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第五章 メイド、専属侍女になる。
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「あのさ。君、ロイド様付きの小間使いになったってひとだよね? なのに今日のロイド様の予定まったく把握してないの?」
「は……」
「今日は午前中は予定なし。午後からは来客があるけど、それだけでほぼ休日扱いだよ。昨日だって寝るの遅かったんだから、あと一時間くらい寝かせてあげようっていう気遣いもできないわけ? え?」
「は……」
ジゼルはぱちくりと目を瞬く。
予定を知らなかったのはその通りなので反論の余地もない。ただジゼルに対し上からとも言える目線でこう言ってくるということは……
「あの、あなたがロイド様の従者の方ですか?」
「従者の方、っていう言い方どうなの? 従者ですか? でいいよね、文法的に。は~あ、こんな言葉遣いもなってないようなひとが誉れ高い公爵様の小間使いって。本当、世も末だよね」
「は……」
先ほどから驚きすぎて「は……」しか言えないジゼルだ。
棒立ちになるジゼルに対し少年はまた「はぁあ~あ……」とため息をつき、目元にかかる銀髪を、気取った様子でぱっと払った。
「ロイド様が特別目をかけているかなんだか知らないけど、僕は君を特別扱いとかしないから。そこのところ理解しておいてね」
「わ、わかりました。……でも、あの、ロイド様の従者の方……じゃない、従者って、もっと年長の方だった気がするのですが、いつの間にあなたに替わったのでしょうか?」
ロイドの従者とは何度か顔を合わせたことがある。ジゼルが朝のお茶を出し終えて出てくるとのと入れ替わりでやってきて、ロイドの着替えは任せて、という感じで交代していたのだ。
だがジゼルの当然の疑問にも、少年従者は「はぁああ~あ」と盛大なため息を隠さない。
「前任者は昨日付でミルレン伯爵家へ戻されたよ。彼はもともと伯爵家の執事になるために、あちこち見習いに出ていた人物で、修行が終わって晴れて凱旋したってわけ。そんなことも知らずによくこの城で働いていたね」
「は、はぁ、すみません……」
「で、今日からは僕がロイド様の従者になるから」
顎を上げて言い切った少年に、ジゼルはとりあえず「よ、よろしくお願いします……」と頭を下げた。
「あの、わたしはジゼルと言います。おっしゃるとおり小間使いとしては右も左もわからない新参者ですので、よろしくご指導いただければ――」
「指導とかそういう面倒くさいことをする気はないから」
バッサリ言い切られて、ジゼルは胸中で(えぇええぇぇ~……?)と悲鳴を上げる。確か家政婦長は「仕事は従者に聞け」と言っていた気がするのだが。
(……はっ! だけど、もしかしたらこれは『懇切丁寧に指導してもらえると思うな。仕事は教わるのでなく見て盗め』的な、激励の言葉なんじゃないかしらっ?)
かくいう三年前も、そんな感じでメイド業に当たっていた。もちろんあれこれ教わったけれども、掃除の細かい仕方やコツみたいなことまでは教わらなかったし、そういったことは先輩メイドの動きを見て、なるほどこうすればいいのか、と学んだものである。
さすが、王族でもある公爵の従者になる人間は別格だ。初っぱなから当時の心持ちを思い出させてくださるとは。
感じ入ったジゼルはシャキッと背筋を伸ばした。
「わかりました! 今後はできる限り従者様の一挙手一投足に注目し、その仕事ぶりを盗もうと思います!」
「僕の話聞いてた? なんでそういう解釈になるの?」
目をキラキラさせるジゼルと対照的に、肝心の少年従者には至極いやそうな顔をされた。
「それに『従者様』って。僕にはサリヨン・ローウェルというれっきとした名前があるんだからね」
「あっ、失礼しました。サリヨン様ですね。……って、ローウェル……?」
どこかで聞いたことがある家名に思わず首を捻ると、彼はまたまた盛大なため息をかましてきた。
「ローウェルの名前も知らないなんて、本当に頭が痛い……。ローウェル家は由緒正しき侯爵家で、王族ともつながりがある家だよ。僕とロイド様も血縁なんだから」
「えぇええええ!? そ、それは失礼しましたっ!」
雰囲気からして貴族の令息らしいと思ったが、まさか侯爵家の方とは。
「え、でも、侯爵家の方が従者になったりするんですか?」
「しゃ、社会勉強という奴だっ。僕くらいの年の人間は、社交界に出る前に、位の高い親族の家や、王城に上がって働くのがステータスになるんだ。王族であるロイド様の従者なら、王城でただの役人として働くよりずっとずっと価値が上がる!」
「へぇ、そういうものなんですね。すみません、わたし、そういうこともなにも知らなくて」
「だろうね。この短い時間でよ~くわかったよ。まったく、君みたいな奴を教育しないといけないなんて、なんという不運……」
その後もぶつくさ呟いた彼は、「とにかく!」とビシィッと指先をジゼルに突きつけてきた。
「僕は従者として働くことはもちろん、君の言動教育に関してもロイド様からよろしく頼むと言われている。生活習慣から言葉遣いまで、とにかくビシバシ鍛えていくからそのつもりで」
「は、はい! よろしくお願いいたします」
よろしい、と尊大に顎を反らした少年従者、もといサリヨンは、すぐに顔をしかめてガミガミ言ってきた。
「ところで君のその服、いったいなんなの? 完全にメイドに支給されているお仕着せと同じ服だよね? 小間使いはメイドみたいに掃除やら洗濯やらする必要はないんだから、きちんとドレスを着てよ。……は? 一着も持ってない? ロイド様が作ってくれたのならある……って! ロイド様にドレスを作らせているとか、はぁああ!? 君それでも小間使いなの!? 自分で一から仕立てるくらいの気概を持ちなよ、小間使いだろう!」
「はい! すみませんサリヨン様! 気をつけますぅううう!」
自分よりおそらく年下の、背だってちょっと低い少年にいきなり説教されて、ジゼルは(ひぃ~っ)と情けない顔になる。
小間使いの道は相当大変なものになりそうだ。
だが、くじけてはいられない。でも、ドレスってどうやって仕立てればいいのかしら……と悩むジゼルだった。
「は……」
「今日は午前中は予定なし。午後からは来客があるけど、それだけでほぼ休日扱いだよ。昨日だって寝るの遅かったんだから、あと一時間くらい寝かせてあげようっていう気遣いもできないわけ? え?」
「は……」
ジゼルはぱちくりと目を瞬く。
予定を知らなかったのはその通りなので反論の余地もない。ただジゼルに対し上からとも言える目線でこう言ってくるということは……
「あの、あなたがロイド様の従者の方ですか?」
「従者の方、っていう言い方どうなの? 従者ですか? でいいよね、文法的に。は~あ、こんな言葉遣いもなってないようなひとが誉れ高い公爵様の小間使いって。本当、世も末だよね」
「は……」
先ほどから驚きすぎて「は……」しか言えないジゼルだ。
棒立ちになるジゼルに対し少年はまた「はぁあ~あ……」とため息をつき、目元にかかる銀髪を、気取った様子でぱっと払った。
「ロイド様が特別目をかけているかなんだか知らないけど、僕は君を特別扱いとかしないから。そこのところ理解しておいてね」
「わ、わかりました。……でも、あの、ロイド様の従者の方……じゃない、従者って、もっと年長の方だった気がするのですが、いつの間にあなたに替わったのでしょうか?」
ロイドの従者とは何度か顔を合わせたことがある。ジゼルが朝のお茶を出し終えて出てくるとのと入れ替わりでやってきて、ロイドの着替えは任せて、という感じで交代していたのだ。
だがジゼルの当然の疑問にも、少年従者は「はぁああ~あ」と盛大なため息を隠さない。
「前任者は昨日付でミルレン伯爵家へ戻されたよ。彼はもともと伯爵家の執事になるために、あちこち見習いに出ていた人物で、修行が終わって晴れて凱旋したってわけ。そんなことも知らずによくこの城で働いていたね」
「は、はぁ、すみません……」
「で、今日からは僕がロイド様の従者になるから」
顎を上げて言い切った少年に、ジゼルはとりあえず「よ、よろしくお願いします……」と頭を下げた。
「あの、わたしはジゼルと言います。おっしゃるとおり小間使いとしては右も左もわからない新参者ですので、よろしくご指導いただければ――」
「指導とかそういう面倒くさいことをする気はないから」
バッサリ言い切られて、ジゼルは胸中で(えぇええぇぇ~……?)と悲鳴を上げる。確か家政婦長は「仕事は従者に聞け」と言っていた気がするのだが。
(……はっ! だけど、もしかしたらこれは『懇切丁寧に指導してもらえると思うな。仕事は教わるのでなく見て盗め』的な、激励の言葉なんじゃないかしらっ?)
かくいう三年前も、そんな感じでメイド業に当たっていた。もちろんあれこれ教わったけれども、掃除の細かい仕方やコツみたいなことまでは教わらなかったし、そういったことは先輩メイドの動きを見て、なるほどこうすればいいのか、と学んだものである。
さすが、王族でもある公爵の従者になる人間は別格だ。初っぱなから当時の心持ちを思い出させてくださるとは。
感じ入ったジゼルはシャキッと背筋を伸ばした。
「わかりました! 今後はできる限り従者様の一挙手一投足に注目し、その仕事ぶりを盗もうと思います!」
「僕の話聞いてた? なんでそういう解釈になるの?」
目をキラキラさせるジゼルと対照的に、肝心の少年従者には至極いやそうな顔をされた。
「それに『従者様』って。僕にはサリヨン・ローウェルというれっきとした名前があるんだからね」
「あっ、失礼しました。サリヨン様ですね。……って、ローウェル……?」
どこかで聞いたことがある家名に思わず首を捻ると、彼はまたまた盛大なため息をかましてきた。
「ローウェルの名前も知らないなんて、本当に頭が痛い……。ローウェル家は由緒正しき侯爵家で、王族ともつながりがある家だよ。僕とロイド様も血縁なんだから」
「えぇええええ!? そ、それは失礼しましたっ!」
雰囲気からして貴族の令息らしいと思ったが、まさか侯爵家の方とは。
「え、でも、侯爵家の方が従者になったりするんですか?」
「しゃ、社会勉強という奴だっ。僕くらいの年の人間は、社交界に出る前に、位の高い親族の家や、王城に上がって働くのがステータスになるんだ。王族であるロイド様の従者なら、王城でただの役人として働くよりずっとずっと価値が上がる!」
「へぇ、そういうものなんですね。すみません、わたし、そういうこともなにも知らなくて」
「だろうね。この短い時間でよ~くわかったよ。まったく、君みたいな奴を教育しないといけないなんて、なんという不運……」
その後もぶつくさ呟いた彼は、「とにかく!」とビシィッと指先をジゼルに突きつけてきた。
「僕は従者として働くことはもちろん、君の言動教育に関してもロイド様からよろしく頼むと言われている。生活習慣から言葉遣いまで、とにかくビシバシ鍛えていくからそのつもりで」
「は、はい! よろしくお願いいたします」
よろしい、と尊大に顎を反らした少年従者、もといサリヨンは、すぐに顔をしかめてガミガミ言ってきた。
「ところで君のその服、いったいなんなの? 完全にメイドに支給されているお仕着せと同じ服だよね? 小間使いはメイドみたいに掃除やら洗濯やらする必要はないんだから、きちんとドレスを着てよ。……は? 一着も持ってない? ロイド様が作ってくれたのならある……って! ロイド様にドレスを作らせているとか、はぁああ!? 君それでも小間使いなの!? 自分で一から仕立てるくらいの気概を持ちなよ、小間使いだろう!」
「はい! すみませんサリヨン様! 気をつけますぅううう!」
自分よりおそらく年下の、背だってちょっと低い少年にいきなり説教されて、ジゼルは(ひぃ~っ)と情けない顔になる。
小間使いの道は相当大変なものになりそうだ。
だが、くじけてはいられない。でも、ドレスってどうやって仕立てればいいのかしら……と悩むジゼルだった。
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