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戯れ始まり
眠気から
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富塚君の唇がもう一度離れたら、富塚君の体も一緒に離れた。
「え?」
「何?」
「これだけ?」
意表を突かれた。
「もっとしたいって? そんなに俺、元気じゃないよ。今日はちょっと遠くまでだったし、また今度ね」
と、あっさり帰されてしまった私は冷静に考えてみた。きっとお仕置きだ……そうに違いない。卑しい自分の考えに富塚君は怒ってしまったんだ。
時が経ち、改めてキスをして来た理由を富塚君に直接確かめてみたけど、したかっただけ……と言われた。
富塚君は真面目に仕事をしていて、私はそんなに真面目にやってない。その後のゴールデンウィークもやっぱり会わないコースだったし……五月病? 疲れてるの? と相楽さんに言われ、やっと真面目になった私はテキパキと……やれるわけもなく、モヤモヤと過ごしてしまった数日のせいですっかり悩んだ結果の寝不足アラサー女と化していた。
「はあぁぁぁ……」
大きな溜め息が夕方の会社の帰り道の途中で出てしまった。
きっと今、彼はこの道の先に居る。
けれど、待っててくれない。ゴールの駅のホームまで行くしかない。
今週はあと明日だけだけど、もう休もうかな……眠い……。
まだ有休が使えない私は頑張らないといけないのに、頑張れない。
富塚君にお姫様抱っこかおんぶでもしてもらって駅まで行きたい。
歩くのが嫌になってしまった。
スマホをバッグの中から出してみる。
何も来てない……、いや! 来た! 富塚君?! 電話?
慌てて出る。
「はい、もしもし、日下です」
『あ、日下? お疲れ、電車行っちゃったよ? どうすんの?』
「うん、何となくそんな気がした。だから、一、二本後のに乗ってくね? 富塚君はもう駅で電車乗って、着いたでしょ?」
『いや、まだこっちの駅』
「え、何で? こっちのって、乗れたんじゃないの?」
『うん、乗れたけど、何か……乗りたくなくて。今、どこ居んの?』
「まだ道の途中。あの臭い匂いがする工場の所の近く」
『じゃあ、そこまで行こうか?』
「え? ここまでまた戻って来るの? 良いよ! 悪いよ、だから、そっち行くから待ってて!」
『あと何分?』
「ん……じゅ、十分で、十分で行きますので!」
『ふーん……それは普通だ。じゃ、待ってるからちゃんと来なよ?』
「はい、分かりました! お疲れ様ですっ!」
何なんだ……富塚君は。でも、そう言ってしまっては行くしかない。はあ、歩くのが面倒なんだ……。送迎ありの所に行きたい……。
「あ!」
思い出してしまった。今日見たいテレビ、録画してない。
きっと家に帰ってから録画をしようものなら、母親にガミガミ言われてしまう……。
うーん……、ここは……早足になって駅に向かった。
「お疲れー」
「お、お疲れ、様です……」
はあ、走ったような感じになってしまったし、寝不足が体をダルくさせている。
そんな中、余裕で駅のホームに居る富塚君に私は言う。
「あの! 今日、富塚君の家行って良い?」
「何、突然」
「いやぁ、あのね、今日見たいテレビがあるんだけど……家じゃ見れなくて……」
「録画は?」
「うん、忘れちゃって……、家に帰ってから見れるやつなんだけどね、親が見せてくれないと思うし、絶対、リアルタイムで見たいから!」
「俺の家のテレビね……」
「あ! 見たいのがあった? ゲームする? から、無理? 時間は夜の九時からなんだけど」
「え? そんな時間まで俺の家に居るの?」
「うん、だめ?」
「いや、良いけど……それって一時間番組?」
「うん、そう。もう知ってるんだぁ、富塚君の家のテレビでもそのチャンネル映ること! だから、邪魔にならないようにしてるから! 見させて!!」
かなり強引な事を言っているのは分かるし、別に誘ってもいない。そんな女の言うことなど富塚君は聞いてくれるだろうか。
緊張の一瞬、富塚君は口を開いた。
「良いよ、別に。こんなのそうそうないし、日下からってのが良い。で? 何見るの?」
「う……、あの……えっと……旅行番組と……あの……聖地巡礼が合体したようなやつ……」
目を見て言えなかった。
「ふーん……それって、アニメの?」
「イエッサー」
了解しました。富塚君はそんな私をそれ以上、突いて来なかった。
「コンビニ行って良い?」
「うん、どうぞ、どうぞ。私はあの、雑誌でも読んでますんで」
「そう……」
富塚君がちょっと冷めた気がする。でも、これは仕方ないんだ! 友達付き合いとはこういうものなんだ。ま、高校の友達ではないけど、同じ系統の女友達をその後も作ってしまった私は会った時の事を考えて行動しなくてはいけない。
それにしても無意識にこくん、こくん……と首が下を向いてしまう。電車に乗った時もそうだった。
いけないと思っても尚。
「眠いの?」
「うん……」
自然と言ってから気付く。
ハワワァ! 富塚君がもう買い物を終えられていた! あう! こんなアウトな女を連れ、帰ることになった今日の富塚君がかわいそうだ。
「あの、もう行きますよね? すみません! すぐに、雑誌片付けます!」
「良いよ……、二十一時にはまだならないし」
そう言って、富塚君が左腕にしている仕事用の腕時計を見る。
「いえ! ご飯を食べるのではありませんか?! 私は普通に空腹でも平気ですので! ササッ、帰りましょう!」
バタバタとコンビニを出て、富塚君が普通に出て来るのを待つ。
「ぷ……、日下、おもしろ過ぎ」
「何を笑われているのか、分かりませんが! 出て来てすぐに笑うの、止めてもらえません?」
「ぷ、ごめん……ちょっとツボった」
「何が原因なのか分かんない……」
むすっとしてしまう。また。
「ごめんごめん、行こう。富塚さんが美味しいもん作ってあげるから」
「え! 良いのぉ!?」
「うん、別にアニメ好きでも良いよ? 俺だって、ゲームやってるし、それがアニメ化したりするからね、昨今は」
「あ……、でも、嫌いでしょ? 富塚君は」
「でも、前、車の中で聞いたラジオの方で流れてた音楽だってアニメのやつだったし、日下は本当気にし過ぎで損してるよ? 日下の好きなもん、もっと知りたいから、良いんだよ」
そう言って、富塚君は普通に戻った。
いや、でも……と思ってしまう自分が居るのは確かで、富塚君がスーツのまま作ってくれたチャーハンがとっても美味しくて、番組がやるまでの時間、だらだらと他のテレビを見つつ、コンビニで買ったお菓子でも食べてな……と私にそのお菓子を分けてくれたけれど、そんなお菓子のせいで富塚君は私の隣にちゃっかり座って、スマホのゲームをしている。
まあ、良いか……とそんなまったりした時間のせいで、どんどん眠くなって来た。
これは寝てしまうコース……。ダメダメ! 見なければ! 時間は二十時半前。
こくん、こくんと首が下を向く回数が増えて来た。
隣に居る富塚君が気になってか、ゲームを中断して声を掛けて来た。
「一応、録画してあるし。眠いんだったら寝れば?」
「でも……」
「時間になったら起こしてあげるよ?」
「大丈夫だから続けてて、ゲーム……」
眠いの我慢しなきゃ……。目をこすっても眠いの変わらない。
「いや、でも、こんな調子じゃあれだし、少し寝な?」
「でも……」
「寝なさい」
こくん……と大きく下を向いてしまった所に大きな手が頭の横に来た。そのまま隣の富塚君に寄り掛かれるようにしてくれる。
何だろう、この温かさ、ぐっすり眠れそう。
そんな安心感があった。
「あの……、本当に起こしてね?」
「うん、大丈夫。ゲームそこそこにしとくから」
「そこまでだと、楽しめないよ?」
「それよりも日下の体調の方が大事だから」
「あと、着替えた方が良いよ。臭い」
「あ、それね。タバコ吸ったからなぁ……今日も」
「まあ、良いけどね……」
そう言って寝落ちしてしまいそうだったけど、ちゃんと始まる五分前に起こしてくれた。それも富塚君が寝ているであろうベッドの上で起きるなんて恥ずかしすぎる! スカートじゃなくて良かったぁ! とか、どうやってここに……とかいろんなことを考えてしまったけど、見たいものに集中したくて、トイレ行って準備万端待機した。その間に着替えたらしい富塚君の私服がこれまたいつもの感じではなくて、ゴールデンウィークに行ったお茶のイベントの時に着ていた服よりもラフで安心する。
「何?」
「いや……、ちょっと新鮮で。あ! 始まったから静かにしてね!」
「はいはい……」
何かひどいことを言ってしまった気がしたけど、彼はまたスマホゲームに夢中になり出したし、良いか……と学生時代に見ていたな……とか思いながら、それを見ていると、富塚君も一緒に見ているのに気付いた。
「あの……」
「ん? いや、参考になるなって。ほら、言ったでしょ? 社員旅行の」
「ああ! あれね……何か言ってた。ここ! 超感動する場面なんだよ! でも、実写では残念な結果になってた……」
そんなくだらない話も素直に聞いてくれて、番組が終わってしまった。
「はあ、ありがとう。じゃあ、帰るね!」
「うん、でもさ、日下、このまま泊まれば良いんじゃないの?」
「それはできない。明日着る服だってないし、お弁当箱と水筒洗わせていただき、ありがとうございました。じゃあ……」
何か急に腕、掴まれた。
「じゃあ、送ってく。夜、危ないし、車で。歩きたくないでしょ?」
「え、何故、それを」
「んー……、最近歩くの遅い気がしたから」
「え?」
「結構ギリギリにやって来るからね、会社にも帰りの駅にも。原因は眠気?」
「いやぁ……今日は早く寝るから」
「本当?」
「うん……、きっと寝れると思う……」
あんまり良い答えできなかった。
「何か悩んでんの? 派遣の更新?」
「違う」
言って良いのかな……と思う。
腕から富塚君の手、離れちゃったし……、何も言わないままにもいかないくらいじっと黙って富塚君に見られていると言わないといけない気がして来る。
「もやもやが……消えなくて」
「もやもや?」
「そう、富塚君、本当にしたかっただけかな……って」
「ふん……、まだ気にしてんの? キス」
「あ、ったり前じゃん! 富塚君は普通にしてるけど、私は……」
「成績表のこと? 別にあの頃って勉強より大切だと思ってたことがあったからだし」
「でも、私が見たのは見ちゃいけない過去だった。ごめんなさい。高校三年生の一学期の所、ちらっとしか見てないけど」
「まあ、良いよ。もう、俺もちょっとやり過ぎたかもって」
「思ったの?」
「いや、した時は思ってなかったけど」
「お仕置きだと思ってた、ずっと」
「え?」
「ああいう悪い事する子にはお仕置きだ! っていう、懲らしめ的な」
「その発想は今までなかったけど、そうだな。それも良い。富塚先生の授業受ける?」
「え?! 何の……」
「料理に決まってんじゃん。補習的なやつ」
「じゃあ、甘いので」
「は? デザート?」
「そうそう、触感はね柔らかくて、簡単に食べれるやつが良いなぁ……」
「じゃあ、ドルチェだね」
「ドルチェってパンナコッタとか? ティラミスとか?」
「そう! パンナコッタの方が作りやすいからパンナコッタにしようか」
「うん! する! ずっとおかずとかだったでしょ? ちょっとそういう系食べたいなって思ってたんだぁ」
「へー、あ、俺、来週の火曜日、会社休むから」
「何? いきなり!」
「いつ言おうか迷ってたんだけど」
「それ言う為に電車乗らなかったとか?」
「違うよ、日下が心配だったからだよ」
そんなこと言ってぇ! と言ってみたけど、来週の火曜日は相楽さん居るし、安心か……と思い直して、私は富塚君に車で自宅近くのコンビニまで送ってもらった。
パンナコッタはそんな富塚君の休みが終わった週末にやろうということになった。
「え?」
「何?」
「これだけ?」
意表を突かれた。
「もっとしたいって? そんなに俺、元気じゃないよ。今日はちょっと遠くまでだったし、また今度ね」
と、あっさり帰されてしまった私は冷静に考えてみた。きっとお仕置きだ……そうに違いない。卑しい自分の考えに富塚君は怒ってしまったんだ。
時が経ち、改めてキスをして来た理由を富塚君に直接確かめてみたけど、したかっただけ……と言われた。
富塚君は真面目に仕事をしていて、私はそんなに真面目にやってない。その後のゴールデンウィークもやっぱり会わないコースだったし……五月病? 疲れてるの? と相楽さんに言われ、やっと真面目になった私はテキパキと……やれるわけもなく、モヤモヤと過ごしてしまった数日のせいですっかり悩んだ結果の寝不足アラサー女と化していた。
「はあぁぁぁ……」
大きな溜め息が夕方の会社の帰り道の途中で出てしまった。
きっと今、彼はこの道の先に居る。
けれど、待っててくれない。ゴールの駅のホームまで行くしかない。
今週はあと明日だけだけど、もう休もうかな……眠い……。
まだ有休が使えない私は頑張らないといけないのに、頑張れない。
富塚君にお姫様抱っこかおんぶでもしてもらって駅まで行きたい。
歩くのが嫌になってしまった。
スマホをバッグの中から出してみる。
何も来てない……、いや! 来た! 富塚君?! 電話?
慌てて出る。
「はい、もしもし、日下です」
『あ、日下? お疲れ、電車行っちゃったよ? どうすんの?』
「うん、何となくそんな気がした。だから、一、二本後のに乗ってくね? 富塚君はもう駅で電車乗って、着いたでしょ?」
『いや、まだこっちの駅』
「え、何で? こっちのって、乗れたんじゃないの?」
『うん、乗れたけど、何か……乗りたくなくて。今、どこ居んの?』
「まだ道の途中。あの臭い匂いがする工場の所の近く」
『じゃあ、そこまで行こうか?』
「え? ここまでまた戻って来るの? 良いよ! 悪いよ、だから、そっち行くから待ってて!」
『あと何分?』
「ん……じゅ、十分で、十分で行きますので!」
『ふーん……それは普通だ。じゃ、待ってるからちゃんと来なよ?』
「はい、分かりました! お疲れ様ですっ!」
何なんだ……富塚君は。でも、そう言ってしまっては行くしかない。はあ、歩くのが面倒なんだ……。送迎ありの所に行きたい……。
「あ!」
思い出してしまった。今日見たいテレビ、録画してない。
きっと家に帰ってから録画をしようものなら、母親にガミガミ言われてしまう……。
うーん……、ここは……早足になって駅に向かった。
「お疲れー」
「お、お疲れ、様です……」
はあ、走ったような感じになってしまったし、寝不足が体をダルくさせている。
そんな中、余裕で駅のホームに居る富塚君に私は言う。
「あの! 今日、富塚君の家行って良い?」
「何、突然」
「いやぁ、あのね、今日見たいテレビがあるんだけど……家じゃ見れなくて……」
「録画は?」
「うん、忘れちゃって……、家に帰ってから見れるやつなんだけどね、親が見せてくれないと思うし、絶対、リアルタイムで見たいから!」
「俺の家のテレビね……」
「あ! 見たいのがあった? ゲームする? から、無理? 時間は夜の九時からなんだけど」
「え? そんな時間まで俺の家に居るの?」
「うん、だめ?」
「いや、良いけど……それって一時間番組?」
「うん、そう。もう知ってるんだぁ、富塚君の家のテレビでもそのチャンネル映ること! だから、邪魔にならないようにしてるから! 見させて!!」
かなり強引な事を言っているのは分かるし、別に誘ってもいない。そんな女の言うことなど富塚君は聞いてくれるだろうか。
緊張の一瞬、富塚君は口を開いた。
「良いよ、別に。こんなのそうそうないし、日下からってのが良い。で? 何見るの?」
「う……、あの……えっと……旅行番組と……あの……聖地巡礼が合体したようなやつ……」
目を見て言えなかった。
「ふーん……それって、アニメの?」
「イエッサー」
了解しました。富塚君はそんな私をそれ以上、突いて来なかった。
「コンビニ行って良い?」
「うん、どうぞ、どうぞ。私はあの、雑誌でも読んでますんで」
「そう……」
富塚君がちょっと冷めた気がする。でも、これは仕方ないんだ! 友達付き合いとはこういうものなんだ。ま、高校の友達ではないけど、同じ系統の女友達をその後も作ってしまった私は会った時の事を考えて行動しなくてはいけない。
それにしても無意識にこくん、こくん……と首が下を向いてしまう。電車に乗った時もそうだった。
いけないと思っても尚。
「眠いの?」
「うん……」
自然と言ってから気付く。
ハワワァ! 富塚君がもう買い物を終えられていた! あう! こんなアウトな女を連れ、帰ることになった今日の富塚君がかわいそうだ。
「あの、もう行きますよね? すみません! すぐに、雑誌片付けます!」
「良いよ……、二十一時にはまだならないし」
そう言って、富塚君が左腕にしている仕事用の腕時計を見る。
「いえ! ご飯を食べるのではありませんか?! 私は普通に空腹でも平気ですので! ササッ、帰りましょう!」
バタバタとコンビニを出て、富塚君が普通に出て来るのを待つ。
「ぷ……、日下、おもしろ過ぎ」
「何を笑われているのか、分かりませんが! 出て来てすぐに笑うの、止めてもらえません?」
「ぷ、ごめん……ちょっとツボった」
「何が原因なのか分かんない……」
むすっとしてしまう。また。
「ごめんごめん、行こう。富塚さんが美味しいもん作ってあげるから」
「え! 良いのぉ!?」
「うん、別にアニメ好きでも良いよ? 俺だって、ゲームやってるし、それがアニメ化したりするからね、昨今は」
「あ……、でも、嫌いでしょ? 富塚君は」
「でも、前、車の中で聞いたラジオの方で流れてた音楽だってアニメのやつだったし、日下は本当気にし過ぎで損してるよ? 日下の好きなもん、もっと知りたいから、良いんだよ」
そう言って、富塚君は普通に戻った。
いや、でも……と思ってしまう自分が居るのは確かで、富塚君がスーツのまま作ってくれたチャーハンがとっても美味しくて、番組がやるまでの時間、だらだらと他のテレビを見つつ、コンビニで買ったお菓子でも食べてな……と私にそのお菓子を分けてくれたけれど、そんなお菓子のせいで富塚君は私の隣にちゃっかり座って、スマホのゲームをしている。
まあ、良いか……とそんなまったりした時間のせいで、どんどん眠くなって来た。
これは寝てしまうコース……。ダメダメ! 見なければ! 時間は二十時半前。
こくん、こくんと首が下を向く回数が増えて来た。
隣に居る富塚君が気になってか、ゲームを中断して声を掛けて来た。
「一応、録画してあるし。眠いんだったら寝れば?」
「でも……」
「時間になったら起こしてあげるよ?」
「大丈夫だから続けてて、ゲーム……」
眠いの我慢しなきゃ……。目をこすっても眠いの変わらない。
「いや、でも、こんな調子じゃあれだし、少し寝な?」
「でも……」
「寝なさい」
こくん……と大きく下を向いてしまった所に大きな手が頭の横に来た。そのまま隣の富塚君に寄り掛かれるようにしてくれる。
何だろう、この温かさ、ぐっすり眠れそう。
そんな安心感があった。
「あの……、本当に起こしてね?」
「うん、大丈夫。ゲームそこそこにしとくから」
「そこまでだと、楽しめないよ?」
「それよりも日下の体調の方が大事だから」
「あと、着替えた方が良いよ。臭い」
「あ、それね。タバコ吸ったからなぁ……今日も」
「まあ、良いけどね……」
そう言って寝落ちしてしまいそうだったけど、ちゃんと始まる五分前に起こしてくれた。それも富塚君が寝ているであろうベッドの上で起きるなんて恥ずかしすぎる! スカートじゃなくて良かったぁ! とか、どうやってここに……とかいろんなことを考えてしまったけど、見たいものに集中したくて、トイレ行って準備万端待機した。その間に着替えたらしい富塚君の私服がこれまたいつもの感じではなくて、ゴールデンウィークに行ったお茶のイベントの時に着ていた服よりもラフで安心する。
「何?」
「いや……、ちょっと新鮮で。あ! 始まったから静かにしてね!」
「はいはい……」
何かひどいことを言ってしまった気がしたけど、彼はまたスマホゲームに夢中になり出したし、良いか……と学生時代に見ていたな……とか思いながら、それを見ていると、富塚君も一緒に見ているのに気付いた。
「あの……」
「ん? いや、参考になるなって。ほら、言ったでしょ? 社員旅行の」
「ああ! あれね……何か言ってた。ここ! 超感動する場面なんだよ! でも、実写では残念な結果になってた……」
そんなくだらない話も素直に聞いてくれて、番組が終わってしまった。
「はあ、ありがとう。じゃあ、帰るね!」
「うん、でもさ、日下、このまま泊まれば良いんじゃないの?」
「それはできない。明日着る服だってないし、お弁当箱と水筒洗わせていただき、ありがとうございました。じゃあ……」
何か急に腕、掴まれた。
「じゃあ、送ってく。夜、危ないし、車で。歩きたくないでしょ?」
「え、何故、それを」
「んー……、最近歩くの遅い気がしたから」
「え?」
「結構ギリギリにやって来るからね、会社にも帰りの駅にも。原因は眠気?」
「いやぁ……今日は早く寝るから」
「本当?」
「うん……、きっと寝れると思う……」
あんまり良い答えできなかった。
「何か悩んでんの? 派遣の更新?」
「違う」
言って良いのかな……と思う。
腕から富塚君の手、離れちゃったし……、何も言わないままにもいかないくらいじっと黙って富塚君に見られていると言わないといけない気がして来る。
「もやもやが……消えなくて」
「もやもや?」
「そう、富塚君、本当にしたかっただけかな……って」
「ふん……、まだ気にしてんの? キス」
「あ、ったり前じゃん! 富塚君は普通にしてるけど、私は……」
「成績表のこと? 別にあの頃って勉強より大切だと思ってたことがあったからだし」
「でも、私が見たのは見ちゃいけない過去だった。ごめんなさい。高校三年生の一学期の所、ちらっとしか見てないけど」
「まあ、良いよ。もう、俺もちょっとやり過ぎたかもって」
「思ったの?」
「いや、した時は思ってなかったけど」
「お仕置きだと思ってた、ずっと」
「え?」
「ああいう悪い事する子にはお仕置きだ! っていう、懲らしめ的な」
「その発想は今までなかったけど、そうだな。それも良い。富塚先生の授業受ける?」
「え?! 何の……」
「料理に決まってんじゃん。補習的なやつ」
「じゃあ、甘いので」
「は? デザート?」
「そうそう、触感はね柔らかくて、簡単に食べれるやつが良いなぁ……」
「じゃあ、ドルチェだね」
「ドルチェってパンナコッタとか? ティラミスとか?」
「そう! パンナコッタの方が作りやすいからパンナコッタにしようか」
「うん! する! ずっとおかずとかだったでしょ? ちょっとそういう系食べたいなって思ってたんだぁ」
「へー、あ、俺、来週の火曜日、会社休むから」
「何? いきなり!」
「いつ言おうか迷ってたんだけど」
「それ言う為に電車乗らなかったとか?」
「違うよ、日下が心配だったからだよ」
そんなこと言ってぇ! と言ってみたけど、来週の火曜日は相楽さん居るし、安心か……と思い直して、私は富塚君に車で自宅近くのコンビニまで送ってもらった。
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