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第041話:新しい仲間も食いしん坊
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屋台で唐揚げを出す以上、材料となるビッグコッコを定期的に仕入れなければならない。俺たちはいま、ドムの迷宮の第三層でビッグコッコを狩っている。とは言っても、俺自身は戦わない。レイラとメリッサがパスパスと狩ったものを収納袋に収めるだけだ。
「疲れたわ。そろそろ食事にしない?」
「そうだな。一〇〇近く狩ったのだ。もう良かろう。ユーヤ、今日の食事はなんだ?」
彼女らは完全に餌付けされている。人間は一度でも旨味を知ってしまったら、もう後戻りはできない。今さら、塩を振って焼いただけの肉と硬いパンという食事では満足できないだろう。
「今日は油淋鶏にしようか」
油淋鶏のレシピはいくつかあるが、俺は基本的に、肉を揚げる場合はブライニングを行う。ビッグコッコのもも肉一枚を掃除する。余分な脂身を切り落とし、厚さを均等にするために包丁を入れる作業だ。これを行うことで、火の入り方を均等にし、肉が固くなるのを防ぐ。掃除が終わったら、塩と砂糖を溶かした水に一時間漬けて、ブライニングが完了する。
ブライニング中に、油淋鶏のタレと付け合わせの葉野菜、中華スープを作る。もちろん、米も炊いておくぞ。油淋鶏のタレは、国産品を使っても良いが、どうせなら本格中華にしてほしい。中国のたまり醤油、黒酢、黒糖、ハチミツ、擦り下ろしたショウガとニンニク、刻んだネギを鍋で混ぜ合わせてひと煮たちさせる。最後にごま油とラー油を加えれば、油淋鶏のタレの完成だ。
中華スープには、ストックしてあるビッグコッコのガラスープを使う。ガラスープに塩とオイスターソースを加えて味を調え、そこに刻んだトメートとスライスした玉ねぎを入れ、沸騰させて火を止める。水溶き片栗粉でとろみをつけた後に再沸騰させ、溶き卵を入れれば完成だ。
「市場を見ても、生ザーサイは見かけないな。カラシナの一種だから、多分あると思うんだが……」
仕方がないので、瓶詰のザーサイを箸休めで用意しておく。ちなみにホール状で売られているザーサイを使うときは、しっかりと塩抜きする必要があるので注意が必要だ。瓶詰よりもずっと安いから、ザーサイ好きの人はホールから作ったほうが良いだろう。
ブライニングが終わったもも肉は、キッチンペーパーで水気をふき取り、酒と塩コショウ、擦り下ろしたショウガで下味をつけた後、片栗粉で衣をつける。今日はもう一工夫として、片栗粉に砕いたピーナッツを加える。カリカリの食感を出したいからだ。あとは唐揚げと同じ要領で、一五〇度と一八〇度の油で二度揚げをして完成だ。
揚げ終わったらバットに立てかけ、油切りをする。その間に、スープや副菜、飯を用意しておく。最後に、まな板でザクザクとリズムよく肉を切り、刻んだ葉野菜とともに皿に盛り付け、油淋鶏のタレを掛ければ完成だ。
「旨い! 唐揚げと同じだと思っていたが、まるで違うぞ!」
「タレの違いね。あと食感も違うわ。カリッとした部分があって、それがとても良いわね。それにこの酸味と甘味、塩味が混ざったタレが良いわ。ご飯にとっても合う」
レイラとメリッサが夢中で食べている。油淋鶏は米泥棒だからな。これだけで二合はいけるだろう。ザーサイを箸休めにしながら食べていると、ドドドッと人が駆けてくるのが見えた。
「うん? 誰か走ってくるぞ?」
赤色の髪と褐色の肌、そしてものすごくセクシーな鎧を着た女性が走ってくる。そして俺たちが座るテーブルの前で止まると、瞳をキラキラさせて皿を見つめ始めた。かなり体格が良い。身長は二メートル近くだろう。
「あら、ルディじゃない。どうしたの? 貴女はいま、迷宮深層に入っているんじゃないの?」
ルディと呼ばれる褐色の女性は、メリッサの問いに応えず、ただテーブルの上の料理をじっと見つめている。正直、落ち着かない。
「ユーヤ、このままでは落ち着いて食事ができないぞ」
「……そうだな。あのー、良かったらご一緒に如何ですか? 作らなければならないんですが……」
するとルディという女性は勢いよく、コクコクと頷いた。仕方がないので手早く済ませてしまおう。ブライニングをしている時間はないので、掃除した鶏もも肉で急いで油淋鶏を作った。箸は使えないだろうから、フォークとナイフを用意し、椅子に座ったルディに出してやる。
「どうぞ……ってすごいな!」
バクバクと食べ始める。よほど、腹が減っていたのだろう。メリッサに顔を向けると、彼女は肩を竦めて説明し始めた。
「ルディはSランクパーティ、ブレイブ・ソードのタンク役よ。ドムの街でも知られた冒険者だけど、欠点があってね。食事の量が半端ないのよ。大方、食べ過ぎでパーティーを追放されたってところかしら?」
「確かに、ビッグコッコのもも肉一枚では足りなさそうだな」
一キロ以上はあるはずなのに、ペロリと完食してもの悲しそうな顔を見せている。仕方がない。腹いっぱい、食わせてやろう。もも肉三枚を取り出し、追加で米を三合炊いた。
「本当にごめんなさい。あまりにも美味しくて、言葉が出ませんでした」
見た目とは裏腹に、ルディという女性はとても嫋やかな口調で話をしはじめた。惜しい。美人だしグラマラスだし性格も良さそうなのに、身長が俺より遥かに高い。うん、守備範囲外だ。
「仕方がないのよ。だって一食の量が足りないんだもの。我慢できずにこっそり食べていたら、それが見つかって追放されちゃったの」
「でも、ブレイブ・ソードは収納袋を二つも持っているはずよね? それでも足りなかったの?」
「足りなくはなかったけれど、リーダーが屋台で仕入れた唐揚げという料理を食べさせてくれたんだけど、あまりにも美味しすぎて、一人で全部食べてしまったのが原因かしら?」
いや、絶対にそれが原因だろ。まぁ唐揚げくらいでメンバーをクビにするというのはどうかと思うがな。
「唐揚げなら、いくらでも食べられるぞ。なにしろ、その唐揚げの屋台の店主が、このユーヤなのだからな! 唐揚げ食べ放題だ!」
いやいや、食べ放題とか言うな。一応はコストが掛かって……もいないか。肉はここでタダで手に入れているわけだし。
「す、凄いです!」
いやいや、そんなキラキラした瞳で見られても……
「ルディも私たちのパーティーに入ればいいわ。迷宮一二層以降に進むには、タンク役が欠かせないもの。ルディなら問題なく任せられるわ」
「ぜひ! お願いします!」
「いや、そんな勝手に……」
「ユーヤ、深層にいるブラッディ・ホーン・ブルは最上級の肉として知られている。希少なので王宮ですら全貴族が集まる年一度の祝宴でしか出せないほどだ。食べてみたいとは思わないか?」
そう言われてしまうと興味が湧いてくる。最上級の肉ということは、日本でいえばグラム数千円のブランド牛ということか? 旨い分、焼き方を注意する必要があるが、幸い鉄板がある。最上級肉の味を最大限に引き出せるだろう。
「……ちなみに、もっと深層にはより旨いものがあるのか?」
「それは分からん。迷宮の最深部に辿り着いた者はいないからな。だが傾向としては、深くなればなるほど旨い魔物が出てくる。それは間違いない」
フム、やってみるか。迷宮討伐などには興味はないが、その旨い牛肉は食べてみたい。というかそれほどの味なら大量に狩ってストックしておきたい。
「わかった。とりあえず一〇日間、屋台を休んで迷宮深部を目指そうか」
どうせ屋台も遊びでやっているのだ。いつ止めたって構わない。再び迷宮に関心が向かった俺に、新しい仲間のルディが恐る恐る、皿を差し出してきた。
「あの……もう少しもらえますか?」
また食いしん坊キャラが出てきたと思いながら、モモ肉を手に取った。
「疲れたわ。そろそろ食事にしない?」
「そうだな。一〇〇近く狩ったのだ。もう良かろう。ユーヤ、今日の食事はなんだ?」
彼女らは完全に餌付けされている。人間は一度でも旨味を知ってしまったら、もう後戻りはできない。今さら、塩を振って焼いただけの肉と硬いパンという食事では満足できないだろう。
「今日は油淋鶏にしようか」
油淋鶏のレシピはいくつかあるが、俺は基本的に、肉を揚げる場合はブライニングを行う。ビッグコッコのもも肉一枚を掃除する。余分な脂身を切り落とし、厚さを均等にするために包丁を入れる作業だ。これを行うことで、火の入り方を均等にし、肉が固くなるのを防ぐ。掃除が終わったら、塩と砂糖を溶かした水に一時間漬けて、ブライニングが完了する。
ブライニング中に、油淋鶏のタレと付け合わせの葉野菜、中華スープを作る。もちろん、米も炊いておくぞ。油淋鶏のタレは、国産品を使っても良いが、どうせなら本格中華にしてほしい。中国のたまり醤油、黒酢、黒糖、ハチミツ、擦り下ろしたショウガとニンニク、刻んだネギを鍋で混ぜ合わせてひと煮たちさせる。最後にごま油とラー油を加えれば、油淋鶏のタレの完成だ。
中華スープには、ストックしてあるビッグコッコのガラスープを使う。ガラスープに塩とオイスターソースを加えて味を調え、そこに刻んだトメートとスライスした玉ねぎを入れ、沸騰させて火を止める。水溶き片栗粉でとろみをつけた後に再沸騰させ、溶き卵を入れれば完成だ。
「市場を見ても、生ザーサイは見かけないな。カラシナの一種だから、多分あると思うんだが……」
仕方がないので、瓶詰のザーサイを箸休めで用意しておく。ちなみにホール状で売られているザーサイを使うときは、しっかりと塩抜きする必要があるので注意が必要だ。瓶詰よりもずっと安いから、ザーサイ好きの人はホールから作ったほうが良いだろう。
ブライニングが終わったもも肉は、キッチンペーパーで水気をふき取り、酒と塩コショウ、擦り下ろしたショウガで下味をつけた後、片栗粉で衣をつける。今日はもう一工夫として、片栗粉に砕いたピーナッツを加える。カリカリの食感を出したいからだ。あとは唐揚げと同じ要領で、一五〇度と一八〇度の油で二度揚げをして完成だ。
揚げ終わったらバットに立てかけ、油切りをする。その間に、スープや副菜、飯を用意しておく。最後に、まな板でザクザクとリズムよく肉を切り、刻んだ葉野菜とともに皿に盛り付け、油淋鶏のタレを掛ければ完成だ。
「旨い! 唐揚げと同じだと思っていたが、まるで違うぞ!」
「タレの違いね。あと食感も違うわ。カリッとした部分があって、それがとても良いわね。それにこの酸味と甘味、塩味が混ざったタレが良いわ。ご飯にとっても合う」
レイラとメリッサが夢中で食べている。油淋鶏は米泥棒だからな。これだけで二合はいけるだろう。ザーサイを箸休めにしながら食べていると、ドドドッと人が駆けてくるのが見えた。
「うん? 誰か走ってくるぞ?」
赤色の髪と褐色の肌、そしてものすごくセクシーな鎧を着た女性が走ってくる。そして俺たちが座るテーブルの前で止まると、瞳をキラキラさせて皿を見つめ始めた。かなり体格が良い。身長は二メートル近くだろう。
「あら、ルディじゃない。どうしたの? 貴女はいま、迷宮深層に入っているんじゃないの?」
ルディと呼ばれる褐色の女性は、メリッサの問いに応えず、ただテーブルの上の料理をじっと見つめている。正直、落ち着かない。
「ユーヤ、このままでは落ち着いて食事ができないぞ」
「……そうだな。あのー、良かったらご一緒に如何ですか? 作らなければならないんですが……」
するとルディという女性は勢いよく、コクコクと頷いた。仕方がないので手早く済ませてしまおう。ブライニングをしている時間はないので、掃除した鶏もも肉で急いで油淋鶏を作った。箸は使えないだろうから、フォークとナイフを用意し、椅子に座ったルディに出してやる。
「どうぞ……ってすごいな!」
バクバクと食べ始める。よほど、腹が減っていたのだろう。メリッサに顔を向けると、彼女は肩を竦めて説明し始めた。
「ルディはSランクパーティ、ブレイブ・ソードのタンク役よ。ドムの街でも知られた冒険者だけど、欠点があってね。食事の量が半端ないのよ。大方、食べ過ぎでパーティーを追放されたってところかしら?」
「確かに、ビッグコッコのもも肉一枚では足りなさそうだな」
一キロ以上はあるはずなのに、ペロリと完食してもの悲しそうな顔を見せている。仕方がない。腹いっぱい、食わせてやろう。もも肉三枚を取り出し、追加で米を三合炊いた。
「本当にごめんなさい。あまりにも美味しくて、言葉が出ませんでした」
見た目とは裏腹に、ルディという女性はとても嫋やかな口調で話をしはじめた。惜しい。美人だしグラマラスだし性格も良さそうなのに、身長が俺より遥かに高い。うん、守備範囲外だ。
「仕方がないのよ。だって一食の量が足りないんだもの。我慢できずにこっそり食べていたら、それが見つかって追放されちゃったの」
「でも、ブレイブ・ソードは収納袋を二つも持っているはずよね? それでも足りなかったの?」
「足りなくはなかったけれど、リーダーが屋台で仕入れた唐揚げという料理を食べさせてくれたんだけど、あまりにも美味しすぎて、一人で全部食べてしまったのが原因かしら?」
いや、絶対にそれが原因だろ。まぁ唐揚げくらいでメンバーをクビにするというのはどうかと思うがな。
「唐揚げなら、いくらでも食べられるぞ。なにしろ、その唐揚げの屋台の店主が、このユーヤなのだからな! 唐揚げ食べ放題だ!」
いやいや、食べ放題とか言うな。一応はコストが掛かって……もいないか。肉はここでタダで手に入れているわけだし。
「す、凄いです!」
いやいや、そんなキラキラした瞳で見られても……
「ルディも私たちのパーティーに入ればいいわ。迷宮一二層以降に進むには、タンク役が欠かせないもの。ルディなら問題なく任せられるわ」
「ぜひ! お願いします!」
「いや、そんな勝手に……」
「ユーヤ、深層にいるブラッディ・ホーン・ブルは最上級の肉として知られている。希少なので王宮ですら全貴族が集まる年一度の祝宴でしか出せないほどだ。食べてみたいとは思わないか?」
そう言われてしまうと興味が湧いてくる。最上級の肉ということは、日本でいえばグラム数千円のブランド牛ということか? 旨い分、焼き方を注意する必要があるが、幸い鉄板がある。最上級肉の味を最大限に引き出せるだろう。
「……ちなみに、もっと深層にはより旨いものがあるのか?」
「それは分からん。迷宮の最深部に辿り着いた者はいないからな。だが傾向としては、深くなればなるほど旨い魔物が出てくる。それは間違いない」
フム、やってみるか。迷宮討伐などには興味はないが、その旨い牛肉は食べてみたい。というかそれほどの味なら大量に狩ってストックしておきたい。
「わかった。とりあえず一〇日間、屋台を休んで迷宮深部を目指そうか」
どうせ屋台も遊びでやっているのだ。いつ止めたって構わない。再び迷宮に関心が向かった俺に、新しい仲間のルディが恐る恐る、皿を差し出してきた。
「あの……もう少しもらえますか?」
また食いしん坊キャラが出てきたと思いながら、モモ肉を手に取った。
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