公爵様のランジェリードール―衣装室は立ち入り厳禁!―

佐倉 紫

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第四章 メイド、手を出される。

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「さて、思いが通じ合ったところで話をもとに戻すんだけど」
「え? あ、はい……?」

 通じ合ったのだろうか? まだ恋愛未満の気持ちだと伝えたはずなのだが、ロイドの中ではもう両思い認定になってしまったのだろうか?

「早急に身につけたまま性行可能な下着を作らないといけない。そして完成度を高めるために、ジゼル、是非とも協力してもらいたい」
「協力……」

 完成度を高めるため、って、つまり。答えに行き当たったジゼルはまたまた真っ赤になった。

「つ、つ、つまり、わたしに、その、先ほどロイド様が言っていたみたいに……しょ、娼婦さんみたいなことをする相手になってほしい、と?」

 ロイドが作った性行可能な際どい下着を身につけ、その機能性を高めるために、ロイドと……せせせせ、性行――をしろとっ?
 あまりのことに意識がふーっと遠ざかるまま、ぶっ倒れそうになったところを、ロイドが「おっと」と言いながら支えた。

「うん。もはやそれしか方法はない。僕だって君という愛おしいひとがいながら、別の女性と情を交わすなんてとてもできないからね。その点、相手が君なら一晩中でも集中力と創作意欲と性欲をたかぶらせておくことができると思う」

 集中力と創作意欲はさておき、性欲は一晩中たぎらせるものではないと思う。なんというか身体に悪そう。

「む、む、無理ですっ、そんな、あの下着着たままそんなこと……!」
「もちろん、最初から下着つきなんて高度なことはしないよ。最初はやっぱりお互いの素肌をふれあわせて、相手の体温に慣れることから始めないと」

 なんですと?

(お互いの素肌をふれあわせ……ってそれ、着衣している状態より難易度が高い気がしますが!?)

「運良く君は明日休みだから、朝はゆっくりでも大丈夫だよね?」
「ままま待ってくださいロイド様っ。あ、明日は明日でちゃんと予定がありまして……っ」
「そうなの? また孤児院の様子見とか?」
「い、いえ、明日は、古着屋に行こうと思っていて」
「古着屋?」

 またどうしてそんなところに、と言いたげに目を丸くするロイドに、ジゼルはあわあわしながら説明した。

「そ、その、パドリックさんに自分の絵を見にきてほしいと誘われていてですね。行くのはいいんですが、美術館には入れるような服を一着も持っていないので――って、ロイド様?」
「ふーん、パドリックが……、そう、へぇ~……、なるほど……」
「ろ、ロイド様? なぜでしょう、ちょっと雰囲気が怖いです」

 いつも通り口角を引き上げて柔らかく笑っているのに、ロイドが発するオーラはなぜだかどす黒い。思わず冷や汗を掻くジゼルに、ロイドは「いや失礼」とぱっといつもの様子に戻った。

「怖がらせてごめんね。無意識のうちに殺意が漏れ出ちゃったみたいで。気にしないで」
「は……」
「そして古着屋でドレスを調達するとのことだけど、却下するよ。そんなところに行くくらいなら僕が考案したドレスを着て行きなさい」
「……え、え? で、でもロイド様が作るドレスは、お客様のためにあるもので」
「そちらだって試作品が山のようにあるから大丈夫。君をイメージして作った下着があるくらいなんだから、君をイメージして作ったドレスもあるに決まっているだろう? 美術館の絵画鑑賞にふさわしい一着を僕が選ぶからまったく問題なし。いいね?」
「は、はぁ……。ありがとうございま、す?」

 とりあえずお礼を言っておくべきかと思って口にすると、ロイドは満足げに「よろしい」と頷いた。

「さぁ、憂いは晴れたからさっそく寝台へ移動しよう」
「ままま待ってくださいっ。さすがに使用人が旦那様の寝台に行くのはなしです、なし!」
「恋人を連れ込むことのどこが悪いの」
「こ……!? だ、駄目です、だめだめだめ! わ、わたしの使用人としての立場もお考えになってくださいっ」

 恋人の響きに一瞬胸が高鳴ったが、ときめきに身を任せたが最後、不品行なメイドは馘首クビだと家政婦長に追い出されかねない。
 ロイドもさすがにそれは察せられたのか「残念だな」とひとまず手を引いた。

「よし、じゃあ僕の部屋ではなくこの部屋に寝台を運び入れよう」
「は!?」
「本当は天蓋てんがい付きの豪華な寝台で君を抱きたいけれど、君がそう言うなら仕方ない。折りたたみ式の簡易寝台なら僕でも運び込めるし、マットレスは最上級の品を使えば、まぁなんとかなるだろう。その辺を片付ければ充分スペースは確保できるし」
「そ、そんな、ここでその……あれこれいたすんですか!?」

 ひっくり返った声を上げるジゼルに、ロイドはなぜだか極上の笑みで頷いた。

「そう。あれこれいたすんだよ。楽しみだよね」
「ふふふ不謹慎極まりないと思います!」
「本当に真面目だなぁ、ジゼルは。世のメイドの中には、積極的に主人のお手つきになって贅沢をしようと目論むタイプも割といるのに」
「わたしをそういうタイプと思わないでください!」
「わかっているよ。気を悪くさせたならごめん。君の真面目でしっかりしたところは、僕が一番好きだと思っているところだから、どうかそのままでいてね」

 けなすようなことを言ったかと思えば、一転して褒め殺してくる。
 これが恋愛の手管だというならそうとうのものだ。恋愛経験ゼロのジゼルは、見事に翻弄ほんろうされてただただ赤くなるしかない。

(んもおおお、ロイド様の馬鹿ぁあああ――ッ!)

 こう叫ぶのはもう何度目になるのか。ジゼルはひーんと今日も胸中で泣いた。

「とはいえ、最初から寝台を使うのはやめておこう。いざ寝台の上で無防備になっている君を見たら理性があっというまに崩壊しそうだし」
「ひっ」
「だから、今日はひとまずこっちで。おいで」

 ロイドが腰を下ろしたのは長椅子だ。先日下着姿であそこに寝そべったことを思い出し、ジゼルはかーっと耳まで真っ赤になる。
 だがいざ手を差し伸べて待っているロイドを見ると、あまり長く待たせてはいけないという気持ちになり、ついそちらへ近づいていた。

「ここに座って、ジゼル」
「こ、ここって言われましても」

 自分のひざをポンポン叩くロイドにジゼルは目をくが、彼は微笑んだままだ。

「……わ、わたしは重いですよ……?」
「そうかな。オペラで使う甲冑かっちゅうよりは軽いと思うよ? ――ほら、それよりずっと軽い」

 そりゃ甲冑と比べれば軽いかもしれないけれども……ロイドの膝に腰掛けたジゼルは、恥ずかしさのあまり深々とうつむいてしまう。
 だがすぐにロイドの大きな手にあごをすくい取られ、再び口づけられてしまった。
           
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