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しおりを挟む最近の淵上さんの妄想は進化しつつある。
進化とは…、と言われると
(3階会議室。人通りの少ないその場所で二人はひっそりと秘密の会議を行っていた。水沢部長は引き締まった尻へと手を添え、抱き寄せながら「進くん…」と耳元で低く甘く囁く。そして…)
というように台詞だけでなく読み聞かせるような感じになっているのだ。
本当に勘弁してほしい。
(俺が聞こえてるのわかってるんじゃないだろうな…?てか、いつの間にか下の名前使い始めてるし…)
仮にわかっているのだとすれば相当な悪趣味だ。
でも、そんなわけもない。
心の声が聞こえるなんてバレたら大変な騒ぎになるだろう。
「おはようございまーす」
瀬野さんだ。すぐ近くで淵上さんがとんでもない妄想をしているとも露知らず、爽やかな笑顔で近寄ってくる。
瀬野さんには丁寧に指導してもらえていて感謝している。瀬野さんが淵上さんの妄想の餌食になっていないのが喜ばしいくらいに。
そういえばそうだ。
そこで俺はふと気がついた。淵上さんが瀬野さんで妄想しているのを聞いたことがないことに。
淵上さんは俺と部長以外の人でも度々妄想している。全員ではないが、瀬野さんのルックスや性格からして淵上さんの餌食になっていないのは妙だ。
一瞬淵上さんが瀬野さんのことを好きな可能性も浮かび上がったが、それはすぐに消えた。
一度もそんな声を聞いたことはないし、好きな人の前で男同士であんなことやそんなことをさせてる妄想なんて流石の淵上さんもしないはずだ。
何かそれ以外の理由があるに違いない!
そこで俺は瀬野さんが去った後、早速淵上さんにそれとなく聞いてみることにした。
「瀬野さんって正統派爽やかイケメンって感じで男女問わず人気ありそうですよねー!やっぱモテるんですかね?」
ははっと明るく笑ってみせる。
これは心の読める俺が培ってきたスキルのひとつだ。
こんなふうに言えば、口には出さずともその人への印象を頭の中では考えるはず。
肝は【男女問わず】という部分。
(ちょ、ぶちょぉ…っこんなとこで……んっ?…あー、瀬野くんねぇ)
自然な笑みでにこりと淵上さんは微笑む。
「実際評判良いし隠れファンは多いと思うよ。彼女いるの有名だし表立って動く子は少ないけど」
(前は猿渡さんと年下王子様攻め×ぽんこつ年上受けで捗ってたけど、彼女関連の噂多すぎて萎えるんだよなぁー…。モデル級美女の幼馴染みと長年付き合ってるって漫画か)
「なるほど…」
モデル級美女の幼馴染みと長年…。
すれ違った時なんかには、十中八九同じ人のことを考えているのはわかっていたが彼女さんだったらしい。
嘘のような話に聞こえるが、スペックの高い瀬野さんのことを思うと十分あり得るだろう。
いや、しかし…
(彼女…!!!!その手があったか!!)
生憎、もう数年彼女はいないけど嘘ならいくらでも吐ける。
ここは彼女を捏造して、今後俺と部長で妄想するのはやめてもらおう。
「彼女いるの有名って流石ですね。イメージですけど、瀬野さんデートとかもすごそう。俺も今日デートだし見習わないとなぁ!」
(デート…!?!部長と…!?)
(なわけあるか!!!)
それとなく彼女の存在を匂わせてみたら、都合の良いように解釈されてしまった。流石は淵上さんだ。
(おかしい。いつの間にそんなに進んでいたの…?)
(全部あんたの妄想だよ!!)
だめだ。正確に情報を伝えないと全て淵上さんの思い通りにされてしまう!
「彼女っ!同い年で今日久々に会うんです!」
つい彼女という言葉に力が入ってしまった。
彼女自慢をしているみたいで恥ずかしいが、この際仕方ない。
「そうなんだ、それは楽しみだねー」
(なんだ彼女か…)
「はい」
ほっと息を吐いたのも束の間。
(彼女…。俺、彼女いるんです。……でも、どうしても部長が忘れられなくて…。そう言うと進は水沢部長の胸に手を…)
(いい加減にしろおおおお!)
俺はデスクを叩きたいのを我慢して、心を無にするべく作業に没頭することにした。
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