最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和

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2巻

2-2

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「いらっしゃいませ! 本日はどういったものをお探しでしょうか!」

 声をかけられ振り向くと、ダンディなおじさんが立っていた。

「えっと、友人に誕生日プレゼントを買おうと思ってるんですけど。何がいいのかさっぱり分からなくて……」
「誕生日プレゼントですか。お相手は女性の方でしょうか?」
「そうです。一応昔からの付き合いで、髪留めなんかは贈ったことがあるんですけど」

 ダンディなおじさんは俺の話を聞くと、少し黙り込んだ後、ケースからネックレスを取り出した。シンプルなチェーンに、ダイヤが一つついている。

「こちらの、ダイヤのネックレスなんてどうでしょうか? ダイヤモンドは四月の誕生石ですので、誕生日プレゼントにぴったりの品だと思います」

 ダイヤのネックレスか。俺の勝手なイメージだけど、ダイヤモンドって結婚相手に送るイメージがあるんだよな。

「友人にダイヤのネックレスって重くないですかね? 髪留めとかの方がいい気がするんですけど」
むしろ、髪留めの方が重く捉えられてしまいますよ? 髪を留めておく役割から、『束縛』と思われる場合があります。その点、ネックレスなら大丈夫です! あとは予算との兼ね合いになりますが」

 髪留めの話を聞き、俺は遠い昔のことを思い出す。
 俺が髪留めをあげた時、周りがざわついたのはこのせいか? アリスも心なしか、変な顔をしてた気がするし。今更いまさらだけど、めちゃくちゃ恥ずかしいな。

「そうなんですね。じゃあダイヤのネックレスにします。予算は白金貨三十枚くらいまでだったら大丈夫です」
「白金貨三十枚ですか! それだけあれば十分いいものが買えますよ! 私の方で候補を挙げさせて頂きましょう!」

 いくつかのネックレスを見せられたが、どれもピンと来ず、気に入ったものが見つからない。
 ふと隣のケースに目を向けると、三日月形の台座に、小さなダイヤがちりばめられたネックレスを見つけた。少し子供っぽいデザインかもしれないが、アリスに似合うと思った。

「すみません。この三日月の形のやつでお願いします」

 ダンディなおじさんにそう伝えると、ケースから取り出し、傷などの確認をしてくれる。
 値段は白金貨二十五枚で、予算より安く済んだ。俺は代金を支払い、丁寧に箱詰めして包んで貰ったネックレスを収納袋へとしまい、店を後にする。
 もしかしたら受け取ってくれるかもしれない。
 そんな淡い期待を胸に抱き、俺は帰路につくのであった。


         ■


「全く。面倒な風習もあったものね」

 四月二十五日の日曜日。休日だというのに私――アリスは学園の食堂を訪れていた。
 今日は私の誕生日。この学園では生徒の親睦しんぼくを深めるために、自分の誕生日には食堂で昼食をとるという習わしが存在している。
 実際は貴族の子息同士が交流を深めるための、暗黙のルールみたいなものらしいが。

「こんなことしている暇があるなら、一刻も早くダンジョンに行ってレベル上げをしたいのに」

 私はあせりを覚えていた。この間、アレクがゴブリンジェネラルを倒した一件が、なぜか私の手柄てがらになっていたのだ。
 あの日、アレクからゴブリンジェネラルの魔石を渡された私は、それが本物か受付の人に確認して貰った。本物だと分かった時、私は「アレクが倒した」と受付の人物に告げたはずだった。
 それなのに新入生の間では、私がゴブリンジェネラルを倒したという噂で持ちきりになっていた。
 私は他人の手柄を横取りする程、腐ってはいない。何が起きているのかさっぱり分からなかった。だが、その話題もすぐに忘れ去られることになる。
 なんとアレクが、たった一人で、Fランクダンジョンを攻略したのだ。
 さらに凄いことに、歴代最速で攻略したらしく、アレクの名前は上級生にまで知れ渡った。
 こればかりは、不正を疑うものは誰一人としていなかった。
 勇者ウォーレンが作り上げたダンジョンは、不正で攻略出来る程甘いものではないと、挑んでいる自分達が一番分かっているからだ。

「……まずは、どうして私がゴブリンジェネラルを倒したことになってたのか確かめなきゃ。誰がうその噂を流したか知らないけど、そんな方法に何の意味もないのよ。真剣勝負でアレクに勝ってこそ、私の五年間は価値あるものになるんだから!」

 つぶやきながら食堂の中に入ると、大勢の生徒が一斉に駆け寄ってきた。

「アリス様! お誕生日おめでとうございます!」
「アリス様! どうぞこちらへ! 席は既にご用意しております!」

 生徒達はみな、私を祝うためにわざわざ集まってくれたのだろう。パーティーのように盛り上がっている。
 私が席に着くと、司会役の男の子が音頭おんどを取り、食堂内は静かになる。

「それでは、アリス様より一言頂戴ちょうだいしたいと思います。お願いいたします」
「皆様。本日は私のためにこのようなパーティーを開いて頂き、ありがとうございます。お時間が許す限り親睦を深めてまいりましょう」

 私が軽く挨拶をすると、周りから盛大な拍手が送られた。そして再び席に着くと、パーティーが再開された。
 ご機嫌取りをする連中が、プレゼントを持ち次々と私の所へやってくる。
 自分達の領地の特産品や新しく発売されたおしろいなど、贈り物は様々さまざま。だが、この会場にいる皆、誰も私の心を見ていなかった。
 会話をする時の目がそれを物語っている。本心からこの会場に来たかった者など一人もいないのだ。
 私の隣の机に、どんどんと箱が積みあがっていく。それらが偽物の友情を具現化したものにしか見えなくなり、気分が悪くなってきた。
 そのせいか、無理やり忘れ去ったはずの思い出がよみがえる。
 初めてアレクから貰ったプレゼントは髪留め。私の髪色に合うように悩んだ結果、白い花飾りがついた物をプレゼントしてくれたんだっけ。
 恥ずかしそうに私にソレを渡してくれたアレクの姿は、どれだけ私がアレクを嫌いになろうとも、頭から消せないのかもしれない。
 その髪留めも学園に持ってきたはずなのに、いつの間にかなくなってしまった。
 大切な大切な、私の宝物。探さなくてはいけなのに、なぜか心が動かなかった。

「……どうしたら昔みたいになれるのかしらね。アレク」

 私はありえない妄想をする。
 私とアレクの二人でダンジョンを攻略するのだ。笑いながら、時には喧嘩けんかもするけれど、仲良くダンジョンを攻略する。
 一緒に野営をしたり食事を一緒に食べたり。どれだけ楽しいのか私には想像がつかない。
 もし、昔みたいになれたら。
 でももう無理なのだ。私は歩み始めてしまった。復讐ふくしゅうの道を。
 そんなことを考えていると、聞き覚えのある声が私の耳に入ってきた。

「やっと私の番か! お久しぶりですアリス様。お元気そうで何よりだ!」

 顔を上げると、顔見知りが二人、立っていた。

「久しぶりねヴァルト。それにニコも。二人とも元気そうで良かったわ」

 私の心を締めつけていた何かが、ふっと緩くなった気がした。

「ははは! 私はいつでも元気ですよ! そんなことより十三回目の誕生日おめでとうございます! ニコ、あれを!」

 ヴァルトが大声で笑う姿を見ていると、なんだかこっちまで笑いそうになってしまう。
 私はニコから一切れの紙を貰い、書かれた内容に目を通す。

「『バッカス家秘伝~究極ダイエット法~』……なにこれ」
「いやー、私も何が良いか迷ったのですが、ニコが名案を思いつきましてね! 私のダイエット法を記した秘伝の書になります! 女性にはこういうものが喜ばれると、ニコが教えてくれましたので!」

 ヴァルトがしゃべっているのを聞きながら、ニコの方へ顔を向けると、いつもの無表情だった。そうまでして、ヴァルトを取られたくないらしい。

「相変わらずね、ニコは。そんなことしなくても取る気なんかないわよ。安心しなさい」
「心得ております。ですが、万が一ということがございますので」

 深々とお辞儀をするニコ。
 この子はヴァルトを溺愛できあいしているため、他の女が寄りつかないようにあらゆる手段をとる。当のヴァルトはそれを知らないため、気楽に生きているのだが。
 それにしても、『バッカス家秘伝~究極ダイエット法~』ね。

「……フフ」

 思わず口から笑いがこぼれる。

「嬉しいプレゼントね。間違いなく今日一番のプレゼントよ。二人ともありがとう」

 私は心からのお礼を告げ、頭を下げた。
 二人もそれに合わせて頭を下げる。
 憂鬱ゆううつだったこの時間も、大切なものに変えることが出来た。本当に感謝しかない。

「そういえば先日、アレクに会いましたよ! まさかこの学園に入学してるとは思いませんでした」

 せっかくいい気分で終われそうだったのに、ヴァルトからアレクの名前が出たことで、私は表情をくもらせた。
 ニコはすぐに気づいただろうが、ヴァルトはそんな些細ささいな変化に気づかない。

「そう。元気にしてた?」

 私は精一杯の言葉を返す。アレクの名前を聞くたびに、憎しみと嫉妬しっと、そして悲しみと愛情が入り混じった嫌なもので、私の心が締めつけられていく。

「元気にしていましたよ! アリス様の誕生日も覚えていましたし! まぁプレゼントは買うつもりはないと言っていましたが」
「……そう。私のことを覚えていたんだから、誕生日くらい忘れるわけないでしょ」

 私が怒った口調で返事をすると、流石のヴァルトも、私が不機嫌になったのが分かったようだ。
 すると、なぜか彼の表情は悲しみへと変わる。

「アリス様……アレクも辛い日々を送ってきたのです。どうか話を聞いてやってください」
「……辛い日々、ですって?」

 私は思わず立ち上がり、怒りに任せてヴァルトに叫ぶ。

「何が辛い日々よ! 私に会いたくないって……そう手紙を書いたのはアイツの方よ! アレクに会いに行った時、アレクのお父様は九歳の私に土下座して謝ったのよ? ……私の方が辛かったに決まっているでしょ! それなのに……」
「手紙? そんな馬鹿な。アレクは手紙を――」

 ヴァルトが何か言っているが、私の耳には入ってこない。
 この二人なら私の気持ちを理解してくれると思った。アレクと同じくらい、仲良くしてくれた人達だから。
 私の頬に一筋の涙が流れる。

「アレクは……私と友達でいたくなくなったのよ」

 私はそのまま食堂の出口へ向かった。
 後ろから声が聞こえるが、何を話しているかは分からない。
 涙を流しながらドアを開き、外へ出たその時だった。

「あ、アリス」

 私の目に飛び込んできたのは、小さな箱を手にしたアレクだった。


         ■


「うへぇ。なんだこの人数は」

 今日はアリスの誕生日。俺――アレクは、アリスに誕生日プレゼントを渡すために、休日だというのに学園へやってきている。
 食堂に到着した俺は扉の隙間から中を覗いてみたのだが、かなりの人数が集まっていた。みんな、アリスの誕生日を祝うために来たのだろう。
 俺はそっと扉を閉じて、うろうろし始める。

「中に入って渡しに行くか? でも、気まずい雰囲気になったらあれだしな。どうするか……」

 あごに手を当てて策を練る。食堂の中に入るか、もしくはここでアリスが出てくるのを待つか。
 結局俺は、食堂の中に入ることを諦めて待つことにした。
 暫くして扉が開く音が聞こえた。
 扉から出てきたのは、涙を流すアリスだった。

「あ、アリス」

 俺は思わず駆け寄り声をかける。
 なぜ主役が泣かなきゃいけないんだ? もしかしていじめか?
 俺が思考を巡らせている間に、アリスは足早にその場を去ろうとする。

「お、おいアリス! どうしたんだよ! なにがあった!」

 俺は思わずアリスの右腕を掴み引きとめる。
 アリスは掴んだ俺の手を振り払い、にらみつけてきた。

「……どうした、ですって? 暢気のんきなものね。流石Fランクダンジョン最速クリアの男かしら」

 アリスが泣きながら皮肉を言ってくる。俺がダンジョンのことしか考えていない、とでも言いたいのか。

「それは今、関係ないだろう! どうして泣いているんだ。何かされたのか?」
「何かされたのか? ……そう。あくまでも貴方は知らないふりをするのね」

 俺の言葉を聞いたアリスは、悲しい顔をした後、また俺を睨みつけてくる。
 知らないふり? どういうことだ? アリスが今泣いていることと、何か関係があるのか?

「よく分からないけど、俺が何かしたっていうのなら謝るよ」
「今更遅いのよ‼」

 アリスは声を荒らげて叫ぶ。

「自分が何をしたかも分からないのに謝る? それで私が許すとでも思ってるの⁉ それに……貴方が謝ったところで、私の五年間はもう二度と返ってこないのよ!」

 アリスは話している間、ずっと泣いていた。そして言い終えると、その場から立ち去ってしまった。
 俺はアリスの手を掴むことが出来なかった。
 正確に言えば、アリスに手を振り払われてしまった。
 アリスの言葉通りであるなら、俺はアリスの五年間を、何らかの形で奪ってしまったのかもしれない。
 そう思いながら、俺は暫くその場に佇んでいた。


 三日後。俺はネフィリア先生の講義を受けていた。
 講義終了後、いつものようにネフィリア先生の元へ向かい、研究室まで荷物持ちをする。

「アレク君いつもすみません。お手伝いして貰っちゃって」
「良いんですよ。やりたくてやってるんですから」

 先生は両手にいっぱいの資料を抱えているから、転んでしまいそうで心配になる。
 研究室に着いた後、俺は先生に相談があると話を始めた。
 どうすればアリスと仲直りが出来るのか、先生なら教えてくれる気がした。

「つい五年程前までは仲良しだったんです。パーティーで会えば常に一緒にいるくらいに。でも俺の家庭内での地位が低くなったせいで、この五年間連絡が取り合えなくなってしまって。そのせいか相手を泣かせてしまったんです。どうすれば仲直り出来ますかね?」

 話を聞いた先生は、腕を組んで難しい顔をしている。

「うーん。本当にそれが仲たがいの理由か分かりませんからね。出来れば正直に、お互いの気持ちをぶつけ合うのがいいと思うのですが。難しいようでしたら、時間が解決してくれるまで暫く距離を置くのもいいかもしれません」

 先生は優しい顔で、背伸びをして俺の頭をでてくれた。

「大丈夫です! いざとなったら先生がその子にお話ししてあげますから!」

 小さな手を胸元で握って、かっこつける先生を見ていると、何とかなりそうな気がしてきた。
 やはり年長者に相談して正解だったな。

「ありがとうございます、先生。仲直り出来るよう頑張ってみます!」

 先生から元気を貰った俺は、アッポウジュースを一気に飲み干し、お礼を告げて研究室を後にした。
 気持ちを切り替えて、今日からEランクダンジョン攻略に取り掛かろう。
 そう考えながら歩いていた矢先、目の前からゴリラ――ではなく、ライオネル先生が歩いてきて、俺を見つけるやいなや、猛ダッシュを決め込んできた。

「やっぱりここにいたかアレク! 毎週ここにいるって噂は本当だったんだな!」

 そう言いながら、勢いよく俺の肩に手を回すライオネル先生。正直、体感温度が三度くらい上昇した気がするんだが、間違いではないだろう。

「先生こんにちは。それで噂ってなんのことですか?」
「お前がネフィリア先生を落とそうと躍起やっきになってるって噂だよ! 知らなかったのか?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか! 俺はもう少し大人っぽい女性が好みなんです!」

 どうやら俺がロ〇コンだと、噂が立ってしまっているらしい。
 まぁ毎週のように、外見が幼いネフィリア先生の研究室に行けば、そんな噂が立っても仕方がないか。俺は肩を落としてため息をこぼす。

「そうかそうか! まぁそんなことより、明日の午後なんだが、他クラスの実技演習の講義に出席して貰いたい! 新入生最速ダンジョン攻略者として、お手本になって貰いたいんだ!」

 肩に回された腕が俺の首を締めつける。
 先生は自分の腕の太さを自覚してないのか、俺が死にそうになっているのに気づいてくれない。

「せ……ん……せ……し……ぬ……」
「おっとわりぃ! とにかく伝えたからな! 明日は絶対に来いよ!」

 ライオネル先生は腕を放し、来た道へと戻っていった。
 どうやら今日からダンジョン攻略に専念するのは無理なようだ。

「はぁ、はぁ……仕方ない。今日は市場にでも行って食材を買いすか」

 俺は再びため息をついて、市場へと向かった。


 翌日。
 ライオネル先生に言われた通り、実技演習の講義へとやってきた俺は、周りの生徒に目を向けた。
 どうやらSクラスの生徒は残っていないようだ。みんな試験に合格して、ダンジョンへ行くことを許可されたのであろう。
 今この講義に参加しているのは、制服の二本目のラインが「青」「緑」「黄」の生徒達――つまりB、C、Dクラスの生徒達だ。
 実力にどの程度差があるのか分からない。俺が手本になれるか心配だ。
 講義の開始時刻になり、ライオネル先生が現れた。

「よし全員いるなー。今日は先週言った通り、実際の戦闘について学んでいくぞ。今日はゲストに来て貰ってる! お前達も知っていると思うがSクラスのアレクだ。既にFランクダンジョンを攻略している! 皆こいつの動きを見て学べよ」

 俺は軽くお辞儀をした。
 Sクラスと違って貴族の生徒が少ないのか、素直に拍手をしてくれる生徒ばかりだった。

「じゃあまず、俺とアレクが模擬戦するから、お前達は観戦していろ! よっしゃ、やるぞ!」
「分かりました」

 ライオネル先生がやる気満々の表情で、開始位置に向かって歩き始める。
 俺は言われた通り、反対側の立ち位置で剣を構えた。

「こないだみたいに剣だけじゃなくていいぞ! 『中級魔法』『中級剣術』までなら使っていい! さぁ俺を倒してみろ!」

 ライオネル先生が構える。中級までなら何を使ってもいいのか。

「分かりました。では……いきます。『火矢ファイヤーアロー』!」

 俺はその場で八発の『火矢ファイヤーアロー』をライオネル先生に向かって放つ。

「『火球ファイヤーボール』!」

 そしてすぐさま六発の『火球ファイヤーボール』を、左右から弧を描くように放つ。これで前と左右からの攻撃が完成する。
 ゴブリンジェネラルが俺に対して使ってきた作戦と一緒だ。なるべく多方向から攻撃を仕掛けることで、注意を逸らす。
 俺は『火矢ファイヤーアロー』のほぼ真後ろを走る勢いで、先生に突っ込んでいく。これで、『火矢ファイヤーアロー』は避けたとしても、俺か『火球ファイヤーボール』が次に襲う。

(さぁどう出る)

 俺は模擬戦用の木剣を握りしめ、一瞬の隙を狙う。しかし先生が木剣を一振りしたと思ったら、俺の『火矢ファイヤーアロー』は全てかき消された。

「な!?」
「ハッハッハ! いい攻撃だったな! だが甘い、オラァ!!!」

 先生の力任せの一振りに押し負けて、俺は後方へ飛ばされる。
 先生は『火球ファイヤーボール』も回避し、その勢いのまま俺へと突っ込んでくる。
 俺はすぐさま受け身を取って、魔法を発動させた。

「クッ! 『土壁アースウォール』!」

 素早く前方に『土壁アースウォール』を作りあげ、先生の視界から姿を消す。
 次の選択が分かれ道になる。左右のどちらかへ回避するか、少し後ろに下がって魔法を放つか。
 先生はきっと壁の左右から現れるはずだ。だったら後ろに下がって、出鼻をくじくしかあるまい。
 俺は後方へ跳び、両手を壁の両側に向け先生が現れる瞬間を待つ。
 しかし、俺の作戦は失敗に終わった。

「ドオリャー!!!」

 叫び声と共に『土壁アースウォール』が破壊され、正面からゴリラが剣を握りしめ突進してきたのだ。

うそだろ‼」

 俺はすぐに魔法を放とうとしたが、時既に遅し。先生の剣が首に当てられ、俺は負けを認めた。

「……参りました」

 俺が一言そう呟くと、周りから割れんばかりの歓声が聞こえてくる。

「すげーよ! 『火矢ファイヤーアロー』を同時に八発も放てるとか信じられない!」
「土魔法と火魔法だけじゃなくて、接近戦に持ち込もうとしたってことはそっちも凄いのか⁉」

 やはり下のクラスの子達はひねくれていないので、素直に称賛してくれる。
 模擬戦には負けたけど、講義に来たおかげで気分は良くなったな。

「惜しかったぞアレク、作戦は良かった! それに魔法の精度も高い! 言うことなしだな! ただ俺みたいなパワーでゴリ押ししていくタイプには、もっと別の方法を取らないとダメだぞ!」

 つまりスキルに頼っている現状に満足しないで、生身を鍛えろってことか。
 反射速度に剣一振りの重み。やはり経験を積み重ねて強くなっていくしかないな。

「よし、今の模擬戦を振り返るぞ。今アレクは二つの『中級魔法』を使った。『火矢ファイヤーアロー』と『土壁アースウォール』だ。お前達の中で、中級以上のスキルを使える者はいるか?」

 ライオネル先生が生徒達に問うが、誰一人として手をあげない。
 先生は頷き、話を再開する。

「そうだよな。一つ言っておくが、三年になるまでに『中級魔法』を使えるようにならなきゃ、卒業は無理だと思え!」

 まぁそうだろう。Fランクダンジョンならまだ何とかなるかもしれないが、それ以上は厳しいと思う。パーティーに火力役となる人間が一人でもいれば別だが。

「スキルを上のランクにするためには、壁を越えるしかない。そのためには強敵を倒せ! 強敵を倒すためには知識・経験が必要になってくる。お前達は必死にもがいて、その二つを手に入れようとするだろう。恐怖・困難・絶望、全てに打ち勝った時に初めてスキルが昇華されるのだ! 生半可な覚悟では、到底辿り着くことは出来ない!」

 ほぉー。他の人達はそんな感じでスキルを上げていくのか。
 まぁ俺のスキルも、壁って言ったら壁があるな。ものによっては数千体倒さなきゃいけないし。特にレアスキルは所有しているモンスターも少ないから、集めるのがしんどいんだよな。

「さらに職業によっては、オリジナルのスキルが開花する時がある。俺の職業は『重戦士』だが、『筋肉増加』というオリジナルスキルがある。これは筋肉を肥大化し、攻撃力を上昇させるスキルだ!」

 そう言いながらポーズを取り、生徒達に自分の筋肉を見せびらかすライオネル先生。
 皆はドン引きだ。
 結局この後は普通の講義に戻り、俺はライオネル先生の指導を見学していた。
 明日からは、いよいよEランクダンジョンの攻略が始まる。
 もっと強くならなければいけない。
 女神のアルテナが言った、俺にとって大切な存在を守るためにも。


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