仕事帰り休みの日=もっと仲良くなる時間

泡田日

文字の大きさ
41 / 65
前の彼女

富塚君の報告に

しおりを挟む
 駅に着き、富塚君が言った。
「スーパー行くの付き合って」
「え?」
「買い物しないといけないんだけど、ここの所、ちょっとあって、行けなくて、そんな疲れのせいかフラフラしてて……」
「夏バテ? 九月も中旬だけど」
「そうだね、そうかも……」
 そう言って富塚君は歩き出す。
 いや、そこは秋バテだろ! とかっていつもなら返してくれそうなのに。
 仕方ない、体調悪いってことで付き合ってあげよう。
 富塚君との買い物は初めてではないけれど、こういう普段の生活の為の買い物は初めてだ。
 何か新鮮。
 駅から一番近い所のスーパーに行き、野菜コーナーを過ぎて、魚コーナー。
 そこで富塚君の足が止まった。
 眼を見れば、真剣に選んでる……。
 何を選ぶのかな? と思ったら。
「ウナギ!?」
「だめ?」
「いやいや! それも! 国内産って!! 高いよー? 富塚君!!」
「うん、でも、何かこれ食べたい気分だし。最近、ゲームに課金してないから余裕あって……」
 うわ……、嫌だ。これだから正社員の独身男は!!
「日下も食べる?」
「え! 良いよ、良いよ! 私は自分のお金で買えそうなの買うから……」
 と言って、買えたのはお買い得商品のカツ丼だった。
 何なんだ、この差。
「……うん、分かった。半分あげるね?」
「え、良いよ……。私は……このカツ丼食べて、己に勝つから!!」
「何か勝負事でもあるの?」
「いや、ないけど……」
 あるとしたら、富塚君の事だった。
 だけど、さっきの駅のホームでの話から察するに……候補がいなくなった。私の思い描く未来の。
「負けたから……、ちょっとまた運気上げる為にもカツ丼をね……食べようって」
「そうだね……ウナギは好きじゃない?」
「何でそこまでウナギ推し? 富塚君って肉より魚派でしょう?」
 前にも聞いたことをまた訊いてみる。
「違うって、でも、最近はさっぱりした物が食べたくてさ……それで魚系になってるだけ。刺身とか、食べちゃうんだよね……」
「料理する気ないね?」
「日下に言われたくない。最近は料理教室とか言わなくなったでしょ?」
「だって、富塚君、最近本当に忙しそうなんだもん。悪いと思って」
「だったら、作ってみ? 俺の為に」
「うーん……そこまでじゃないんだよな、まだ」
「そう言っちゃうって、日下、もう終わってるね」
「そうなんだよね、だから、富塚君が変だと思ってるんだよー」
 私はスーパーを出て、富塚君の家に向かいながら話す。
「どこが変?」
「こんな私を何で選んだんだ? ってこと」
「それは……」
 何かこれも前に聞いたなぁ……って思って、通り過ぎようとした肉屋のメンチカツに目を奪われた。
「日下さん、カツ丼あるんだからね?」
「分かってるよ」
「本当、日下は肉が好きな?」
「これでも食べなくなって来たんだけど……」
「へえ……、まあ、日下はお化粧とかオシャレとかしないだけで、ムダ毛の処理とかおろそかにしてないし」
「ば! バカ!! 何で? こんな所でそんなことを!!」
「お腹だって胸より出てないし、ギリギリの所でくびれ残ってるから大丈夫だよ」
「そういうのって!」
 外で言うことじゃない!!!
「何それ……、私の体の感想?!」
「そうそう」
 焦りよりも怒りの方が上回る。
「じゃあ、言うけど! 富塚君って、やっぱり、年下より年上の方が好きでしょ!?」
「な!」
 核心、突きました。
 だって……。
「してて分かるんだから! 先輩とか先生とかって言われるより、先生……って、自分で言う方が好きでしょ? 甘えられるから!」
「何を言って……!」
 どうだ? と彼の顔を盗み見る。
 やっぱり、恥らちゃって……。
「正解でしょう?」
「そうですね……って言ったら、日下は何してくれんの? え? 演劇部の裏方さん!」
「何でそれを!」
「卒業アルバム、見たから」
「じゃあ、富塚君はあんまりやる気ないサッカー部員で、そのうち部活行かなくなって辞めちゃった帰宅部さん?」
「違うよ、ちゃんとやったよ、最後まで。でも、活躍はできなかった。部活では」
「じゃあ、どこで活躍したの?」
「求めて来る女、全員に? かな?」
「それは……作り話? それとも当時の彼女全員にってこと?!」
 もう、そう……とも言わない。
 自分の家が近くなったからって!!
 つまらない。
 こんなのやったって、彼の冷静さは変わらない、はずだった。
 始まる前からそうだった……はずだった。
 なのに。
 富塚君の家に上がるとまずは富塚君にこれら全部冷蔵庫入れてー! と買って来た物を渡された。
 ちょっと待てよ……。
「本当に体調悪いの?」
「あ、うん……」
 何か違うな……とすぐに感じた。
 それは言い方がちょっとぎこちなかったから。
 それでも私はせっせと冷蔵庫に適当に買った物を入れた。
 終わった所で富塚君が自分のスマホの画面を見せて来た。
「何?」
「これ、見てよ……」
 一組の同世代くらいのカップルの結婚式の写真。
「これが何?」
 白いウェディングドレス着てる華奢な、ちょっときつそうな端正な顔立ちの三十代くらいの女性と富塚君より良い人そうな中年男性。
 お似合いとは言い難いけれど。
「前の彼女の結婚式」
「ふん?」
 つまり?
「え! 富塚君の?!」
「そう……。前の彼女に結婚、先、越された……」
 そう。と言う前に。
「うわっ……」
 と、言ってしまっていた。
 でも、うん? と思う。
 どうしてそんな写真を私に見せようと思ったんだ? それこそ、あの駅のホームで見せれば良かったのに。
 腑に落ちない。
「日下、結婚のご予定は?」
「ないよ」
「そうだね、ないよね……。はっきり言うほどないよね……」
 それがいけなかったのだろうか、その後、富塚君はしばらく元気がなかった。
 だから……じゃないんだけども、私にできることってこれくらいしかないから、今夜くらいは尽くしてあげよう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...