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sleep:皇城 04
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騒ぎを聞きつけてやって来た皇帝によって、二人の皇子は無事だった。だが、ジェロウムのほうは複数の血管が破裂し、あと一歩遅ければ命はなかったという。
皇女に危うく殺されかけた皇子の話は瞬く間に皇城を駆け巡った。
ジェロウムは治療のため療養することになり、ブラッドは父親である皇帝に叱られ、謹慎処分が言い渡された。
そしてまだ三歳になったばかりのクラヴィナは、皇子二人に危害を加えたことで、住まいを皇室の敷地の中でも皇城から最も遠い宮殿に移された。
本来そこは罪を犯した皇族が監禁される場所として利用されてきた。
クラヴィナがその宮殿に送られたということは、つまり皇族からの追放を意味していた。
だが、皇帝や皇帝の側近たちは追放を否定し、本人の意思とは関係なく他人を傷つけてしまうクラヴィナを守る為の処置であることを強調した。
しかし、三歳のクラヴィナが理解できる筈もなく。
牢屋代わりの宮殿が、クラヴィナに与えられた住まいとなった。
それから十二年の月日が流れた。
美しく成長したクラヴィナは、噴水の縁に腰を下ろして水面に指をつけた。
それまで空を写していた水面はがらりと変わり、白亜の城を写した。
内装も白を基調した城内は、赤い絨毯が廊下全体に敷かれ、飾られた絵描や壺や鎧は高価な物だ。柱から天井にかけて見事な装飾が施され、帝国の偉大さが嫌でも分かる。
今度皇城の中をゆっくり歩いてみたい、とクラヴィナは思っていた。
住まいを移してからこの場所から離れたことがない。
クラヴィナの知る外の世界は、この水面に浮かび上がってくる光景だけだ。
いつか……。
そう願わずにはいられなかったが、最近の城内は慌ただしかった。
クラヴィナは招集された者たちが次々に入っていく謁見の間に場面を切り替えた。
「………皇帝、陛下」
皆が頭を下げる先に、一際人目を惹く男が椅子に座っていた。
白い隊服に、権威を象徴する長い青のマントを両肩に掛け、集まった者たちを鋭い目で見やる。銀色の前髪は後ろに上げて額を晒していた。それにより、切れの長い目が一層目立っていた。
クラヴィナにとって男は父親だったが、顔を合わせた記憶は殆どなく、皇帝を「父」と呼んだこともない。
彼にとって妻を殺し、息子を殺しかけた娘など自分の子供だとは思いたくないだろう。
こんな場所に追いやるぐらいだ。
一生許されることはないと分かっている。
でも、クラヴィナは森に囲まれたこの宮殿が気に入っていた。
皇帝が初めて────だから。
謁見の間には二人の皇子も揃っていたが、クラヴィナが皇女して呼ばれることは絶対にない。
水面につけた指先を動かしてしまうと、写っていた光景は一瞬で消えてしまった。もう一度見ることも考えたが、クラヴィナは立ち上がって午前中の散歩を続けた。
誰もいない一人だけの空間に、虚しさだけが溜まっていく。
ところが、散歩から戻ってくると一台の馬車が宮殿の入口に止まっていた。
不思議に思って馬車を見れば覚えのある紋章が掲げられていた。
気づいたクラヴィナは摘んできた花を持ったまま、駆け出していた。
皇女に危うく殺されかけた皇子の話は瞬く間に皇城を駆け巡った。
ジェロウムは治療のため療養することになり、ブラッドは父親である皇帝に叱られ、謹慎処分が言い渡された。
そしてまだ三歳になったばかりのクラヴィナは、皇子二人に危害を加えたことで、住まいを皇室の敷地の中でも皇城から最も遠い宮殿に移された。
本来そこは罪を犯した皇族が監禁される場所として利用されてきた。
クラヴィナがその宮殿に送られたということは、つまり皇族からの追放を意味していた。
だが、皇帝や皇帝の側近たちは追放を否定し、本人の意思とは関係なく他人を傷つけてしまうクラヴィナを守る為の処置であることを強調した。
しかし、三歳のクラヴィナが理解できる筈もなく。
牢屋代わりの宮殿が、クラヴィナに与えられた住まいとなった。
それから十二年の月日が流れた。
美しく成長したクラヴィナは、噴水の縁に腰を下ろして水面に指をつけた。
それまで空を写していた水面はがらりと変わり、白亜の城を写した。
内装も白を基調した城内は、赤い絨毯が廊下全体に敷かれ、飾られた絵描や壺や鎧は高価な物だ。柱から天井にかけて見事な装飾が施され、帝国の偉大さが嫌でも分かる。
今度皇城の中をゆっくり歩いてみたい、とクラヴィナは思っていた。
住まいを移してからこの場所から離れたことがない。
クラヴィナの知る外の世界は、この水面に浮かび上がってくる光景だけだ。
いつか……。
そう願わずにはいられなかったが、最近の城内は慌ただしかった。
クラヴィナは招集された者たちが次々に入っていく謁見の間に場面を切り替えた。
「………皇帝、陛下」
皆が頭を下げる先に、一際人目を惹く男が椅子に座っていた。
白い隊服に、権威を象徴する長い青のマントを両肩に掛け、集まった者たちを鋭い目で見やる。銀色の前髪は後ろに上げて額を晒していた。それにより、切れの長い目が一層目立っていた。
クラヴィナにとって男は父親だったが、顔を合わせた記憶は殆どなく、皇帝を「父」と呼んだこともない。
彼にとって妻を殺し、息子を殺しかけた娘など自分の子供だとは思いたくないだろう。
こんな場所に追いやるぐらいだ。
一生許されることはないと分かっている。
でも、クラヴィナは森に囲まれたこの宮殿が気に入っていた。
皇帝が初めて────だから。
謁見の間には二人の皇子も揃っていたが、クラヴィナが皇女して呼ばれることは絶対にない。
水面につけた指先を動かしてしまうと、写っていた光景は一瞬で消えてしまった。もう一度見ることも考えたが、クラヴィナは立ち上がって午前中の散歩を続けた。
誰もいない一人だけの空間に、虚しさだけが溜まっていく。
ところが、散歩から戻ってくると一台の馬車が宮殿の入口に止まっていた。
不思議に思って馬車を見れば覚えのある紋章が掲げられていた。
気づいたクラヴィナは摘んできた花を持ったまま、駆け出していた。
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