仕事帰り休みの日=もっと仲良くなる時間

泡田日

文字の大きさ
42 / 65
前の彼女

富塚君の話を聞いて

しおりを挟む
 ご飯炊けた! 
 富塚君の家の渋めな丼にそのホカホカご飯をやり、富塚君の買って来たウナギを二つ乗せ、完成。
 出来たよ! と言う前に富塚君が心配して見て来た。
「大丈夫だった?」
「大丈夫です! 私、ご飯くらいは炊けるよ」
「そう、良かった……」
 そう言って何か後ろから私の体に富塚君の手が回って来た。
「何?」
「いやぁ、大した事してないんだけど、何でだろ? いつも俺の方がそういうのやってるから、何か良いなっていうか、嬉しくて」
「ほら、やっぱり甘えたさんじゃん!」
「違うって、これは触れ合い」
「触れ合って、富塚君の心が晴れるなら良いけど……」
「今日は優しいね、仁葵ちゃんって言いたくなっちゃうよ」
「いや、あんなの見せられたら、人として優しくしてあげないとな……って思うよ? 誰でも。それで苦労してるんだから」
「分かってくれる? やっぱり、仁葵ちゃんだな……。俺の目に狂いナシ!」
「は?」
 何か突き放したくなる。
「だって、思ったんだもん……素で共感してくれてるなって」
「いつ?」
 この人、お酒飲んだっけ?
「駅のホームで」
 それ、答えになってない! いつの駅のホーム? って聞きたいのに、本格的にゴロゴロと猫が甘えるようになって来て、ちょっと待ってください! と思ってしまう。
「あの、富塚君、ウナギ食べないの?」
「食べるよ? でも、その前にもうちょっとだけ。日下、エプロンしてないのが残念だな……」
「え? エプロン……うん、ごめんね。何か、忘れちゃう……ステテコも一緒に持って行こうって、部屋の目立つ所に置いてるのに」
「まあ、良いよ。ギリギリでいつも家に帰ってるしね」
 それは……言わないでほしい。帰って来る時間が本当に遅いから、親に何してたの! って三十歳になっても聞かれる朝……を乗り越えての出社。
 家を出れば良いのだろうけど、派遣のままでは無理な所が多く、出られない。
「何? ちらっと俺の顔なんて見て」
「分かるの?」
「分かったよ、日下の視線は分かりやすいからね」
 そう言って、離れた。
 もうおしまい? って、私の方が言いそうになる。
「ウナギ食べようかな~、日下はカツ丼でしょ?」
「そうです」
 ふう……と大した事してないのに、疲れてしまって、机までウナギ丼を運び、富塚君が座る方に置き、自分は電子レンジで買って来たカツ丼をそのまま温め、富塚君の向かいの所にそれを置き、食べようとした。
「待って!」
「何? いただきますって忘れたから?」
「いや、違う。半分こにしよう?」
「え? 良いの?」
「うん」
「でも、今日はやらないよ? 富塚君の体調悪いから」
「そんなには悪くない。俺はね、日下に知ってほしかっただけなの。前の彼女が結婚したって。きっとあの男性も俺と同じように尽くされてる~! と思ったら、いつの間にかゴミ出しから始まって、一日交替でご飯作って、洗濯物をやるようになって……どんどん家事に強くなったと思ったら、あの……悩んでしまう出来事に出くわしたんだと思う」
「けれど、それを乗り越えたってことだよね? あの男の人は」
「俺より大人っぽいもんね。そりゃ、そうだ」
「今でもあの彼女さんの事、思い出す?」
「そりゃあね……、かなり本気でかなりショックな事だったから。わざわざ連絡先変えた相手に送って来る? あの写真」
「どうやって送って来たの?」
「ほら、アイツに出会わせてくれた人。その人に頼んだらしい。わざわざね……」
「へえ、それはとても面倒だけど、そこまでするのは何でだろうね?」
「さあね……考えたくもないよ、もう」
 そこで富塚君は諦めてしまったけれど、私は思う。
 きっと前の彼女が、ここまでの彼を作り出したんだと思う。
 女性に尽くすというか、使える彼氏として、女が喜ぶ夫にさせるべく、育てあげたのだろう。
 だから、前の彼女はやっと出来た夫候補だった人に知らせたかったのだ。あなた、こんなにも幸せな家庭が出来たのよ……と。
 そこには私と結婚したら……があったのかもしれないけれど。
 もし、富塚君にこの男性のようなそこまでの覚悟があったら、完全に彼女は顔がほころぶ花嫁になってたかもしれない。
 だけど、富塚君には伝わってないようだ。
 残念で私はちょっとその前の彼女さんに感謝した。
 だって、あなたの意図は伝わってないもの、この人には。
 彼の『わざわざ』を『わざわざ』で返しても、何にもならなかったわけだ。
 私は言う。
「いつ来たの? この写真」
「数日前に突然。頼まれてたの忘れてたって、こっちはその式に呼ばれてないのにね」
「招待状も来なかったの?」
「そう、確か……八月が結婚式だったみたい」
 八月……。
「知ってたの? こうなってるって」
「知ってたら、良かったのか……。今となっては分からないよ。本当、そういう話聞いてなかったから、それでかな……こんな風になってるの」
「そうかもね」
 私は絶対に良い人になれないと思った。
 いつでも人を気にして、気にし過ぎて、全然楽しめてない。
「ねえ、やっぱり」
「したい?」
 それはもう……聞きたいことではなかったけど、富塚君がそう思うならそうかもしれない。
 けれど。
「しない。元気になってよ、その前に。あと、私が言いたかったのはカツ丼とウナギは違い過ぎるからダメ! ってこと」
「えー! 別に気にしないのに……肉が食べたくなったんだよ!」
 何か、いつの間にかこんなにも富塚君が近くに居過ぎて、仲良くなってるとかもう考えないようになってたけど、それじゃあ、ダメだから、また私は富塚君には内緒でやり直すことにした。
 でも、その前に……と。
 私はカツ丼を早食いした。
 だって、ウナギのようにはなれてないから。
「あ!」
 食いやがったな! という声、良いのさ、食べたかったら、どんどん食べて自分の物にしてしまえば良いんだから。
 全てはそう思ってる人の勝ち。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

身体の繋がりしかない関係

詩織
恋愛
会社の飲み会の帰り、たまたま同じ帰りが方向だった3つ年下の後輩。 その後勢いで身体の関係になった。

乳首当てゲーム

はこスミレ
恋愛
会社の同僚に、思わず口に出た「乳首当てゲームしたい」という独り言を聞かれた話。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

処理中です...