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第4章 憎しみの結末
第184話 覗き魔
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「はぁー。申し訳ないことしちゃったかな」
ハロルド殿下が居なくなった後、俺はその場にしゃがみ込み、膝を抱えながら一人大きなため息をこぼしていた。自分よりも遥かに辛い境遇であろう人に、自分の立場を守るためという理由で、俺は手を差し伸べることが出来なかった。
「俺が手を貸していれば、殿下は『皇帝』になれたかもしれないのに……」
ポツリと呟いた言葉が、誰の耳にも聞こえず消えていく。まぁ誰かが聞いていたとしても、真に受けるような人は居ないだろう。殆どの人が俺の事を頭のおかしな少年と思うに違いない。
俺はもう一度深く息を吐くと、脳内を駆け巡っていた悩みをかき消すように頭を左右に振った。
「クヨクヨしていても仕方ない。大会が終わったらアリス達に殿下の事を相談しよう」
そう言って立ち上がると俺は殿下が歩いて行った方とは反対の方向へと向かい始めた。もうそろそろヴァルトとニコのイチャイチャも終わっている頃だろうし、怪我の様子でも見に行くとするか。
親友との真剣勝負に俺は『威圧』スキルという卑怯な技で泥を塗ってしまった。その謝罪と、再戦の申し込みをしなくてはいけない。あとヴァルトの新しいスキルについても話を聞いてみなくては。
抱えていた悩みを頭の片隅へと追いやり、闘技場内の廊下を歩いていく。大会のために用意された治療室は、帝国側と合わせて二十部屋もある。そのどれもが個室であり、ヴァルトがどの部屋に居るか分からないため、どうしようかと思っていたのだがその心配は直ぐに消えた。
微かに開かれた扉の隙間から、息を殺して部屋の中を覗き込んでいる、銀髪の女の子と紅髪の女の子。俺が来たことなど全く気が付いていないようで、食い入るように部屋の中を覗き込んでいた。
その様子に俺は呆れ笑いを浮かべながら二人に近づいて行った。
「見てくださいアリスお姉様!ニコが手を握りましたよ!あー!!」
「ちょっとユウナ、もう少し静かにしなさい!気づかれたらどうするのよ!」
「す、すみません……あ!キ、キスしますよ!こんな所でなんて破廉恥なんでしょう!!」
「何ですって!?ちょっとここからじゃ上手く見えないわ──」
年頃の女の子というのは色恋沙汰に目が無いというが、こうも恥も外聞もないとは。俺は二人の会話に混ざるように声をかけた。
「もう少しドアを開けば見えるんじゃないか?」
「馬鹿ね!そんなことしたらニコにバレるかもしれないじゃない!」
「そうですよ!主人とメイドの禁断の恋……ここは静かに見守らなくてはいけません!」
真後ろから声をかけたというのに、二人は後ろに振り向こうともしない。これ以上盗み見を続けさせるのは中の二人に悪い。俺はもう一度後ろから声をかける。今度は絶対に振りむいてくれる言葉を発して。
「二人の場合、見守ってるんじゃなくて盗み見してるだけだけどな」
「な!盗み見なんかじゃないわよ!これは──」
俺に図星をつかれたアリスが少し焦ったような表情を浮かべながら振り向いた。俺と目が合ったアリスは、一瞬何が起きているのか理解が出来ていないようだった。だが数秒後には全てを察し、苦し紛れの笑みを浮かべ出した。
「あははは……」
アリスの異変を感じ取ったユウナも、俺の方へと顔を向け固まってしまった。そしてアリスと同様に苦笑いを浮かべ、何も見ていないとでもいうかのように顔を元に戻して再び中の様子を覗き始めた。
「覗くんじゃありません!」
「良いじゃないですか!やっと自由に動けるようになったんです!その自由を奪わないでくださいー!」
自分の両目を覆った俺の手を何とか剥がそうとするユウナ。だが力づくで剥がせることもなく、うーうー唸りながらもがいていた。俺は音が立たないようにソーっと扉を閉めるとユウナの目を解放してやる。
「あー!!禁断の恋がぁ……」
ガクリと肩を落とすユウナに俺はちょっと引きながらも、中の状況をアリスに聞いてみる。もしも万が一真っ最中だったとしたら、即刻立ち去らねばならないからな。
「アリス。ヴァルトはどんな様子だった?」
「えっと……まだベッドの上で横になってたわよ。起きる様子も無かったし」
「そうか」
アリスの言葉を聞き、俺は扉へと視線を送る。早く良くなるようにと念じた後、二人の手を引いて治療室から離れるように歩き始めた。ユウナは口惜しそうに扉を見つめていたが、直ぐに俺の手を握り返して嬉しそうに歩き始めた。
「そう言えば言うのが遅くなりました!アレク、準決勝進出おめでとうございます!」
「ありがとう」
「アリスお姉様もあと二つ勝てばアレクとの決勝戦ですよ!」
「そうね。次の試合は大丈夫だと思うのだけど、問題はその次なのよ……」
眉をひそめてそうこぼすアリス。このまま順当に勝ち進めばアリスの準決勝の相手はハロルド殿下である。幾ら無礼講といっても相手は皇族。アリスも公爵家令嬢であるため、どうしても政治関係の事が頭をよぎってしまうのかもしれない。
「やり辛かったら負けたって良いんだぞ?別にアリスと戦うのなんていつでも出来るんだからさ」
俺はそう言ってアリスの頭を撫でてやる。もしハロルド殿下が決勝に上がってくれば、そこで勝ちを譲ってやるのも悪くない。そうすれば殿下の『皇帝』への道が開かれるかもしれないしな。
「そんなこと出来ないわ。今まで戦った相手にも失礼だもの。私はウォーレン学園の代表として、全力で戦う」
「そうだな。でも、大丈夫なのか?二ヶ国の関係に影響とか出そうな気もするが……」
「アレクが気にしているようなことは起きませんよ!ハロルド殿下だって、この大会で結果を残したところで、自分の立場が変わらないことくらい理解しているはずです!」
「そうなのか。ならいいんだけど」
ユウナの言葉にホッと胸を撫で下ろす。それと同時に、やはり殿下の立場は変わらないのだという事を知った俺の心に、罪悪感が押し寄せる。
「私の心配するより、アレクは自分の心配しなさいよね!決勝では今度こそ買って見せるんだから!!」
隣で意気込むアリスをよそに、俺はどうすべきなのか決めることが出来ずにいた。
ハロルド殿下が居なくなった後、俺はその場にしゃがみ込み、膝を抱えながら一人大きなため息をこぼしていた。自分よりも遥かに辛い境遇であろう人に、自分の立場を守るためという理由で、俺は手を差し伸べることが出来なかった。
「俺が手を貸していれば、殿下は『皇帝』になれたかもしれないのに……」
ポツリと呟いた言葉が、誰の耳にも聞こえず消えていく。まぁ誰かが聞いていたとしても、真に受けるような人は居ないだろう。殆どの人が俺の事を頭のおかしな少年と思うに違いない。
俺はもう一度深く息を吐くと、脳内を駆け巡っていた悩みをかき消すように頭を左右に振った。
「クヨクヨしていても仕方ない。大会が終わったらアリス達に殿下の事を相談しよう」
そう言って立ち上がると俺は殿下が歩いて行った方とは反対の方向へと向かい始めた。もうそろそろヴァルトとニコのイチャイチャも終わっている頃だろうし、怪我の様子でも見に行くとするか。
親友との真剣勝負に俺は『威圧』スキルという卑怯な技で泥を塗ってしまった。その謝罪と、再戦の申し込みをしなくてはいけない。あとヴァルトの新しいスキルについても話を聞いてみなくては。
抱えていた悩みを頭の片隅へと追いやり、闘技場内の廊下を歩いていく。大会のために用意された治療室は、帝国側と合わせて二十部屋もある。そのどれもが個室であり、ヴァルトがどの部屋に居るか分からないため、どうしようかと思っていたのだがその心配は直ぐに消えた。
微かに開かれた扉の隙間から、息を殺して部屋の中を覗き込んでいる、銀髪の女の子と紅髪の女の子。俺が来たことなど全く気が付いていないようで、食い入るように部屋の中を覗き込んでいた。
その様子に俺は呆れ笑いを浮かべながら二人に近づいて行った。
「見てくださいアリスお姉様!ニコが手を握りましたよ!あー!!」
「ちょっとユウナ、もう少し静かにしなさい!気づかれたらどうするのよ!」
「す、すみません……あ!キ、キスしますよ!こんな所でなんて破廉恥なんでしょう!!」
「何ですって!?ちょっとここからじゃ上手く見えないわ──」
年頃の女の子というのは色恋沙汰に目が無いというが、こうも恥も外聞もないとは。俺は二人の会話に混ざるように声をかけた。
「もう少しドアを開けば見えるんじゃないか?」
「馬鹿ね!そんなことしたらニコにバレるかもしれないじゃない!」
「そうですよ!主人とメイドの禁断の恋……ここは静かに見守らなくてはいけません!」
真後ろから声をかけたというのに、二人は後ろに振り向こうともしない。これ以上盗み見を続けさせるのは中の二人に悪い。俺はもう一度後ろから声をかける。今度は絶対に振りむいてくれる言葉を発して。
「二人の場合、見守ってるんじゃなくて盗み見してるだけだけどな」
「な!盗み見なんかじゃないわよ!これは──」
俺に図星をつかれたアリスが少し焦ったような表情を浮かべながら振り向いた。俺と目が合ったアリスは、一瞬何が起きているのか理解が出来ていないようだった。だが数秒後には全てを察し、苦し紛れの笑みを浮かべ出した。
「あははは……」
アリスの異変を感じ取ったユウナも、俺の方へと顔を向け固まってしまった。そしてアリスと同様に苦笑いを浮かべ、何も見ていないとでもいうかのように顔を元に戻して再び中の様子を覗き始めた。
「覗くんじゃありません!」
「良いじゃないですか!やっと自由に動けるようになったんです!その自由を奪わないでくださいー!」
自分の両目を覆った俺の手を何とか剥がそうとするユウナ。だが力づくで剥がせることもなく、うーうー唸りながらもがいていた。俺は音が立たないようにソーっと扉を閉めるとユウナの目を解放してやる。
「あー!!禁断の恋がぁ……」
ガクリと肩を落とすユウナに俺はちょっと引きながらも、中の状況をアリスに聞いてみる。もしも万が一真っ最中だったとしたら、即刻立ち去らねばならないからな。
「アリス。ヴァルトはどんな様子だった?」
「えっと……まだベッドの上で横になってたわよ。起きる様子も無かったし」
「そうか」
アリスの言葉を聞き、俺は扉へと視線を送る。早く良くなるようにと念じた後、二人の手を引いて治療室から離れるように歩き始めた。ユウナは口惜しそうに扉を見つめていたが、直ぐに俺の手を握り返して嬉しそうに歩き始めた。
「そう言えば言うのが遅くなりました!アレク、準決勝進出おめでとうございます!」
「ありがとう」
「アリスお姉様もあと二つ勝てばアレクとの決勝戦ですよ!」
「そうね。次の試合は大丈夫だと思うのだけど、問題はその次なのよ……」
眉をひそめてそうこぼすアリス。このまま順当に勝ち進めばアリスの準決勝の相手はハロルド殿下である。幾ら無礼講といっても相手は皇族。アリスも公爵家令嬢であるため、どうしても政治関係の事が頭をよぎってしまうのかもしれない。
「やり辛かったら負けたって良いんだぞ?別にアリスと戦うのなんていつでも出来るんだからさ」
俺はそう言ってアリスの頭を撫でてやる。もしハロルド殿下が決勝に上がってくれば、そこで勝ちを譲ってやるのも悪くない。そうすれば殿下の『皇帝』への道が開かれるかもしれないしな。
「そんなこと出来ないわ。今まで戦った相手にも失礼だもの。私はウォーレン学園の代表として、全力で戦う」
「そうだな。でも、大丈夫なのか?二ヶ国の関係に影響とか出そうな気もするが……」
「アレクが気にしているようなことは起きませんよ!ハロルド殿下だって、この大会で結果を残したところで、自分の立場が変わらないことくらい理解しているはずです!」
「そうなのか。ならいいんだけど」
ユウナの言葉にホッと胸を撫で下ろす。それと同時に、やはり殿下の立場は変わらないのだという事を知った俺の心に、罪悪感が押し寄せる。
「私の心配するより、アレクは自分の心配しなさいよね!決勝では今度こそ買って見せるんだから!!」
隣で意気込むアリスをよそに、俺はどうすべきなのか決めることが出来ずにいた。
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