疑われたロイヤルウェディング

佐倉 紫

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1巻

1-1

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   プロローグ


 その年、北の小国フィノーは未曾有みぞうの危機にひんしていた。

「陛下、国王陛下! お気を確かに!」
「早く医師を! 王妃殿下のご様子も思わしくないようだ」
「国王様っ!」

 多くの悲鳴と足音、混乱と恐怖が行き来する中、フィノー王国の第二王女アンリエッタは、真っ青になって立ち尽くしていた。

「お、お父様!」

 足下から凍りつくような恐怖を感じつつ、すぐに父のもとへ駆け寄ろうとしたアンリエッタは、老齢の宰相さいしょうに引き留められる。

「いけません、アンリエッタ様! お近づきになっては……!」

 苦しげな表情で肩を掴んでくる宰相に、アンリエッタは涙目になりながら唇を震わせた。
 今、この国は原因不明の病に侵されていた。
 国中の人々が得体の知れない病にかかり、ろくな治療も受けられぬまま次々に倒れていく。
 その猛威はとうとう王都にまでおよんだ。アンリエッタは迫りくる病から逃れるために、王家の人々とともにこの離宮へやってきたばかりだったのだ。

(それなのに、お父様やお母様まで病にかかってしまうなんて――!)

 受け入れがたい現実に、アンリエッタはぼろぼろと涙をこぼす。
 そんな彼女を、宰相さいしょうは王族の寝所からもっとも遠い部屋へと移し、厳しい表情で言った。

「このまま国王様やお世継ぎ様、また先に倒れられた王族の方々に万一のことがあったなら、この国を背負っていかれるのはアンリエッタ様となります」

 アンリエッタは鋭く息を呑む。

「……いやよ、そんなことを言わないで! お父様たちは必ずよくなるわ。わたしが国を背負うことになるなんて、そんなことは起こらないわよ!」

 悲しみと衝撃、なにより背負うことになるかもしれない責務の大きさにすっかり怖くなって、アンリエッタはわっと声を上げて泣き出してしまう。
 そんな彼女を痛ましげな目で見つめつつ、宰相は忠臣として言葉を重ねた。

「もはや王族で病にかかっていないのはあなた様だけ。こうなってしまった以上、なんとしても健康を維持していただかなければなりません。国王様を始め、罹患りかん者は全員隔離しておりますが、万一のこともございます。このお部屋から一歩も出ないように」
「いやよ、いやっ! お父様のそばに行かせて……!」
「我が儘をおっしゃいますな! 王族の姫君が、そのように取り乱すことは許されません」

 そうは言っても、アンリエッタはまだ十四歳。子供ではないが、大人とも呼べない年齢だ。多感な少女にとって、両親を含め近しい人々が病におかされている現実は恐ろしいものでしかない。
 まして国を背負うなど想像もできないほどの重責だ。アンリエッタは宰相が出て行ったあとも声を上げて泣き続けた。
 そうしてどれくらい経っただろう。疲れきった彼女は、窓辺に膝を抱えてうずくまっていた。

(……本当にこのまま、お父様たちが回復なさらなかったら……)

 宰相の言うとおり、未だ健康な自分が王位を受け継ぎ、国を治めることになる。
 そんなことが果たしてできるのだろうか。王女としての教養は一通り身につけたが、政治のことなどひとつもわからない。助力してくれるはずの重臣たちもすでに多くが病に冒され、今は無事でいる人々もいつ倒れるかわからない状態なのだ。
 そんな中で王位にくなどできるはずがない。それ以前に、大好きな両親や従弟いとこたちが助からなかったらと思うだけで、足下が崩れるような恐怖に見舞われる。

(このまま、わたしひとりだけが取り残されるようなことになったら……)

 ほんの少し考えただけで、目の前が真っ暗になるような絶望感に襲われた。アンリエッタは喉を震わせ、我が身をかき抱いてすすり泣く。
 そのとき――
 小さなノックとともに、ギィ、と遠くで扉が開く音が響いた。誰かが食事を持ってきたのだろう。この部屋に隔離されてから、身支度と食事のときだけ侍女が訪れるようになっていた。
 食欲などとうに失せているアンリエッタは、ますます身を縮めて侍女が立ち去るのを待った。
 しかし、こちらへ近づいてくる足音は侍女のものにしては心なし大きいような気がした。
 涙でにじんだアンリエッタの視界に、男物の革靴が映り込む。驚いてかすかに目を見開くと、頭上から優しく声がかけられた。

「あなたが、フィノーの王女殿下か? 王族で唯一無事だという」

 耳に心地よい、若い男性の声だった。
 おずおずと顔を上げると、こちらを見つめる瞳とかち合った。
 宝石のように透き通った、美しい紫色の瞳だった。その目元にかかる前髪は栗色で、男らしい顔のラインを覆っている。今はわずかに身をかがめているが、背を伸ばせば小柄なアンリエッタよりずっと長身であろうことはすぐにわかった。

「あなたは……」

 泣きすぎてかすれた声でアンリエッタは呟く。そのあいだも視線は目の前の青年に釘付けになったままだ。見慣れない人物の登場に驚いたこともあったが、一目見ただけで、心を掴まれるような不思議な感覚に包まれていた。
 青年はうずくまるアンリエッタに視線を合わせるように、静かに片膝をついた。

「わたしはディーシアル王国の第一王子で、オーランドと言う」
「ディーシアルの王子様……?」

 隣国の王子を名乗った青年を前に、アンリエッタは反射的に居住まいを正そうとする。だが続く彼の言葉を聞いて、礼儀作法はすぐに頭から吹き飛んだ。

「数日前、あなたの父上から我が国に助けを求める書状が届いたんだ。まさか病がここまで広がっているとは思わず、くるのが遅れてすまなかった」

 軽く頭を下げるオーランド王子を前に、恐怖と悲しみが一気に戻ってくる。アンリエッタは思わず王子の腕にすがりついた。

「お願いです、父を助けて下さい……! 母も従弟いとこも叔父も、みんな病にかかって苦しんでいます。熱が出てからもう二日は経っています。今夜熱が引かなかったらお父様たちは……っ」

 その続きはとても口にできなくて、アンリエッタは嗚咽おえつを漏らす。
 そんな彼女の肩をそっとでて、オーランドはしっかりした声音で答えた。

「大丈夫、安心しなさい。この国に蔓延まんえんしている病は、かつて我が国でも猛威を振るったものだ。今は研究が進んで特効薬もできている。わたしに同行した医師たちが、すでに王家の方々へ薬を投与した。じきに全員熱が下がって、元気になるだろう」

 絶望に沈みかけていたアンリエッタは、力強いその言葉にハッと顔を上げた。

「ほ、本当に……?」

 呆然と見上げてくるアンリエッタの手をしっかり握って、オーランドは頷いた。

「本当だ。医師たちも口をそろえて大丈夫だと請け負った。もう安心していい」
「で、でも、お父様、あんなに苦しんでいらして……。それに、世継ぎの従弟はまだ五歳で……あの子が一番に熱を出したんです。まだ小さいし、もしなにかあったら」

 皆が倒れたときの様子を見ていただけに、アンリエッタはそう簡単に信じることができない。
 小刻みに震える彼女をオーランドは痛ましげに見つめていたが、細い肩をおもむろに引き寄せると、小さな身体を腕の中にすっぽりと閉じ込めた。
 男のひとの力強い腕とぬくもりを全身で感じて、アンリエッタはどきりとする。緊張で身体が強張こわばるが、大きな手が髪をでていくのを感じると、ゆるゆると力が抜けていった。

「もし万が一のことが起きたとしても、あなたは決してひとりにはならない。同盟国の王子として、わたしがあなたをいつでも助けると約束しよう」

 ――ひとりにはならない。
 その一言が、不思議なくらいアンリエッタの胸に響く。
 悲しみに覆われていた心に光が差して、喉元に熱いかたまりが込み上げてきた。涙腺がゆるんで、再び涙がこぼれてくる。だがその涙は、それまで流していたものとはまったく違うものだった。
 はらはらと泣くアンリエッタを柔らかく抱きしめ、隣国の王子はしみじみと呟く。

「つらかったな。たったひとりで家族を失うかもしれない恐怖に耐えて……。もう大丈夫だから、安心しなさい。よく頑張ったな」

 そうして優しく背を叩かれると、こらえていたものがせきを切ってあふれてきて、もう止められなくなってしまう。
 アンリエッタは顔をくしゃくしゃにして、オーランドの胸に抱きついた。彼はずっとアンリエッタを抱きしめ、嗚咽おえつが小さくなるまで優しく髪を撫でてくれた。
 ――そうして疲れ切って、いつの間にか眠ってしまって……
 目が覚めたときには、隣国の王子様はもう離宮を離れていた。
 オーランド王子はこの離宮だけでなく、多くの患者に救いの手をさしのべてくれた。
 国王を始め王族は全員一命を取り留め、世継ぎの従弟いとこも二週間後には庭を駆け回れるくらいに元気になった。
 ――彼が訪れるのがあと少しでも遅かったら。
 それを考えると、身体の芯から震え上がらずにはいられない。
 と同時に、優しい言葉と力強い抱擁ほうようでアンリエッタを救ってくれた彼を思うと、胸の奥がとくとくと速い鼓動を刻んで、落ち着かない気持ちになるのだ。
 時折聞こえてくる隣国でのオーランドの働きを耳にするたび、その気持ちはどんどん大きくなって、彼のことを思う日が増えていった。
 彼の姿を思い描くたび、喜びと恥ずかしさで身体中が熱くなる。またお会いしたいという気持ちが際限なく膨らんでいき、止められなくなった。
 胸を満たすこの甘やかで苦しい思いが、恋というものだと気づくまでに、時間はかからなかった。
 その出来事から三年経ったある日――
 晴れて十七歳となったフィノー王国の第二王女アンリエッタは、オーランドの母国であるディーシアル王国に求められ、愛するひとのもとへ嫁ぐこととなったのである。



   第一章 砕かれる恋心


「夫婦になったからと言って束縛はしない。もちろん、されるつもりも毛頭ない。おれは自由にやるから、おまえもこの先、好きに生きていけばいい」

 部屋に入ってきてすぐ、冷たく言い放たれた言葉に、アンリエッタはあんぐりと口を開ける。
 結婚式のあいだ中、ずっと感じていた羞恥心や緊張はすぐさま吹き飛び、代わりに多大な混乱と戸惑いが押し寄せてきた。

(好きに生きていけばいいって……どういうことなの?)

 少なくとも、それが数時間前に神様の前で永遠を誓い、これから初夜を迎える花嫁に向かって夫が言う言葉なのだろうか?
 ――そう、アンリエッタは今日、目の前にたたずむ青年と結婚式を挙げたばかりだ。
 ディーシアル王国の第一王子であるオーランドは、三年前アンリエッタを救ってくれた恩人であり、今日まで一途に思い続けてきた初恋の相手でもある。
 大国ディーシアルの王子と、隣国とはいえ小国の姫である自分が結ばれる可能性は低いだろうと思っていたが……どんな運命の巡り合わせか、こうして夫婦になることができた。
 彼に会ったら、三年前の感謝と自分の思いを伝えて、仲睦まじい関係を築いていきたいと思っていたのだ。それなのに――

(これからよろしくお願いしますとも伝えられないうちから、こんなことを言われるなんて)

 本来なら屈辱を感じてもいいところだろう。だが、彼を慕い続けてきたアンリエッタが一番に感じたのは、拒絶されたことへの悲しみだった。
 愛するひととの生活に早くも暗雲がたちこめている。アンリエッタは一度奥歯を噛みしめ、勇気を出して顔を上げた。

「わたしはあなたと、仲睦まじい夫婦になりたいと思ってこちらに嫁いできました。どうか、そんな悲しいことはおっしゃらないでください」

 しかし、寝台の柱にもたれかかっていたオーランドは、ハッ、と相手を小馬鹿にするような顔でせせら笑った。

「おまえがなんと言おうとおれの考えは変わらない。そもそも政略で結ばれた相手に、なぜ愛情など持てるんだ? 既婚者が余所よそに愛人を作るなどよくある話だ。おまえもそれにならえばいい」

 さらに信じられない言葉を重ねられ、アンリエッタは衝撃に息を詰まらせた。

「それ、は、つまり……不貞を働いてもよいということなのですか?」

 自分で尋ねながらも、信じがたい思いでいっぱいになる。
 確かに王侯貴族のあいだでは愛人を持つことは当然の楽しみかもしれないが、この三年間オーランドだけを思ってきたアンリエッタに、ふたごころなどあるはずがない。
 だがそこで唐突に気付く。彼はそれを知らないのだということに。

(最初にお会いしたときから三年も経っているのだもの。オーランド様は、わたしがあのときの王女とは気づいていないのかもしれないわ)

 それならば、とアンリエッタは沈みこみそうになった気持ちを奮い立たせた。

「わたしは、ずっと前からあなたをお慕いしておりました。こうして神様の前で永遠を誓った以上、妻としてあなたに寄り添う努力をしていきたいのです」

 だから好きにしていいなどと言わないでほしい。わたしはあなたと愛し合いたい。
 そんな真摯な思いをまなざしに込めて見つめるが――返ってきた答えは思いも寄らぬものだった。

「……そうやって、おれのことをたらし込めと吹き込まれているのか?」
「え?」

 オーランドの地をうような低い声に、アンリエッタは目を見開く。

(たらし込む……? どういう意味なの?)

 だがそれを問う前に、大股で近寄ってきたオーランドに腕を取られ、強い力で引っ張られた。

「きゃっ……!」

 振り回されるように寝台へ放り投げられ、アンリエッタの細い身体が敷布の上に投げ出される。
 突然のことに身体を硬くするのと、オーランドが上に乗り上げてくるのはほぼ同時だった。

「オ、オーランド様……っ?」
「気安く呼ぶな、反吐へどが出る」

 これまでにないほど冷たい声音で言われ、アンリエッタは凍りついた。

「ひとが親切に逃げ道を用意してやったというのに、愚かな女だ。いいか、二度とそんな言葉を口にするな」
「そ、そんな……」

 愛するひとに愛していると言ってはいけないというのだろうか?
 反論しようにも強い力で肩を押さえつけられ、込み上げる恐怖に言葉が出なくなる。
 それでも、なんとかわかってほしくて、アンリエッタは涙をこらえて言い募った。

「わたし、あなたをお慕いしているのです。本当に……」

 ビリビリッ、と布が裂ける音が響いて言葉が掻き消される。
 胸元が急に涼しくなったのを感じて、アンリエッタは息を呑んだ。慌てて身体を見下ろしてみれば、初夜のためにあつらえた純白の夜着が、襟元から腰まで一気に引き裂かれている。

「いやっ……」

 とっさに胸元を隠したアンリエッタの視界に、引きちぎった夜着の残骸を放り投げるオーランドが映った。

「な、なにをなさるのですか……!?」
「なにを、だと? ――おまえが望むとおりにしてやるだけだ」
「ひっ……!」

 怒りをはらんだ低い声に、アンリエッタはぞっと背筋を凍らせる。
 次の瞬間、オーランドの手がき出しの乳房を覆い、膨らみをきつく掴んできた。

「っ! い、や……!」

 太い指が柔肌に食い込む。そのまま荒々しく揉まれ、ヒリヒリとした痛みが全身を萎縮いしゅくさせた。

「い、痛いです、やめて……!」
「痛い? そう強く揉んでいるつもりはないが? だが膨らみが乏しいから、せっかくの愛撫も痛みとしてしか感じないのかもしれないな」
「うっ……」
「年は、確か十七だったか? その割に貧相な身体つきだ。これでは楽しみも半減するな」

 ため息とともにあざけられ、アンリエッタの瞳がたちまち潤む。
 自分の身体が女性としての魅力に乏しいことは言われなくてもわかっていたが、愛するひとからはっきりけなされるのは、やはりつらいことに違いなかった。

「う、うぁぁ……っ」

 しかしけなしながらも、オーランドは両手でアンリエッタの小さな乳房をね回す。強い力でぎゅうぎゅうと刺激され続け、いつしか白い肌には指が食い込んだ赤いあとが浮かび上がっていた。
 痛みのせいか息も苦しくなってきて、アンリエッタはうめきながら必死にオーランドの手を離そうともがく。

「お、お願い……、も、やめて……っ」
「膨らみをいじられるのはいやか? なら、こっちは?」
「ひんっ!」

 刺激されたせいで、わずかに色づいた小さな乳首をぎゅっとつままれ、アンリエッタはびくんと身体を跳ね上げた。

「い、いやっ、そこも痛い、から……!」
「その割には、こうしてつまめるほど硬くなっているようだが? なぶられて感じるとは、とんだ好き者だな」
「そ、そんな……違います……っ」

 アンリエッタは首を打ち振るが、つままれた乳首を強めに引っ張られうめいてしまう。

「やぁぁ……! 痛いっ、やめてぇ……っ」

 涙を浮かべて懇願するが、オーランドの手は止まらない。
 再び乳房を握りつぶすように揉みながら、今度はアンリエッタの喉へ唇を寄せる。苦悶くもんに震える白い喉に、噛みつくように歯を立てられて、アンリエッタは悲鳴を上げた。

(いや、いや、怖い……っ!)

 身体中ががくがく震える。愛するひとにふれられているのに、わき上がるのは恐怖と緊張ばかりだ。次第にアンリエッタの息もはっはっと浅いものになっていた。

「あ、あぁう!」

 再び乳首を引っ張られると同時に、鎖骨のあたりに歯を立てられる。ビリッとしびれるような痛みに、とうとう涙があふれて、アンリエッタは手足を振り乱して抵抗した。

「お、お願いです、もうやめてください! これ以上されたら……わたし……っ」
「おかしなことを言う。おれと夫婦になりたいと望んだのはおまえのほうだろう」

 アンリエッタは泣きながら激しく首を振る。彼と親しくなりたいのは事実だが、こんなふうに乱暴されるのは恐ろしいばかりで耐えられない。
 それまで乳房に添えられていた彼の手が背中に回り、思わせぶりにすっとくぼみの部分をで上げてくる。その刺激すら恐怖の対象になって、アンリエッタは短い悲鳴を上げると二の腕を抱きしめ、身体を小さく縮めた。

「いやです、もう、こんなことは……!」
「だったら、おれと親しくなりたいと二度と口にするな。いいな?」

 アンリエッタはハッと息を呑み、涙で顔をくしゃくしゃにしながらも首を振った。


「や、それはいやです……っ。わ、わたしはあなたと……っ」

 痛みを与えられることはもちろんつらい。だが彼に見向きもされなくなることを考えると、足下が崩れるようなこころもとなさが襲ってくる。
 そんなアンリエッタに、オーランドはチッと鋭い舌打ちを響かせた。それがまた彼女の胸をえぐっていく。

(どうしてオーランド様はこんなに怒っていらっしゃるの? 三年前はあんなに優しくしてくださったのに……っ)
「はぅ! うっ……」

 二の腕を敷布に押さえつけられ、赤くなった乳房に舌をわせられる。肌をたどるぬめった感触からは、捕らえた獲物をなぶるような意思が伝わってきて、アンリエッタは喉を震わせた。

(こんな、ひどいこと……っ、わたしが知るオーランド様がなさるとは思えない)

 もしや彼はオーランドそっくりの別人ではないだろうか。絶望のあまり突拍子とっぴょうしもないことを考えながらも、アンリエッタはすがるような思いでそっとオーランドをうかがう。しかし……

(オーランド様……?)

 涙でにじむ視界に、真上から見下ろすオーランドの顔が映り込む。
 これだけ冷たいことを口にし、乱暴に押さえつけてくる彼のことだ。さぞかしいら立った表情を浮かべているのだろうと思ったのだが――

(オーランド様……どうして、そんな苦しそうなお顔をなさっているの?)

 わずかにかいま見えたオーランドは、なにか苦いものを口に含んだような、痛みをこらえているような……ひどく苦しげな顔をしていたのだ。
 思いがけない表情に目を見開いたアンリエッタだが、彼女の視線に気づいたオーランドは一瞬で険しい顔つきに戻る。そしてあろうことか、こごった乳首の根本に軽く爪を立ててきた。

「いっ……!」
「それなら、二度と近づきたくないと思わせてやるまでだ」

 オーランドの手が下肢に滑る。ハッと身を強張こわばらせたアンリエッタの耳に、再び布が裂かれる音が聞こえてきた。
 腰元に引っかかっていた夜着を荒々しく取り払われ、気づけばアンリエッタは一糸まとわぬ姿で寝台に押しつけられていた。

「あ、あぁ……っ」

 枕元にともされた明かりに、白い身体がぼうっと浮かび上がる。
 わずかに身を起こしたオーランドが、細い身体につぅと視線を走らせるのを目の当たりにして、アンリエッタの胸はどくどくと大きく鼓動を打ち始めた。

(見られている……オーランド様に、すべて……っ)

 恥ずかしい上にいたたまれなくて、たちまち身体中が真っ赤に染まる。
 隠そうにも腕を押さえつけられているため身動きできず、アンリエッタはせめてもと思い、両足をしっかり閉じて、一番恥ずかしいところを見られないようにした。
 その様子を見たオーランドがくっと口元を歪める。

「裸を見せる程度で、おれを落とせると思ったら大間違いだ。こんな痩せっぽちの身体なら、なおさらな」

 身体つきについてさらにけなされ、アンリエッタは唇を噛みしめる。恥ずかしさがみじめさに取って代わって、新たな涙が静かにこめかみを伝った。
 だが悲しみに浸る暇はなかった。オーランドの手がいきなり太腿の隙間に入り込み、足の付け根をまさぐってきたのだ。
 彼の指先が不浄のあたりをさまようのを感じて、アンリエッタは短く悲鳴を上げた。

「きゃあ! な、なにっ? どうして、そんなところ……っ」

 深窓しんそうの姫君らしく、ねやごとのすべてを知らぬまま初夜に臨んだアンリエッタは、彼がなぜそのようなところにふれるのかわからなくて、ただただ恐ろしくなる。
 だがオーランドは動きを止めず、それどころか、アンリエッタの内腿に手をかけると、彼女の足を限界まで大きく開かせてきた。

「や、やぁ……っ」

 恐怖に喉が引きる。足を閉じようにも、オーランドがみずからの身体を滑り込ませてきたため、彼の胴を締めつけることしかできなかった。

(こんな、あられもない恰好をさせられるなんて!)

 今の自分の姿を想像したアンリエッタは、目の前が真っ赤になるほどの羞恥心に襲われる。
 だがオーランドの指先が淡い茂みのさらに下へと潜り込み、先ほど以上に恥ずかしい部分を探り始めるのを感じると、たちまち恐怖心が戻ってきた。

「な、なにを……っ、きゃう!」

 次の瞬間、その部分にツキリとした痛みを感じる。見れば、オーランドの指先が薄紅色の割れ目の中へと潜り込もうとしていた。

「ひっ! や、やめ……、っあああ!」

 何者も迎え入れたことがない狭いところに、太い指が容赦なく押し入ってくる。アンリエッタはとっさにずり上がって逃げようとした。
 それを易々と押さえつけながら、オーランドは「抵抗するな」と冷たく命じてくる。
 無理やり広げられた隘路あいろがぎちぎちときしむ中、指が付け根の部分まで入り込んできて、アンリエッタは悲鳴を上げた。

「いやっ、い、痛いっ、痛いのぉ……!」

 ズキズキとした痛みと、身体の中を異物がうごめく感覚に真っ青になって、アンリエッタは涙をこぼしながら弱々しく首を振る。
 オーランドが再び舌打ちして、いきなり上体を倒してきた。
 今度はなにをされるのかと萎縮いしゅくするアンリエッタだが、彼の美しいおもてが秘所にぐっと近づいていくのを見て目を見開く。

「やっ、やだ……、あっ、あああ……ッ?」

 次の瞬間、彼の唇が、指が潜り込むところのほんの少し上のところ……そこに隠された快楽の芽に軽くふれてきて、アンリエッタの腰がびくんと跳ねる。
 驚愕に息を呑んだとき、オーランドが唇を開き、そこから赤い舌をのぞかせるのが見えた。
 まさか、と身構えるアンリエッタの前で、彼は伸ばした舌先を芽の部分にねっとりとわせる。

「ひっ……ぅ、うあ!」

 ビリッとするような感覚が立ち上り、アンリエッタの細い肩が跳ねた。覚えのない感覚に身体中が反応して、突き立てられたままの彼の指をぎゅっと締めつけてしまう。
 その感覚を敏感に感じ取ってか、オーランドの眉がわずかに寄せられる。

「やっぱり、なぶられて感じるんじゃないか」
「ち、が……っ、あ、あぁう、うぅ……!」

 否定の言葉はあえぎ声のようなうめきに押し流される。



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