お姉様の身代わりになって婚約を阻止しに行ったはずが、どうやら溺愛されてしまったようです。

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5. 任務完了?

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 あれから私はヘレフォード家の使用人たちが私を呼び止める声に必死に謝りながら屋敷の外に出た。

 これからどうやって家に帰ろうという考えが一切なかった私だが、私のことを心配していたアメリアが馬車と一緒に敷地外で待っていてくれたおかげで急いで馬車へ乗り込み、顔の熱も冷めないまま家路についた。

 「あら帰っていたのね。上手くいったんでしょうね?」

 家に戻り、すぐに自室に駆け込んだ私。
 扉が鈍い音を立てて開いたかと思えば、狭く薄暗い自室のベッドで膝を抱えて顔を埋めていた私に、お姉様が今日のことを尋ねてきた。

 ──上手くいったかと言えば上手くいったけど、上手くいかなかったと言えば上手くいかなかった…。

 そんな曖昧なことをお姉様に言えば、きっと叱られてしまう。だから私はお姉様の求める回答をしようと顔を上げた。

 「……はい、上手くいきましたわ。」
 「ふふ、当然の結果ね。」

 お姉様は満足そうに笑うと踵を返して軽い足取りで部屋を後にした。

 今日は本当に疲れた。
 慣れない豪華なドレスと高いヒールで足は鉛のように重いし、精神的にも酷く疲れた。

 ──でも

 「楽しかった──……。」

 初めて私の話を聞いてくれる人に出会った。
 初めて誰かとお気に入りの小説の話をした。
 初めて、もっと話してみたいと思ってしまった。

 だけどそれは叶わない。

 元々これから関わらないようにするために私が会いにいったんだ。
 そして彼が見ていたのは私ではなく、お姉様のミラ・アヴェーヌ。
 私がどれだけ楽しく思って彼ともっと話してみたいと思ったところで、叶うわけもなかった。

 それにあんなに可笑しな言動をしてしまったんだ。
 きっと明日にでも、この話は無かったことにしてほしいという連絡が入るだろう。

 机に積み重なった小説を1冊手に取る。

 彼と話したお気に入りの小説。
 もっと話したいことがあった。
 もっと話してほしかった。

 これでよかったはずなのに、酷く悲しい。

 その日は小説を抱きしめながら眠りに落ちた。






 「一体どういうことよ!!説明しなさい、リリー!」

 翌日、居間へ行くと顔を真っ赤にさせたお姉様が耳をつんざくような声で私に詰め寄った。

 状況が飲み込めず一体何のことかとあたふたしていると、お姉さまが私の胸に何かをグッと押し付ける。

 途端、鼻を掠める優しい香り。

 「今朝、私宛てにこの花束が届いたわ。送り主はヘレフォード家のご子息!!話が違うわ、どうして気に入られているの!?」
 「は、花束……っ!?」

 シド様から送られてきたのは、カスミソウと淡い紫色のカンパニュラの花束。

 ──どうして…

 私は彼に花束を送っていただくようなことはしていないし、なんなら可笑しな子だと気味悪がられたとまで思っていた。

 まるで何でも見透かすような彼のブルーアイを思い出す。

 「類は友を呼ぶとはよく言ったものね。変人が変人に好かれるなんて見ものだわ。」
 「ごめんなさい、お姉様。私、ちゃんとやったつもりだったの……。」
 「口答えは許さないわ。あの変人にしっかり嫌われるまで、これからはヘレフォード家に通いなさい。お声が掛かったら絶対に行くのよ。」

 ──また彼に会える…?

 もう2度と会うことはないと思っていた彼と、私はまた話せるの…?

 動揺よりも彼と会える嬉しさが勝り、思わず笑みが溢れてしまう。
 
 お姉様に嬉しそうな顔をしているのがバレたら、きっとまたきつく叱られてしまう。
 そう思い、私は持っている花束を優しく抱きしめるようして、綻ぶ口元を隠した。

 「わかったら返事!!」
 「は、はい!」

 お姉様は私を軽蔑するかのように睨みつけ、またあの手で追い払うような仕草をする。

 どうやらこの花束は私が貰っていいようで、音を立てずそっと部屋を後にした。





 自室に着くと、花を生けようと物置に眠っていた古い花瓶を引っ張り出し水を入れる。
 包装紙から花を取り出そうと根元に巻かれたリボンを慎重に解いた。

 その時、花の間に何か紙が挟まっているのが見えた。

 ──なんだろう?

 花を掻き分けて紙を取り出す。
 彼の瞳のような淡い水色の、綺麗なカード。

 「──君にはこの花の方がよく似合う…」

 紙には綺麗な文字でそう書かれていた。

 心が温かくなるのを感じた。
 これは、この花束はお姉様ではなく私に送られたもの。
 私を見て、私と話して、彼はこの花を選んでくれたんだ。

 花びらが散らないようにそっと花瓶に挿し、日当たりのいい小窓の側に置く。
 陽光に照らされて鮮やかな花が笑うように揺れた。




 夜、ベッドにも入らず小窓の側でただただ花を眺める。
 私の瞳の色によく似たカンパニュラとカスミソウを見るたびに彼の優しい微笑みが思い出せる。

 少し意地悪な不思議な人。

 最初はただ行きたくないと強く思っていた。
 私が男性と話すなんて無理だって。

 だけど今は……

 「──次に会う時、お礼を言わなくちゃ」

 彼と会うことがとても楽しみ。
 次は何の話ができるだろうか、彼もあの小説は好きなんだろうか、あの時は全く思い浮かばなかった話題が次々と思い浮かぶ。

 「早く話したいなぁ……。」

 彼との次を考えると、自然と笑みが溢れた。
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