最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和

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第4章 憎しみの結末

第186話 憎悪

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「──アレク!アレク!」

呆然と地図を見つめていた俺の身体を揺すりながらユウナが声をかけて来た。ハッとした俺は顔をあげてユウナの目を見つめる。聞こえていなかった周囲の音も、徐々に耳の中へと入ってきた。

「もう、一体どうしたんですか!アリスお姉様の試合終わっちゃいましたよ!」

「え、嘘だろ!?」

 ユウナの言葉に俺は慌てて闘技場内に視線を移す。そこには、担架に乗せられて出口へ運ばれていくポールの姿と、観客に向かって笑顔で手を振るアリスの姿があった。それを見て、アリスが勝利したことを知り、安堵する。

「良かった。勝ったんだな、アリス」

「何言ってるんですか!試合が始まってすぐにアリスお姉様が『縮地』を発動させて、ポール様がスキルを発動させる暇も無く、剣を叩きこんだんですよ!」

「そ、そうだったのか……ごめん、見てなかった」

 俺は申し訳なさそうに頭を掻きながら、ユウナへ謝罪する。ユウナは不満気に息を吐きながら、俺の隣でアリスに手を振り始めた。俺は再度ユウナに謝りつつ、闘技場で手を振り続けるアリスへ目を向ける。

 アリスは閲覧席の中から俺達を探しているのか、退場せずにグルグルと会場を見渡していた。俺は視線を合わせないように顔を逸らす。だがユウナの事を見つけたアリスが、俺達をハッキリと見ながら満面の笑みで手を振り始めた。

その場で嬉しそうに飛び跳ねるアリスに、見てないことがバレないよう精一杯の笑みを浮かべて手を振り返す。

「……黙っててくれるよな?」

「貸し一個ですからね?」

 何か企んでいそうなユウナの笑みに、彼女に貸しを作ってしまった事を後悔した。だがその後悔よりも、俺は自分の手に握られた地図の方が気になってしまっている。

 これが本当にエリック兄さんの書いた物だったとして、それで一体何が変わるのだろうか。これをプレゼントされたことで、エリック兄さんを許せとでも言うのか?兄さんが俺に気付かれている可能性を考慮して、先んじてプレゼントを送って生きた可能性だってある。

あの父の子なのだから。

「エリーの弟。試合が終わったら準備に行くんじゃないのニャ!?」

 地図に書かれた手書きの文字を見つめていた俺の背中をポンっと叩いて急かすミーシャさん。

「そうでした!アレク急いでください!」

「お、おう」

 俺は二人に追い出されるように席を立って、控室に向かって歩き始めた。手に握った地図を見つめ、ポケットの中へとしまい込む。
 
 階段を降り、人気のない廊下を一人で歩いていく。コツコツと一定のリズムで刻まれていた足音に、もう一つの音が加わる。俺の後方から聞こえて来たその足音は、昔よく耳にしていたモノだった。

 徐々に近づいてきたその足音に、俺は憎悪の感情を隠せずに歯ぎしりをする。向こうから声をかけてくる前に、俺は後ろに振り返り父上の目を睨みつけた。それに一瞬驚いた父上だったが、すぐに表情を変えて見せる。

 それはこれまで見た事が無いくらい、幸せそうな笑顔だった。

「久しぶりだな、アレクよ。元気にしていたか?」

「……何の用です?」

 父上と会話をする意思を持たない俺は、父上の問いかけを無視して逆に問いかける。圧をかける様にどすの利いた声を発するが、父上は俺の圧など意にも介さずそのまま会話を続けて見せる。

「頑張っている息子に声援を送ろうと思ってな!お前はカールストン家の未来を担う人間なのだ!必ずや優勝するのだぞ!」

「何を言ってるんです?カールストン家を継ぐのはエリック兄さんです。私は同じ姓を賜っていますが、別の『カールストン家』ですので」

 憎悪と苛立ちで頭がどうにかなりそうだったので、俺は軽く頭を下げて再び廊下を歩き始めた。父上も俺の振る舞いに苛立ったのか、後ろから大きな舌打ちと、呆れたようなため息が聞こえてくる。

 陛下にくぎを刺された筈なのに、どうしてこんな行動が出来るのか俺には理解できない。だが父上は、どうしても自分の野望を叶えるために俺と縁を結びなおしたかったのだろう。

そのための餌を父上は持っていたのだ。

「アリス様とユウナ様との結婚は、一体いつになるのだろうなぁ」

 父上の言葉に俺は足を止めた。背後に居るはずの父上の顔が、脳裏にはっきりと浮かび上がる。ニヤリと口角をあげ、醜く笑っているのだろう。

「欲しくはないのか?……『辺境伯』の爵位が」

 その言葉を聞き、俺はゆっくりと振り返った。予想通り醜い笑みを浮かべている父上。

 大切な二人と結婚するために、俺に足りないもの。それは『爵位』である。フェルデア王国中の貴族が納得してくれるためには、最低でも『侯爵』にならなくてはならない。その爵位になるためには、途方もない道のりになるだろう。

 普通の場合であればの話だが。

俺の場合、三年後には鶏竜蛇村一帯が俺の領地になる。そのため三年後には『伯爵』にはなれる。その後も時間はかかるだろうが、俺が二十歳を過ぎた頃には『侯爵』になれていると思う。なんせ陛下が味方に付いているのだから。

それを知らない父上は続けてこう口にした。

「お前が『カールストン辺境伯』の跡継ぎとして認めて貰うために、この大会はまさにうってつけの場なのだ!エリックにも貴様に負けるよう伝えてある!安心するがいい!」

「申し訳ありませんが、私は辺境伯になるつもりはありません。私は貴方の野望を叶えるための道具ではありませんから」

「ハハハ!言うようになったではないか!私の息子だけはあるな!」

 俺の挑発に怒ると思ったのだが、父上は余裕の態度を崩さない。

「お前は直ぐにでも『伯爵』になれると思っているようだが、そう簡単にいくと思っているのか?」

「何のことです?私は『伯爵』になれるなどと、口にした覚えは──」

「私に隠し事など出来ぬと思った方が良いぞ?これでもフェルデア王国の一角を守護するカールストン家の当主だ。情報を得る手段など幾らでもある」

 そう言ってチラリと横を見る父上。父上も陛下と同じく密偵のようなモノを飼いならしてるとでも言うのか?予想外の言葉に苛立ちつつも、俺は無言を貫いた。

このゴミのような男の言うことを聞くなど、絶対にしたく無い。

流石の父上もその態度が気に食わなかったのか、眉をひそめ不満をあらわにする。その後何か悩んだ後、再度醜い笑みを浮かべて口を開いた。

「貴様が私の提案を聞かぬというのであれば仕方ない。ドーマン伯爵に挨拶でもしに行くとするか。貴様の父として、礼の一つでもしに行かんとな」

 リッツ伯爵の所へ行って何をするつもりだ?何をするか理解したくもないが、どうせ此奴のすることなどロクなものではないだろう。

「よく考えることだな、アレク。お前は力を持っているようだが、私もまだ力を持っているのだ。抗わせて貰うぞ」

 俺の肩に手を置いた後、静かにその場を後にする父上。

 殺意に駆り立てられた右手を握りしめ、必死にそれを押さえつける事しか出来なかった。
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