仕事帰り休みの日=もっと仲良くなる時間

泡田日

文字の大きさ
4 / 65
戯れ始まり

会議室のベランダ

しおりを挟む
 また一人、LINEに増えてしまった。それも男、同い年、高校同じの富塚君……。
 この職場には小休憩がないから適当にトイレ行ったり、飲み物おかわりしに行ったりする。
 私は水筒があるから、それを飲んでいるけれど。
「富塚、行くぞ!」
「はい!」
 どこ行くんだろう? 課長と一緒に出て行ってしまった。
「あー、嫌! 戻って来たら臭いわよ~」
「え? 何で」
「タバコよ、タバコ! 富塚君もタバコ吸わなかったらねぇ、良いのに」
 ぶつぶつ続く相楽さんの文句に私はちくわ耳となって仕事に集中した。
 話しながらでもできる仕事、それが派遣の担当している所だ。
 
 昼休みになった。相楽さんに倣って、自分の席で弁当を食べ、トイレついでにちょっと社内を探険してみることにした。
 給湯室は掃除したりする関係で良く来るが、その奥にある階段の上が確か、会議室に続いていると聞いた。もしかしたら行くことになるかもしれないし、行ってみよう。
 あった! 階段上ってすぐの所に会議室が……でも、何で扉、全開? 中見るには
ちょうど良いけど、誰か居るのかな? 電気は消えてるけど……と中を見て、キョロキョロしてみるが誰も居ない。
 閉じておいた方が良いのだろうか……でも下手な事はできない。このままにしておこう……そう思って戻ろうとしたところ、後ろから声が掛かった。
「日下?」
 富塚君の声だ。
 喜んで振り向いたわけじゃないとばかりにちょっと不機嫌そうになってしまう。
「何?」
 カーテンがしてあった所から出て来て、こちらにやって来そうな富塚君がそこに居た。
「そこ……」
「ベランダ」
「へえ……」
 カーテンをちょっと開けてくれて、その向こうを確認させてくれる。
 ちょっと広めのベランダだ。
「日下もこっちに来れば? まだ時間あるでしょ」
「でも……」
「誰も居ないから大丈夫だよ」
「戻ろうとしてたんじゃないの?」
「いや、ちょっと人の気配がしたと思ったから顔出しただけ」
「え? 何で……もしかしてタバコしちゃいけない所で吸ってたから慌てた?」
「いや、ここは昔は吸っても良かったんだけどさ。今は社外の決まった所じゃないとダメだし、俺、付き合いで吸ってるだけだから。課長とか一緒に吸う人居なきゃ吸わないし。日下、タバコの匂い嫌い?」
「うん。でも、何でそんなこと……」
「今日もさ、タバコから帰って来た人見ると嫌な顔してたから。まあ、そこまで俺はしてないと思いたいけど。で、来る? 何もないけどね」
「う、ん……」
「曖昧だな、日下は」
 そう言って手を引っ張られた。
「ちょっとぉ! 危ない!」
「でも、青空だよ? 見てみなよ、窮屈でない空、晴れてて気持ち良い……って、新人の頃は良くここでくつろいでた」
「今は?」
「サボり」
「へえ、昼休みにサボるんだ、おかしいね、富塚君」
「バカ、昼休みにだって仕事してる奴はいるんだぜ? 俺はしたいと思わないからしない。そんなに根詰めても解決しないものはしないから。時間は作るものだって言うけど、作り過ぎても良くない。やる事なくなったら逆に焦るじゃん? 休もうかなって気持ちにもなるし、それが仕事行く気にさせなくなったりさ、するし」
「そうかな……。私は休めるなら休みたいけど」
「日下は対人関係苦手なの?」
「え? どうして」
「相楽さんとばかり話してるから」
「うん、そうだね。それで十キロも太っちゃった。最初はね、私も正社員で働いてたんだよ? でも、人間関係苦手で、無理して暴飲暴食が止まらなくなって、こんな風になっちゃった……。少しぽっちゃりデブって言うの? それに身長も高くないし」
 そう言って同意してもらおうと思って富塚君を見たら、そんな風に見てないという風な顔をされてしまった。
 困る!
「あの、富塚君?」
「ん?」
「何か言って……、じゃないと私、困っちゃう……」
「何で? 良いんじゃない? 俺的には今の日下の方が普通だと思うし。痩せ過ぎてるのも問題でしょ? 死んだ時ガリガリだよ? 何か可哀想に思っちゃうよ?」
「そんなこと今から思ってるの? ふっ、おかしい、富塚君……」
 くくく……と久しぶりにお腹の方から笑いが込み上げて来た。こんな気持ち久しぶりだ。
「笑うなよ、死んだばあちゃん見て、そう思っちゃったんだからしょうがないだろ? 日下ってさ」
「ん? 何?」
「笑うと可愛いな」
「え?」
 これは……ときめく場面ですか?!
「あ、いや、ずっとビクビクしてる日下ばかり見てたからかもしんないけど」
「いつ! どこで見てたの?! 富塚君!」
「いや、この会社来てからだけど……」
「ですよねー」
 安心した。高校の時から見られていたら大問題だ。
「日下……」
「何? 戻る時間? じゃあ、戻るね?」
「いや、そうじゃなくて今夜、飲みに行かない?」
「え?」
「うちの会社、歓迎会とかしないから。俺がしたい」
「へ?」
「代表で一名、俺と日下だけの歓迎会をしたい」
「え、でも……どこで飲むの?」
「考えとく。定時までには」
「え、ちょっと……困るかも……」
「何で?」
「お母さんがご飯作ったりしてるかもしんないし……」
「こんな時間から? まだ十三時いちじにもなってませんよ?」
「い、や……」
 断り切れない……。
「うん、そうだね! 定時に帰れれば考える!」
「そう、じゃあ、俺、手伝うわ」
「え?」
「定時に帰れるように」
「いや、でも、富塚君には富塚君の仕事が!」
「大丈夫。課長達、今日の午後は出張でしょ? バレない。俺だって、たまには飲みたい」
「そう申されましても困るんですけど! 私、お酒も全然なんでッ!」
「いやいや、大丈夫。普通の居酒屋じゃないから。ソフトドリンクもある店だから」
「え……、それってもうお店決まってるじゃないですかぁ!!?」
「そうだね。そうだ、良し、予約しておこう」
「今から?!」
「まあ、店開いたらすぐ。そういう訳だから、日下、今日は晩ご飯いりませんって、お母さんに連絡しとけよ? 花金だからって」
「ええぇ! それって」
「パワハラじゃない、付き合い」
「パワハラだよぉ、絶対!」
「本当にそう思ってるなら止める」
「む……、じゃあ、行く」
「うん? どうして急に」
「富塚君が酔った所見て、笑ってあげる。好きなんでしょ? 私の笑顔」
「まあ……そうですね、そうですよ。明日休みだしね、二日間、お世話になる覚悟で飲むわ」
「いや、それは勘弁してほしい」
「さいですか……」
 どうしてその時、私はそんな風にしてしまったのかと考える。これさえなければ、今、こうして変に富塚君を意識したり、見つめる時間が長くなったりしなかったのに……と思えて来る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...