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第4章 憎しみの結末
第183話 恋敵の思惑
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準々決勝が終わり、ヴァルトは担架に乗せられて治療室へと運ばれていった。盛り上がりを見せる会場の中から、ニコが走り出していくのを見つけ、ゆっくりと反対の出口に向かって歩き出す。
俺の勝利という形で終わったが、その内容は不本意なものだった。『威圧』を使ってしまえば、俺よりもレベルが低いヴァルトに負けるはずが無いのだから。だがしかし、あのままヴァルトを放っておくことは出来なかった。
ヴァルトが回復して、ニコとイチャイチャし終えた時を見計らって謝りに行くとしよう。
俺が溜息を零しながら会場の出口を潜り抜けると、そこにはハロルド殿下の姿があった。次の試合が行われるにはまだ時間があるはずなのに、なぜここにいるのか不思議に思っていると、ハロルド殿下が俺に声をかけて来た。
「準決勝進出おめでとうございます。流石、フェルデア王国の英雄といったところでしょうか。素晴らしい魔法でした」
「ありがとうございます」
「このまま君が勝ち進めば、決勝は私と君との戦いになりそうですね」
殿下の言葉に俺は一瞬戸惑いを見せる。ハロルド殿下が勝ち進んだとしても、準決勝ではアリスと戦うことになる。多分だが、殿下がアリスに勝つことは難しいだろう。
「その時は是非とも全力で挑戦させて頂きます」
無難な返答をする俺に対し、ハロルド殿下は苦笑いを浮かべて見せた。
「ははは。実際そうなればいいんですが……君が考えている通り、私が決勝に進むことは難しいと思いますよ」
「そんなことはないと思いますが……」
「遠慮しなくてもいいです。昔から私は勝負事に縁が無くてね。私が『敗北者』と呼ばれていることは、君も知っているでしょう?」
殿下が『敗北者』と呼ばれる理由。それは彼が俺と同じように、望まれた職業では無かったからである。だからといって、その気持ちを理解できるなどと口にすることは出来ない。
俺は貴族の跡継ぎになれなかっただけなのだ。皇帝になることが出来ない殿下とは訳が違う。どんな言葉をかけたらいいか悩んでいた俺に、殿下は手を差し出してきた。
「実は君の身の上話を耳にしてね。君も私と同じように、『職業』のせいで家督相続権を失ったそうじゃないか。苦労している身として、君の気持ちは痛い程分かるよ。だからこそ、君とは友人になりたいと思っているんだ!」
「私如きが殿下の御友人などと……」
「私が良いと言っているのだから気にすることは無い!どうかな、アレク」
期待を込めたその眼差しに、俺は殿下の申し出を断ることが出来ず、恐る恐る握手を交わした。
「殿下がそう仰るのであれば」
正直、つい先日まで恋敵だった相手とすぐに友人になれるとは思っていないが、それでも殿下の身の上を考えると、少しでも力になってやりたいと思ってしまう。
「ありがとう!公の場で無ければ、私のことは是非ともハロルドと呼んでくれたまえ!」
「分かりました、殿下」
了承の意として、俺は殿下に頭を下げる。それを見て嬉しそうに笑顔を作るハロルド殿下。この笑顔からはアリスやユウナが言ったような、人物は想像できなかった。
俺が殿下の行動に何か裏があるのではないかと疑心暗鬼になっていると、殿下はハッとした顔で俺に問いかけてきた。
「そういえば聞こうと思っていたことが有ったんだ。アレクはどうして剣術も魔法も使えるんだい?普通の職業であれば、どちらかのスキルしか使えないはずだと思うんだが」
殿下の問いかけに、俺は思わず視線を横に逸らす。幾ら友人になったとはいえ、隣国の皇族だ。『解体屋』のスキルについて少しでも情報を与えてしまえば、我が物にしようとするかもしれない。殿下が俺のスキル玉を使えば、皇帝の座に手が届く可能性もあるのだから。ここは慎重に答えなくては。
「殿下は何か勘違いをしておられるようで……私が使っているのは魔法スキルのみです。剣は日々の鍛錬の賜物ですよ」
もちろん嘘なのだが。殿下が俺の情報を全て把握しているとは限らない。親しい人には上級剣術が使えることも話してはいるが、そこまで調べているとは考えにくい。
殿下が帝国にお帰りになるまでの間、俺は剣がそこそこ使える魔法使いを演じることにした。
「そうなのか?君の剣技はどう見ても『中級剣術』以上のものだと思ったんだが……」
俺の目を見つめながら言葉を切る殿下。その瞳は、俺が嘘をついていることを『知っている』と言わんばかりに、薄暗く曇っていた。背筋がゾクゾクする感覚に襲われ、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえてきた気がした。
俺が口を割らないと悟ったのか、殿下は諦めたように息を吐き、寂しそうに微笑んだ。
「はぁ……君がそう言うのなら仕方ない。やっと希望の光を見つけたと思ったんだけどね」
殿下の言葉に俺の胸が痛む。『敗北者』と呼ばれた殿下が、わらにでも縋る思いで俺に声をかけてくれたのかもしれないのに。申し訳ない気持ちで胸が詰まる。
「もし気が変わったら教えてくれるかい?私は気長に待つことにするから」
殿下はそう言い終えると帝国側の控室の方へと歩いて行ってしまった。ガクリと肩を落とし、悲しそうに歩くその背中が見えなくなるまで俺はその場に立ちすくんでいた。
~ハロルド視点~
下等な人間と触れた手の平を洗い流し終えた時、後ろから声がかかった。
「どう?彼の情報は手に入った?」
誰もいないはずの場所から聞こえた声に、私は静かに返事をする。
「残念ながら、相手も馬鹿ではないらしい。何一つとして教えてはもらえなかった。この私が友になってやると言っているのにも関わらずにな!!」
「あっそー。それじゃあ計画は変更しない方向でいいね?」
「当然だ!!貴様らこそ、役目を果たすこと忘れるなよ!」
「はいはい。それじゃあ頑張ってねー」
ネアはそう言うと音もなく私の背後から存在を消してしまった。利用されているとも知らずに、馬鹿な奴だ。私が皇帝になった暁には自らの手でその首を断ってやろう。
「この私こそが、世界を支配すべき人間なのだ……」
俺の勝利という形で終わったが、その内容は不本意なものだった。『威圧』を使ってしまえば、俺よりもレベルが低いヴァルトに負けるはずが無いのだから。だがしかし、あのままヴァルトを放っておくことは出来なかった。
ヴァルトが回復して、ニコとイチャイチャし終えた時を見計らって謝りに行くとしよう。
俺が溜息を零しながら会場の出口を潜り抜けると、そこにはハロルド殿下の姿があった。次の試合が行われるにはまだ時間があるはずなのに、なぜここにいるのか不思議に思っていると、ハロルド殿下が俺に声をかけて来た。
「準決勝進出おめでとうございます。流石、フェルデア王国の英雄といったところでしょうか。素晴らしい魔法でした」
「ありがとうございます」
「このまま君が勝ち進めば、決勝は私と君との戦いになりそうですね」
殿下の言葉に俺は一瞬戸惑いを見せる。ハロルド殿下が勝ち進んだとしても、準決勝ではアリスと戦うことになる。多分だが、殿下がアリスに勝つことは難しいだろう。
「その時は是非とも全力で挑戦させて頂きます」
無難な返答をする俺に対し、ハロルド殿下は苦笑いを浮かべて見せた。
「ははは。実際そうなればいいんですが……君が考えている通り、私が決勝に進むことは難しいと思いますよ」
「そんなことはないと思いますが……」
「遠慮しなくてもいいです。昔から私は勝負事に縁が無くてね。私が『敗北者』と呼ばれていることは、君も知っているでしょう?」
殿下が『敗北者』と呼ばれる理由。それは彼が俺と同じように、望まれた職業では無かったからである。だからといって、その気持ちを理解できるなどと口にすることは出来ない。
俺は貴族の跡継ぎになれなかっただけなのだ。皇帝になることが出来ない殿下とは訳が違う。どんな言葉をかけたらいいか悩んでいた俺に、殿下は手を差し出してきた。
「実は君の身の上話を耳にしてね。君も私と同じように、『職業』のせいで家督相続権を失ったそうじゃないか。苦労している身として、君の気持ちは痛い程分かるよ。だからこそ、君とは友人になりたいと思っているんだ!」
「私如きが殿下の御友人などと……」
「私が良いと言っているのだから気にすることは無い!どうかな、アレク」
期待を込めたその眼差しに、俺は殿下の申し出を断ることが出来ず、恐る恐る握手を交わした。
「殿下がそう仰るのであれば」
正直、つい先日まで恋敵だった相手とすぐに友人になれるとは思っていないが、それでも殿下の身の上を考えると、少しでも力になってやりたいと思ってしまう。
「ありがとう!公の場で無ければ、私のことは是非ともハロルドと呼んでくれたまえ!」
「分かりました、殿下」
了承の意として、俺は殿下に頭を下げる。それを見て嬉しそうに笑顔を作るハロルド殿下。この笑顔からはアリスやユウナが言ったような、人物は想像できなかった。
俺が殿下の行動に何か裏があるのではないかと疑心暗鬼になっていると、殿下はハッとした顔で俺に問いかけてきた。
「そういえば聞こうと思っていたことが有ったんだ。アレクはどうして剣術も魔法も使えるんだい?普通の職業であれば、どちらかのスキルしか使えないはずだと思うんだが」
殿下の問いかけに、俺は思わず視線を横に逸らす。幾ら友人になったとはいえ、隣国の皇族だ。『解体屋』のスキルについて少しでも情報を与えてしまえば、我が物にしようとするかもしれない。殿下が俺のスキル玉を使えば、皇帝の座に手が届く可能性もあるのだから。ここは慎重に答えなくては。
「殿下は何か勘違いをしておられるようで……私が使っているのは魔法スキルのみです。剣は日々の鍛錬の賜物ですよ」
もちろん嘘なのだが。殿下が俺の情報を全て把握しているとは限らない。親しい人には上級剣術が使えることも話してはいるが、そこまで調べているとは考えにくい。
殿下が帝国にお帰りになるまでの間、俺は剣がそこそこ使える魔法使いを演じることにした。
「そうなのか?君の剣技はどう見ても『中級剣術』以上のものだと思ったんだが……」
俺の目を見つめながら言葉を切る殿下。その瞳は、俺が嘘をついていることを『知っている』と言わんばかりに、薄暗く曇っていた。背筋がゾクゾクする感覚に襲われ、心臓の鼓動がやけに大きく聞こえてきた気がした。
俺が口を割らないと悟ったのか、殿下は諦めたように息を吐き、寂しそうに微笑んだ。
「はぁ……君がそう言うのなら仕方ない。やっと希望の光を見つけたと思ったんだけどね」
殿下の言葉に俺の胸が痛む。『敗北者』と呼ばれた殿下が、わらにでも縋る思いで俺に声をかけてくれたのかもしれないのに。申し訳ない気持ちで胸が詰まる。
「もし気が変わったら教えてくれるかい?私は気長に待つことにするから」
殿下はそう言い終えると帝国側の控室の方へと歩いて行ってしまった。ガクリと肩を落とし、悲しそうに歩くその背中が見えなくなるまで俺はその場に立ちすくんでいた。
~ハロルド視点~
下等な人間と触れた手の平を洗い流し終えた時、後ろから声がかかった。
「どう?彼の情報は手に入った?」
誰もいないはずの場所から聞こえた声に、私は静かに返事をする。
「残念ながら、相手も馬鹿ではないらしい。何一つとして教えてはもらえなかった。この私が友になってやると言っているのにも関わらずにな!!」
「あっそー。それじゃあ計画は変更しない方向でいいね?」
「当然だ!!貴様らこそ、役目を果たすこと忘れるなよ!」
「はいはい。それじゃあ頑張ってねー」
ネアはそう言うと音もなく私の背後から存在を消してしまった。利用されているとも知らずに、馬鹿な奴だ。私が皇帝になった暁には自らの手でその首を断ってやろう。
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