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394. 授かった力(五年後)✔

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「パパ! アーサーが台座に固定してある剣を触って危険なので言い聞かせてください!」

 長男のアールスが息を弾ませながら執務室に飛び込んできた。

「アールス、部屋に入る時はノックするように言っているだろ」

「ごめんなさい、でもアーサーが怪我したら大変でしょ!」

「そうだな急いで行こう!」

「パパ、早く!」

 アールスは急かすように服を掴んで引っ張る。執務机の椅子から下りると俺の手をぎゅっと握り、宝物庫に向かって駆け出した。

「エレインはどうしているの?」

「アーサーを見張らせています!」

「そうか、アールスはしっかりと指示もできるから頼りになる、ありがとう!」

「えへへ……」

 アールスは照れ臭そうに俺の顔を見ると、直ぐに向き直りさらに歩くスピードを上げた。

 長い廊下の突き当りにある階段を地下に降りる。少し湿っぽい空気に変わり、壁に掛けられたランプの光がゆらゆらと地下通路を照らしている。

 宝物庫の重たい扉が五十センチほど開かれていた。アーサーはこの重たい扉を開けられるようになっていたんだな。

 中を覗くとエクスカリバーの柄を両手で握り、真っ赤な顔で必死に引き抜こうとしているアーサーと、少し離れて長女のエレインが心配そうな表情で見守っていた。

 防犯対策として、聖剣エクスカリバーの刃を土魔法で固めると地面に縫い付けているんだ。エクスカリバーは勇者でなければ扱うことができないからね、普通ならこれで盗むことなんてできないはずなんだ。

 エクスカリバーの刃がほんのりと光りを帯びている、俺の予想は間違っていなかったな、アーサーは勇者の力を授かっているようだ。

 アーサーという名前は仲間だった元勇者の名前だ。アーサーも幸せになってほしかったんだよ。だから俺の子に同じ名前を付けて幸せに育ててやろうと考えたんだ。

 元勇者や聖女が俺の子に転生するなんて物凄い確率になるだろう、それに転生時には脳への負担をなくすため記憶は消去されるんだから、結局、俺の自己満足ではあるんだけどね。
 
 名前を付けるときには元勇者が転生しているとは考えていなかったんだけど、育つにつれて剣筋や体の動かしかたが元勇者であるアーサーにそっくりになってきたんだ。だから、本当に転生しているんじゃないかと思い始めている。

 長男の名前だが、賢者アールス・ハインドから名付けた。転生という点では俺の前前世なのでおかしいが、三人が仲良く暮らす姿が見たかったんだよ。だから長女には聖女の名前エレインを付けることにした。千年前の仲の良かった俺達三人の姿を自分の子供に重ねてしまったんだよ。

 三人に名前をつけるときには普通の子ではないという確信があったからね。アルテミシアにはまだ詳しくは説明していないんだけど、魔力鑑定眼で見るとカイル兄さんやクロード兄さんの子より格段に魔力量が多かったんだ。

 妊娠中に毎日癒しの魔法を行使していたのも原因かもしれないけど、きっと女神様の干渉が大きく関係しているんじゃないかな。

 俺の考えが合っているなら、勇者、賢者、聖女の力を授けられている可能性が高いんだ。だって、女神様が直接干渉できるのは転生の際に勇者、賢者、聖女の力を授けることだったはずだからね。

 長男のアールスは金髪でブルーの瞳をしている、俺の生まれたころに似ているとお母様は言っているな。言葉を覚えるのも早く、計算もできるようになった。物覚えもいいし、もう少しで魔法も使えるんじゃないかな、まるで絵本に出てくる賢者のようだからね。

 末っ子のアーサーは力が強く剣術に適性が高い、それに聖剣エクスカリバーが反応している、これって勇者で間違いないよね。アルテミシアに似た金髪で金色の瞳は、偶然なんだろうけど元勇者のアーサーの容姿にも合致するんだ。

 そして紅一点の長女エレインは金髪で金色の瞳をしており、ほんわかした雰囲気だが、キツイところもあるんだ。見た目のほんわか雰囲気に騙されたら酷い目に遭うからね、そんなところもアルテミシアにそっくりなんだよ。

 癒しの聖女と言われたお母様やサーシャに、癒しの魔法を習っており、かなり上達しているそうで小さな傷なら治癒させることもできるようになっているみたいだ。

 残念なことに俺は、その瞬間を見たことはないんだけどね。絵本に描かれている聖女様の子供の頃にそっくりなんだよ。

 大事なことだから二回言うけど、ほんわかエレインの見た目に騙されてはいけないよ、気を付けておかないと全部アルテミシアに伝わるからね。

 おっと、完全に話がそれてしまったな。女神様は俺の保存していた情報を使って、三人を受胎させたと言っていたんだけど、クローンとかコピーとかになるなら賢者アールスがもう一人存在してもおかしくないよね。

「パパ、早くアーサーに止めるように言ってください!」

 完全に自分の世界に入っていたな、長男のアールスに叱られてしまったよ。

「ごめんごめん、アーサー危ないから止めなさい! その聖剣エクスカリバーはよく切れるんだから、怪我してからでは取り返しがつかないよ!」

 俺が優しく言ったからだろう、アールスは少し気に入らないようだ。

 アーサーはじっとこっちを見ていたが、やっと聖剣エクスカリバーの柄から手を離した。その手は豆が裂けたのか血がにじんでおり、痛そうに見える。

 長女のエレインが近づくとアーサーの手の平を見ており、いきなり頭をポカリと軽く叩くと癒しの魔法を発動させた。

 まだ、弱弱しい光だが癒しの魔法が発動している。始めて見れたな! 

「エレイン、癒しの魔法が上手になっているね! パパ、ビックリしたよ!」

「えへへへ! パパに褒められたノ!」

 なんか喋り方が小さい頃のサーシャに似ているな、このほんわかした雰囲気にとても癒されるな。

「お婆様やサーシャおばちゃんみたいに癒しの聖女と呼ばれるようになるんじゃないか!?」

「エレインも聖女様になれるかな?」

「そのまま努力を続ければなれると思うよ!」

 嬉しそうにしているエレインの両手から、温かな光が溢れ出るとアーサーの豆だらけの手の平に吸い込まれていった。

「エレイン、もういいよ、ありがとう!」

 アーサーが少しぶっきらぼうに言うと、手の平を何度かグーパーしている。痛みが減ったようだな。

「どういたしまして、でも、危ないから止めてなノ!」

 三人と手を繋ぎ部屋から出る。重い扉を閉めて階段を上がるとランプの灯を消した。

 まるで兄弟姉妹のように見える……三人に背を抜かれるのはそう遠くなさそうだな……本当に嫌になる。
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