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本編
16:父山羊たちを恋しき子山羊と狼のある決意
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幸生は少し間を置くと……、
「実は、転勤の話があってな……丁度良かったかもしれない」
「……!?」
実は先に帰っていたのは転勤の事でどちらにしろこの場所から引っ越すからだと、七歩にそのことを話したかったのだと幸生は七歩に話す。
「七歩……何があってもおじさんが守る。詩音と、そう約束交わしたんだ……!」
「――っ」
幸生は何があっても七歩を守ると宣言した。
避妊薬の服用中の一週間は医者の言う通り吐く日々が続いて学校なんか通えなかった為、引っ越しの準備もかねて一週間休み、一週間開けた後病院で検査してもらった後避妊薬の服用をやめた。
あの後、逃げるように引越し……SNSで流されないか、あの高校生が突然やってきて写真をネタにしてまた身体を要求するのではないかと不安だったが、そんな不安を取り除かせようと幸生はいつも七歩を支えてくれた。
周りからすれば幸生の行動は過保護気味と思われるかもしれないが、それでも幸生は七歩にとって大切な父親代わりの人だった。
新しい土地に引っ越した数ヶ月後、七歩を強姦した高校生が何者かに殺されたニュースが流れたのだった。七歩はあの3人のニュースが出た時には驚きを隠せなかったのと、内心あの写真が警察に渡っていないか不安だったが、ニュースによればあの3人の高校生のスマホは犯人と思われる人物に壊されていたらしい。
しかし、他の不良仲間にデータを渡したりしていないかなどあの3人が殺されても不安要素はたくさんあった。
そんな不安を抱える七歩に幸生はいつも寄り添ってくれた……。
その3年後、七歩は高校生になりレイプされたトラウマは拭えないが、無事高校まで上がることが出来たことに内心胸を撫で下ろしていた。
しかし今考えると、誰があの3人を殺したのか……何故、スマホを壊したのか、事件はまだ解決しておらず七歩にも犯人がそうした理由はわからない。
・
・
・
――ダン!
「――っ」
話を聞き終わると朧はすぐ横の壁を片方の腕で殴った……。
朧の顔を見ると怒りに顔を歪ませ、歯軋りをしていたのだった。
「ーーそういうことかよ、あの写真の高校生!」
古新聞に掲載されていた高校生の顔写真を見て七歩が取り乱した理由が分かって、朧は高校生3人に怒りを感じずにはいられない。
自分と番になる約束をしていた小夜人も丁度中学生で強姦殺人にあって命を落とした、七歩も中学生の時に先程話した不良高校生3人に……小夜人の事も重なってしまい、あの新聞に載っていた高校生が七歩にしたことを思うと余計許せなかった。
「朧、さん……」
過去を話し終えた七歩が、朧がここまで怒りに募らせた姿を初めて見たので戸惑いを隠せないでいる。
「……悪い、昔あった最悪な事と重なってよ」
「……」
朧は突然怒り出して驚かせてしまったことを詫びる。
「最悪な……事?」
七歩は朧が言う最悪な事とは何のことか問う。
「……また後で話す、手当て終わったか?」
七歩も知られたくない秘密を自分に話してくれたため、朧は後で小夜人の事を七歩に話そうと決心した後、七歩に手当てが終わったか聞いた。
「あっ、はい……終わりました」
七歩は話をしている間に手当てが終わった事を伝える。
「よし、さっさと行こうぜ。」
そう言って立ち上がると朧は部屋を出て上の階に行くよう促した。
(七歩も、Ωって理由で……)
朧は七歩を見て、七歩を見ているとますます小夜人の面影を見ているような錯覚に陥りそうだと思った。
見知らぬ者の身勝手な理由で凌辱された七歩……小夜人も不審者の身勝手な理由で凌辱された後、殺された。
それがますます小夜人の面影と重なるのだった。
においだけではなく、生い立ちも小夜人に似ている……。
(小夜人、お前がこの子を俺に引き寄せたのか? お前と似ているこの子を……)
小夜人が自分の元に七歩を引き寄せた、あり得ない話のはずなのに朧の中でそんな考えが過ってならなかった。
「朧さん……?」
七歩は考え事しながら足取りを進める朧を不審に思い、聞いてみると……
「? ……あぁ、悪い。先を急ごう」
何でもないと答え、朧は前を向いた。
そして二人は二階に進んだ。
二階に進むとやはりたくさんの個室があり、七歩達は数々の部屋を探索して行った。
「ここにその首輪を外すヒントがあればいいのにな」
めぼしいものが見つからず、ただ広く部屋が多い屋敷に朧もうんざりしていた。
「これ、見て……」
「……?」
七歩は部屋の中で何かを見つけた、朧は何を見つけたのか確認するために七歩の元に寄る。
「これ、この屋敷の地図だよね……?」
「らしいな」
七歩が見つけたものはこの屋敷の地図だった、地図によれば二階の渡り廊下から別館へ行けるということが分かった。
「別館もあるのかよ、面倒癖ぇ構造してんのな……」
朧は地図によると別館もあると聞いてただでさえ広すぎる上に部屋数の多い屋敷に別館もあるというものを知ってますます疲弊する気分に陥った。
「……」
「……七歩?」
地図をまじまじと見て考え事をする七歩の様子を不審に思い、朧は七歩に声を掛ける。
「あの久保井って人の言葉を思い出して……」
「……?」
七歩は館の地図を見てふと久保井に言われたことを思い出したことを朧に教える。
『七歩様ぁ……、何を仰られます? あなたの帰るべき家は“ここ”じゃありませんか。』
あの言葉が脳裏に離れなかったのだ、久保井は七歩の帰るべき家はこの屋敷だとはっきり言った。
それが気になって仕方がなかったのだ……。
単なる混乱させるためのハッタリか、それとも事実なのかそれが気になって仕方ないのだ。
「あのマッドサイエンティストが言った七歩おまえの家がここだっていうやつか?」
朧は七歩が何を気がかりに思っているのか何となく分かっていたため、確認するためにあえて聞いた。
七歩は朧が思っている通りだと言う意を込めて頷く。
「僕……4歳か5歳くらいの記憶があいまいでね、お父さんがいつの間にか精神病棟に入院していて、幸生おじさんが代わりに面倒を見てくれていた。」
「――!?」
七歩は4、5歳の時の記憶があいまいだと言うことを話し、その時には父・詩音が精神病棟で入院していてその時には幸生が代わりに面倒を見てくれていたのだと話した。
「幸生おじさんが言うにはね……、お父さんΩでα至上主義の家系出身で、Ωで生まれたことでお祖父ちゃんとお祖母ちゃん以外の親戚の人たちに幼いころから疎まれていたみたい」
「……」
幸生から聞いた話に寄れば、詩音はα至上主義の家系に生まれた為、Ωであることから親戚から腫物扱いされていたのだと七歩は朧に話した。
「おじさん……そんな風にお父さんを蔑む親戚の人たちが許せなかったって言ってた、今思えば親戚の人たちが僕を引き取る話になって誰も手をあげなかった理由がこういうことだったんだなって……なんとなくわかった」
親戚が自分を引き取りたがらなかった理由、幼い自分では分からなかったが、幸生から聞いた話で自分がΩだからα至上主義の親戚からは煙たい存在だったのだと今では分かったと七歩は話す。
「まだ小学生の頃、『どうしてお父さんがそうなったの?』って聞いたら、おじさんは『働いていた場所で酷い目に遭ったんだ』って教えてくれた。その時はどう酷かったのかまでは教えてはくれなかったけど……」
「…………」
七歩は、詩音がどうして精神を病むまでになってしまったのか聞こうとしてもその時の幸生はそうしか答えてくれなかったと話す。
七歩の生い立ちを聞かされ、朧は何も言えない表情になる。
七歩はフェロモンの香りも境遇も小夜人に似ているだけではなかった、朧にも似通った部分があったのだ。
朧の場合は、祖父母は極道嫌いの人間で極道の血を引く自分を蔑んでいた上に母が亡くなった後、厄介払いのように自分を実父に押し付けた。七歩もΩであると言うだけで蔑まれ、親戚からは嫌われ……本当に幸生が居なければ虐待されていたかもしれない立ち位置。
似ていないようでどこか似ている生い立ちに、朧自身は正直戸惑いを隠せていなかった。
(もしかして、こいつは……俺とも境遇似ている?)
朧は七歩の生い立ちを聞いてそう思い始めてもいたのだった……。
「それで……結局、その幸生おじさんはお父さんが病んだ理由について教えてくれなかったのかい?」
「……中学3年の時、幸生おじさんはお父さんについて少しだけ詳しく教えてくれた。」
朧は慌てて話を戻し、幸生は結局七歩の父親が病んだ理由については教えてくれなかったのか聞いた。
七歩は中学三年生の時少しだけ詳しく教えてくれたと話す。
「番になりたくない人と、無理矢理番にさせられたんだって……」
「――!」
同意なしに番にさせられたと幸生は話してくれたと七歩は教える。
「でもそれだけでそれ以上詳しくは……」
余程後ろめたいものがあるらしく幸生は七歩にはこれしか教えてくれなかったようだった。
「それ聞いてどう思った?」
朧は父である詩音がそうなって精神を病んだと聞かされた時七歩自身どう思ったか聞いた。
「お父さんの番の人がどんな人だったかは分からない、でも平気でお父さんを捨てるあたりろくな人じゃないってことは分かったよ」
父の番の人間は平気で無理矢理父を番にしておいて平気で父を捨てるというあたりろくな人間性の持ち主じゃないと七歩は当時思ったと答えた。
「あと、世の中非情で不公平だって思ったよ」
「……?」
そして七歩は意味深な言葉を呟く。
「……あとさ、前に少し記憶を思い出したって言っていたでしょう? 多分、僕がここに連れて行かれる前いつも通り帰ってきたら……おじさんが血まみれで倒れていた」
「――!?」
そして七歩は自分が拉致される前の記憶の事を朧に明かしたのだった。
記憶のビジョンに映っていた幸生は大量の出血をしていてうつぶせで倒れていた。
おそらく何者かに襲撃されて今はもう……、
「その後の事は記憶がぶっつり切れているけど、多分、おじさんは……もう」
記憶の一部が蘇ったことにより幸生の死を悟り、七歩は涙をボロボロと流し始めた。
「なんで……Ωは、こんな肩身狭い思いしないといけないのかなって思った。なんで皆して、お父さんを苛めるのかなって……僕の記憶の中のお父さんは、優しい人だったのに。」
「七歩……」
父の生い立ちと病んだ理由を幸生が話してくれた時、思ったことを七歩は吐露する。
父・詩音は優しい人だったのにΩだという理由で不遇な扱いを受け、挙句の果てには無理矢理番にされて捨てられて精神を病んで死んでいった……。
父が可哀そうすぎると七歩は涙を流す。
「何で、神様は……幸生おじさんをαにしてくれなかったのって恨んだよ。せめて幸生おじさんをαにしてくれれば……きっと、きっと」
――父も幸生も幸せになれた、神様は何故二人を幸せに導いてくれなかったのか。
そう続けたかったのだろうが七歩はひゃっくりをあげて涙をボロボロ流す。
次に七歩は言いたかったのは、おそらく幸生は父の為に自分を育ててくれたのに、αではなくβであんな死に方するなんて不公平だ……。
朧はそれを悟って涙を流す七歩を抱きしめ……、
「もういい、七歩……泣くな。」
朧は七歩に優しく促した、そして朧は言った……。
「幸生おじさん、すげーいい人だったんだな。よく分かった……お前にとって大切な人だったってのも、良く分かったよ」
朧は七歩の大切な人だった幸生が人間として出来ていた人物だったことを改めて痛感した。
そして心の中で改めて決意した……幸生の代わりに七歩を守ると。
「実は、転勤の話があってな……丁度良かったかもしれない」
「……!?」
実は先に帰っていたのは転勤の事でどちらにしろこの場所から引っ越すからだと、七歩にそのことを話したかったのだと幸生は七歩に話す。
「七歩……何があってもおじさんが守る。詩音と、そう約束交わしたんだ……!」
「――っ」
幸生は何があっても七歩を守ると宣言した。
避妊薬の服用中の一週間は医者の言う通り吐く日々が続いて学校なんか通えなかった為、引っ越しの準備もかねて一週間休み、一週間開けた後病院で検査してもらった後避妊薬の服用をやめた。
あの後、逃げるように引越し……SNSで流されないか、あの高校生が突然やってきて写真をネタにしてまた身体を要求するのではないかと不安だったが、そんな不安を取り除かせようと幸生はいつも七歩を支えてくれた。
周りからすれば幸生の行動は過保護気味と思われるかもしれないが、それでも幸生は七歩にとって大切な父親代わりの人だった。
新しい土地に引っ越した数ヶ月後、七歩を強姦した高校生が何者かに殺されたニュースが流れたのだった。七歩はあの3人のニュースが出た時には驚きを隠せなかったのと、内心あの写真が警察に渡っていないか不安だったが、ニュースによればあの3人の高校生のスマホは犯人と思われる人物に壊されていたらしい。
しかし、他の不良仲間にデータを渡したりしていないかなどあの3人が殺されても不安要素はたくさんあった。
そんな不安を抱える七歩に幸生はいつも寄り添ってくれた……。
その3年後、七歩は高校生になりレイプされたトラウマは拭えないが、無事高校まで上がることが出来たことに内心胸を撫で下ろしていた。
しかし今考えると、誰があの3人を殺したのか……何故、スマホを壊したのか、事件はまだ解決しておらず七歩にも犯人がそうした理由はわからない。
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――ダン!
「――っ」
話を聞き終わると朧はすぐ横の壁を片方の腕で殴った……。
朧の顔を見ると怒りに顔を歪ませ、歯軋りをしていたのだった。
「ーーそういうことかよ、あの写真の高校生!」
古新聞に掲載されていた高校生の顔写真を見て七歩が取り乱した理由が分かって、朧は高校生3人に怒りを感じずにはいられない。
自分と番になる約束をしていた小夜人も丁度中学生で強姦殺人にあって命を落とした、七歩も中学生の時に先程話した不良高校生3人に……小夜人の事も重なってしまい、あの新聞に載っていた高校生が七歩にしたことを思うと余計許せなかった。
「朧、さん……」
過去を話し終えた七歩が、朧がここまで怒りに募らせた姿を初めて見たので戸惑いを隠せないでいる。
「……悪い、昔あった最悪な事と重なってよ」
「……」
朧は突然怒り出して驚かせてしまったことを詫びる。
「最悪な……事?」
七歩は朧が言う最悪な事とは何のことか問う。
「……また後で話す、手当て終わったか?」
七歩も知られたくない秘密を自分に話してくれたため、朧は後で小夜人の事を七歩に話そうと決心した後、七歩に手当てが終わったか聞いた。
「あっ、はい……終わりました」
七歩は話をしている間に手当てが終わった事を伝える。
「よし、さっさと行こうぜ。」
そう言って立ち上がると朧は部屋を出て上の階に行くよう促した。
(七歩も、Ωって理由で……)
朧は七歩を見て、七歩を見ているとますます小夜人の面影を見ているような錯覚に陥りそうだと思った。
見知らぬ者の身勝手な理由で凌辱された七歩……小夜人も不審者の身勝手な理由で凌辱された後、殺された。
それがますます小夜人の面影と重なるのだった。
においだけではなく、生い立ちも小夜人に似ている……。
(小夜人、お前がこの子を俺に引き寄せたのか? お前と似ているこの子を……)
小夜人が自分の元に七歩を引き寄せた、あり得ない話のはずなのに朧の中でそんな考えが過ってならなかった。
「朧さん……?」
七歩は考え事しながら足取りを進める朧を不審に思い、聞いてみると……
「? ……あぁ、悪い。先を急ごう」
何でもないと答え、朧は前を向いた。
そして二人は二階に進んだ。
二階に進むとやはりたくさんの個室があり、七歩達は数々の部屋を探索して行った。
「ここにその首輪を外すヒントがあればいいのにな」
めぼしいものが見つからず、ただ広く部屋が多い屋敷に朧もうんざりしていた。
「これ、見て……」
「……?」
七歩は部屋の中で何かを見つけた、朧は何を見つけたのか確認するために七歩の元に寄る。
「これ、この屋敷の地図だよね……?」
「らしいな」
七歩が見つけたものはこの屋敷の地図だった、地図によれば二階の渡り廊下から別館へ行けるということが分かった。
「別館もあるのかよ、面倒癖ぇ構造してんのな……」
朧は地図によると別館もあると聞いてただでさえ広すぎる上に部屋数の多い屋敷に別館もあるというものを知ってますます疲弊する気分に陥った。
「……」
「……七歩?」
地図をまじまじと見て考え事をする七歩の様子を不審に思い、朧は七歩に声を掛ける。
「あの久保井って人の言葉を思い出して……」
「……?」
七歩は館の地図を見てふと久保井に言われたことを思い出したことを朧に教える。
『七歩様ぁ……、何を仰られます? あなたの帰るべき家は“ここ”じゃありませんか。』
あの言葉が脳裏に離れなかったのだ、久保井は七歩の帰るべき家はこの屋敷だとはっきり言った。
それが気になって仕方がなかったのだ……。
単なる混乱させるためのハッタリか、それとも事実なのかそれが気になって仕方ないのだ。
「あのマッドサイエンティストが言った七歩おまえの家がここだっていうやつか?」
朧は七歩が何を気がかりに思っているのか何となく分かっていたため、確認するためにあえて聞いた。
七歩は朧が思っている通りだと言う意を込めて頷く。
「僕……4歳か5歳くらいの記憶があいまいでね、お父さんがいつの間にか精神病棟に入院していて、幸生おじさんが代わりに面倒を見てくれていた。」
「――!?」
七歩は4、5歳の時の記憶があいまいだと言うことを話し、その時には父・詩音が精神病棟で入院していてその時には幸生が代わりに面倒を見てくれていたのだと話した。
「幸生おじさんが言うにはね……、お父さんΩでα至上主義の家系出身で、Ωで生まれたことでお祖父ちゃんとお祖母ちゃん以外の親戚の人たちに幼いころから疎まれていたみたい」
「……」
幸生から聞いた話に寄れば、詩音はα至上主義の家系に生まれた為、Ωであることから親戚から腫物扱いされていたのだと七歩は朧に話した。
「おじさん……そんな風にお父さんを蔑む親戚の人たちが許せなかったって言ってた、今思えば親戚の人たちが僕を引き取る話になって誰も手をあげなかった理由がこういうことだったんだなって……なんとなくわかった」
親戚が自分を引き取りたがらなかった理由、幼い自分では分からなかったが、幸生から聞いた話で自分がΩだからα至上主義の親戚からは煙たい存在だったのだと今では分かったと七歩は話す。
「まだ小学生の頃、『どうしてお父さんがそうなったの?』って聞いたら、おじさんは『働いていた場所で酷い目に遭ったんだ』って教えてくれた。その時はどう酷かったのかまでは教えてはくれなかったけど……」
「…………」
七歩は、詩音がどうして精神を病むまでになってしまったのか聞こうとしてもその時の幸生はそうしか答えてくれなかったと話す。
七歩の生い立ちを聞かされ、朧は何も言えない表情になる。
七歩はフェロモンの香りも境遇も小夜人に似ているだけではなかった、朧にも似通った部分があったのだ。
朧の場合は、祖父母は極道嫌いの人間で極道の血を引く自分を蔑んでいた上に母が亡くなった後、厄介払いのように自分を実父に押し付けた。七歩もΩであると言うだけで蔑まれ、親戚からは嫌われ……本当に幸生が居なければ虐待されていたかもしれない立ち位置。
似ていないようでどこか似ている生い立ちに、朧自身は正直戸惑いを隠せていなかった。
(もしかして、こいつは……俺とも境遇似ている?)
朧は七歩の生い立ちを聞いてそう思い始めてもいたのだった……。
「それで……結局、その幸生おじさんはお父さんが病んだ理由について教えてくれなかったのかい?」
「……中学3年の時、幸生おじさんはお父さんについて少しだけ詳しく教えてくれた。」
朧は慌てて話を戻し、幸生は結局七歩の父親が病んだ理由については教えてくれなかったのか聞いた。
七歩は中学三年生の時少しだけ詳しく教えてくれたと話す。
「番になりたくない人と、無理矢理番にさせられたんだって……」
「――!」
同意なしに番にさせられたと幸生は話してくれたと七歩は教える。
「でもそれだけでそれ以上詳しくは……」
余程後ろめたいものがあるらしく幸生は七歩にはこれしか教えてくれなかったようだった。
「それ聞いてどう思った?」
朧は父である詩音がそうなって精神を病んだと聞かされた時七歩自身どう思ったか聞いた。
「お父さんの番の人がどんな人だったかは分からない、でも平気でお父さんを捨てるあたりろくな人じゃないってことは分かったよ」
父の番の人間は平気で無理矢理父を番にしておいて平気で父を捨てるというあたりろくな人間性の持ち主じゃないと七歩は当時思ったと答えた。
「あと、世の中非情で不公平だって思ったよ」
「……?」
そして七歩は意味深な言葉を呟く。
「……あとさ、前に少し記憶を思い出したって言っていたでしょう? 多分、僕がここに連れて行かれる前いつも通り帰ってきたら……おじさんが血まみれで倒れていた」
「――!?」
そして七歩は自分が拉致される前の記憶の事を朧に明かしたのだった。
記憶のビジョンに映っていた幸生は大量の出血をしていてうつぶせで倒れていた。
おそらく何者かに襲撃されて今はもう……、
「その後の事は記憶がぶっつり切れているけど、多分、おじさんは……もう」
記憶の一部が蘇ったことにより幸生の死を悟り、七歩は涙をボロボロと流し始めた。
「なんで……Ωは、こんな肩身狭い思いしないといけないのかなって思った。なんで皆して、お父さんを苛めるのかなって……僕の記憶の中のお父さんは、優しい人だったのに。」
「七歩……」
父の生い立ちと病んだ理由を幸生が話してくれた時、思ったことを七歩は吐露する。
父・詩音は優しい人だったのにΩだという理由で不遇な扱いを受け、挙句の果てには無理矢理番にされて捨てられて精神を病んで死んでいった……。
父が可哀そうすぎると七歩は涙を流す。
「何で、神様は……幸生おじさんをαにしてくれなかったのって恨んだよ。せめて幸生おじさんをαにしてくれれば……きっと、きっと」
――父も幸生も幸せになれた、神様は何故二人を幸せに導いてくれなかったのか。
そう続けたかったのだろうが七歩はひゃっくりをあげて涙をボロボロ流す。
次に七歩は言いたかったのは、おそらく幸生は父の為に自分を育ててくれたのに、αではなくβであんな死に方するなんて不公平だ……。
朧はそれを悟って涙を流す七歩を抱きしめ……、
「もういい、七歩……泣くな。」
朧は七歩に優しく促した、そして朧は言った……。
「幸生おじさん、すげーいい人だったんだな。よく分かった……お前にとって大切な人だったってのも、良く分かったよ」
朧は七歩の大切な人だった幸生が人間として出来ていた人物だったことを改めて痛感した。
そして心の中で改めて決意した……幸生の代わりに七歩を守ると。
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