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11話 これも運命?~人気俳優死す~
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「とりあえず、行くかあー」
私は立ち上がってうーん、と軽くストレッチをした。
その声を合図に、皆が立ち上がる。こりゃまるで明菜と愉快な仲間たちだ、と私は思った。
一先ず目に入った、他とは少々違う扉の方へ向かう。
開いてみると一番最初に目に入って来たのは紅色をした大理石の床だった。
どうやら洗面所のようだ。
そして何か鼻歌のようなものが聞こえ、鏡の方を向くとご機嫌で髪をいじっている青白い何か。まあ何かなんて言っても、幽霊以外にないのだけど。
無視は……もうしなくていいか。いきなり掴みかかってきたりしなさそうだし。
案の定、私が鏡に映ったことで向こうがこちらに気づく。
「おっちょっとした団体さんだねえ! 皆俺のこと知ってる!?」
と明るく、そして人懐っこい笑みで私達に問いかけてくる。
私は深く考えず、ぱっと見でえっ知らない、と答えた。竜介も、我もだ、と私に続く。
それを聞いて彼はそっかあ、と呟いてあからさまにがくりと項垂れた。
「もしかして、桜井太一さんですかあ?」
オネエのネコナデ声なんて、初めて聞くなあ……
もちろんぶん殴られそうなので声には出せない。さやかは瞳を輝かせてぶりっ子を演じている。
ん?桜井太一……あ。
「もしや、ドラマの撮影期間中に、飲酒運転のトラックに車をぶつけられてマネージャーごと亡くなったっていうあの……?」
お店での話のネタとしても必要だったのでニュースはネットでもテレビでも、一応頭に叩き込んでいた。顔までは覚えていなかったが、そのニュースはこれから有名になるであろう人間が亡くなった、と一時期小さな騒ぎが起こっていたので覚えている。
私が顔を覚えていないのは、何曜日にドラマや映画、CMが流れようと夜である、というだけで仕事で見ることが不可能だからだ。
「我もニュースでそのようなものを見たな……」
「誰だ桜井って?」
竜介は知っていてもおかしくはないが、王子が知らないのは当然だろう。
「そうだよ、そうそう! お姉さんもそっちのお姉さんもありがとね! 俺のこと知っててくれて……」
目を輝かせて私とさやかを交互に見やっている。だめだ、しっぽを振っている犬にしか見えない。
「我のことは無視か」
「あっごめんねー俺のファン女の子のほうが多かったからつい……」
竜介のツッコミに今回は反応する。なんというか、いきなりタメ口を使われても嫌じゃない感じの青年だ。
かと言ってファンではないが、それは黙っておこう。
「俺が死んだせいでドラマが完結出来なかったみたいでねーまあ主役だったからねー」
聞いてもいないことを結構喋るタイプの霊だ。……人間にもお喋り好きはいるが。
「打ち切りで放送出来なかったんですよね?」
キャーキャー興奮しているさやかの横で私は話しかける。
「そうなんだよね、マネージャーにも悪いことしたよねー」
「居眠り運転で正面から突っ込まれたらしょうがないですわ!」
ですわ……?
さやかは熱心に媚びている。幽霊同士の戯れなんて初めて見た。なんだか今回は私の出番はなさそうなので、どうしても他人事のように、温かく見守ってしまう。
「君、ありがとう! 名前は何て言うの?」
「さやか、と申しますわ桜井様」
まるで王子様に会ったシンデレラのように、彼女は宝石を見るような目で、祈るように手を組んで、桜井に全力で答えている。
「女って怖い」
「まったくだ」
相手にされない男性陣は後ろでこそこそ何かを言っているようだけどさやかにはもちろん聞こえていない。
ついでに桜井はさやかがオネエだということにも気づいていない。実は天然なんだろうか。
私とさやかは桜井が出ている映画もある、ということで話が盛り上がった。というか無理やり私は合わせていた。意外とバレない。やはり天然だろうか。
そして知っている人がいたから気が済んだらしく
「俺、また俳優に生まれ変わるよ! そうしたらさやかちゃん、俺のこと見れくれるかな?」
「もちろんですわ!!」
もうさやかには突っ込むまい。
私は彼との縁の糸が薄くなっているのを感じ取って、グラスに日本酒を注ぎだす。
「もう、心残りはないの?」
そう問いかけると彼はあっさり、ないと答えた。
「じゃあ、ゆっくり、お休みなさい。また来世で」
私は彼の頭からゆっくりと清めた酒をかけ、彼は徐々に消えていくのだった。
嵐が去ったような静けさが残るほど彼はマシンガントークの達人だったようだ。
私は立ち上がってうーん、と軽くストレッチをした。
その声を合図に、皆が立ち上がる。こりゃまるで明菜と愉快な仲間たちだ、と私は思った。
一先ず目に入った、他とは少々違う扉の方へ向かう。
開いてみると一番最初に目に入って来たのは紅色をした大理石の床だった。
どうやら洗面所のようだ。
そして何か鼻歌のようなものが聞こえ、鏡の方を向くとご機嫌で髪をいじっている青白い何か。まあ何かなんて言っても、幽霊以外にないのだけど。
無視は……もうしなくていいか。いきなり掴みかかってきたりしなさそうだし。
案の定、私が鏡に映ったことで向こうがこちらに気づく。
「おっちょっとした団体さんだねえ! 皆俺のこと知ってる!?」
と明るく、そして人懐っこい笑みで私達に問いかけてくる。
私は深く考えず、ぱっと見でえっ知らない、と答えた。竜介も、我もだ、と私に続く。
それを聞いて彼はそっかあ、と呟いてあからさまにがくりと項垂れた。
「もしかして、桜井太一さんですかあ?」
オネエのネコナデ声なんて、初めて聞くなあ……
もちろんぶん殴られそうなので声には出せない。さやかは瞳を輝かせてぶりっ子を演じている。
ん?桜井太一……あ。
「もしや、ドラマの撮影期間中に、飲酒運転のトラックに車をぶつけられてマネージャーごと亡くなったっていうあの……?」
お店での話のネタとしても必要だったのでニュースはネットでもテレビでも、一応頭に叩き込んでいた。顔までは覚えていなかったが、そのニュースはこれから有名になるであろう人間が亡くなった、と一時期小さな騒ぎが起こっていたので覚えている。
私が顔を覚えていないのは、何曜日にドラマや映画、CMが流れようと夜である、というだけで仕事で見ることが不可能だからだ。
「我もニュースでそのようなものを見たな……」
「誰だ桜井って?」
竜介は知っていてもおかしくはないが、王子が知らないのは当然だろう。
「そうだよ、そうそう! お姉さんもそっちのお姉さんもありがとね! 俺のこと知っててくれて……」
目を輝かせて私とさやかを交互に見やっている。だめだ、しっぽを振っている犬にしか見えない。
「我のことは無視か」
「あっごめんねー俺のファン女の子のほうが多かったからつい……」
竜介のツッコミに今回は反応する。なんというか、いきなりタメ口を使われても嫌じゃない感じの青年だ。
かと言ってファンではないが、それは黙っておこう。
「俺が死んだせいでドラマが完結出来なかったみたいでねーまあ主役だったからねー」
聞いてもいないことを結構喋るタイプの霊だ。……人間にもお喋り好きはいるが。
「打ち切りで放送出来なかったんですよね?」
キャーキャー興奮しているさやかの横で私は話しかける。
「そうなんだよね、マネージャーにも悪いことしたよねー」
「居眠り運転で正面から突っ込まれたらしょうがないですわ!」
ですわ……?
さやかは熱心に媚びている。幽霊同士の戯れなんて初めて見た。なんだか今回は私の出番はなさそうなので、どうしても他人事のように、温かく見守ってしまう。
「君、ありがとう! 名前は何て言うの?」
「さやか、と申しますわ桜井様」
まるで王子様に会ったシンデレラのように、彼女は宝石を見るような目で、祈るように手を組んで、桜井に全力で答えている。
「女って怖い」
「まったくだ」
相手にされない男性陣は後ろでこそこそ何かを言っているようだけどさやかにはもちろん聞こえていない。
ついでに桜井はさやかがオネエだということにも気づいていない。実は天然なんだろうか。
私とさやかは桜井が出ている映画もある、ということで話が盛り上がった。というか無理やり私は合わせていた。意外とバレない。やはり天然だろうか。
そして知っている人がいたから気が済んだらしく
「俺、また俳優に生まれ変わるよ! そうしたらさやかちゃん、俺のこと見れくれるかな?」
「もちろんですわ!!」
もうさやかには突っ込むまい。
私は彼との縁の糸が薄くなっているのを感じ取って、グラスに日本酒を注ぎだす。
「もう、心残りはないの?」
そう問いかけると彼はあっさり、ないと答えた。
「じゃあ、ゆっくり、お休みなさい。また来世で」
私は彼の頭からゆっくりと清めた酒をかけ、彼は徐々に消えていくのだった。
嵐が去ったような静けさが残るほど彼はマシンガントークの達人だったようだ。
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