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前の彼女
富塚君の報告に
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駅に着き、富塚君が言った。
「スーパー行くの付き合って」
「え?」
「買い物しないといけないんだけど、ここの所、ちょっとあって、行けなくて、そんな疲れのせいかフラフラしてて……」
「夏バテ? 九月も中旬だけど」
「そうだね、そうかも……」
そう言って富塚君は歩き出す。
いや、そこは秋バテだろ! とかっていつもなら返してくれそうなのに。
仕方ない、体調悪いってことで付き合ってあげよう。
富塚君との買い物は初めてではないけれど、こういう普段の生活の為の買い物は初めてだ。
何か新鮮。
駅から一番近い所のスーパーに行き、野菜コーナーを過ぎて、魚コーナー。
そこで富塚君の足が止まった。
眼を見れば、真剣に選んでる……。
何を選ぶのかな? と思ったら。
「ウナギ!?」
「だめ?」
「いやいや! それも! 国内産って!! 高いよー? 富塚君!!」
「うん、でも、何かこれ食べたい気分だし。最近、ゲームに課金してないから余裕あって……」
うわ……、嫌だ。これだから正社員の独身男は!!
「日下も食べる?」
「え! 良いよ、良いよ! 私は自分のお金で買えそうなの買うから……」
と言って、買えたのはお買い得商品のカツ丼だった。
何なんだ、この差。
「……うん、分かった。半分あげるね?」
「え、良いよ……。私は……このカツ丼食べて、己に勝つから!!」
「何か勝負事でもあるの?」
「いや、ないけど……」
あるとしたら、富塚君の事だった。
だけど、さっきの駅のホームでの話から察するに……候補がいなくなった。私の思い描く未来の。
「負けたから……、ちょっとまた運気上げる為にもカツ丼をね……食べようって」
「そうだね……ウナギは好きじゃない?」
「何でそこまでウナギ推し? 富塚君って肉より魚派でしょう?」
前にも聞いたことをまた訊いてみる。
「違うって、でも、最近はさっぱりした物が食べたくてさ……それで魚系になってるだけ。刺身とか、食べちゃうんだよね……」
「料理する気ないね?」
「日下に言われたくない。最近は料理教室とか言わなくなったでしょ?」
「だって、富塚君、最近本当に忙しそうなんだもん。悪いと思って」
「だったら、作ってみ? 俺の為に」
「うーん……そこまでじゃないんだよな、まだ」
「そう言っちゃうって、日下、もう終わってるね」
「そうなんだよね、だから、富塚君が変だと思ってるんだよー」
私はスーパーを出て、富塚君の家に向かいながら話す。
「どこが変?」
「こんな私を何で選んだんだ? ってこと」
「それは……」
何かこれも前に聞いたなぁ……って思って、通り過ぎようとした肉屋のメンチカツに目を奪われた。
「日下さん、カツ丼あるんだからね?」
「分かってるよ」
「本当、日下は肉が好きな?」
「これでも食べなくなって来たんだけど……」
「へえ……、まあ、日下はお化粧とかオシャレとかしないだけで、ムダ毛の処理とかおろそかにしてないし」
「ば! バカ!! 何で? こんな所でそんなことを!!」
「お腹だって胸より出てないし、ギリギリの所でくびれ残ってるから大丈夫だよ」
「そういうのって!」
外で言うことじゃない!!!
「何それ……、私の体の感想?!」
「そうそう」
焦りよりも怒りの方が上回る。
「じゃあ、言うけど! 富塚君って、やっぱり、年下より年上の方が好きでしょ!?」
「な!」
核心、突きました。
だって……。
「してて分かるんだから! 先輩とか先生とかって言われるより、先生……って、自分で言う方が好きでしょ? 甘えられるから!」
「何を言って……!」
どうだ? と彼の顔を盗み見る。
やっぱり、恥らちゃって……。
「正解でしょう?」
「そうですね……って言ったら、日下は何してくれんの? え? 演劇部の裏方さん!」
「何でそれを!」
「卒業アルバム、見たから」
「じゃあ、富塚君はあんまりやる気ないサッカー部員で、そのうち部活行かなくなって辞めちゃった帰宅部さん?」
「違うよ、ちゃんとやったよ、最後まで。でも、活躍はできなかった。部活では」
「じゃあ、どこで活躍したの?」
「求めて来る女、全員に? かな?」
「それは……作り話? それとも当時の彼女全員にってこと?!」
もう、そう……とも言わない。
自分の家が近くなったからって!!
つまらない。
こんなのやったって、彼の冷静さは変わらない、はずだった。
始まる前からそうだった……はずだった。
なのに。
富塚君の家に上がるとまずは富塚君にこれら全部冷蔵庫入れてー! と買って来た物を渡された。
ちょっと待てよ……。
「本当に体調悪いの?」
「あ、うん……」
何か違うな……とすぐに感じた。
それは言い方がちょっとぎこちなかったから。
それでも私はせっせと冷蔵庫に適当に買った物を入れた。
終わった所で富塚君が自分のスマホの画面を見せて来た。
「何?」
「これ、見てよ……」
一組の同世代くらいのカップルの結婚式の写真。
「これが何?」
白いウェディングドレス着てる華奢な、ちょっときつそうな端正な顔立ちの三十代くらいの女性と富塚君より良い人そうな中年男性。
お似合いとは言い難いけれど。
「前の彼女の結婚式」
「ふん?」
つまり?
「え! 富塚君の?!」
「そう……。前の彼女に結婚、先、越された……」
そう。と言う前に。
「うわっ……」
と、言ってしまっていた。
でも、うん? と思う。
どうしてそんな写真を私に見せようと思ったんだ? それこそ、あの駅のホームで見せれば良かったのに。
腑に落ちない。
「日下、結婚のご予定は?」
「ないよ」
「そうだね、ないよね……。はっきり言うほどないよね……」
それがいけなかったのだろうか、その後、富塚君はしばらく元気がなかった。
だから……じゃないんだけども、私にできることってこれくらいしかないから、今夜くらいは尽くしてあげよう。
「スーパー行くの付き合って」
「え?」
「買い物しないといけないんだけど、ここの所、ちょっとあって、行けなくて、そんな疲れのせいかフラフラしてて……」
「夏バテ? 九月も中旬だけど」
「そうだね、そうかも……」
そう言って富塚君は歩き出す。
いや、そこは秋バテだろ! とかっていつもなら返してくれそうなのに。
仕方ない、体調悪いってことで付き合ってあげよう。
富塚君との買い物は初めてではないけれど、こういう普段の生活の為の買い物は初めてだ。
何か新鮮。
駅から一番近い所のスーパーに行き、野菜コーナーを過ぎて、魚コーナー。
そこで富塚君の足が止まった。
眼を見れば、真剣に選んでる……。
何を選ぶのかな? と思ったら。
「ウナギ!?」
「だめ?」
「いやいや! それも! 国内産って!! 高いよー? 富塚君!!」
「うん、でも、何かこれ食べたい気分だし。最近、ゲームに課金してないから余裕あって……」
うわ……、嫌だ。これだから正社員の独身男は!!
「日下も食べる?」
「え! 良いよ、良いよ! 私は自分のお金で買えそうなの買うから……」
と言って、買えたのはお買い得商品のカツ丼だった。
何なんだ、この差。
「……うん、分かった。半分あげるね?」
「え、良いよ……。私は……このカツ丼食べて、己に勝つから!!」
「何か勝負事でもあるの?」
「いや、ないけど……」
あるとしたら、富塚君の事だった。
だけど、さっきの駅のホームでの話から察するに……候補がいなくなった。私の思い描く未来の。
「負けたから……、ちょっとまた運気上げる為にもカツ丼をね……食べようって」
「そうだね……ウナギは好きじゃない?」
「何でそこまでウナギ推し? 富塚君って肉より魚派でしょう?」
前にも聞いたことをまた訊いてみる。
「違うって、でも、最近はさっぱりした物が食べたくてさ……それで魚系になってるだけ。刺身とか、食べちゃうんだよね……」
「料理する気ないね?」
「日下に言われたくない。最近は料理教室とか言わなくなったでしょ?」
「だって、富塚君、最近本当に忙しそうなんだもん。悪いと思って」
「だったら、作ってみ? 俺の為に」
「うーん……そこまでじゃないんだよな、まだ」
「そう言っちゃうって、日下、もう終わってるね」
「そうなんだよね、だから、富塚君が変だと思ってるんだよー」
私はスーパーを出て、富塚君の家に向かいながら話す。
「どこが変?」
「こんな私を何で選んだんだ? ってこと」
「それは……」
何かこれも前に聞いたなぁ……って思って、通り過ぎようとした肉屋のメンチカツに目を奪われた。
「日下さん、カツ丼あるんだからね?」
「分かってるよ」
「本当、日下は肉が好きな?」
「これでも食べなくなって来たんだけど……」
「へえ……、まあ、日下はお化粧とかオシャレとかしないだけで、ムダ毛の処理とかおろそかにしてないし」
「ば! バカ!! 何で? こんな所でそんなことを!!」
「お腹だって胸より出てないし、ギリギリの所でくびれ残ってるから大丈夫だよ」
「そういうのって!」
外で言うことじゃない!!!
「何それ……、私の体の感想?!」
「そうそう」
焦りよりも怒りの方が上回る。
「じゃあ、言うけど! 富塚君って、やっぱり、年下より年上の方が好きでしょ!?」
「な!」
核心、突きました。
だって……。
「してて分かるんだから! 先輩とか先生とかって言われるより、先生……って、自分で言う方が好きでしょ? 甘えられるから!」
「何を言って……!」
どうだ? と彼の顔を盗み見る。
やっぱり、恥らちゃって……。
「正解でしょう?」
「そうですね……って言ったら、日下は何してくれんの? え? 演劇部の裏方さん!」
「何でそれを!」
「卒業アルバム、見たから」
「じゃあ、富塚君はあんまりやる気ないサッカー部員で、そのうち部活行かなくなって辞めちゃった帰宅部さん?」
「違うよ、ちゃんとやったよ、最後まで。でも、活躍はできなかった。部活では」
「じゃあ、どこで活躍したの?」
「求めて来る女、全員に? かな?」
「それは……作り話? それとも当時の彼女全員にってこと?!」
もう、そう……とも言わない。
自分の家が近くなったからって!!
つまらない。
こんなのやったって、彼の冷静さは変わらない、はずだった。
始まる前からそうだった……はずだった。
なのに。
富塚君の家に上がるとまずは富塚君にこれら全部冷蔵庫入れてー! と買って来た物を渡された。
ちょっと待てよ……。
「本当に体調悪いの?」
「あ、うん……」
何か違うな……とすぐに感じた。
それは言い方がちょっとぎこちなかったから。
それでも私はせっせと冷蔵庫に適当に買った物を入れた。
終わった所で富塚君が自分のスマホの画面を見せて来た。
「何?」
「これ、見てよ……」
一組の同世代くらいのカップルの結婚式の写真。
「これが何?」
白いウェディングドレス着てる華奢な、ちょっときつそうな端正な顔立ちの三十代くらいの女性と富塚君より良い人そうな中年男性。
お似合いとは言い難いけれど。
「前の彼女の結婚式」
「ふん?」
つまり?
「え! 富塚君の?!」
「そう……。前の彼女に結婚、先、越された……」
そう。と言う前に。
「うわっ……」
と、言ってしまっていた。
でも、うん? と思う。
どうしてそんな写真を私に見せようと思ったんだ? それこそ、あの駅のホームで見せれば良かったのに。
腑に落ちない。
「日下、結婚のご予定は?」
「ないよ」
「そうだね、ないよね……。はっきり言うほどないよね……」
それがいけなかったのだろうか、その後、富塚君はしばらく元気がなかった。
だから……じゃないんだけども、私にできることってこれくらいしかないから、今夜くらいは尽くしてあげよう。
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