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第四話
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さて、最初の標的はパーティの魔法使い、年中ローブ姿のシュトーレンだ。今日はあいつをレストハウスから尾行している。
そもそも隠密行動は得意だし、いざとなれば邪神の力で時間も操れる。楽勝だ。
あの女の目的地は街の魔法道具店のようだ。そういえば前に杖の修理をしないといけないとか言ってたな。あのときは妙に嫌そうな顔をしていた。これは陰からサポートのチャンスかもしれない。
シュトーレンが店の扉を開けたところでちょっと時間を止めた。先に店の中に入って、棚の影に隠れる。
店主は痩せた男だった。他に客はいない。
おっ、シュトーレンが来たぞ。
魔法使いは真っ直ぐ店主のところに歩いてきた。途中、ローブのフードを深く被り直していた。
それにしてもなんだってあいつはいつもいつもフードを目深にかぶってるんだろうな。別に見た目が悪いわけじゃないのに。フードで頭は隠すのに顔は隠そうとしないので前々から不思議ではあった。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました」
店主が深々と頭を下げる。丁寧なんだが、嫌な感じがした。なんだかバカにしてるっぽく見える。
「杖の修理を頼みたいんだけど」
シュトーレンは感情の籠らない声で言う。普段からクール系だが、今回は一段と無感情だ。
「では、金貨五十枚ですね」
店主の言葉に俺はギョッとした。
「おいおい、金貨五十枚は無茶だろ……」
「なんだ、ぼったくりか?」
邪神が小声でいった。
「杖なら新品の一級品だって金貨十枚も出せば買えるぞ。修理でそんなにかかるわけない」
「となると……」
シュトーレンの様子を伺う。あいつはぎゅっと拳を握りしめ、頷いた。
「大変でございますね……薄汚いハーフエルフというのは」
店主が蔑み切った顔でいった。シュトーレンはサッとフードの耳のあたりを押さえた。
そうか。そういうことか。
ハーフエルフというのは禍を呼ぶ存在として忌み嫌われている。あのフードの下には、人間よりも中途半端に長い耳が隠れているのだろう。そして、店主はシュトーレンがそれを隠しているのを知っていて、金を巻き上げているのだ。
シュトーレンは杖をカウンターに置くと、逃げるようにして店を出て行った。
店主はため息をつくと、汚いものにでも触れるようにして杖をつまみ上げた。そして、ボロ切れみたいな布で二、三回磨き、ポイっと杖を放り出した。
「あれで終わりかよ……」
「随分な手際だな」
邪神と二人で呆れ返っていた。ぼったくりな上に手抜きとは、ひどい店主だ。
シュトーレンのやつ、苦労してたんだな……だが、俺には失われたプリンという大義がある。ここは、陰からサポートのチャンスとして活用させてもらう!
俺は棚の影からサッと飛び出して店主の前に踊り出た。
「バ、バカな! あの女以外誰もいなかったはず……!」
店主はえらく驚いていた。時間止めて店に入ったから当然ではあるが。
「クックックッ、俺はシュトーレンのパーティメンバーだ」
邪神直伝の邪悪な笑い方で言ってやると、店主は狼狽えた。
「なんだと……いったいどうやって私に気付かれずに入ったんだ……」
「それは、こうやってさ」
邪神の力で時間を止める。そしてテクテク歩いて店主の背後に回る。んで、懐から魔剣を取り出して、首筋に突きつけてやった。
時の流れを戻す。
「ヒッ! なっ、なぜ、なぜ私がナイフを突きつけられているんだ!」
「お前があいつの杖をちゃんと修理しないからさ」
冷えたプリンのごとき冷たい声で言ってやると、店主はごくりと唾を飲んだ。冷や汗が首筋を伝っている。くくく、いい感じに脅せているようだ。
「俺は、あいつに不誠実な対応をするのを許さない。俺がいる限り、ぼったくりなんて出来ないと思え。いいか、俺の目が光っているうちは、あいつをいじめようなんて考えるんじゃないぞ」
店主の耳元でささやいた。脅しているわけだが、俺がいる限りはシュトーレンからぼったくることは出来ないという部分を強調してある。つまり、俺がいなくなりさえすれば、今まで通りにやれるわけだ。
これによって、シュトーレンの奴は一時店主のいじめから逃れられるわけだが、俺はパーティを去る。するとまたいじめが始まる。あいつは俺のおかげで店主がちゃんと仕事をしていたことに気づくが、その時にはもう遅いというわけだ。
いいね、ゾクゾクする。このプランがなった時、プリンの如き甘美な気分に浸れることだろう。もっとも、その甘美さも失われた限定プリンには及ぶまいが……復讐というのは甘くもあるが苦くもある。カラメルソースのかかったプリンのようだ。
深淵で高邁な思案に耽っていると店主が口を開いた。
「しょ、承知いたしました。金輪際、私はあの女……いえ、あのお客様を差別するのをやめます。ですから、どうか命までは……」
「くくく、わかったならばいい。では、さらばだ。ハーッハッハッハッ!」
高笑いした。さて、時間停止っと。
また時を止め、その間に店を出た。
今頃店主のやつは震えていることだろう。スプーンでつついた時のプリンのようにな。街の雑踏に紛れて店から離れつつ、邪神と話す。
「どうよ、今の高笑い」
「んー、六十五点ってとこだなー」
邪神は辛口評価だった。確かに、俺としてもなんか邪神の高笑いとは違うなっていう感じがあった。高笑いも奥が深いな。
「しかしよ、お前ちょっと脅しすぎたんじゃねえか?」
「脅しすぎって?」
「いや、わかってないならいいんだが、あの店主、あの様子だとお前がいなくなっても……まあいいか。忘れてくれや」
邪神はそういった。気にはなったけど、俺は復讐を完遂せねばならない。そのためには次なるパーティメンバーを陰からサポートせねば。
「くくく、次は騎士様を影から支えてやるぜ。ざまあでもう遅いのためにな」
というわけで、俺はレストハウスに戻った。
そもそも隠密行動は得意だし、いざとなれば邪神の力で時間も操れる。楽勝だ。
あの女の目的地は街の魔法道具店のようだ。そういえば前に杖の修理をしないといけないとか言ってたな。あのときは妙に嫌そうな顔をしていた。これは陰からサポートのチャンスかもしれない。
シュトーレンが店の扉を開けたところでちょっと時間を止めた。先に店の中に入って、棚の影に隠れる。
店主は痩せた男だった。他に客はいない。
おっ、シュトーレンが来たぞ。
魔法使いは真っ直ぐ店主のところに歩いてきた。途中、ローブのフードを深く被り直していた。
それにしてもなんだってあいつはいつもいつもフードを目深にかぶってるんだろうな。別に見た目が悪いわけじゃないのに。フードで頭は隠すのに顔は隠そうとしないので前々から不思議ではあった。
「これはこれは、ようこそいらっしゃいました」
店主が深々と頭を下げる。丁寧なんだが、嫌な感じがした。なんだかバカにしてるっぽく見える。
「杖の修理を頼みたいんだけど」
シュトーレンは感情の籠らない声で言う。普段からクール系だが、今回は一段と無感情だ。
「では、金貨五十枚ですね」
店主の言葉に俺はギョッとした。
「おいおい、金貨五十枚は無茶だろ……」
「なんだ、ぼったくりか?」
邪神が小声でいった。
「杖なら新品の一級品だって金貨十枚も出せば買えるぞ。修理でそんなにかかるわけない」
「となると……」
シュトーレンの様子を伺う。あいつはぎゅっと拳を握りしめ、頷いた。
「大変でございますね……薄汚いハーフエルフというのは」
店主が蔑み切った顔でいった。シュトーレンはサッとフードの耳のあたりを押さえた。
そうか。そういうことか。
ハーフエルフというのは禍を呼ぶ存在として忌み嫌われている。あのフードの下には、人間よりも中途半端に長い耳が隠れているのだろう。そして、店主はシュトーレンがそれを隠しているのを知っていて、金を巻き上げているのだ。
シュトーレンは杖をカウンターに置くと、逃げるようにして店を出て行った。
店主はため息をつくと、汚いものにでも触れるようにして杖をつまみ上げた。そして、ボロ切れみたいな布で二、三回磨き、ポイっと杖を放り出した。
「あれで終わりかよ……」
「随分な手際だな」
邪神と二人で呆れ返っていた。ぼったくりな上に手抜きとは、ひどい店主だ。
シュトーレンのやつ、苦労してたんだな……だが、俺には失われたプリンという大義がある。ここは、陰からサポートのチャンスとして活用させてもらう!
俺は棚の影からサッと飛び出して店主の前に踊り出た。
「バ、バカな! あの女以外誰もいなかったはず……!」
店主はえらく驚いていた。時間止めて店に入ったから当然ではあるが。
「クックックッ、俺はシュトーレンのパーティメンバーだ」
邪神直伝の邪悪な笑い方で言ってやると、店主は狼狽えた。
「なんだと……いったいどうやって私に気付かれずに入ったんだ……」
「それは、こうやってさ」
邪神の力で時間を止める。そしてテクテク歩いて店主の背後に回る。んで、懐から魔剣を取り出して、首筋に突きつけてやった。
時の流れを戻す。
「ヒッ! なっ、なぜ、なぜ私がナイフを突きつけられているんだ!」
「お前があいつの杖をちゃんと修理しないからさ」
冷えたプリンのごとき冷たい声で言ってやると、店主はごくりと唾を飲んだ。冷や汗が首筋を伝っている。くくく、いい感じに脅せているようだ。
「俺は、あいつに不誠実な対応をするのを許さない。俺がいる限り、ぼったくりなんて出来ないと思え。いいか、俺の目が光っているうちは、あいつをいじめようなんて考えるんじゃないぞ」
店主の耳元でささやいた。脅しているわけだが、俺がいる限りはシュトーレンからぼったくることは出来ないという部分を強調してある。つまり、俺がいなくなりさえすれば、今まで通りにやれるわけだ。
これによって、シュトーレンの奴は一時店主のいじめから逃れられるわけだが、俺はパーティを去る。するとまたいじめが始まる。あいつは俺のおかげで店主がちゃんと仕事をしていたことに気づくが、その時にはもう遅いというわけだ。
いいね、ゾクゾクする。このプランがなった時、プリンの如き甘美な気分に浸れることだろう。もっとも、その甘美さも失われた限定プリンには及ぶまいが……復讐というのは甘くもあるが苦くもある。カラメルソースのかかったプリンのようだ。
深淵で高邁な思案に耽っていると店主が口を開いた。
「しょ、承知いたしました。金輪際、私はあの女……いえ、あのお客様を差別するのをやめます。ですから、どうか命までは……」
「くくく、わかったならばいい。では、さらばだ。ハーッハッハッハッ!」
高笑いした。さて、時間停止っと。
また時を止め、その間に店を出た。
今頃店主のやつは震えていることだろう。スプーンでつついた時のプリンのようにな。街の雑踏に紛れて店から離れつつ、邪神と話す。
「どうよ、今の高笑い」
「んー、六十五点ってとこだなー」
邪神は辛口評価だった。確かに、俺としてもなんか邪神の高笑いとは違うなっていう感じがあった。高笑いも奥が深いな。
「しかしよ、お前ちょっと脅しすぎたんじゃねえか?」
「脅しすぎって?」
「いや、わかってないならいいんだが、あの店主、あの様子だとお前がいなくなっても……まあいいか。忘れてくれや」
邪神はそういった。気にはなったけど、俺は復讐を完遂せねばならない。そのためには次なるパーティメンバーを陰からサポートせねば。
「くくく、次は騎士様を影から支えてやるぜ。ざまあでもう遅いのためにな」
というわけで、俺はレストハウスに戻った。
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