仕事帰り休みの日=もっと仲良くなる時間

泡田日

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秋の温泉

本を読む時間

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 十月初旬終わりになってようやく、行く日にちが決まった。
 十一月下旬の三連休。
 私は富塚君とまた旅行に行く。
 今度は県外。
 遠い所だぁ……。と私はその日までにやる事を整理する。
 何もないと気付いた。
 だって、富塚君はずっと何も言ってくれないし、別に期待はしてないだろう。
 それでも……と思うのは、自分が嫌になるのが嫌だからか。
「図書館行こうかな……。行く所のこと、少し知っておこう……」
 新しい下着を買うとか、新しい女らしい服を買うとか……私にはできない。
 したい気持ちはあっても実行には移せなかった。
 ある物で、何とか済ませたい気持ちの方が強かった。
 お金がないというのも一因だった。
 季節が巡るのは早く、秋なんてすぐに過ぎてしまう。
 一生懸命、仕事を頑張っても褒められることはなく、日々ただ過ごすだけ。
 同じでない時なんて、パソコンがちゃんと動かなくなったとか、そういうトラブルの時だけ。
 だから、人はいつも退屈でおもしろい事を求めて自由にやってしまうのだ。周りなんて気にしてられないと、手を出す。
「日下、何で居んの?」
 そう言われて、ビクッとなる。
 知った声、知ってる人。
 でも、何か私の知らない人に聞こえた。
 富塚君なのに……。
「えっと……」
 そう言いながら、富塚君の方を見る為に頑張って振り向く。
「何してんの?」
 普通の人がいた。私と同い年のはずなのに、普段着姿の富塚君はやっぱり、私には辛い存在だ。
「えっと……本、探そうと思って……」
 そりゃあ、そうだ……と、図書館の中をぐるっと見渡して。
「ライトノベル、あんまりなさそうだけど?」
 って、違うの! 富塚君! 私は!
「本は、本でも、そっちのじゃなくて……旅行の……」
「ん? 何で? 何か問題あった? 俺が行きたい所だから怪しいって思った?」
「ううん、違う。そうじゃなくて、ちょっと知っときたかったの。どんな所か。ほら、また外とか出歩かなくて、つまらない思いさせたくないなって……」
 富塚君はもう忘れてしまったかもしれないけれど、富塚君にあの夜、言ったことは本当。『富塚君をもっと喜ばせてあげたい』って、覚えてるわけないか……。
「それってさ……」
 富塚君は少し声を落とした。図書館の人が近くを通ったから。
「あの夜の事? 日下と初めて一緒になれた夜」
「なっっ!!!」
 大声、出ちゃったじゃん!!! と怒ったら、富塚君はごめん!! と言って笑った。
「ちゃんと覚えてるよ。とっても嬉しかったし、俺。だから、頑張ってんでしょ? 今も」
「うん……」
 どっちが? なんて、そんな野暮なことは言わない方が良い。この際。
「富塚君……、私のこと、どう思う?」
「ん? 何?」
 彼の戸惑いが感じられた。
「私、富塚君の嫌いなオタクだよ? なりかけでもない、きっと他人から見たら、絶対残念なオタクだよ?」
 それでも良いのって、それ以上の事も聞きたかったけど、今日はそこまでの勇気がなかった。
「そうだね……。でも、俺的に日下だから良いと思ってる。他でもない、日下だから」
「とっても言葉を選んだ言葉」
「何? 嫌だった? ちゃんと言わないから」
「……分かっててやってるんだ……。いじわる」
 そう言う私の、その時の表情を彼が見ようとしてるのが分かった。
 けど、見せてあげない。絶対に顔、背けたままにしとこう。
「……しょうがないじゃん。俺、まだ癒えてないんで」
「じゃあ、癒えたら言ってくれるの?!」
 そう言って、彼の顔を見てしまった。それが大きな間違い。
 キスしたくなった。
 その普通そうな顔をどうにかして違う顔にさせたくなった。でも、できない。だって、ここは図書館だから。
「何?」
「いいえ! 何でも!」
 そう言って、私は歩き出した。だって、少しでも離れたかったから。じゃないと、私、止まらなくなる。
「日下さん、一緒に見よう?」
「何をですか!!」
 何か怒りが収まらない。図書館だって分かってるけど、全然冷静になれないし、静かに出来ない。
「旅行の関する本。確か……十一月下旬なら、あそこ紅葉狩りが出来るんだよ」
 そう言って、彼は普通に振る舞う。ズルい! とっても。
「ねえ、私に注文とかないの?」
「何を? 注文すんの?」
 そう言って富塚君は旅行の本を手に取る。
「新しい服とか、これ着て来いとか……ないよね? 富塚君」
「だって、それは個人の自由でしょ。当てはめることはないよ、社会の常識に。まあ、日下は、普段着、会社に居る時と変わらないから。会社居る気分になって良い。何か、日下と外出してる気分になる」
「もうっ!!!」
 怒ってしまう、それだけで。本当に怒るとは違うかもしれないけど、恥ずかしさ? あるのかな……。変えられない私に対してだけど。
「ほら、静かにしないと怒られちゃうでしょ?」
 そう言うの、耳元で囁くの、止めてよね!! と、私は富塚君とは違う旅行の本を手に取り、空いているイスに座る。
 富塚君も手に持っていた本を読む為に私の左横の席に座る。
 やれやれ……という感じだったけど。
 この感じ、いつまで続くの? 私、絶対、慣れない。
 一冊、読み終わり、周りに人が居ないことに気付く。
 お昼時……休日だけど。
 そんなことを思っていたら、富塚君も読み終わったみたいで、本を閉じた。
 それを見て、私は言う。
「富塚君は本、借りるの?」
「ん? どうしよっかな……」
 そう言って彼は本を元の場所に戻す為に立ち上がった。
「借りないんだ」
「そうだね、日下は? 借りる?」
「借りない」
 そう言って、私も本を戻す為に立ち上がった。
「どっか食べに行く?」
「行かない。富塚君、満足してる?」
「ん? また変な事、考えてる?」
「考えてない……。ただちょっと気になったの。富塚君、私、しばらくはお金使えないから。この旅行のせいで」
「はいはい、奢りますよ。もしくは作ります。俺が」
「え、良いの?!」
 呆気なく、私は富塚君の手料理にあり付いた。
 これこれ! 富塚君の良い所! と私は一気に有頂天になった。
 そんな事でもしないと、私は耐えられない。
 富塚君のいじわるに付き合ってはいられない。
 私はもっと甘えたいのだ、彼に。心から。
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