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2. 私が身代わりに?
しおりを挟む「私がヘレフォード家のご子息様とお見合い……ですか?」
「ええ、そうよ。拒否権はないわ。」
──お見合い?お父様と使用人以外の男性と碌に話したことがない私が?
いや、待て。私はお父様とも使用人とも滅多に会話をしない。
会話をするとしたら、呼びかけや問いかけに私が返事をするくらいだ。
まぁそれが会話と呼ぶのかはわからないのだが。
「わ、私にはとてもできません!男性と上手く会話するなんて…。それにお姉様への見合い話なんです。私が代わりに行くなんて失礼だと思いますわ。」
お姉様は随分と男性から人気があるらしく、パーティーの後は決まって私にどんな人からどの様にアプローチされたかを事細かに話をする。
大半は聞き流しているが、「私はお前と違って美人だから」とテンプレートのように語るお姉様にはいつも呆れ果てていた。
お姉様の自慢話が嘘か本当かはさておき、艶のあるブロンドの髪にグリーンの大きな目、それに加えて整った顔立ちをしているお姉様の代わりなんて、外の世界も知らない惨めな私には到底できるはずがない。
「だからこそよ。お前がミラ・アヴェーヌとして見合いに行くの。そして惨めで醜いお前を見たヘレフォード家のご子息は見合い話を無かったことにする。これで婚姻の話にも進まない。何の問題もないわ!」
私ったら流石ねと上機嫌で髪をくるくると指に巻き付ける。
いや、問題しかないでしょ。
無理難題にそうツッコミを入れたい気持ちをグッと堪え、お父様の方をチラリと横目で見る。
お父様もお父様で、お姉様の馬鹿な発言に感心した様子で目をキラキラと輝かせていた。
此の親にして此の子ありとはよく言ったものだ。
私はその時、もう二度と気持ちが揺れ動くことがないと思うほどの諦観の境地へ至った。
「……わかりました。しかし、容姿でバレてしまったら私にはどうすることもできませんよ。」
「大丈夫よ。あの方は一度も社交界に出たことがないんだから私の顔なんて知る由がないわ。」
因果応報が本当にあるというのならば、今すぐお姉様に天罰が下ればいいのに。
溢れ出る悔しさを抑えるように、唇を強く噛みしめた。
それから事が進むのは早かった。
あの話を受けて5日後の今日、私はミラ・アヴェーヌとしてヘレフォード家のご子息とお見合いをする。
ドレスはお姉様が着なくなった真っ赤なドレスに、捨てるつもりだったというネックレスに耳飾り。
そして好みじゃないと投げ捨てられた哀れな赤いハイヒール。
私の好みとは程遠いが、どれも今まで身につけたことのない一級品。
きっかけは不本意ではあるが、私の心が躍るには十分だった。
「な、なんて大きいの……」
馬車から降りて最初に目に入ったのは、それはそれは大きくて豪華なお屋敷。
庭は私の家の庭の2倍はあるし、お屋敷なんて3倍…いやそれ以上に大きい。
立派なお屋敷に圧倒されていると、横にいた使用人のアメリアが私に声をかけた。
「リリーお嬢様…、今回もお助けできなくて申し訳ありません…。私たち使用人はいつもお嬢様に助けていただいているのに……。」
悲しそうに涙を浮かべる彼女は、私が幼い頃からずっとアヴェーヌ家の使用人をしてくれている。
アヴェーヌ家の使用人の中では、彼女が1番歴が長いらしい。
彼女は本当に優しい人だ。
チェリーパイ事件の時に食事をこっそり運んできてくれたのも彼女で、碌に勉強もさせてもらえなかった私に勉強や刺繍も教えてくれた。
夜、寝る前は決まって彼女から貰った本を読んでいたため、ある程度の知識や常識は知っている。
彼女あって今の私がいると言っても過言ではないだろう。
「いいえ、アメリアはずっと私を助けてくれていたじゃない。それにあなたが悪いんじゃないわ。」
彼女を安心させようと微笑みかける。
そう、そうよ。
悪いのは全部あの大馬鹿者のお姉様。
今回、この身代わりがバレてしまったらきっといつも通り全てを私のせいにして自分は上手く逃げ切るおつもりなんでしょうね。
今なら片手で林檎を潰せると確信を持って言えるほどの怒りを抑えつつ、屋敷の入り口まで慣れないヒールで必死に歩く。
屋敷の大きな扉の前に着くと、それと同時にゆっくりと扉が開いた。
「お待ちしておりました。ミラ・アヴェーヌ様。さぁ、どうぞ中へお入りください。」
現れたのは使用人と思われる男性で、扉を開けながら私に優しく微笑みかけた。
浅く深呼吸をして、アメリアと共に屋敷の中へ入ろうと足を一歩踏み出す。
「お待ちください。ミラ様以外は屋敷の中へは入れないで欲しいと仰せつかっております。使用人の方はご遠慮いただけますと幸いです。」
予想だにしない言葉に思わず固まる。
今回私はアメリアが側にいるという安心でなんとか平常心を保っていられた。
しかし、この使用人が言うには屋敷内には私以外入らないで欲しいとのこと。
急激に緊張感が高まる。
「お帰りの際はこちらがミラ様をお送りいたします。」
ということは、私はこれから誰の助けも借りずにたった1人でお見合いというピンチを乗り切らなければならないということだ。
正直冷や汗が止まらない。
しかし、ここまできてやっぱり帰りますだなんて言えるはずもなかった。
どうやらここは覚悟を決めるしかないようだ。
「わかりました。ではアメリア、申し訳ないけれど先に屋敷へ戻ってちょうだい。」
私を酷く心配した様子で眉を寄せるアメリアをこれ以上見ていると、彼女の手を引いて今すぐ全てから逃げ出したくなってしまう。
「よーし!!」
気合を入れるために勢いよく自分の頬を叩く。
思いの外強く叩きすぎたようで、風船が割れるような音が辺り全体へ響き渡った。
そんな私の奇行にヘレフォード家の使用人はドン引きした様子で顔を引きつらせ、アメリアは一層心配そうな表情を浮かべている。
しかし今の私にそんなこと気にしてる余裕はない。
「さぁ、使用人さん!早く行きましょう!」
ここは勢いだ!
慣れない高いヒールで足を捻りそうになりながら、震える足でお屋敷の中へ入る。
いよいよ、ヘレフォード家のご子息とのお見合いが始まる────。
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