24 / 64
24話 一緒にお昼
しおりを挟む
英語の授業が終わり、昼休み開始を告げるチャイムがなった。
朝から続く堅苦しい授業から、つかの間離れられる解放感で、教室はワイワイガヤガヤと、クラスメイト達の陽気な声に包まれだす。
友達と購買や学食に向かうもの。
机を寄せ合って弁当を広げるもの。
教室のベランダでだべりながら食べるものなど。
皆、思い思いの昼休みを過ごすようだ。
俺はと言えば、そんな賑やかな空間から逃げるように、そそくさと教室を抜け出して、購買へ向かった。
焼きそばパンと牛乳――お決まりのメニューを購入した後、本日の食事スペースを決めるために、校内を彷徨いていた。
一緒に昼食を食べる友達がいない俺にとって、昼休みの教室はなんとなく居心地が悪いものだった。
なので、昼休みは大体、中庭のベンチ、体育館裏の外階段の踊り場、屋上……といった具合に、あらかじめ当たりをつけておいた人気の少ないところをローテーションして食事をするようにしている。
もちろん、そこも人気はまったくのゼロというわけではないのだけど、少なくとも教室の中のような、一人でいることが憚られるようなアウェイ感はない。
なので、ぼっちの俺でも穏やかな気持ちで食事ができるというわけである。
さて、今日はどこで食べようか。
そうだな。今日は天気も悪くないことだし、中庭で食べようか。
俺が一階まで降りて、中庭へ続く渡り廊下を渡ろうとしたところで、不意に俺のスマホがブルルと震えた。俺は立ち止まり、ポケットからスマホを取り出す。
ホーム画面を確認するとメッセージが一件届いていた。
相手は優木坂さんだ。
優木坂:(青井くん今どこ?)
優木坂:(もしよかったら一緒にご飯食べない?)
俺はメッセージの内容を見て、思わず目を丸くしてしまった。
というのも、昼休みの優木坂さんは、いつもクラスの女子グループの輪に入って昼ごはんを食べているので、彼女から誘われるのは正直意外だった。
とはいえ、別に断る理由はない。
むしろせっかくのお誘いなのだから乗らない手はなかった。
青井:(いいよ。それじゃあ中庭に来てくれる?)
そう返信すると、すぐに既読がついた。数秒後、返信が来る。
優木坂:(向かいます!)
こうして俺は優木坂さんと二人でお昼を食べることになった。
***
東高校の中庭は、本棟校舎と別棟校舎に挟まれた細長いスペースだ。
その大半が芝生敷になっており、その中央にこじんまりとした記念碑が置かれ、その周りを囲むようにベンチが等間隔に設置されている。
陽当たりも悪くなく、晴れた日であればポカポカと暖かいことから、昼休み、教室に居づらい生徒達の憩いの場所としては、なかなか好条件のスポットだった。
俺がベンチに座って待っていると、ややあって優木坂さんがやってきた。
俺の姿を見つけるなり笑顔で手を振ってくる。
「青井くん!」
「やあ、優木坂さん」
俺は軽く片手を上げて応じる。
優木坂さんは小走りで駆け寄ってきて、俺の隣に腰掛けた。
「ごめんね。急に誘っちゃって」
「俺の方は全然大丈夫だよ。でもいいの? クラスの子達と一緒に食べなくて」
「うん、今日はお弁当を忘れたから学食で食べるって言ってきたから」
「え、でも……」
俺は優木坂さんの手元に視線を移した。彼女の膝の上には可愛らしい巾着袋が置かれている。
「それ、お弁当だよね?」
「うん、そうだよ」
「ウソついて抜けてきたってこと?」
「えへへ、まあそういうことになるかな……」
「……なんで?」
「え。その理由、聞いちゃいますか……?」
俺が首を捻って問いかけると、優木坂さんは少し頬を赤らめながら上目遣いでこちらを見つめてきた。
「だって、青井くんと一緒にお昼ご飯を食べたかったんだもん。朝とか放課後だけじゃなくて、もっと色々お話をしたくて。だからお弁当忘れたっていう口実を作って、抜け出してきました。えへへ」
「……っ」
屈託のない表情を浮かべながらそんなことを言われてしまい、俺は二の句を継げなくなってしまった。
「そ、そうなんだ……!」
優木坂さんの顔を見つめ続けていられなくて、視線を外した。
なんだろう、心なしか最近の優木坂さんはやたらとグイグイくる気がする。
いやまあ、嫌じゃないんだけど。
どちらかといえば嬉しいんだけど。
そんなことを考えてドギマギしている俺の横で、優木坂さんは、鼻歌を口ずさみながら、巾着袋の包みを解く。
中から出てきたのは、二段重ねになった小ぶりのランチボックスだった。
「いただきます」
優木坂さんは手を合わせてそう言うと、ランチボックスの蓋を開けた。
中には玉子焼き、ミニハンバーグ、プチトマト、ポテトサラダなどと言った、お弁当の定番のメニューが入っていた。
「美味しそうだね」
「ありがとう。ほとんどお母さんの手作りだけどね」
「特に玉子焼き。ふわふわで美味しそうだ」
個人的に玉子焼きが好物なのもあって、何気ない感じで感想を伝えたのだが、それを聞いた優木坂さんの表情がみるみるうちに緩んでいき、満開の笑顔になった。
「嬉しいな、その玉子焼きだけは私が作ったの」
「え、マジ?」
「うん。もしよかったら一個あげる。味見してみて?」
「いいの? それじゃあ遠慮なく……」
俺は玉子焼きを一切れひょいとつまむと、そのまま口に放り込んだ。
モグモグと柔らかい食感と共に、玉子の甘みと和風だしの旨味が口の中いっぱいに広が――
!?
広がらねえ。
な ん だ こ れ は ?
朝から続く堅苦しい授業から、つかの間離れられる解放感で、教室はワイワイガヤガヤと、クラスメイト達の陽気な声に包まれだす。
友達と購買や学食に向かうもの。
机を寄せ合って弁当を広げるもの。
教室のベランダでだべりながら食べるものなど。
皆、思い思いの昼休みを過ごすようだ。
俺はと言えば、そんな賑やかな空間から逃げるように、そそくさと教室を抜け出して、購買へ向かった。
焼きそばパンと牛乳――お決まりのメニューを購入した後、本日の食事スペースを決めるために、校内を彷徨いていた。
一緒に昼食を食べる友達がいない俺にとって、昼休みの教室はなんとなく居心地が悪いものだった。
なので、昼休みは大体、中庭のベンチ、体育館裏の外階段の踊り場、屋上……といった具合に、あらかじめ当たりをつけておいた人気の少ないところをローテーションして食事をするようにしている。
もちろん、そこも人気はまったくのゼロというわけではないのだけど、少なくとも教室の中のような、一人でいることが憚られるようなアウェイ感はない。
なので、ぼっちの俺でも穏やかな気持ちで食事ができるというわけである。
さて、今日はどこで食べようか。
そうだな。今日は天気も悪くないことだし、中庭で食べようか。
俺が一階まで降りて、中庭へ続く渡り廊下を渡ろうとしたところで、不意に俺のスマホがブルルと震えた。俺は立ち止まり、ポケットからスマホを取り出す。
ホーム画面を確認するとメッセージが一件届いていた。
相手は優木坂さんだ。
優木坂:(青井くん今どこ?)
優木坂:(もしよかったら一緒にご飯食べない?)
俺はメッセージの内容を見て、思わず目を丸くしてしまった。
というのも、昼休みの優木坂さんは、いつもクラスの女子グループの輪に入って昼ごはんを食べているので、彼女から誘われるのは正直意外だった。
とはいえ、別に断る理由はない。
むしろせっかくのお誘いなのだから乗らない手はなかった。
青井:(いいよ。それじゃあ中庭に来てくれる?)
そう返信すると、すぐに既読がついた。数秒後、返信が来る。
優木坂:(向かいます!)
こうして俺は優木坂さんと二人でお昼を食べることになった。
***
東高校の中庭は、本棟校舎と別棟校舎に挟まれた細長いスペースだ。
その大半が芝生敷になっており、その中央にこじんまりとした記念碑が置かれ、その周りを囲むようにベンチが等間隔に設置されている。
陽当たりも悪くなく、晴れた日であればポカポカと暖かいことから、昼休み、教室に居づらい生徒達の憩いの場所としては、なかなか好条件のスポットだった。
俺がベンチに座って待っていると、ややあって優木坂さんがやってきた。
俺の姿を見つけるなり笑顔で手を振ってくる。
「青井くん!」
「やあ、優木坂さん」
俺は軽く片手を上げて応じる。
優木坂さんは小走りで駆け寄ってきて、俺の隣に腰掛けた。
「ごめんね。急に誘っちゃって」
「俺の方は全然大丈夫だよ。でもいいの? クラスの子達と一緒に食べなくて」
「うん、今日はお弁当を忘れたから学食で食べるって言ってきたから」
「え、でも……」
俺は優木坂さんの手元に視線を移した。彼女の膝の上には可愛らしい巾着袋が置かれている。
「それ、お弁当だよね?」
「うん、そうだよ」
「ウソついて抜けてきたってこと?」
「えへへ、まあそういうことになるかな……」
「……なんで?」
「え。その理由、聞いちゃいますか……?」
俺が首を捻って問いかけると、優木坂さんは少し頬を赤らめながら上目遣いでこちらを見つめてきた。
「だって、青井くんと一緒にお昼ご飯を食べたかったんだもん。朝とか放課後だけじゃなくて、もっと色々お話をしたくて。だからお弁当忘れたっていう口実を作って、抜け出してきました。えへへ」
「……っ」
屈託のない表情を浮かべながらそんなことを言われてしまい、俺は二の句を継げなくなってしまった。
「そ、そうなんだ……!」
優木坂さんの顔を見つめ続けていられなくて、視線を外した。
なんだろう、心なしか最近の優木坂さんはやたらとグイグイくる気がする。
いやまあ、嫌じゃないんだけど。
どちらかといえば嬉しいんだけど。
そんなことを考えてドギマギしている俺の横で、優木坂さんは、鼻歌を口ずさみながら、巾着袋の包みを解く。
中から出てきたのは、二段重ねになった小ぶりのランチボックスだった。
「いただきます」
優木坂さんは手を合わせてそう言うと、ランチボックスの蓋を開けた。
中には玉子焼き、ミニハンバーグ、プチトマト、ポテトサラダなどと言った、お弁当の定番のメニューが入っていた。
「美味しそうだね」
「ありがとう。ほとんどお母さんの手作りだけどね」
「特に玉子焼き。ふわふわで美味しそうだ」
個人的に玉子焼きが好物なのもあって、何気ない感じで感想を伝えたのだが、それを聞いた優木坂さんの表情がみるみるうちに緩んでいき、満開の笑顔になった。
「嬉しいな、その玉子焼きだけは私が作ったの」
「え、マジ?」
「うん。もしよかったら一個あげる。味見してみて?」
「いいの? それじゃあ遠慮なく……」
俺は玉子焼きを一切れひょいとつまむと、そのまま口に放り込んだ。
モグモグと柔らかい食感と共に、玉子の甘みと和風だしの旨味が口の中いっぱいに広が――
!?
広がらねえ。
な ん だ こ れ は ?
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
9
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる