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第4章 憎しみの結末
第185話 贈り物の秘密
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「それじゃあ、行ってくるわね!ちゃんと応援してなさいよ!」
「分かってる!頑張れよ!」
試合へ向かうアリスに声援を送り、俺とユウナは閲覧席へと向かって歩き始めた。準々決勝からは色々と準備の関係があるとかで、試合の空き時間が長く設定されている。そのかいあって、俺はアリスを応援することが出来る。
「アリスの相手は帝国の二年生だったよな?」
「はい!ポール・コート―二―という名の選手です!団体戦には出ていませんでしたが、これまでの試合を見る限り、お姉様が負けることは無いと思います!」
ユウナは自分の事のように自慢気に笑う。数年間、会えていなかったのが嘘みたいに仲良しなのだから、血の繋がりというのは凄いものだ。俺とエリック兄さんでは考えられない。
「そうだと良いな」
頭の片隅に思い浮かべたエリック兄さんの顔を描き消し、ユウナに返事をする。そのまま閲覧席に着いた俺達は、二人で一緒に座れるような席を探した。
「うーん……何処にも見当たりませんねぇ。もう少し上の方に行ってみましょうか!」
それでも中々見つからず、俺とユウナは会場をグルグル回っていた。
「それにしても、凄い観客の数だよな。正直、武闘大会の注目度を舐めてたよ」
「王都で開かれる催し物の中では一、二位を争う規模ですから!それも二年に一度しか見に来れないとなれば、注目するのも分かります。卓越した戦士達がぶつかり合うところを一目見たいと、私もずっと思っていましたから……」
そう言って少し寂しそうに笑うユウナ。鶏竜蛇の呪いが解けた今もなお、歩くことが出来ずにいた過去が、こびりついて消えないのだろう。
「今まで我慢してきた分、これからはユウナのしたい事をしよう!色んな国に行って、美味しい食べ物や綺麗な景色を見たり!たまにはモンスター狩りなんかしてさ!」
「ふふふ……約束ですからね!?」
「ああ!約束だ!」
ユウナの細く白い小指と、俺の小指が絡まり合う。指切りげんまん。子供じみたそんな約束を、俺は絶対に果たしてやるんだ。
空席探しを忘れ、俺とユウナが二人の世界に入っていると、聞き覚えのある声が遠くから聞こえてきた。
「エリーの弟!!何してるニャー!こっち来て座るニャー!!」
俺をエリーの弟と呼ぶ唯一の人。ミーシャさんは人目もはばからず、その場で立ち上がり俺達を手招きしている。彼女の隣には丁度二人分の席が空いていた。
「アレク!良かったですね!あの方の隣が空いているみたいですよ!」
ミーシャさんと俺の関係性を知らないユウナは、嬉しそうに空席を指さす。反対に俺は、苦笑いを浮かべながらミーシャさんの近くに兄の姿が無いかを確認していた。
「おい姉ちゃん!早く座れよ!耳が邪魔で前が全然見えねーじゃねーか!!」
「ニャんだと!?ミーの耳が邪魔って何を言ってるニャ!おじさんの方こそ声がうるさいニャ!耳障りニャ!」
俺がためらってしまったせいか、後ろに座っていたおじさんと口論を始めてしまったミーシャさん。それを見て慌てて駆け寄っていくユウナ。俺はため息をこぼしながら、仕方なくユウナの後に続いてミーシャさんの所へ歩いて行く。
「すみません。直ぐに座りますので」
おじさんに謝りながらミーシャさんの隣へ座る。隣でシャーシャー言っているミーシャさんを落ち着かせて、ようやく腰を落ち着かせることが出来た。
「ありがとうございます!貴方のお蔭で無事に座ることが出来ました!」
「良いってことニャ!そんなことより、エリーの弟はここに居ても良いのニャ?選手の皆は控室にいるはずニャ!」
「俺の試合までは時間があるので、アリスの応援をしに来たんです。この試合が終われば控室に戻りますよ」
ミーシャさんに淡々と返事をする俺を見て、ユウナは違和感を覚えたのか首をかしげていた。ここで要らぬ会話をされても面倒なだけだし、ここは静かにしておくのが吉だ。だがミーシャさんはそんなことお構いなしに、マシンガンのように喋り始めた。
「そうニャのか!じゃあそれまでの間、ミーとお話ししようニャ!エリーの弟はなんでエリーと仲直りしないのニャ?兄弟は仲良くしないとだめニャ!」
「またそれですか。……貴方には関係ない話でしょう?」
「関係なく無いニャ!エリーはミーのパーティーメンバーだから、二人が仲良くしてないと困るのニャ!」
「何ですかそれ。とにかく、俺とエリック兄さんの事は放っておいてください」
ミーシャさんは俺の返事を聞いて頬を膨らませた。夢にまで見た猫耳の女の子が、可愛く頬を膨らませる姿に俺は少し興奮してしまう。だが、エリック兄さんの事については別だ。幾ら言われようが、今は仲直りできる気がしない。
「すみません。先程から気になっていたのですが、アレクと貴方はどのような関係なのでしょうか?」
会話が途切れたタイミングで、隣からユウナが声をかけてきた。和やかな問いかけだったが、目の奥は笑っていないように見える。俺は慌ててミーシャさんとの関係を説明した。
「ええっと、こちらはミーシャさんだ。顔合わせの時にも見ただろ?ウォーレン学園の生徒で、大会の代表者だよ」
「それだけじゃ無いニャ!ミーはエリーとパーティーを組んでいるのニャ!だからエリーの弟とは仲良しなのニャ!」
「アレクのお兄様と同じパーティーだったんですね!それなら納得です!」
ユウナは納得したのか安心したのか、胸に手を当ててホッと息をついた。ミーシャさんはユウナを見て会話を続ける。
「君の名前は確か……ユウナだったニャ!ユウナは兄弟は居るのニャ?」
「え?私ですか?一応、兄が居ますが……」
「そうニャのか!家族は大切にしないといけないニャ!」
ミーシャさんは嬉しそうに耳をぴょこぴょこさせる。
「そうですね。私が元気になってからはまだお兄様にはお会いできていないので、早く会いたいです!」
「ユウナは病気だったニャ!?」
「ええ。少し前まではベッドから起き上がれない程だったんですけど、アレクのお陰でこんなに元気になれたんです!」
「それは良かったニャ!お兄ちゃんしたらユウナの元気な姿は最高のプレゼントだニャ!」
なんだか微笑ましい雰囲気に包まれる。二人は家族関係が良好なのだろう。だから家族は良いものだとか、兄弟は仲良く無きゃいけないとか言えるのだ。
俺とエリック兄さんだって仲が悪かったわけじゃない。俺がアリスと出会うまでは、これでも普通に会話をする関係だったのだ。父上が俺を利用しようと企んだ結果、兄さんも利用され、俺達の関係はズタボロになってしまったのだが。
だから二人が眩しく見えてしまう。
俺は俯きながら、少しの嫌味を込めて会話に入り込んだ。
「プレゼントですか……俺達はそんな関係じゃないですよ。今年の誕生日だって、久しぶりに再会したって言うのに、何も無かったんですから」
「なに言ってるニャ?エリーはちゃんとプレゼント渡してたニャ!」
「貰ってませんよ。兄さんはもう渡したとか言ってましたけどね」
「ちゃんと渡したはずニャ!エリーが手書きで書いたFランクダンジョンの地図!寮の扉に挟んでおいたって、エリーが言ってたニャ!」
「……え?」
ミーシャさんの言葉に俺は耳を疑った。あの地図が、兄さんの書いたもの?そんな事、あり得る筈がない。だって、そんなまさか──
動揺を隠せない俺はミーシャさんが居るのも忘れて『収納』から地図を取り出した。
「それニャ!それがエリーのプレゼントニャ!」
ミーシャさんが隣で叫んでいるが、俺の耳には何も聞こえない。
選手登場の歓声も、アリスが勝利したという言葉も。
「分かってる!頑張れよ!」
試合へ向かうアリスに声援を送り、俺とユウナは閲覧席へと向かって歩き始めた。準々決勝からは色々と準備の関係があるとかで、試合の空き時間が長く設定されている。そのかいあって、俺はアリスを応援することが出来る。
「アリスの相手は帝国の二年生だったよな?」
「はい!ポール・コート―二―という名の選手です!団体戦には出ていませんでしたが、これまでの試合を見る限り、お姉様が負けることは無いと思います!」
ユウナは自分の事のように自慢気に笑う。数年間、会えていなかったのが嘘みたいに仲良しなのだから、血の繋がりというのは凄いものだ。俺とエリック兄さんでは考えられない。
「そうだと良いな」
頭の片隅に思い浮かべたエリック兄さんの顔を描き消し、ユウナに返事をする。そのまま閲覧席に着いた俺達は、二人で一緒に座れるような席を探した。
「うーん……何処にも見当たりませんねぇ。もう少し上の方に行ってみましょうか!」
それでも中々見つからず、俺とユウナは会場をグルグル回っていた。
「それにしても、凄い観客の数だよな。正直、武闘大会の注目度を舐めてたよ」
「王都で開かれる催し物の中では一、二位を争う規模ですから!それも二年に一度しか見に来れないとなれば、注目するのも分かります。卓越した戦士達がぶつかり合うところを一目見たいと、私もずっと思っていましたから……」
そう言って少し寂しそうに笑うユウナ。鶏竜蛇の呪いが解けた今もなお、歩くことが出来ずにいた過去が、こびりついて消えないのだろう。
「今まで我慢してきた分、これからはユウナのしたい事をしよう!色んな国に行って、美味しい食べ物や綺麗な景色を見たり!たまにはモンスター狩りなんかしてさ!」
「ふふふ……約束ですからね!?」
「ああ!約束だ!」
ユウナの細く白い小指と、俺の小指が絡まり合う。指切りげんまん。子供じみたそんな約束を、俺は絶対に果たしてやるんだ。
空席探しを忘れ、俺とユウナが二人の世界に入っていると、聞き覚えのある声が遠くから聞こえてきた。
「エリーの弟!!何してるニャー!こっち来て座るニャー!!」
俺をエリーの弟と呼ぶ唯一の人。ミーシャさんは人目もはばからず、その場で立ち上がり俺達を手招きしている。彼女の隣には丁度二人分の席が空いていた。
「アレク!良かったですね!あの方の隣が空いているみたいですよ!」
ミーシャさんと俺の関係性を知らないユウナは、嬉しそうに空席を指さす。反対に俺は、苦笑いを浮かべながらミーシャさんの近くに兄の姿が無いかを確認していた。
「おい姉ちゃん!早く座れよ!耳が邪魔で前が全然見えねーじゃねーか!!」
「ニャんだと!?ミーの耳が邪魔って何を言ってるニャ!おじさんの方こそ声がうるさいニャ!耳障りニャ!」
俺がためらってしまったせいか、後ろに座っていたおじさんと口論を始めてしまったミーシャさん。それを見て慌てて駆け寄っていくユウナ。俺はため息をこぼしながら、仕方なくユウナの後に続いてミーシャさんの所へ歩いて行く。
「すみません。直ぐに座りますので」
おじさんに謝りながらミーシャさんの隣へ座る。隣でシャーシャー言っているミーシャさんを落ち着かせて、ようやく腰を落ち着かせることが出来た。
「ありがとうございます!貴方のお蔭で無事に座ることが出来ました!」
「良いってことニャ!そんなことより、エリーの弟はここに居ても良いのニャ?選手の皆は控室にいるはずニャ!」
「俺の試合までは時間があるので、アリスの応援をしに来たんです。この試合が終われば控室に戻りますよ」
ミーシャさんに淡々と返事をする俺を見て、ユウナは違和感を覚えたのか首をかしげていた。ここで要らぬ会話をされても面倒なだけだし、ここは静かにしておくのが吉だ。だがミーシャさんはそんなことお構いなしに、マシンガンのように喋り始めた。
「そうニャのか!じゃあそれまでの間、ミーとお話ししようニャ!エリーの弟はなんでエリーと仲直りしないのニャ?兄弟は仲良くしないとだめニャ!」
「またそれですか。……貴方には関係ない話でしょう?」
「関係なく無いニャ!エリーはミーのパーティーメンバーだから、二人が仲良くしてないと困るのニャ!」
「何ですかそれ。とにかく、俺とエリック兄さんの事は放っておいてください」
ミーシャさんは俺の返事を聞いて頬を膨らませた。夢にまで見た猫耳の女の子が、可愛く頬を膨らませる姿に俺は少し興奮してしまう。だが、エリック兄さんの事については別だ。幾ら言われようが、今は仲直りできる気がしない。
「すみません。先程から気になっていたのですが、アレクと貴方はどのような関係なのでしょうか?」
会話が途切れたタイミングで、隣からユウナが声をかけてきた。和やかな問いかけだったが、目の奥は笑っていないように見える。俺は慌ててミーシャさんとの関係を説明した。
「ええっと、こちらはミーシャさんだ。顔合わせの時にも見ただろ?ウォーレン学園の生徒で、大会の代表者だよ」
「それだけじゃ無いニャ!ミーはエリーとパーティーを組んでいるのニャ!だからエリーの弟とは仲良しなのニャ!」
「アレクのお兄様と同じパーティーだったんですね!それなら納得です!」
ユウナは納得したのか安心したのか、胸に手を当ててホッと息をついた。ミーシャさんはユウナを見て会話を続ける。
「君の名前は確か……ユウナだったニャ!ユウナは兄弟は居るのニャ?」
「え?私ですか?一応、兄が居ますが……」
「そうニャのか!家族は大切にしないといけないニャ!」
ミーシャさんは嬉しそうに耳をぴょこぴょこさせる。
「そうですね。私が元気になってからはまだお兄様にはお会いできていないので、早く会いたいです!」
「ユウナは病気だったニャ!?」
「ええ。少し前まではベッドから起き上がれない程だったんですけど、アレクのお陰でこんなに元気になれたんです!」
「それは良かったニャ!お兄ちゃんしたらユウナの元気な姿は最高のプレゼントだニャ!」
なんだか微笑ましい雰囲気に包まれる。二人は家族関係が良好なのだろう。だから家族は良いものだとか、兄弟は仲良く無きゃいけないとか言えるのだ。
俺とエリック兄さんだって仲が悪かったわけじゃない。俺がアリスと出会うまでは、これでも普通に会話をする関係だったのだ。父上が俺を利用しようと企んだ結果、兄さんも利用され、俺達の関係はズタボロになってしまったのだが。
だから二人が眩しく見えてしまう。
俺は俯きながら、少しの嫌味を込めて会話に入り込んだ。
「プレゼントですか……俺達はそんな関係じゃないですよ。今年の誕生日だって、久しぶりに再会したって言うのに、何も無かったんですから」
「なに言ってるニャ?エリーはちゃんとプレゼント渡してたニャ!」
「貰ってませんよ。兄さんはもう渡したとか言ってましたけどね」
「ちゃんと渡したはずニャ!エリーが手書きで書いたFランクダンジョンの地図!寮の扉に挟んでおいたって、エリーが言ってたニャ!」
「……え?」
ミーシャさんの言葉に俺は耳を疑った。あの地図が、兄さんの書いたもの?そんな事、あり得る筈がない。だって、そんなまさか──
動揺を隠せない俺はミーシャさんが居るのも忘れて『収納』から地図を取り出した。
「それニャ!それがエリーのプレゼントニャ!」
ミーシャさんが隣で叫んでいるが、俺の耳には何も聞こえない。
選手登場の歓声も、アリスが勝利したという言葉も。
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