最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和

文字の大きさ
61 / 67
第4章 憎しみの結末

第182話 玉砕覚悟

しおりを挟む
「ヴァルト!ヴァルト!ヴァルト!」

 闘技場内に歓声が沸き起こる。今の一撃で俺に重傷を与えられたと思ったのか、歓声に背中を押されるかのようにヴァルトは追撃してきた。

「はぁぁ!!」

 何のスキルも発動せず、只なりふり構わず剣を振るうヴァルト。今の俺にスキルを使用するまでもないと思ったのか、それともスキルを発動することが出来ないのか。
 
 その答えを知っている俺だけは、勝負が決まりつつあることを察していた。

「おらぁ!!」

 血がしたたり落ちる腕を抑えながら、その場にしゃがみ込んで剣を躱す。そのまま右手を軸に回転し、ヴァルトの足目掛けて回転蹴りをくらわせた。

 油断していたヴァルトは俺の蹴りをもろにくらい、勢いよく地面へと倒れる。俺はその隙を見逃さず、ガラ空きになった腹部目掛けて渾身の蹴りを振り込んだ。

「がっ……」

 防御することも出来ずに俺の蹴りをくらったヴァルトは、そのまま後方に向かって地面を転がっていった。土煙が舞う中、地面で横たわり苦悶の表情を浮かべるヴァルト。沸き起こっていたヴァルトコールも、たちまちアレクコールに変わっていった。

「はぁ、はぁ……寝たふりか?早く立てよ!!まだまだこんなもんじゃねーだろ!」

 右手を向けながらヴァルトの元へと歩み寄る。こんなに楽しい試合、終わって良いはずがない。頼むから立ってくれ。そう心の中で祈る。

 その祈りが通じたのか、ヴァルトは口から血を吐きながらよろよろと立ち上がった。

「ふっ……当たり前だ。私は、お前に勝たなくてはならんのだからなぁ」

 既に満身創痍と言ったヴァルトの口からポツリと出た言葉。その熱く光る瞳は真直ぐに俺を見つめている。その瞳を見返そうとしたとき、ヴァルトの背後に見覚えのある姿が見えた。

 如何にもといったメイド服を着こなした、その女の子の耳は特徴的な『犬』の形をしている。その子は瞳をギュッと瞑り、震える手を身体の前で握りしめていた。主の勝利を祈って。

 その姿が一瞬二人の姿と重なった。姿は見えないが、二人も同じように俺の勝利を祈っているのかもしれないと。

 俺は視線をヴァルトへと戻し、剣を構えた。ヴァルトが俺の構えに呼応するかのように、ゆっくりと右手に剣を構える。言葉はいらない。次の攻防で勝敗が決まると、お互いが察している気がした。

 俺が軸足に力を籠め、ヴァルトに向かって突っ込もうとしたその時、ヴァルトが構えていた剣が、微かに揺れ動いたかのように見えた。その一瞬の揺れが、危険信号を頭の中に響き渡らせた。

『アレはやばい』

 俺の動きが止まったのに気づいたのか、ヴァルトは声もなく笑って見せる。『バレてしまったか』とでも言いたげなその顔は、俺の判断が間違っていなかったことを証明していた。
 
 ヴァルトは右手に握っていた剣を身体の正面に持ってくると、その柄に左手を重ねた。

「……『二重竜剣デュアルドラゴンソード』!」

 ヴァルトがそう口にした瞬間、握っていた剣が先程の様に揺れて動いた。だが今度ははっきりと、その形が認識出来る。そしてヴァルトは重ねていた両手を左右へと広げ、二本の剣を俺に向けて構えたのだった。

「ゆくぞ!!」

 俺が動揺している隙を見逃さず、ヴァルトは俺に向かって駆けて来た。俺は頭を切り替え、直感で対応すると判断を下す。

「ウォォォ!!」

 殆ど動かせない左手を後ろに引き、半身状態でヴァルトの二本の剣をさばこうとする。だが先程までとは全く違う攻撃パターンに対応しきれず、徐々に徐々に傷を負っていってしまう。このままでは時間の問題かに見えた試合に、希望の足音が耳に聞こえた。

「……はぁ、はぁ、はぁ」

 防戦一方の俺に対し、一方的に剣を振るっているはずのヴァルトの呼吸が荒くなっている。チラリと視界に入ったその顔は苦悶の表情に満ちていた。唇から血が垂れだし、額からは大量の冷や汗が噴き出している。

 更に心なしか、傷を負う機会も段々と減っている気がした。

 俺は一回戦で戦ったオズマスの事を思い出す。アイツは俺との戦いによって『壁』を越えた。その結果、身の丈に合わないスキルを使い、自滅してしまったのである。

 それが今、ヴァルトの身にも起こっているとしたら?

 俺との死闘の末に『壁』を超え、ヴァルトは新たなスキルを手に入れた。そのスキルを俺に勝つために、自分の身を犠牲にしてまで行使している。このまま行けば、オズマスの時のように重傷を負ってしまうかもしれない。

「はぁ、はぁ……止めてくれるなよ……ニコの前で無様な姿をさらすくらいなら……死んだ方がマシだ!」

「ッツ!お前!」

 俺の心を読んだのか、ヴァルトは剣を振りながらそう口にする。衰えていた剣速も、今の言葉で自分を奮い立たせたのか、勢いを取り戻した。しかしその代償としては軽くは無かった。

握りしめていた剣の柄に、腕から伝って来た血が付着してく。

 俺は迷っていた。このままヴァルトの意を汲み、どちらかが動けなくなるまで剣をぶつけ合うか。もしくは親友の身を案じ、一秒でも早く試合を終わらせるか。

「ハァァ!!」

 より一層速くなるヴァルトの攻撃に、俺は迷うことを止めた。後でどんなに罵られようが、俺はお前を止める。無事に帰ってきたお前を抱き締めるために、ニコは祈る様に手を握りしめていたんだ!

「……『威圧』」

 その瞬間、ヴァルトの身体がピタリと固まった。何が起きているのか、当の本人は理解することも出来ていない。

 俺は無防備になったヴァルトのみぞおちに向け、右手を振るう。

「カハッ……」

 威圧の効果が切れたヴァルトは、抵抗することもなくそのまま地面へ前のめりに倒れていった。その直後、ヴァルトが左手に握っていた剣が音もなく姿を消していく。ヴァルトが発動したスキルは、アリスが使った『漆黒の鎧』と同じように、オリジナルスキルだったのかもしれない。

 倒れたまま動かないヴァルトに審判が駆け寄る。顔を覗き込んだ後、審判は両手をクロスさせながら左右に首を振った。

「ヴァルト・バッカス戦闘不能により、準々決勝第二試合、勝者、アレク・カールストン!!」

 俺に手を向けながら高らかに宣言する審判。それと同時に会場に沸き起こる歓声。俺はそれに答えることもせず、気を失っている親友を見つめていた。
しおりを挟む
感想 169

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ReBirth 上位世界から下位世界へ

小林誉
ファンタジー
ある日帰宅途中にマンホールに落ちた男。気がつくと見知らぬ部屋に居て、世界間のシステムを名乗る声に死を告げられる。そして『あなたが落ちたのは下位世界に繋がる穴です』と説明された。この世に現れる天才奇才の一部は、今のあなたと同様に上位世界から落ちてきた者達だと。下位世界に転生できる機会を得た男に、どのような世界や環境を希望するのか質問される。男が出した答えとは―― ※この小説の主人公は聖人君子ではありません。正義の味方のつもりもありません。勝つためならどんな手でも使い、売られた喧嘩は買う人物です。他人より仲間を最優先し、面倒な事が嫌いです。これはそんな、少しずるい男の物語。 1~4巻発売中です。

勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!

石のやっさん
ファンタジー
皆さまの応援のお陰でなんと【書籍化】しました。 応援本当に有難うございました。 イラストはサクミチ様で、アイシャにアリス他美少女キャラクターが絵になりましたのでそれを見るだけでも面白いかも知れません。 書籍化に伴い、旧タイトル「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」 から新タイトル「勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!」にタイトルが変更になりました。 書籍化に伴いまして設定や内容が一部変わっています。 WEB版と異なった世界が楽しめるかも知れません。 この作品を愛して下さった方、長きにわたり、私を応援をし続けて下さった方...本当に感謝です。 本当にありがとうございました。 【以下あらすじ】 パーティーでお荷物扱いされていた魔法戦士のケインは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことを悟った彼は、一人さった... ここから、彼は何をするのか? 何もしないで普通に生活するだけだ「ざまぁ」なんて必要ない、ただ生活するだけで幸せなんだ...俺にとって勇者パーティーも幼馴染も離れるだけで幸せになれるんだから... 第13回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞作品。 何と!『現在3巻まで書籍化されています』 そして書籍も堂々完結...ケインとは何者か此処で正体が解ります。 応援、本当にありがとうございました!

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。