし、おススメよ。今ならお手頃価格! 一本、白金貨百枚よ! ついでにハイポーションも五本つけちゃうわ!」

 俺はフィーナさんの口から出た金額に絶句した。ハイポーションの二百倍じゃないか。

「高すぎません? それに、こんな高価なものプレゼントしても喜んでくれないと思うんですけど」
「そんなことないわ! これがあれば一生残る傷をなかったことに出来るんだから! それに君なら買えるでしょ? 『オーク殺しのアレク』君」

 なんだその微妙にダサい異名は! フィーナさんがニヤニヤし始める。

「有名よねー。オークの睾丸こうがんを、対の状態で百も持ち込んだらしいじゃない! ここには冒険者達がポーションを買いに来るからね。噂はすぐ耳に入るのよ。『白髪の子供が四体のオークを秒殺しているのを見た』ってね」

 人の口には戸が立てられないと言うが、まさか一番耳にして欲しくない人物に聞かれてしまうとは。俺が大金を持っていることはもう知られているわけか。
 仕方がない。いい商品なのは間違いないし、買っておいて損はないだろう。
 全財産の四分の一が消えるわけだが、まだ余裕はある。

「分かりましたよ! 買わせて頂きます!」
「おお! 流石天下のアレク君! 太っ腹ですなー! こんな凄いプレゼントあげるなんて、お相手はどっかのおえらいさんかな?」

 フィーナさんから箱を受け取り、収納袋にしまった。
 大金を手にしたフィーナさんは、ほくほくした表情で両手で頬杖をついている。

「まぁ偉いと言えば偉いですね。公爵家の御令嬢ですから。昔は髪留めとかプレゼントしたんですけどね」

 俺の返事を聞いた瞬間、フィーナさんは「ズコッ」と音を立てて、まるでお笑い芸人のようにカウンターの上で崩れ落ちた。俺はその行動に驚きビクッとなる。

「ちょっと待って。君がプレゼントする相手って『女の子』なの?」
「え? えぇまぁそうですけど。何かおかしいですか?」

 俺が真面目に答えると、フィーナさんは大きくため息をつき、あきれた表情になった。

「あのね、年頃の女の子がポーション貰って喜ぶわけないでしょ!」
「いや、でも他にプレゼントが思いつかなくて」
「フルポーション買えるだけのお金持ってたら、ブローチとかネックレスとか買えるでしょうが! 大通りに宝飾店があるから、そこでプレゼント買いなさいよ! 『キーリカ宝飾店』て名前のお店だから!」

 フィーナさんは俺をビシッと指さして言った。
 俺だってその手のプレゼントも考えた。ただ、アリスが受け取りにくいと思ったのだ。
 まぁフィーナさんが言うのなら、宝飾品も見てみようか。

「分かりました。帰りに、その店に寄ってみます。じゃあこれは返品ということで」

 俺がフルポーションの箱をカウンターに置こうとすると、フィーナさんによって阻止された。

「それはダメよ! もうお金は貰っちゃったし! サンフィオーレ魔具店は、返品交換は受け付けておりません!」

 そう言いながら、両手をクロスさせてバツのポーズを取る。
 可愛く言っているが、金額は全く可愛くない。
 俺は深くため息をついて、箱を再び収納袋へと戻した。なんとなくだけど、フィーナさんには何を言っても無駄だと思ったのだ。

「はぁ……一応お礼は言っておきます。ありがとうございました」
「こちらこそ! またいらっしゃいな!」

 屈託くったくのない顔で笑うフィーナさんは、まるで物語に出てくるヒロインのような可愛さがあった。
 だが俺はもう惑わされない。次来る機会があったとしても、慎重に行動しよう。
 サンフィオーレ魔具店を後にした俺は、宝飾店へと歩き出す。
 暫く道沿いに歩くと、看板を確認するまでもなく、ここが「キーリカ宝飾店」だろう、というお店に辿たどり着く。今まで見てきたどの店よりも、外観がきらびやかで、お店から出てきたお客も貴族のような格好をしている人ばかりだ。
 俺は意を決してお店の戸を開けた。
 宝飾品がケースにずらりと並んでいる。店員さんのたたずまいや身のこなしは上品なものだった。
 俺はケースに並べられている品を見て、アリスに似合いそうなものを探していく。


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