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戯れ始まり
車の中で
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羽根付き餃子を作った次の日もその次の日も富塚君に会うことはなく、五月一日、二日は普通に『富塚さん』と『日下さん』で過ごし、課長というプレッシャーに勝ち、帰りの駅のホームでやっと『富塚君』と『日下』になった。
「ねえ、富塚君?」
「ん?」
「ゲーム楽しかった?」
「あ? ああ……、楽しかったよ? 日下は? 何してた?」
「別に、何にも。仕事を一応探しとくか……くらいで」
「へえ……、やらんでも良い事してたの? せっかく、羽根付き餃子の作り方の紙、渡したんだから作ったりは」
「しない。っていうか、羽根付き餃子の日だって、ただ食べるだけに近かったし、その後、何もなかったし」
「あった方が良かったの?」
「いや、ない方が良かったから良いんだけど、いつまでスマホをやってるんですか?」
「いや、ちょっとね。明日の事の確認」
ん? そう思って、ちょっと隣の富塚君のスマホの画面を覗き込んでしまった。ゲームしてたんじゃなかったのか……。
「何? 何か不都合な事でもあったの?」
「いや、ないんだけど。道迷ったらどうしよ……って」
「富塚君でもそんなこと思うんだね!」
そう言って私は少し笑ってしまったけれど、富塚君はスマホに集中していて気にしてないようで。
「まあね、初めてだし」
「え?」
「日下、乗せるの初めてだから、車酔いとかにならないように……したいから」
「ん? どうしたの?」
「いや、ちょっと。気になったのがあって……。でも甘いな、これ」
「え? 何々?!」
「見せない。着いたら分かるでしょ?」
「何? 食べ物?」
「そう。だから、安心して来なよ」
「うん、大丈夫! 車酔いとかしないし……明日は富塚君の家っていうか、マンションの駐車場に行けば良いんだよね?」
「そうそう」
「その為に土曜日は一人で行ったのか……」
「ん、何?」
「いえ、何でもないです!」
そんな訳で、五月三日の早朝、私は約束通りやって来たのだ。
もう車の横に富塚君が居る。
いつもよりお洒落じゃない服……、富塚君も茶摘みとかしちゃうのだろうか? 私は初めて富塚君の家に行った時と同じような服だ。いや、いつもこんなのばかりだ。仕事に着て行く服と何も変わらないと言っても良い。ただ色がちょっと明るめになったりするだけで。
「おはよう、日下、今日は晴れて良かったな」
「うん、おはよう。富塚君の車って普通なんだね」
「まあね、課長乗せたりすることもあるからね。じゃあ、乗って」
「うん、助手席で良いんだよね?」
「そうだけど、嫌?」
「ううん、嫌じゃない。けど、ちょっとドキドキして……、助手席って何か特別だな……って」
「特別ね……」
そう言いながら富塚君はドアを開けて運転席に座ってしまったので、私も慌ててドアを開け、助手席に座った。
「シートベルトは言わなくても分かってるよね?」
「分かってるよ、ペーパードライバーですから、私!」
「そうだったね……」
そう言って、軽く笑われた……。
むっ! とちょっと心の中で怒ってしまったけれど、まあ、良いか、何か和んだし。
富塚君の運転する車は慎重過ぎず、乱暴過ぎずでちょうど良い走り方をしていて安心する。
「ねえ、富塚君はお昼どうしようと思ってるの?」
「うん? まあ、そこの食べれるやつ食べる感じ? 日下は何食う?」
「え? 分かんないけど、美味しそうなの」
「そうだよね、俺もそう」
この話題はダメだったらしい、次!
「ねえ、富塚君……」
「何? ラジオ嫌?」
「じゃないけど、喋んないの?」
「喋りたいの?」
「いや。何か喋ってよ……運転大変なのは分かるけど……」
「別に運転は大変じゃないんだけどね……」
「まだ渋滞はしてないよ?」
「そうなんだけどね……」
「行く気なくなった? 帰る?」
「いや、帰らないし! 行く気はある。けど、上手い話題が見つからないから日下、喋ってって……」
「ええ?! 別にもうないけど……」
「じゃあさ、日下って何部だった? 高校の時」
「え? 何だっけ……文化部?」
「だよな……高校の頃の事、こう十何年も経つと記憶からなくなる」
「富塚君、何か高校の事で何かあったの?」
「いや、そこの歩道に弓道部の子達が居たから」
「そう……。そういえば、富塚君って運動部だったけ?」
「そう、まあ、日下は興味なさそうだし、あ、俺の好きな曲」
「へえ……これって何かのアニメのオープニング」
「そうなの?! そういうのって多いのかな……」
「さあ?」
「けど、日下はやっぱ、あのオタク女子達と今も交流あるの?」
「いや、あんまり……。私、大体仕事しかしてないし」
「趣味は?」
「寝ることだから、最近」
「ふーん、寝るね……それはもうぐっすり?」
「そう、何か疲れちゃって……すぐに寝ちゃうの。でも、土日はあんまり眠くなんないんだよね……金曜とかも大丈夫」
「へえ、仕事がないって分かってるからかな?」
「そうかも……。富塚君はゲーム?」
「そうですね……、ああ、映画の予告動画とか見るかも……本当に暇だとね……」
「へえ、私もそれやってたことある……何か良いのかどうかって予告で大体分かるよね」
「うん、まあ……でも、気になったやつはレンタルで見たりするのが多いかな……映画館行くと眠くなる」
「何で?」
「暗いから?」
「え? もったいない! 起きてなよ!」
「じゃあ、俺が寝たら起こしてね」
「え……、それって……映画館行こうっていうお誘い?」
「映画館って……映画ね、気になるのあったら言って、付いてくから」
「眠くなるのに行くの? 私、映画は映画館とかで一人で見る派だよ? もしくはテレビでやるの待つ」
「うわぁ、じゃあ、良いや。家のテレビでやる時、一緒に見よ?」
「うーん……それって結構後だよね?」
「そうだね、そのくらい後まで日下と一緒に居たいということなんだけど」
えっ、ん? ちょっと待って、彼は……何を言っているんだ? ドキドキして来た。この音楽、このラジオで流れてる音楽が恋愛の歌だから!? 富塚君は……もう。
付き合いたいの? と言いたい。確かにあの夜、初残業した時、そういう風な話にはなった。けれど、彼は、彼の口からは『好き』だとか『愛してる』だとか『付き合って』とか! そういう真剣な話は一言も出て来てないわけで……。
「富塚君……」
「何? そんなに思い詰めなくて良いよ? 気楽に行こう? 日下のペースで良いからさ、俺は待つし……それに簡単には変えられないしね……」
「それは……前の彼女さんとの事で?」
「そう、悩んでるんだ……ずっと悩んでる。課長に言われても、社長に言われても、周りの仕事の先輩や後輩に、友達に言われても、親に言われてだって、変えられなかったし……俺、もう無理だって本気で思ってたし、ふぅ……、だから、俺も焦らないって決めたんだ。したいって思ったらしたい。それだけのことだから」
何か割り切っている……そんな富塚君に私は何ができるだろう。
「富塚君は高校の時からかなり変わってるね、もし、高校生だったらこうなってはないでしょう?」
「そりゃあそうだ! 俺だって、大人になるよ? アラサーだよ? 二十九歳、八月来たら三十歳」
私と一緒……。私も八月で三十歳……妊娠は四十歳までだって、以前勤めてた職場の不妊治療してた人が言ってた。それまであと十年。その間に私は普通の幸せに足を踏み入れられるのか……考えたことがあるけど、ないって思ってたし……。
「富塚君は努力してるね」
「いや、してないよ。日下に会って、変わっただけ」
「何で、そうなったの? また言ってくれない?」
「いや、言えば簡単なんだけどね……。よくあるやつだよ。単純なんだ、男ってのは。好きな奴とどうなりたいかってことなんじゃない? それは女でも同じでしょ? 俺はその女が日下になっただけで、日下が吹っ切るって言うんなら、それを待つのも手だと思って……」
富塚君が赤信号になったから、こちらを見た。
「わ、私! 別に吹っ切りたいって……言ったのは! あの……結婚とか考えるとですね。あの……」
「ああ……、会っちゃうから? 昔の高校の知り合いとかに? まあ、日下はそういうの気にするわな……、課長さえ、気にし過ぎちゃうからね……」
「ダメ……なの……。そういうの、本当に……」
「だから、日下のペースで良いんだよ……。俺はしないって言い張ってドン! って、事実を叩きつけてやりたい気分」
「ハ?」
「まあ、そういう感じなんだ、今……。だから、すぐにどうなりたいって、あんまりないわけで、仲良くしてる程度が今、ちょうど良い感じで。それがどんどん良い方向に行けば良いって言うか……」
何か富塚君がゴニョゴニョして来た。きっと彼もまだ強く言えないんだ。だったら、良い。
「私も努力します! 仲良くなる!」
そう言って、彼を見れば少しきょとんとして。
「そう……」
と言ってほっとしたような優しい笑みをしていた。
「ねえ、富塚君?」
「ん?」
「ゲーム楽しかった?」
「あ? ああ……、楽しかったよ? 日下は? 何してた?」
「別に、何にも。仕事を一応探しとくか……くらいで」
「へえ……、やらんでも良い事してたの? せっかく、羽根付き餃子の作り方の紙、渡したんだから作ったりは」
「しない。っていうか、羽根付き餃子の日だって、ただ食べるだけに近かったし、その後、何もなかったし」
「あった方が良かったの?」
「いや、ない方が良かったから良いんだけど、いつまでスマホをやってるんですか?」
「いや、ちょっとね。明日の事の確認」
ん? そう思って、ちょっと隣の富塚君のスマホの画面を覗き込んでしまった。ゲームしてたんじゃなかったのか……。
「何? 何か不都合な事でもあったの?」
「いや、ないんだけど。道迷ったらどうしよ……って」
「富塚君でもそんなこと思うんだね!」
そう言って私は少し笑ってしまったけれど、富塚君はスマホに集中していて気にしてないようで。
「まあね、初めてだし」
「え?」
「日下、乗せるの初めてだから、車酔いとかにならないように……したいから」
「ん? どうしたの?」
「いや、ちょっと。気になったのがあって……。でも甘いな、これ」
「え? 何々?!」
「見せない。着いたら分かるでしょ?」
「何? 食べ物?」
「そう。だから、安心して来なよ」
「うん、大丈夫! 車酔いとかしないし……明日は富塚君の家っていうか、マンションの駐車場に行けば良いんだよね?」
「そうそう」
「その為に土曜日は一人で行ったのか……」
「ん、何?」
「いえ、何でもないです!」
そんな訳で、五月三日の早朝、私は約束通りやって来たのだ。
もう車の横に富塚君が居る。
いつもよりお洒落じゃない服……、富塚君も茶摘みとかしちゃうのだろうか? 私は初めて富塚君の家に行った時と同じような服だ。いや、いつもこんなのばかりだ。仕事に着て行く服と何も変わらないと言っても良い。ただ色がちょっと明るめになったりするだけで。
「おはよう、日下、今日は晴れて良かったな」
「うん、おはよう。富塚君の車って普通なんだね」
「まあね、課長乗せたりすることもあるからね。じゃあ、乗って」
「うん、助手席で良いんだよね?」
「そうだけど、嫌?」
「ううん、嫌じゃない。けど、ちょっとドキドキして……、助手席って何か特別だな……って」
「特別ね……」
そう言いながら富塚君はドアを開けて運転席に座ってしまったので、私も慌ててドアを開け、助手席に座った。
「シートベルトは言わなくても分かってるよね?」
「分かってるよ、ペーパードライバーですから、私!」
「そうだったね……」
そう言って、軽く笑われた……。
むっ! とちょっと心の中で怒ってしまったけれど、まあ、良いか、何か和んだし。
富塚君の運転する車は慎重過ぎず、乱暴過ぎずでちょうど良い走り方をしていて安心する。
「ねえ、富塚君はお昼どうしようと思ってるの?」
「うん? まあ、そこの食べれるやつ食べる感じ? 日下は何食う?」
「え? 分かんないけど、美味しそうなの」
「そうだよね、俺もそう」
この話題はダメだったらしい、次!
「ねえ、富塚君……」
「何? ラジオ嫌?」
「じゃないけど、喋んないの?」
「喋りたいの?」
「いや。何か喋ってよ……運転大変なのは分かるけど……」
「別に運転は大変じゃないんだけどね……」
「まだ渋滞はしてないよ?」
「そうなんだけどね……」
「行く気なくなった? 帰る?」
「いや、帰らないし! 行く気はある。けど、上手い話題が見つからないから日下、喋ってって……」
「ええ?! 別にもうないけど……」
「じゃあさ、日下って何部だった? 高校の時」
「え? 何だっけ……文化部?」
「だよな……高校の頃の事、こう十何年も経つと記憶からなくなる」
「富塚君、何か高校の事で何かあったの?」
「いや、そこの歩道に弓道部の子達が居たから」
「そう……。そういえば、富塚君って運動部だったけ?」
「そう、まあ、日下は興味なさそうだし、あ、俺の好きな曲」
「へえ……これって何かのアニメのオープニング」
「そうなの?! そういうのって多いのかな……」
「さあ?」
「けど、日下はやっぱ、あのオタク女子達と今も交流あるの?」
「いや、あんまり……。私、大体仕事しかしてないし」
「趣味は?」
「寝ることだから、最近」
「ふーん、寝るね……それはもうぐっすり?」
「そう、何か疲れちゃって……すぐに寝ちゃうの。でも、土日はあんまり眠くなんないんだよね……金曜とかも大丈夫」
「へえ、仕事がないって分かってるからかな?」
「そうかも……。富塚君はゲーム?」
「そうですね……、ああ、映画の予告動画とか見るかも……本当に暇だとね……」
「へえ、私もそれやってたことある……何か良いのかどうかって予告で大体分かるよね」
「うん、まあ……でも、気になったやつはレンタルで見たりするのが多いかな……映画館行くと眠くなる」
「何で?」
「暗いから?」
「え? もったいない! 起きてなよ!」
「じゃあ、俺が寝たら起こしてね」
「え……、それって……映画館行こうっていうお誘い?」
「映画館って……映画ね、気になるのあったら言って、付いてくから」
「眠くなるのに行くの? 私、映画は映画館とかで一人で見る派だよ? もしくはテレビでやるの待つ」
「うわぁ、じゃあ、良いや。家のテレビでやる時、一緒に見よ?」
「うーん……それって結構後だよね?」
「そうだね、そのくらい後まで日下と一緒に居たいということなんだけど」
えっ、ん? ちょっと待って、彼は……何を言っているんだ? ドキドキして来た。この音楽、このラジオで流れてる音楽が恋愛の歌だから!? 富塚君は……もう。
付き合いたいの? と言いたい。確かにあの夜、初残業した時、そういう風な話にはなった。けれど、彼は、彼の口からは『好き』だとか『愛してる』だとか『付き合って』とか! そういう真剣な話は一言も出て来てないわけで……。
「富塚君……」
「何? そんなに思い詰めなくて良いよ? 気楽に行こう? 日下のペースで良いからさ、俺は待つし……それに簡単には変えられないしね……」
「それは……前の彼女さんとの事で?」
「そう、悩んでるんだ……ずっと悩んでる。課長に言われても、社長に言われても、周りの仕事の先輩や後輩に、友達に言われても、親に言われてだって、変えられなかったし……俺、もう無理だって本気で思ってたし、ふぅ……、だから、俺も焦らないって決めたんだ。したいって思ったらしたい。それだけのことだから」
何か割り切っている……そんな富塚君に私は何ができるだろう。
「富塚君は高校の時からかなり変わってるね、もし、高校生だったらこうなってはないでしょう?」
「そりゃあそうだ! 俺だって、大人になるよ? アラサーだよ? 二十九歳、八月来たら三十歳」
私と一緒……。私も八月で三十歳……妊娠は四十歳までだって、以前勤めてた職場の不妊治療してた人が言ってた。それまであと十年。その間に私は普通の幸せに足を踏み入れられるのか……考えたことがあるけど、ないって思ってたし……。
「富塚君は努力してるね」
「いや、してないよ。日下に会って、変わっただけ」
「何で、そうなったの? また言ってくれない?」
「いや、言えば簡単なんだけどね……。よくあるやつだよ。単純なんだ、男ってのは。好きな奴とどうなりたいかってことなんじゃない? それは女でも同じでしょ? 俺はその女が日下になっただけで、日下が吹っ切るって言うんなら、それを待つのも手だと思って……」
富塚君が赤信号になったから、こちらを見た。
「わ、私! 別に吹っ切りたいって……言ったのは! あの……結婚とか考えるとですね。あの……」
「ああ……、会っちゃうから? 昔の高校の知り合いとかに? まあ、日下はそういうの気にするわな……、課長さえ、気にし過ぎちゃうからね……」
「ダメ……なの……。そういうの、本当に……」
「だから、日下のペースで良いんだよ……。俺はしないって言い張ってドン! って、事実を叩きつけてやりたい気分」
「ハ?」
「まあ、そういう感じなんだ、今……。だから、すぐにどうなりたいって、あんまりないわけで、仲良くしてる程度が今、ちょうど良い感じで。それがどんどん良い方向に行けば良いって言うか……」
何か富塚君がゴニョゴニョして来た。きっと彼もまだ強く言えないんだ。だったら、良い。
「私も努力します! 仲良くなる!」
そう言って、彼を見れば少しきょとんとして。
「そう……」
と言ってほっとしたような優しい笑みをしていた。
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