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本編
18:柳の幽霊は狂気を見せて二匹を襲う……。
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一階の食堂まで案内され、食事が用意されている食卓に座らされた。
「えっと……」
「――あっ、私のしたことが、忘れていました……私は“柳葉玲司”と申します。ここの執事長を務めさせてもらっています、今後は柳葉と言ってくださいませ。」
七歩が戸惑っていると、怪しい執事は役職と名前を言い忘れたと言い、改めて自己紹介をする。
「えっとその……」
「冷めてしまいますよ……どうぞ?」
柳葉が一体何をしたいのか分からず七歩が戸惑っていると柳葉は食事をするよう発破をかけてきた、話が通じそうにない。
――カチャ……
「……」
取りあえずナプキンを掛けて、お茶からいただくことにした……。
「…………」
柳葉の読めない態度にはさすがの朧にも動揺を隠せていないようだった、しかも朧は柳葉には自傷癖があると気付いていたので柳葉の態度に不安が募るばかりだった。
自傷癖があるというのは、二通り……自殺志願か、精神を病んでいる人間ということになる。おそらく柳葉は後者だろう、病んでいる人間はどこで逆上するか分からないから余計に不安なのだ。
一応、主賓の立場にいる七歩がお茶を手に取ったので自分も危うくなさそうなものから摂る。
すると、ずっと直立不動で七歩の傍に立っていた柳葉が口を開き……
「私のご主人様は……七歩様、貴方を“バルドル”のように見えるとおっしゃいます。」
突然、意味深な言葉を発言する。
「――はっ!?」
「バルドル……?」
その言葉にさすがの二人も眉をひそめるだけだった。
バルドル……北欧神話の光の神のことでさっきの展示室にもあった絵画の中の美男子を指すのだというのは先程の本で分かっていたが、何故それが七歩になるのか分からなかった。
「貴方が居なければ僕は終わるのだと……絶対に探し出して、見つけ出して……手元に置いておきたかったのだ。そうおっしゃっております」
「…………」
そして柳葉は主曰く、主にとって七歩は“バルドル”そのもので傍にいなければ自分は終わったも同じと……、そしてどうしても見つけ出して手元に置いておきたかったのだと言う。
柳葉の言うことが本当ならば迷惑極まりないし、何故そんなことで自分が監禁されなければならないのかますます主が七歩を攫った動機に理解が出来なかった。
ますます食欲が失せた七歩は……、
「ご馳走様……」
ナイフとフォークを置き、ナプキンを適当に畳んだ。
「……悪いが俺も」
朧も同意してもう食事はいらないと柳葉に言う。
そして朧は小声で……、
「(あいつ……なんかヤベえとおもう。早く離れよう)」
七歩にそう耳打ちしてさっさと食堂を去った。
二人が食堂を去ったのを見越すと柳葉は二人の残した食事を見つめ……、
「Ωは……本当に節操なしですね、しおらしくして朧(あのおとこ)にも色目使って」
心の中で思っていたことを呟く。
「……どうでしたか?」
キッチンに続くドアが開いて使用人の青年が柳葉に聞いて来た。
コックがいない代わりに、使用人の青年が手料理をふるっていたのだった……。
柳葉が料理に目をやっているので青年は料理の形跡を見てみると……、
「あらら、ほとんど手に付けてない」
手に付けてあるのは紅茶ぐらいで二人は他の料理には手を出していないことが分かって青年は少し落胆している。
「まぁ、一応貴方の指示通りにしましたよ?」
「指示通りやってくれないと困ります、そうでないと……意味ないのです」
青年は執事長である柳葉に指示通りにちゃんとやったことを伝えた。
そして、そうしてくれないと困ると柳葉は青年に注意する、異様な柳葉の態度に青年は呆れながら食事を片づけ始める。
(今頃どうなってるかな? あの二人……執事長に目をつけられたよ。特にあの子山羊ちゃんは……、ご主人様とは別の意味で)
青年はあの二人は今頃どうしているか考えながら、食事を片付けを続けていた。
――その頃、七歩達は……
「何だろ……めまいがする」
食事をとってから変なめまいがすると朧に言う。
「頑張れ……鍵がかけられる部屋があったはずだ、そこで一休みしよう」
(くそ……一服盛りやがったな、あの執事!)
朧も七歩と同じ状況でめまいと頭痛に襲われていた、食事後にすぐ具合悪くなると言うことは食事になにかの作用がある薬を盛ったのだろうと朧は確信した。
(まてよ……、かすかに向こうの扉から食器の音が聞こえた気がする)
食事中、朧は食堂の向こう側のキッチンに続くと思われる扉から微かに食器の鳴る音が聞こえたのを思い出した。
(だとしたら盛ったのはあいつか……? 柳葉って言う執事の命令か?)
朧は食事中に食堂の向こう側の扉に誰かいたのではということと、柳葉に命令されてその人物が何か具合が悪くなる薬を食事に入れたのではと疑い始める。
(……休憩室、ついた)
薬に蝕まれる身体を叱咤しながら、七歩達は休憩室にたどり着く。
休憩室には一人が十分横になって眠れるソファが二つあった。
「……早く、入ってソファに横になれ……俺は鍵を掛けてから寝る」
「分かった……」
朧は七歩にそう指示し、七歩はすぐ横になると眠った。朧は鍵を掛けてからソファに倒れるように眠ったのだった……。
・
・
・
カチャ……
ぎぃ……
七歩達が横になっている休憩室に誰かが鍵を開けて入ってくる。
柳葉だった、そして柳葉はかさぶたになったリストカットの跡を気にしていながら眠っている七歩の方のソファに近づいてくる。
「罪深い人……そうやってか弱くしおらしく見せて……そのしおらしさでご主人様もたぶらかしたんでしょう?」
眠っている七歩に柳葉は憎々しげな言葉で呟く。
「ん……あ?」
ここで朧が目を覚まし、視界を安定させようと瞬きを数回繰り返す。
「なな……――っ!?」
七歩を起こして先に進もうと体を起き上がらせると柳葉がいることに気付いた。
柳葉は手をかざし七歩の身体を手で下から上に沿っていき、股間にたどり着くと……、
「ここから、雌の臭いをまき散らすのでしょう? 貴方達Ωは……」
そう呟いて柳葉は……、
――ぐっ
「――っ!?」
七歩の大事なモノを握りつぶす勢いで掴んだのだった。
「あっう!? ……痛い!」
大事なモノを掴まれた痛みで七歩も起き上がり、悲鳴を上げて痛みを訴える。
「――っ?!」
七歩は柳葉の顔を確認すると柳葉は無表情で殺意に満ちた目をしていた……。
柳葉は何をしたいのか、一体何故自分の股間を潰すほど握る真似なんてするのか七歩からすれば意味の分からない行動である。
「――てめえ、いきなり何しやがる!!」
――ガッ!
朧はもっていた銃を取り出すと銃のグリップ部分で柳葉の頭を思いっきり叩いた。
叩かれた反動で柳葉は七歩の股間から手を放し、七歩はようやく解放される。
「――はぁっ、はぁっ!」
七歩は柳葉からすぐ離れて朧の元に行く。
……じろり
柳葉は動かないまま、眼だけ動かして七歩達を見る。
そして柳葉は……、
「そうやってあなた達Ωは自分に気があるαにまた言い寄るんですか?」
七歩の方を向いて意味深な事を聞いてくる、その言い方だとまるで七歩が朧に色目を使っているような言い回しだった。
「てめぇ、いったい何なんだよ……気持ち悪ぃ」
朧が柳葉の行動がすべて意味不明で理解不能で「気持ち悪い」と言う。
「――っ」
七歩も、自分が一体何をしたというのか、柳葉の反感を買うような真似なんてしていないのに自分が悪いような言い方をされて不快に思っていたので朧の言葉に同意を込めて柳葉を睨む。
柳葉はしばらく黙っていたが、急に奇妙な笑みを浮かべると……
「ふふっ、Ωは本当に節操なし……この招かれざる客だって手玉にとって……」
そう独り言を呟いた瞬間……、
「ふふっ、あはは……――あはははははははっ!」
「「――!?」」
先程食事の案内をしていた態度とは違い、狂気にも似た高笑いを上げ始めた。
柳葉の奇行と理解不能の思考を現す様子に、二人は背筋を凍らずにはいられなかった……。
「ねぇ……朧さんこの人」
「あぁ、こいつ……今までのより色んな意味でヤバいかも」
柳葉の突然の高笑いの中、二人は柳葉をいままで追っかけてきた森田や久保井とはなにか違う不味いものを帯びていると評した。
「…………」
そして、ぴたりと柳葉は高笑いを止めるとどこかに足取りを進める。
――ハッ!
柳葉が向かっている先を見て朧は何かを察した。
「逃げるぞ……」
「――えっ!?」
急に朧にそう言われ、七歩はどういう事か柳葉の方を改めて見つめると柳葉が装飾用として休憩室に飾ってあるレイピアに手を伸ばそうとしているのが分かった。
そして柳葉はレイピアを手に取ってレイピアの鞘を投げた……。
足に触った椅子を見つけると柳葉は……、
――バシュ!!
……ガタン
レイピアを一振り振り回した、すると椅子の背もたれ部分が斜めに切られたのだった、柳葉が手にしたレイピアの切れ味を見るには十分すぎるくらいの参考だった。
二人は柳葉から距離を取るように後ずさりする。
「Ω、Ω……憎たらしい」
柳葉は不敵な笑みを浮かべ、そう呟きながら二人から距離を縮めてくる。
そして壁に掛けてあった額縁が下に落ちた瞬間……、
――ダッ!
柳葉は二人に向かってきたのだった。
「――おらぁ!!」
――ガン!
「――!?」
その場に有った丸テーブルを蹴り上げ、一時的な足止めを朧がすると朧はすぐさま七歩の手を握って休憩室から出る。
勿論一時しのぎの足止めにしかならない為、後ろを見ると柳葉はすぐ追っかけてきた。
しかもそれだけではなかった……、森田や久保井よりも柳葉は足が速かった。
二人は息を切らしながらやり過ごせる場所がないか思い浮かべるが柳葉の足の速さはそれを考えさせる余裕をなくさせる、このまま二人が走り続けてもいずれ柳葉に追いつかれるかもしれないと思った朧は……、
「――ちっ!」
七歩の手を放して後ろを振り向き……、
――ドン、ドン、ドン!
「――!?」
牽制と足止めを兼ねて屋敷の物を愛銃で撃ち始め、柳葉の言葉からして七歩に焦点を向けていることはなんとなく察していた為、朧はおとり役を演じることを決めた。
「朧さん……!?」
七歩は朧が急に銃を取り出して屋敷の物を撃ち始めたので驚く。
「――何してやがる、早く先に行って逃げろ!」
朧は強い口調で自分が囮になるから先に逃げろと促した。七歩は最初戸惑ったものの……、
「必ず戻ってきて……!」
そう朧と約束して一足先に逃げることに徹底することに決めたのだった。
「あぁ……彼を盾にして逃げるのか、狡いΩ」
銃撃を避けていた柳葉は朧を置いて逃げていく七歩の姿を見てそう呟いた。
「誤解めいた言い方だな? 俺があの子を逃がしたんだ……キ○ガイ執事、てめえから、七歩を追い掛けさせないためにな」
朧は七歩を一方的に悪く言う柳葉にそう言い返す。
「どのΩも一緒ですよ、私から大事な物を奪って行く……」
「……?」
柳葉はまた意味深な言葉を吐いた、そして柳葉は一瞬暗い顔をしてレイピアに映った顔を見て……
「ねぇ……祐司、そんなにあのΩが居なきゃダメだった?」
一瞬悲しそうな顔をして誰かに問いかけるような言葉を放ったのだった……。
「えっと……」
「――あっ、私のしたことが、忘れていました……私は“柳葉玲司”と申します。ここの執事長を務めさせてもらっています、今後は柳葉と言ってくださいませ。」
七歩が戸惑っていると、怪しい執事は役職と名前を言い忘れたと言い、改めて自己紹介をする。
「えっとその……」
「冷めてしまいますよ……どうぞ?」
柳葉が一体何をしたいのか分からず七歩が戸惑っていると柳葉は食事をするよう発破をかけてきた、話が通じそうにない。
――カチャ……
「……」
取りあえずナプキンを掛けて、お茶からいただくことにした……。
「…………」
柳葉の読めない態度にはさすがの朧にも動揺を隠せていないようだった、しかも朧は柳葉には自傷癖があると気付いていたので柳葉の態度に不安が募るばかりだった。
自傷癖があるというのは、二通り……自殺志願か、精神を病んでいる人間ということになる。おそらく柳葉は後者だろう、病んでいる人間はどこで逆上するか分からないから余計に不安なのだ。
一応、主賓の立場にいる七歩がお茶を手に取ったので自分も危うくなさそうなものから摂る。
すると、ずっと直立不動で七歩の傍に立っていた柳葉が口を開き……
「私のご主人様は……七歩様、貴方を“バルドル”のように見えるとおっしゃいます。」
突然、意味深な言葉を発言する。
「――はっ!?」
「バルドル……?」
その言葉にさすがの二人も眉をひそめるだけだった。
バルドル……北欧神話の光の神のことでさっきの展示室にもあった絵画の中の美男子を指すのだというのは先程の本で分かっていたが、何故それが七歩になるのか分からなかった。
「貴方が居なければ僕は終わるのだと……絶対に探し出して、見つけ出して……手元に置いておきたかったのだ。そうおっしゃっております」
「…………」
そして柳葉は主曰く、主にとって七歩は“バルドル”そのもので傍にいなければ自分は終わったも同じと……、そしてどうしても見つけ出して手元に置いておきたかったのだと言う。
柳葉の言うことが本当ならば迷惑極まりないし、何故そんなことで自分が監禁されなければならないのかますます主が七歩を攫った動機に理解が出来なかった。
ますます食欲が失せた七歩は……、
「ご馳走様……」
ナイフとフォークを置き、ナプキンを適当に畳んだ。
「……悪いが俺も」
朧も同意してもう食事はいらないと柳葉に言う。
そして朧は小声で……、
「(あいつ……なんかヤベえとおもう。早く離れよう)」
七歩にそう耳打ちしてさっさと食堂を去った。
二人が食堂を去ったのを見越すと柳葉は二人の残した食事を見つめ……、
「Ωは……本当に節操なしですね、しおらしくして朧(あのおとこ)にも色目使って」
心の中で思っていたことを呟く。
「……どうでしたか?」
キッチンに続くドアが開いて使用人の青年が柳葉に聞いて来た。
コックがいない代わりに、使用人の青年が手料理をふるっていたのだった……。
柳葉が料理に目をやっているので青年は料理の形跡を見てみると……、
「あらら、ほとんど手に付けてない」
手に付けてあるのは紅茶ぐらいで二人は他の料理には手を出していないことが分かって青年は少し落胆している。
「まぁ、一応貴方の指示通りにしましたよ?」
「指示通りやってくれないと困ります、そうでないと……意味ないのです」
青年は執事長である柳葉に指示通りにちゃんとやったことを伝えた。
そして、そうしてくれないと困ると柳葉は青年に注意する、異様な柳葉の態度に青年は呆れながら食事を片づけ始める。
(今頃どうなってるかな? あの二人……執事長に目をつけられたよ。特にあの子山羊ちゃんは……、ご主人様とは別の意味で)
青年はあの二人は今頃どうしているか考えながら、食事を片付けを続けていた。
――その頃、七歩達は……
「何だろ……めまいがする」
食事をとってから変なめまいがすると朧に言う。
「頑張れ……鍵がかけられる部屋があったはずだ、そこで一休みしよう」
(くそ……一服盛りやがったな、あの執事!)
朧も七歩と同じ状況でめまいと頭痛に襲われていた、食事後にすぐ具合悪くなると言うことは食事になにかの作用がある薬を盛ったのだろうと朧は確信した。
(まてよ……、かすかに向こうの扉から食器の音が聞こえた気がする)
食事中、朧は食堂の向こう側のキッチンに続くと思われる扉から微かに食器の鳴る音が聞こえたのを思い出した。
(だとしたら盛ったのはあいつか……? 柳葉って言う執事の命令か?)
朧は食事中に食堂の向こう側の扉に誰かいたのではということと、柳葉に命令されてその人物が何か具合が悪くなる薬を食事に入れたのではと疑い始める。
(……休憩室、ついた)
薬に蝕まれる身体を叱咤しながら、七歩達は休憩室にたどり着く。
休憩室には一人が十分横になって眠れるソファが二つあった。
「……早く、入ってソファに横になれ……俺は鍵を掛けてから寝る」
「分かった……」
朧は七歩にそう指示し、七歩はすぐ横になると眠った。朧は鍵を掛けてからソファに倒れるように眠ったのだった……。
・
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カチャ……
ぎぃ……
七歩達が横になっている休憩室に誰かが鍵を開けて入ってくる。
柳葉だった、そして柳葉はかさぶたになったリストカットの跡を気にしていながら眠っている七歩の方のソファに近づいてくる。
「罪深い人……そうやってか弱くしおらしく見せて……そのしおらしさでご主人様もたぶらかしたんでしょう?」
眠っている七歩に柳葉は憎々しげな言葉で呟く。
「ん……あ?」
ここで朧が目を覚まし、視界を安定させようと瞬きを数回繰り返す。
「なな……――っ!?」
七歩を起こして先に進もうと体を起き上がらせると柳葉がいることに気付いた。
柳葉は手をかざし七歩の身体を手で下から上に沿っていき、股間にたどり着くと……、
「ここから、雌の臭いをまき散らすのでしょう? 貴方達Ωは……」
そう呟いて柳葉は……、
――ぐっ
「――っ!?」
七歩の大事なモノを握りつぶす勢いで掴んだのだった。
「あっう!? ……痛い!」
大事なモノを掴まれた痛みで七歩も起き上がり、悲鳴を上げて痛みを訴える。
「――っ?!」
七歩は柳葉の顔を確認すると柳葉は無表情で殺意に満ちた目をしていた……。
柳葉は何をしたいのか、一体何故自分の股間を潰すほど握る真似なんてするのか七歩からすれば意味の分からない行動である。
「――てめえ、いきなり何しやがる!!」
――ガッ!
朧はもっていた銃を取り出すと銃のグリップ部分で柳葉の頭を思いっきり叩いた。
叩かれた反動で柳葉は七歩の股間から手を放し、七歩はようやく解放される。
「――はぁっ、はぁっ!」
七歩は柳葉からすぐ離れて朧の元に行く。
……じろり
柳葉は動かないまま、眼だけ動かして七歩達を見る。
そして柳葉は……、
「そうやってあなた達Ωは自分に気があるαにまた言い寄るんですか?」
七歩の方を向いて意味深な事を聞いてくる、その言い方だとまるで七歩が朧に色目を使っているような言い回しだった。
「てめぇ、いったい何なんだよ……気持ち悪ぃ」
朧が柳葉の行動がすべて意味不明で理解不能で「気持ち悪い」と言う。
「――っ」
七歩も、自分が一体何をしたというのか、柳葉の反感を買うような真似なんてしていないのに自分が悪いような言い方をされて不快に思っていたので朧の言葉に同意を込めて柳葉を睨む。
柳葉はしばらく黙っていたが、急に奇妙な笑みを浮かべると……
「ふふっ、Ωは本当に節操なし……この招かれざる客だって手玉にとって……」
そう独り言を呟いた瞬間……、
「ふふっ、あはは……――あはははははははっ!」
「「――!?」」
先程食事の案内をしていた態度とは違い、狂気にも似た高笑いを上げ始めた。
柳葉の奇行と理解不能の思考を現す様子に、二人は背筋を凍らずにはいられなかった……。
「ねぇ……朧さんこの人」
「あぁ、こいつ……今までのより色んな意味でヤバいかも」
柳葉の突然の高笑いの中、二人は柳葉をいままで追っかけてきた森田や久保井とはなにか違う不味いものを帯びていると評した。
「…………」
そして、ぴたりと柳葉は高笑いを止めるとどこかに足取りを進める。
――ハッ!
柳葉が向かっている先を見て朧は何かを察した。
「逃げるぞ……」
「――えっ!?」
急に朧にそう言われ、七歩はどういう事か柳葉の方を改めて見つめると柳葉が装飾用として休憩室に飾ってあるレイピアに手を伸ばそうとしているのが分かった。
そして柳葉はレイピアを手に取ってレイピアの鞘を投げた……。
足に触った椅子を見つけると柳葉は……、
――バシュ!!
……ガタン
レイピアを一振り振り回した、すると椅子の背もたれ部分が斜めに切られたのだった、柳葉が手にしたレイピアの切れ味を見るには十分すぎるくらいの参考だった。
二人は柳葉から距離を取るように後ずさりする。
「Ω、Ω……憎たらしい」
柳葉は不敵な笑みを浮かべ、そう呟きながら二人から距離を縮めてくる。
そして壁に掛けてあった額縁が下に落ちた瞬間……、
――ダッ!
柳葉は二人に向かってきたのだった。
「――おらぁ!!」
――ガン!
「――!?」
その場に有った丸テーブルを蹴り上げ、一時的な足止めを朧がすると朧はすぐさま七歩の手を握って休憩室から出る。
勿論一時しのぎの足止めにしかならない為、後ろを見ると柳葉はすぐ追っかけてきた。
しかもそれだけではなかった……、森田や久保井よりも柳葉は足が速かった。
二人は息を切らしながらやり過ごせる場所がないか思い浮かべるが柳葉の足の速さはそれを考えさせる余裕をなくさせる、このまま二人が走り続けてもいずれ柳葉に追いつかれるかもしれないと思った朧は……、
「――ちっ!」
七歩の手を放して後ろを振り向き……、
――ドン、ドン、ドン!
「――!?」
牽制と足止めを兼ねて屋敷の物を愛銃で撃ち始め、柳葉の言葉からして七歩に焦点を向けていることはなんとなく察していた為、朧はおとり役を演じることを決めた。
「朧さん……!?」
七歩は朧が急に銃を取り出して屋敷の物を撃ち始めたので驚く。
「――何してやがる、早く先に行って逃げろ!」
朧は強い口調で自分が囮になるから先に逃げろと促した。七歩は最初戸惑ったものの……、
「必ず戻ってきて……!」
そう朧と約束して一足先に逃げることに徹底することに決めたのだった。
「あぁ……彼を盾にして逃げるのか、狡いΩ」
銃撃を避けていた柳葉は朧を置いて逃げていく七歩の姿を見てそう呟いた。
「誤解めいた言い方だな? 俺があの子を逃がしたんだ……キ○ガイ執事、てめえから、七歩を追い掛けさせないためにな」
朧は七歩を一方的に悪く言う柳葉にそう言い返す。
「どのΩも一緒ですよ、私から大事な物を奪って行く……」
「……?」
柳葉はまた意味深な言葉を吐いた、そして柳葉は一瞬暗い顔をしてレイピアに映った顔を見て……
「ねぇ……祐司、そんなにあのΩが居なきゃダメだった?」
一瞬悲しそうな顔をして誰かに問いかけるような言葉を放ったのだった……。
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