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ヒトのキョウカイ4巻(オレいつの間にか子持ちになっていました。)
07 (医師と医者)
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8月5日…午後10時…。
暗闇の空を1機のエアトラS2が飛行している。
機長席には パイロットスーツ姿のハルミが座り、後ろに積んであるのは彼女が野戦病院セットと呼ぶ物だ。
心電図や血液分析機などの機器の他に 軽い手術が出来るような無菌室セットに手術道具に医薬品…。
まぁ今回は ウイルス感染と言う事なので血液分析機とDNA分析機、後は薬品調合機で十分だろうが…。
今回向かうのは 感染数が多い工業都市『インダストリー』…。
製造業を意味するインダストリーが都市の名前になっているこの都市は その名前の通り、地球随一の機械部品や薬品の生産都市だ。
開発自体は他の都市に任せ 技術を輸入しているが、既存の物を作る事には長けていて、圧倒的な生産能力を持つこの都市は 地球の重要拠点の1つになっている。
ここで疫病が蔓延した場合…物流と言う血液で成り立っているこの都市は 血が止まり壊死してしまうだろう…。
それは どうしても食い止めなくてはならない。
エアトラS2が インダストリー都市の駐機場に着陸し、後部ハッチからハルミが降りる。
退避していたワンボックスカーが エアトラS2のプロペラが停止した事を確認し こちらに向かってくる。
向かえに来たのは 初老の男で 白衣をまとう医者だ。
「ようこそインダストリー都市へ…。」
「エクスマキナ都市から派遣された医師…ハルミ・サカタです。」
私はARのIDを見せ言う。
「お乗りください…私達は あなたの知識が必要です。」
私は 背中に赤い十字架がプリントされた白衣を着こみ、後部トランクに最低限の医療機器と台車を乗せて 後部座席に座り、車が動き出し加速する…。
「早速だが 状況を教えてもらえるか?」
後部座席から運転席の医者に向けて私が言う。
「はい、現在感染者は153名になります。
その内死亡が5名…38℃~39℃が100名程…。」
「残りは…?」
「40℃以上です…内、42℃が10人出て います。」
「それはマズいな…解熱剤は打ってるよな…。」
人間の体温の限界が42℃でその状態だと10時間位しか持たない。
本来、ウイルスを死滅させる為の体温の上昇が、身体の蛋白質を凝固させてしまい生命維持が出来なくなって、自滅してしまう。
「勿論…医療用AIの指示通りに対応しています。」
「ソフトは?」
「ユニバーサル医療AI『メディク』…バージョンは自動更新で最新になっているはずです。」
この都市には医者はいても医師はいない。
つまり治療行為が出来る人はいるが、診断が出来る人はいず、完璧にAI任せで診断している。
とは言え、人が二生掛けても読み切れない程の論文を学習して日々バージョンアップしているメディクに敵う医師がそうそう存在するはずも無く…合理的ではあるのだが…。
「肺炎の患者は?」
「38.5℃以上から出てます。
重症の患者は人工呼吸器を付けて抗生物質で回復を待っている状態です。」
『エクスプロイトウイルス』の症状は肺炎と免疫の過剰防衛による熱の急上昇だ。
肺炎は その名前の通り、肺の気管支や肺胞などが炎症を起こす症状で、重症の場合には呼吸困難になって全身に酸素を供給出来なくなり、最悪の場合、臓器が壊死する。
なので人工呼吸器で最低限の呼吸を確保し、抗生物質などを投与でウイルスを殺し、炎症が収まるまで ひたすら耐えるのが基本戦略となる。
高熱は解熱剤の投与で熱を下げれば如何《どう》にかなるが、遺伝子調整された『ネオテニーアジャスト』に過剰反応による高熱を出させるのは難しく、これは解析が必要になるだろう。
「とりあえずは、高熱の患者の対処が先だ。
何が原因で過剰反応しているか特定しない事には如何《どう》しようも無い。
人工呼吸器は足りてるか?」
「足りています…それと今後の事も考えて、追加で運んで貰っています。」
「なら、バイタル観測用のマイクロマシンの発注も頼む…リアルタイムでのデータが欲しい」
「分かりました。」
車が病院の前に到着し、私はトランクから台車を降ろし、医療機器を乗せて私の戦場に向かった。
隔離病棟の戦場に放り込まれた医者は パイロットスーツを着てその上から白衣を着ている。
普段は地球上では被らないヘルメットもしっかりと被り、放射線、化学防護、耐弾、耐熱耐寒の万能なバイオハザードスーツになっていた。
患者の咳の音が断続的に響き、看護師が患者に解熱剤の点滴をしている。
私もエアシャワーでパイロットスーツの埃を徹底的に落とし、クリーンルームに入る。
「データは?」
前置きをすべて吹っ飛ばし、責任者ぽい人に聞く。
「生データで申し訳ないのですが…」
隔離病棟の責任者が 私にデータを渡す。
「むしろ抜けが無い分 こっちの方が助かる。
まずは 患者の状態や進行の流れを把握する為、バイタル観測用のマイクロマシンを注入…。
データをリアルタイムで処理して、過剰発熱の原因を特定する。」
メディクの弱点は 発症し、症状が出てから検査して判断を下す点だ。
これでも 経過観察をして修正を掛ければ、ほぼ100%治るが、体内にマイクロマシンを入れて バイタルを常時監視する事が出来れば、症状の進行する時間を正確に予測出来るようになり、優先順位が明確にする事が出来る。
特にこう言った修羅場では 救える命を選ばなければならず、最大効率で最大数の人を救わなければならない。
なので『事前の準備や先回りして潰す』手を使えるようになる事で大幅に戦術の幅が増える。
「はい…。」
この都市は都市民のプライバシーを尊重し、バイタルの常時監視が禁止されているが、緊急と言う事で私は医者に強行させる。
「さて、後はデータ待ちか…。」
私は メディクのデータをメーカー側の正規品が同じかどうか、チェックプログラムを走らせる。
こんな事は定期的にやっているだろうが、大本の医師が誤診をしていたのなら前提が変わる。
それと並列して 今度はバージョンを前のバージョンに戻し、今回と同じ診断をするかチェックする。
これは、アップデートしたデータにバグが入っている可能性だ。
………。
診断が終わり、すべての結果が正常を示している。
ただ…アップデートファイルにウイルスが含まれていた場合、私では特定が出来ない。
私は データを圧縮してクオリアに送りつける。
問題があれば 何か連絡が来るだろう。
後は医療機器が正しいデータを送っていない可能性だ。
観測機器がちゃんとしたデータを送ってなかった場合、どんな名医師だろうが誤診する。
私は 持ってきた計測機器を使って患者を測定し 同じ結果が出ているか確認する。
「よし、メカニカルトラブルじゃないな…。」
なら、メディクの医療行為自体は間違っていないはずだ。
次に私は 患者の体内に入れた医療用マイクロマシンの観測データを映像化し 原因を特定しようとする。
「何だこりゃ…」
ウイルスが『ネオテニーアジャスト』の免疫を騙し、免疫自体を敵と誤認させ、共倒れを狙っていく…。
そして 敵の中に上手く紛れ込み、個体を確保しつつ、宿主が致死レベルの体温になると身体から脱出しようとする。
やっている事は単純だし、あり得ない事では無いが、ウイルスの統率が取れ過ぎている。
明らかに不自然しい…。
私は 患者から注射器で血液を抜き取り、電子顕微鏡でウイルス自体を目視で確認する。
そこに映ったのは精子なんかに見られる変換効率が ほぼ100%の推進装置『鞭毛モーター』がついているウイルス。
鞭毛モーターは 自然から生まれた超高効率のモーターだ。
それを人為的に再現し、搭載されたウイルスが 高速で血液の中を移動している。
そしてその頭の部分には超高密度で極小で生成された脳が付いている。
「これ…マイクロマシンじゃねぇか」
つまり…何処《どこ》のどいつが作ったかは知らないが…正真正銘のバイオ兵器だ。
なら、活動を停止し便から排出されるキラーコードが標準搭載されているはず…。
が、外部から自壊コードの電波のパターンを流しても全くの効果は無し…。
更に詳しく調べて見ると、禁止されているマイクロマシン製造用のプラントまで持ち込まれていて 自然増殖している。
「こりゃ駆除出来ない訳だ…。」
免疫系が 大量の味方を巻き込みながらマイクロマシンとプラントの双方を潰さない限り、この連鎖は続く…。
しかも味方を巻き込んでいる都合上、患者へのダメージも大きい。
ただ、マイクロマシンの頭部は『ライトワンスメディア』で出来ているから 外部からの書き換えは出来ないし、ウイルスにはよくある突然変異も怒らないはずなんだが…。
とは言え、相手がマイクロマシンだと分かれば排出する方法はある。
「血液浄化療法だな…」
医者の前でハルミが指示する。
一般では『透析』と呼ばれる治療法で 腕から血液を吸い上げ、機械内の特殊フィルタを通して 血液をろ過し、また腕から戻す治療法だ。
身体中の血液を全部ろ過するので時間は掛かるが、自動排出されない壊れたマイクロマシンを取り除くには これが一番手っ取り早い。
だが、機械自体の数が患者に対して少ない事もあり、重症者から優先して行う。
血をろ過しつつ、ろ過した帰りの血液に解熱剤を混ぜて身体に戻し、様子を見る。
バイタル観測用のマイクロマシンも一緒にろ過されてしまった為、外側からの観測がメインになる。
結果は成功…。
マイクロマシンが無くなり、解熱剤が効果を見せ、熱がどんどん下がって行く…。
ただ…肺炎も同時に起こしているので まだ人工呼吸器はつけたままだ。
とは言え、抗生物質も効き始めているので じきに回復するだろう。
「結局…何だったんですか?」
隔離病棟の責任者が私に尋ねる。
「あー」
私は少し悩む…。
ここで情報を公開すると…元凶が捕まえにくくなるか…。
「分かったのは、肺炎菌と高熱菌の2種類が上手い具合に共生して、この症状を起こしていた位だな…。
で調べた所、菌のサイズが 思いのほか大きかったから、フィルタで除去出来るって判断したって訳…。
時間が無かったから 菌の構造までは まだ解析が出来てないんだが、対処法さえ確立してしまえば、後は帰ってゆっくり調べられる。
サンプルとデータをまとめたら、すぐにエクスマキナ都市に戻って解析に入る。
ここじゃ機材が足りないからな。」
概ね 正直に言い、パイロットスーツと白衣を念入りに洗浄し、サンプルやデータの入ったアタッシュケースと 台車に乗せた機材一式を引きずり、病院を出た…。
病院前には 半日程前と同じ初老の医者がワンボックスカーで向かいに来ていた。
荷物をトランクに乗せ…駐機場まで車が走る。
「ありがとうございました。」
「何で私にしたんだ?…私じゃなくても出来る奴は普通にいるだろう…。」
結局私がやったのは 機器が正常かを確認して、原因を特定して、それをろ過出来るフィルタで血液ごと洗浄したに過ぎない…。
と言うか、やった事もかなり大雑把で もっとスマートなやり方があったはずだ。
「私達が一番警戒していたのは『メディク』が信用出来なくなる事でした。
それをMs.ハルミが システム面は正常だと証明して貰えましたから…。」
「そうか…良かった。」
患者が医師を信用しなくなったら、治療なんて出来ない。
やけに長い名前の薬品を言われてもさっぱり分から無いだろうし、とち狂った医者が致死性の毒物を患者に注射する可能性も無いとは言いきれ無い。
結局、自分を治してくれると言う信用が医療で一番大事なんだ。
車を降り、エアトラS2の後部ハッチが開き、乗り込み荷物を固定する。
「それじゃあ…お大事に」
「ええ…また」
後部ハッチが閉じ、車が退避した事を確認しエアトラS2が浮き上がり、進路をエクスマキナ都市に向け、ゆっくりと進みだした。
翌日…対抗策が分かった事でインダストリーの死者数は減ったが、他の都市が『エクスプロイトウイルス』を効率よく体内で生産され、瞬く間に主要の貿易都市に広がって行った。
暗闇の空を1機のエアトラS2が飛行している。
機長席には パイロットスーツ姿のハルミが座り、後ろに積んであるのは彼女が野戦病院セットと呼ぶ物だ。
心電図や血液分析機などの機器の他に 軽い手術が出来るような無菌室セットに手術道具に医薬品…。
まぁ今回は ウイルス感染と言う事なので血液分析機とDNA分析機、後は薬品調合機で十分だろうが…。
今回向かうのは 感染数が多い工業都市『インダストリー』…。
製造業を意味するインダストリーが都市の名前になっているこの都市は その名前の通り、地球随一の機械部品や薬品の生産都市だ。
開発自体は他の都市に任せ 技術を輸入しているが、既存の物を作る事には長けていて、圧倒的な生産能力を持つこの都市は 地球の重要拠点の1つになっている。
ここで疫病が蔓延した場合…物流と言う血液で成り立っているこの都市は 血が止まり壊死してしまうだろう…。
それは どうしても食い止めなくてはならない。
エアトラS2が インダストリー都市の駐機場に着陸し、後部ハッチからハルミが降りる。
退避していたワンボックスカーが エアトラS2のプロペラが停止した事を確認し こちらに向かってくる。
向かえに来たのは 初老の男で 白衣をまとう医者だ。
「ようこそインダストリー都市へ…。」
「エクスマキナ都市から派遣された医師…ハルミ・サカタです。」
私はARのIDを見せ言う。
「お乗りください…私達は あなたの知識が必要です。」
私は 背中に赤い十字架がプリントされた白衣を着こみ、後部トランクに最低限の医療機器と台車を乗せて 後部座席に座り、車が動き出し加速する…。
「早速だが 状況を教えてもらえるか?」
後部座席から運転席の医者に向けて私が言う。
「はい、現在感染者は153名になります。
その内死亡が5名…38℃~39℃が100名程…。」
「残りは…?」
「40℃以上です…内、42℃が10人出て います。」
「それはマズいな…解熱剤は打ってるよな…。」
人間の体温の限界が42℃でその状態だと10時間位しか持たない。
本来、ウイルスを死滅させる為の体温の上昇が、身体の蛋白質を凝固させてしまい生命維持が出来なくなって、自滅してしまう。
「勿論…医療用AIの指示通りに対応しています。」
「ソフトは?」
「ユニバーサル医療AI『メディク』…バージョンは自動更新で最新になっているはずです。」
この都市には医者はいても医師はいない。
つまり治療行為が出来る人はいるが、診断が出来る人はいず、完璧にAI任せで診断している。
とは言え、人が二生掛けても読み切れない程の論文を学習して日々バージョンアップしているメディクに敵う医師がそうそう存在するはずも無く…合理的ではあるのだが…。
「肺炎の患者は?」
「38.5℃以上から出てます。
重症の患者は人工呼吸器を付けて抗生物質で回復を待っている状態です。」
『エクスプロイトウイルス』の症状は肺炎と免疫の過剰防衛による熱の急上昇だ。
肺炎は その名前の通り、肺の気管支や肺胞などが炎症を起こす症状で、重症の場合には呼吸困難になって全身に酸素を供給出来なくなり、最悪の場合、臓器が壊死する。
なので人工呼吸器で最低限の呼吸を確保し、抗生物質などを投与でウイルスを殺し、炎症が収まるまで ひたすら耐えるのが基本戦略となる。
高熱は解熱剤の投与で熱を下げれば如何《どう》にかなるが、遺伝子調整された『ネオテニーアジャスト』に過剰反応による高熱を出させるのは難しく、これは解析が必要になるだろう。
「とりあえずは、高熱の患者の対処が先だ。
何が原因で過剰反応しているか特定しない事には如何《どう》しようも無い。
人工呼吸器は足りてるか?」
「足りています…それと今後の事も考えて、追加で運んで貰っています。」
「なら、バイタル観測用のマイクロマシンの発注も頼む…リアルタイムでのデータが欲しい」
「分かりました。」
車が病院の前に到着し、私はトランクから台車を降ろし、医療機器を乗せて私の戦場に向かった。
隔離病棟の戦場に放り込まれた医者は パイロットスーツを着てその上から白衣を着ている。
普段は地球上では被らないヘルメットもしっかりと被り、放射線、化学防護、耐弾、耐熱耐寒の万能なバイオハザードスーツになっていた。
患者の咳の音が断続的に響き、看護師が患者に解熱剤の点滴をしている。
私もエアシャワーでパイロットスーツの埃を徹底的に落とし、クリーンルームに入る。
「データは?」
前置きをすべて吹っ飛ばし、責任者ぽい人に聞く。
「生データで申し訳ないのですが…」
隔離病棟の責任者が 私にデータを渡す。
「むしろ抜けが無い分 こっちの方が助かる。
まずは 患者の状態や進行の流れを把握する為、バイタル観測用のマイクロマシンを注入…。
データをリアルタイムで処理して、過剰発熱の原因を特定する。」
メディクの弱点は 発症し、症状が出てから検査して判断を下す点だ。
これでも 経過観察をして修正を掛ければ、ほぼ100%治るが、体内にマイクロマシンを入れて バイタルを常時監視する事が出来れば、症状の進行する時間を正確に予測出来るようになり、優先順位が明確にする事が出来る。
特にこう言った修羅場では 救える命を選ばなければならず、最大効率で最大数の人を救わなければならない。
なので『事前の準備や先回りして潰す』手を使えるようになる事で大幅に戦術の幅が増える。
「はい…。」
この都市は都市民のプライバシーを尊重し、バイタルの常時監視が禁止されているが、緊急と言う事で私は医者に強行させる。
「さて、後はデータ待ちか…。」
私は メディクのデータをメーカー側の正規品が同じかどうか、チェックプログラムを走らせる。
こんな事は定期的にやっているだろうが、大本の医師が誤診をしていたのなら前提が変わる。
それと並列して 今度はバージョンを前のバージョンに戻し、今回と同じ診断をするかチェックする。
これは、アップデートしたデータにバグが入っている可能性だ。
………。
診断が終わり、すべての結果が正常を示している。
ただ…アップデートファイルにウイルスが含まれていた場合、私では特定が出来ない。
私は データを圧縮してクオリアに送りつける。
問題があれば 何か連絡が来るだろう。
後は医療機器が正しいデータを送っていない可能性だ。
観測機器がちゃんとしたデータを送ってなかった場合、どんな名医師だろうが誤診する。
私は 持ってきた計測機器を使って患者を測定し 同じ結果が出ているか確認する。
「よし、メカニカルトラブルじゃないな…。」
なら、メディクの医療行為自体は間違っていないはずだ。
次に私は 患者の体内に入れた医療用マイクロマシンの観測データを映像化し 原因を特定しようとする。
「何だこりゃ…」
ウイルスが『ネオテニーアジャスト』の免疫を騙し、免疫自体を敵と誤認させ、共倒れを狙っていく…。
そして 敵の中に上手く紛れ込み、個体を確保しつつ、宿主が致死レベルの体温になると身体から脱出しようとする。
やっている事は単純だし、あり得ない事では無いが、ウイルスの統率が取れ過ぎている。
明らかに不自然しい…。
私は 患者から注射器で血液を抜き取り、電子顕微鏡でウイルス自体を目視で確認する。
そこに映ったのは精子なんかに見られる変換効率が ほぼ100%の推進装置『鞭毛モーター』がついているウイルス。
鞭毛モーターは 自然から生まれた超高効率のモーターだ。
それを人為的に再現し、搭載されたウイルスが 高速で血液の中を移動している。
そしてその頭の部分には超高密度で極小で生成された脳が付いている。
「これ…マイクロマシンじゃねぇか」
つまり…何処《どこ》のどいつが作ったかは知らないが…正真正銘のバイオ兵器だ。
なら、活動を停止し便から排出されるキラーコードが標準搭載されているはず…。
が、外部から自壊コードの電波のパターンを流しても全くの効果は無し…。
更に詳しく調べて見ると、禁止されているマイクロマシン製造用のプラントまで持ち込まれていて 自然増殖している。
「こりゃ駆除出来ない訳だ…。」
免疫系が 大量の味方を巻き込みながらマイクロマシンとプラントの双方を潰さない限り、この連鎖は続く…。
しかも味方を巻き込んでいる都合上、患者へのダメージも大きい。
ただ、マイクロマシンの頭部は『ライトワンスメディア』で出来ているから 外部からの書き換えは出来ないし、ウイルスにはよくある突然変異も怒らないはずなんだが…。
とは言え、相手がマイクロマシンだと分かれば排出する方法はある。
「血液浄化療法だな…」
医者の前でハルミが指示する。
一般では『透析』と呼ばれる治療法で 腕から血液を吸い上げ、機械内の特殊フィルタを通して 血液をろ過し、また腕から戻す治療法だ。
身体中の血液を全部ろ過するので時間は掛かるが、自動排出されない壊れたマイクロマシンを取り除くには これが一番手っ取り早い。
だが、機械自体の数が患者に対して少ない事もあり、重症者から優先して行う。
血をろ過しつつ、ろ過した帰りの血液に解熱剤を混ぜて身体に戻し、様子を見る。
バイタル観測用のマイクロマシンも一緒にろ過されてしまった為、外側からの観測がメインになる。
結果は成功…。
マイクロマシンが無くなり、解熱剤が効果を見せ、熱がどんどん下がって行く…。
ただ…肺炎も同時に起こしているので まだ人工呼吸器はつけたままだ。
とは言え、抗生物質も効き始めているので じきに回復するだろう。
「結局…何だったんですか?」
隔離病棟の責任者が私に尋ねる。
「あー」
私は少し悩む…。
ここで情報を公開すると…元凶が捕まえにくくなるか…。
「分かったのは、肺炎菌と高熱菌の2種類が上手い具合に共生して、この症状を起こしていた位だな…。
で調べた所、菌のサイズが 思いのほか大きかったから、フィルタで除去出来るって判断したって訳…。
時間が無かったから 菌の構造までは まだ解析が出来てないんだが、対処法さえ確立してしまえば、後は帰ってゆっくり調べられる。
サンプルとデータをまとめたら、すぐにエクスマキナ都市に戻って解析に入る。
ここじゃ機材が足りないからな。」
概ね 正直に言い、パイロットスーツと白衣を念入りに洗浄し、サンプルやデータの入ったアタッシュケースと 台車に乗せた機材一式を引きずり、病院を出た…。
病院前には 半日程前と同じ初老の医者がワンボックスカーで向かいに来ていた。
荷物をトランクに乗せ…駐機場まで車が走る。
「ありがとうございました。」
「何で私にしたんだ?…私じゃなくても出来る奴は普通にいるだろう…。」
結局私がやったのは 機器が正常かを確認して、原因を特定して、それをろ過出来るフィルタで血液ごと洗浄したに過ぎない…。
と言うか、やった事もかなり大雑把で もっとスマートなやり方があったはずだ。
「私達が一番警戒していたのは『メディク』が信用出来なくなる事でした。
それをMs.ハルミが システム面は正常だと証明して貰えましたから…。」
「そうか…良かった。」
患者が医師を信用しなくなったら、治療なんて出来ない。
やけに長い名前の薬品を言われてもさっぱり分から無いだろうし、とち狂った医者が致死性の毒物を患者に注射する可能性も無いとは言いきれ無い。
結局、自分を治してくれると言う信用が医療で一番大事なんだ。
車を降り、エアトラS2の後部ハッチが開き、乗り込み荷物を固定する。
「それじゃあ…お大事に」
「ええ…また」
後部ハッチが閉じ、車が退避した事を確認しエアトラS2が浮き上がり、進路をエクスマキナ都市に向け、ゆっくりと進みだした。
翌日…対抗策が分かった事でインダストリーの死者数は減ったが、他の都市が『エクスプロイトウイルス』を効率よく体内で生産され、瞬く間に主要の貿易都市に広がって行った。
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