仕事帰り休みの日=もっと仲良くなる時間

泡田日

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秋の温泉

映画終わりに

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 やっと電車を降りて、少し歩き、映画館に着いた。
 そして、お目当ての映画のチケットをタッチパネルで買い、映画のパンフレットも買わずに私はマスクをする。
 何でしてんの? と言われたけれど、良いから、良いから、気にしないで……とだけ富塚君に言い、トイレに行き、少し富塚君と話して時間となり、早くチケットを……と思いながら、女性の店員さんにチケットを切ってもらい、言われた所に行く。
 そこに入ってみれば、広くないこじんまりとした所だった。
 やっぱり……という少しの落胆。そして、指定した席に座る。
 真ん中ら辺の通路側。ここなら、トイレ行きたくなった時に行きやすい。けれど、富塚君の方が通路側になってるから、行きにくいんだけど。
 ああ……、何だかとっても緊張する。
 富塚君と一緒に見る……ということにじゃなくて、あの漫画、どこまで再現してあるか? が問題で、気付かれてしまう。
 気付かれたくない。私の隠した思い……。
 暗くなった。始まっちゃう……。
 でも、きっと大丈夫。昨日、帰ってすぐに映画の感想見たら、やっぱり原作通りではないようだし、年齢制限もなかった。
 けれど……、私はマスクを外した。いや、またこれは出る時にする。
 だって、顔、見られたくないもの。滅多に来ない映画館だけども! 知られたくない。女性が見るのかよ?! とか、思われたくない。
 だって、これは……いつかの為のやつだから!!
 あ、始まった……検定シーン。
 重要な所。
 スーツなんだよね……、検定受ける人って何故か。
 面接みたいな感じがずっと続いて、そこでやっと主人公の高卒の役所勤めの公務員の男の人が出て来て言うの。
『あなた、お母さんにならなかった方が良かったですね。ずっと子供のままで、子供に気を遣わせているのにも気付かずに、お母さん! と励ましてくれて嬉しいって、勘違いしてませんか?』
 ――って、鮮烈に言い放つ! はずなんだけど……、演技力がない俳優さんでガッカリだ。
 人気だか知らないけど、ちゃんとした人選んでよ……。
 大事な所でしょ? そこ……。
 女優さんの方は良い感じの人、揃えてるのに。
 もったいないし、つまらない……。
 それとも私の読み方が間違っていたのか……。
 これを見て、富塚君はおもしろいのかな? なんて思って、ちらっと右横に座る富塚君の顔を見たら、寝てなかった。ばっちり目開けて見てた。
 何だ……、起きてる。
 少しガッカリ気味にまた映画を見出す。
 そういえば、これ、今度はアニメ化にしようとかって話もあるんだっけ? あれ? あれは『イタコで小説書けば良いと思って……、それだけはヤメてくださいぃー!』の方? と関係ないライトノベルの話を思い出す。それだけこれは原作通りではなく、オリジナリティーが強い、私が見たい! と思ったものじゃなかった。でも、これは一般の人が見るにはちょうど良い感じになっていて、アニメ化する時は絶対! 原作通りにしてください! とエンドロールを見ながら思った。
 また明るくなった時、私は富塚君に何か言われる前に……! と、お腹空いちゃった! と言い出し、どこ行く? という流れに持って行った。
 良し! じゃあ、あそこ行きたいと、気になってた中華料理のお店に行くことにした。
 一人でも行こうと思ってたけど、これはこれで良いかもしれないと私はそこで出される小籠包についての話をかなりした。
 そしたら、富塚君は。
「よっぽど好きなんだね、小籠包。俺は中華ちまきとか、チャーハンの方が気になるけど」
 と言って来て、映画には触れないようにしてくれた。
 ありがたい。
 そして、小洒落た店に入って、一番奥の隅の席に座り、注文し、少し話した所で小籠包がやって来た。
 普通の小籠包と味が違うの二つ。
 三つの味が楽しめて良い。
 まずはレンゲに普通の小籠包を乗せ、少し皮を箸で破って汁を出して、ジュワーっと出て来た熱々の汁をふーふーしてからゴクッと味わい。それからお好みでショウガなどと一緒にぱくっと食べて。
「美味しいーっ!」
 と思わず言ってしまっていた。
 この汁が良いんだ。
 他に数人、お客さんがいるけれど、気にしてられない美味しさ。
 休日ランチできちゃうのも良いね! と富塚君が食べるのを見る。
 中華ちまき……。
「食べる?」
「ううん、美味しい?」
「美味しいよ」
 良かった……。
 私が作った物ではないけれど、富塚君を連れて来たのだから、私も美味しいお店を紹介したい。
 それがいつの日だったか、彼に言った『喜ばせてあげたい』に繋がるから。
 そして、全てを食べ終わり、店を出て、あんまり来ない所だからと周辺をぶらぶらする。
 特に買う物はなかったけれど、本屋に入った。
 あ! あれ? 何かある……。家にあるのよりも綺麗な『お母さん検定』の漫画。
 映画やってるから? 大きな本屋だから? そう思っていると、富塚君の手がそれに伸びた。
「え?! 買うの?」
「いや、気になったから……。俺だって、調べたんだよ? どんな映画見るのかなって。そしたらさ……」
 何かその言い方だと、原作の方の内容知ってるのかと思ってしまう。
「まあ、一から読むのも良いかなって思って」
 え、読むの? 読んじゃうの。これを?
 マジかよ……と富塚君を見れば、少々本気……。
「へえ……」
「何?」
「前、言ったよね。ずっと前、一から覚えるのは嫌だって」
「ああ、あれ……。あれは仕事の事でしょ? これは日下の事だから」
「はっ!」
 半端ない!! 富塚君の手が大人買いをしようとしている!!
「全巻買うの?! 今、出てるのっ、全部!!」
「ああ、うん……まあ、日下が貸してくれれば良いけど、お兄さんのなんでしょ? それ」
「あ、うん……。でも、お兄ちゃん、もう家に居ないし、続き、買ってるの私だし……。私しか読んでないし……」
「じゃあ、貸して?」
「いや、無理っ!! お断りします!」
「だから、買うんでしょ……」
 こうなることは想定内だと、富塚君は大人買いする。
 さっきの中華料理のお店では割り勘だったけど、お金持ってんな……。
「他には?」
「へ?」
「他に、日下読んでんのないの?」
 そう言われると困ってしまう……。何をオススメすれば良いのか……。でも、彼は友達とも違うし、家族とも違う。彼は私の、何なんだ?
 悩める私は富塚君に言う。
 これは映画見てる時に思い出したやつ。でも、ライトノベルだ。
「えっと……『イタコで小説書けば良いと思って……、それだけはヤメてくださいぃー!』ってやつ」
 ん? という顔をされた。
 そうですよね、そうです!
「これもお兄ちゃんの部屋で見つけて読み始めて……」
「いつ?」
「高校ぐらいの時」
「ふーん……。で、どんな話?」
「高校生の男女が頑張る話」
 は? という顔をされた。
 そうですよ、そうですね……。
「主人公は男の子の高校生なんだけど、そのヒロインの子が女子高生で……」
 説明するの下手なのに……富塚君は耳を傾けてくれている。ならば、大筋言うしかない。自分の言葉で!
「自称、イタコの小説家志望の女子高生が、何か霊を自分の方に招いて、それで口から出た言葉を最近じゃ録音しといて、それを書き取って小説にしちゃうんだけど。それはダメだ! って妨害する霊感のある男子高校生がわちゃわちゃ楽しく日々を過ごすっていう学園日常話。ちょっともう、私の年齢ではあれなんだけど、ちょいちょいおもしろい所もあるし、良いかなって思うライトノベル」
「ふーん、そうなんだ。それ、この本屋にあるかな……」
 そう言って、探し始める富塚君。
「え! 買うの?」
「うん。だって、日下読んだんでしょ。そういうのも日下の一部になってると思うし。別に俺、気にしないよ。おねえがBL好きの腐女子だって、最近知ったし。兄貴の友達はオタクだったし。だから、嫌だったんだって思うけど」
 そこで彼は口を閉ざした。
「それでは、富塚さんは『普通』を選ばれたということですか?」
「そうですね……」
 何か、お母さん検定の一部分を再現している気持ちになった。でも、これはごっこ遊びじゃない。事実。
「あの、お姉さんはどのくらいの?」
「相当じゃない? だって、俺ら兄弟をも、自分のモノにしてたし……」
「それって、お描きになるということ……ですか?」
「そうだね……。まあ、ぱさっと出て来ちゃったからしょうがないんだけど」
「パサッとって!! どっから!!?」
「旅行の雑誌から。お姉、最近、旅行行ってさ、それで俺もその旅行した所に興味あったから、その本貸して……って、実家帰った時に言って借りて来たんだけど、本の間に一緒に旅行した人達と描いたらしいメモ用紙が出て来てさ……。それが職場の男同士ので……良いのかよ……って思いつつ、静かに元に戻したよ」
「あの、富塚君のお兄さんとのやつはどこで?」
「気になる?」
 うんうんと頷くことしかできない。
「その雑誌返した時、ごめんね……って。私、高校の時からあんたらを使って描いてたの! でも、大丈夫! 実際のとは全然違うから! ただ、近場に良いのがなかっただけだから! 今はもう描いてないし、見せてないから、それは!! って、かなりの告白だった」
 それで富塚君はどう思ったのだろう。
「女って怖いな……って思った。それよりかは良いんじゃない? 日下は。こっち向きで」
 その『こっち』がどっちなのか分からないけれど、富塚君がもしかして……何となく、オタクを嫌ってたのって、私がテレビ見たいと言って、富塚君の家に行く前のコンビニで何となく冷たかったのって……そういう理由……? 富塚君のお姉さんが『貴腐人きふじん』と言わないのは心がまだ若いから? なのか……とにかく、私は富塚君に何か言わなければならない。
「あ、あの……ごめんね。何か、オタクが……」
「いや、日下に謝られてもね……。別に平気だよ。もう終わったことだし、ああ、姉貴ってこういう人なんだ……って思っただけだから」
 それはそれで何か寂しいけれど。じゃあ、富塚君は私のこと、どう思ってんの?
「あの、富塚君? 私」
「ああ、あった! あるじゃん、旅行の本」
「あえ?」
 意表を突かれ、出た言葉は変だった。
「ここ、行きたいんだよねぇ……」
 え? 今までの話、どこ行った?
「と、富塚君?」
「ねえ、行かない? 温泉。秘境の」
 どういう誘い方ー!!? それぇ!!
「わ、分かった。今回は……行く」
 何か、申し訳なく思えて来て、行くことにした。
 それが秋の温泉の始まりだった。
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