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本編
第三話:人魚族の掟
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鮫淵は明澄を抱え、厳生がいる浅瀬まで戻ってきた。
「王子、お疲れ様でした」
厳生は一礼して鮫淵に労いの言葉をかける。
「厳生、すまないがあれを明澄に飲ませてやりたい」
「――はい、ここに有ります」
用意周到に厳生は鮫淵が要求していたものを差し出した。それは水筒状のような貝殻に入っていてコルクで栓がしてあった。
「遣いの者はすでに呼んであります。」
「わかった……」
鮫淵は厳生の言葉に返答するなり、一旦明澄を砂の上に降ろした。
鮫淵はコルクの栓を口で明け、その中に入っていたものを口に含めると口移しで明澄に飲ませたのだった……。
――ごくっ
明澄が喉を鳴らしたため無意識にそれを飲みこんだと見越した。自分が口移しで飲ませたものを飲み込んだと見越した鮫淵は口を離し……、
「これでよし……これでなら水中でも呼吸できるはずだ」
自分達人魚の住処に連れて行くのだから水中を通らなければいけない為、鮫淵はそんな人間の為に水中でも呼吸できる薬を飲ませたのだった。
「……すまない、きまりなんだ。許してくれ」
鮫淵は掟とはいえ、正体を知ってしまった明澄を無理矢理連れて行くのに負い目を感じていた。
「仕方ありませんよ、それに大丈夫……彼も分かってくれます。」
掟なのだから仕方ないのだと厳生は鮫淵を慰める。
「さぁ……行きましょう。王子」
そして厳生は遣いの者が来たので早く目が覚めない内に明澄を連れて行こうと発破をかけた。鮫淵は明澄を抱え、使いの者がいる海へと入って行った。
明澄はただ鮫淵の腕の中で眠るだけであった……。
・
・
・
「うっ……」
目を覚ますと明澄はあおむけでベッドに寝かせられていた。
「ここは……?」
明澄は体を起き上がらせる。そして今まで自分が何をしていたのか思い出そうとしていた……。
(あれ? 確か浜辺を散歩していたら、鮫淵先輩が誰かと……――あっ!)
そして自分が何を見たのか、鮫淵が何者なのか思い出した。そして辺りを見渡すと自分の部屋ではないことは明らかだった。ここはどこなのだろうと思い、外を確認しようと窓を開けてみた。
「――!?」
明澄は外の雰囲気に驚愕するしかなかった、自分が普段見ている光景とは全く違うものだった……。
町よりかなり遠くの景色にはゆらゆらと視界が揺れ動いているが色とりどりのサンゴ礁が見えた。
窓の下を見ると王宮のような白い塀で囲まれ、その城下町と思わしき街並には人魚がたくさんいた。
そこには女性の人魚が井戸端会議していたり買い物をしたり、男性の人魚にしてはどこからかとって来たのかたくさんの魚を入れた網を担いだり、市場で何かを作っているのか貝殻をカナヅチのような石で打っていたりしていた。
「人魚! 何で……!?」
何故人魚が普通にいるのかが理解できなかった。
そして不思議なことにその人魚たちは空中を浮遊しているのだ。
しかもよく見ると人魚たちは下半身部分、腰元に何かをつけている。目をこらえてよく見ると、どの人魚にも腰元にベルトを着けていて老若男女問わず着けているのだ。
どうやらあの腰元に着けているもので街を出入りしているようだった。
しかも自分の体にも違和感を感じる……。
(! ……呼吸できる!?)
人魚の住む場所と言えば水中のはずだがここでは普通に呼吸できるし、ここの景色は水中の中にいるという感覚が全くないのだ。そう、この人魚の住処全体がまるでウォーターボールに包まれているようだった……。
――カチャン
「目が覚めたか?」
「――!?」
聞き覚えのある声に明澄は振り向く。
振り向いた先には自分をこんなところに連れてきた張本人・鮫淵詠寿がそこにいた……。
「あっ、あっ……」
「どうした……? 俺の本来の姿を見て声も出ないか?」
そして、明澄はなぜこのような場所に連れてこられたのか思い出した。詠寿は嘘なんてついていなかったのだ。
詠寿は本来の姿である“下半身が鮫の人魚”の姿で現れたのだ。
ーーすいっ
そして詠寿が尾ひれを一振りすると水中にいるように前に進み、明澄の元に近寄ってきた。
「なっ、せっ、先輩。本当に……?」
取り乱して声が上手く出なかった。
しかも外にいたものたちと同じ、詠寿にも腰元にベルトのような物がついている。
どういう仕組みなのか分からないが外の光景を見る限り、これがあるおかげで詠寿を含んだ人魚たちは空中を簡単に遊泳することが出来るのだと明澄は確信した。
「ふふっ、驚いて声も出ないか? 人魚ってガラの顔してねえもんな……俺」
その様子を見て詠寿はくすくすと笑っている。
「ここはどこ? 家に、帰して……」
声を出そうとしない声帯を叱咤するように声を絞り出し、明澄はそう詠寿に懇願する。
「ここは“人魚界”、人魚だけが住む国だ。人間たちは到底来ることが出来ない場所。」
詠寿は途端に表情を変えて詠寿は、明澄が今いる場所は人魚たちだけが住む国であることを教え、人間からは到底来ることは出来ない場所だと明かす。
「すまないが……、お前を家に帰すことは出来ないんだ」
明澄がいる場所を教えたのち、家に帰すことは許されないのだと言う。
「そっ、そんな……酷い、お願い帰らせて!」
もう一度涙ぐみながら明澄は願い出るが……、
「――それは許されない、“人魚族の掟”なんだ。」
しかし、涙を流しながらの懇願でも詠寿は受け入れてくれなかった。
「どっ、どうして……!?」
掟とはどういうことなのか、何故自分の願いを聞き入れてくれないのか明澄は聞き出す。
「……それは、人魚族が生き延びていくために定められた掟によるものだからです。」
「――!?」
すると違う声が会話の間に入ってくるように部屋の中に響いた。
「あっ、貴方は……!?」
詠寿より身長は低いが年上に見える若い人魚の男が一人、明澄の前に姿を現した。
突然姿を現したのは、明澄が見た詠寿と会話していた人魚の男だった。よく見るといかにも几帳面を絵にかいたようなきりっとしたいでたちをした男性の人魚だった。黒色のヒレが特徴的な銀色の下半身が美しく思える。
「初にお目にかかります……、私は“厳生”。この王宮で詠寿様の執事兼お世話係を務めています。」
そう厳生は明澄に挨拶を手短に済ませた。
「なっ……何で? 掟って何!?」
どういう事なのか分からず、明澄は聞き返す。
「我々人魚族は生き残るために人間界に出向き、人に化け……心に決めた人物と出会えば人魚族の子孫を残すように仕向ける。しかし運命の相手となる方やそうでもない方、はたまた片思いの相手となる方問わずに素性を知られれば……そのものと“番”にならなくてはならないのです。」
「――!?」
厳生は人魚族の掟についてたんたんと説明していく。
厳生の説明に寄れば、人魚族が生き残るためには人間に化け、運命の相手と思ったものに自分の子供を宿す手伝いをしてもらうものだということだった。
「素性を知られたら……その人間と!?」
厳生が話してくれた人魚族の掟に明澄は混乱するばかりだった……。
つまりその掟通りならば、詠寿の正体を知った自分は強制的に詠寿の伴侶にならなければならないというものだった。
「酷い! そんなの……、不可抗力で素性を知ってしまった人間や知られてしまった人魚を不幸にするだけじゃないですか!」
興味本位で聞き耳を立てた自分にも非はあれど、そんな掟に巻き込まれた明澄からすればたまったものではなかった。そんな掟あんまりだと明澄は抗議する。詠寿が人魚だったなんて、想像すらしていなかったのだから。
「詠寿様の曽祖父様が定められた掟です、人魚族は人間が海を汚すようになってから人口減少に悩まされている故に出された解決策なのでございます。」
悲痛な顔をして訴える明澄に顔色一つも変えず、厳生は詠寿の曽祖父の決めた掟であるため自分に訴えられても困ると言い、人魚族の今の現状を明澄に教えたのだった。
「特に……鮫の人魚は“特殊な悪癖”の為、人魚族同士でさえ番になれる確率が他の人魚より少ないのです。不憫な悪癖を持ってしまっている鮫の人魚である詠寿様の為にも……明澄様、ご理解の方よろしくお願いします。」
そして厳生は、鮫の人魚が他の人魚より番が出来る確率が少ない現状も教えた。
厳生は淡々とした口調で掟に抗うことは許されないことと、王子であり鮫の人魚である詠寿の立場を守るためにも子孫繁栄に協力するしかないと明澄に一方的に理解するよう求める。
「厳生、一方的に理解しろと言うのはさすがに傲慢だ……。」
詠寿は一方的な厳生の物言いに注意した時、詠寿の手が明澄の肩に触れた時だった――。
「――っ」
--パシ!
明澄はつい、詠寿の手を強く払ってしまったのだった。
「……あっ」
「―……っ」
詠寿は掟だからと言って無理やり連れてきた自分に非があるとはいえ、少しショックを受けているようだった。明澄は一瞬不味いことをしたと思った。
「!? ーー無礼者!」
厳生が予想通り、詠寿の手を振り払った明澄に怒りを現す。
「止めろ、明澄の反応は……当然だ」
自分が掟に抗える立場ではまだ無いから仕方なく従ったとはいえ、明澄を拉致した。
明澄に軽蔑されても仕方ないと詠寿は厳生を諌める。
「しかし……」
「今は部屋を出よう。明澄、また部屋に来る。扉の傍に衛兵がいるから何かあれば扉をノックしてくれ」
厳生は意見をしたそうに言葉を詰まらせるが、手を払ったというのに詠寿は負い目を感じている表情で部屋を出て行こうとする。
「……」
明澄は詠寿の言葉に何も答えなかった。
「……言っときますが、逃げようなんて思わない方がいいですよ? 逃げても人魚界から飛び出せば貴方は高確率で溺れ死にます。衛兵たちや召使い達にも貴方を逃がさないよう言ってあります。分かりましたね?」
--バタン
厳生は厳しく明澄にそう言いつけるなり部屋を出て行ったのだった。
「--うぅっ! うぅ~~っ!」
明澄は床に伏せて床を涙で濡らしたのだった。
「……」
自室に戻る際中、詠寿はずっとばつの悪い顔をしたままだった。
「厳生、あの言い方はないだろう……」
部屋に戻る途中沈黙を先に破ったのは詠寿だった、詠寿は明澄は一方的な掟に従って欲しいなんて納得できるわけがないのを理解していたため、一方的な厳生の言い方に注意した。
「でも貴方を思えば明澄はイライラします、貴方は仮にも明澄を助けてくださった方でもあるのに明澄は貴方の事をこれっぽっちも理解しようとしない」
詠寿のことを明澄は思い出そうともしないことに苛立ってしまうのだと厳生は明澄への不満を漏らす。
「俺は掟とはいえこんなやり方……あいつと同じところに堕ちてしまっているようで」
掟とはいえ、このようなやり方は自分が嫌っているある人間と同じ道に堕落しているみたいで嫌だと詠寿は逆に未だ他の解決策が見つからない限り定められている掟に不満を漏らしていた。
「王子……そんなに思いつめないでください、貴方様を思えば仕方のない事なのですから」
厳生は詠寿にそう言い聞かせるものの、やはり詠寿自身は明澄を強制的に連れてきたことに負い目を感じているようだった。
「そうはいっても……」
「――彼も貴方の事を知れば分かってくれるはずです。」
厳生は明澄はきっと詠寿のことを知れば、心を開いて詠寿の気持ちに答えてくれるはずだと言う。
「貴方は本来お優しい方です、彼にそれが分かるまで今は時間を見て待ちましょう?」
「厳生……」
そして今の明澄には理解をするには時間が必要と見た厳生は詠寿にそう言い聞かせた。
「後、私はどんなことがあっても貴方の味方ですから……それだけは忘れないでください。」
そしてどんなことがあっても自分は詠寿の味方だと厳生は言い聞かせた、詠寿は少し黙りこんで考えたのち……
「わかった、今は時間を置く。だが、あまり明澄に厳しい言い方はしないでくれ」
今は厳生の提案に乗ることにすると伝えるのと同時に詠寿は、もう少し明澄に優しくしてほしいと願い出た。
「……分かりました。」
厳生はそう言って詠寿の願いを聞き入れ、明澄にはもう少し穏やかに接することを了承した。
「王子、お疲れ様でした」
厳生は一礼して鮫淵に労いの言葉をかける。
「厳生、すまないがあれを明澄に飲ませてやりたい」
「――はい、ここに有ります」
用意周到に厳生は鮫淵が要求していたものを差し出した。それは水筒状のような貝殻に入っていてコルクで栓がしてあった。
「遣いの者はすでに呼んであります。」
「わかった……」
鮫淵は厳生の言葉に返答するなり、一旦明澄を砂の上に降ろした。
鮫淵はコルクの栓を口で明け、その中に入っていたものを口に含めると口移しで明澄に飲ませたのだった……。
――ごくっ
明澄が喉を鳴らしたため無意識にそれを飲みこんだと見越した。自分が口移しで飲ませたものを飲み込んだと見越した鮫淵は口を離し……、
「これでよし……これでなら水中でも呼吸できるはずだ」
自分達人魚の住処に連れて行くのだから水中を通らなければいけない為、鮫淵はそんな人間の為に水中でも呼吸できる薬を飲ませたのだった。
「……すまない、きまりなんだ。許してくれ」
鮫淵は掟とはいえ、正体を知ってしまった明澄を無理矢理連れて行くのに負い目を感じていた。
「仕方ありませんよ、それに大丈夫……彼も分かってくれます。」
掟なのだから仕方ないのだと厳生は鮫淵を慰める。
「さぁ……行きましょう。王子」
そして厳生は遣いの者が来たので早く目が覚めない内に明澄を連れて行こうと発破をかけた。鮫淵は明澄を抱え、使いの者がいる海へと入って行った。
明澄はただ鮫淵の腕の中で眠るだけであった……。
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「うっ……」
目を覚ますと明澄はあおむけでベッドに寝かせられていた。
「ここは……?」
明澄は体を起き上がらせる。そして今まで自分が何をしていたのか思い出そうとしていた……。
(あれ? 確か浜辺を散歩していたら、鮫淵先輩が誰かと……――あっ!)
そして自分が何を見たのか、鮫淵が何者なのか思い出した。そして辺りを見渡すと自分の部屋ではないことは明らかだった。ここはどこなのだろうと思い、外を確認しようと窓を開けてみた。
「――!?」
明澄は外の雰囲気に驚愕するしかなかった、自分が普段見ている光景とは全く違うものだった……。
町よりかなり遠くの景色にはゆらゆらと視界が揺れ動いているが色とりどりのサンゴ礁が見えた。
窓の下を見ると王宮のような白い塀で囲まれ、その城下町と思わしき街並には人魚がたくさんいた。
そこには女性の人魚が井戸端会議していたり買い物をしたり、男性の人魚にしてはどこからかとって来たのかたくさんの魚を入れた網を担いだり、市場で何かを作っているのか貝殻をカナヅチのような石で打っていたりしていた。
「人魚! 何で……!?」
何故人魚が普通にいるのかが理解できなかった。
そして不思議なことにその人魚たちは空中を浮遊しているのだ。
しかもよく見ると人魚たちは下半身部分、腰元に何かをつけている。目をこらえてよく見ると、どの人魚にも腰元にベルトを着けていて老若男女問わず着けているのだ。
どうやらあの腰元に着けているもので街を出入りしているようだった。
しかも自分の体にも違和感を感じる……。
(! ……呼吸できる!?)
人魚の住む場所と言えば水中のはずだがここでは普通に呼吸できるし、ここの景色は水中の中にいるという感覚が全くないのだ。そう、この人魚の住処全体がまるでウォーターボールに包まれているようだった……。
――カチャン
「目が覚めたか?」
「――!?」
聞き覚えのある声に明澄は振り向く。
振り向いた先には自分をこんなところに連れてきた張本人・鮫淵詠寿がそこにいた……。
「あっ、あっ……」
「どうした……? 俺の本来の姿を見て声も出ないか?」
そして、明澄はなぜこのような場所に連れてこられたのか思い出した。詠寿は嘘なんてついていなかったのだ。
詠寿は本来の姿である“下半身が鮫の人魚”の姿で現れたのだ。
ーーすいっ
そして詠寿が尾ひれを一振りすると水中にいるように前に進み、明澄の元に近寄ってきた。
「なっ、せっ、先輩。本当に……?」
取り乱して声が上手く出なかった。
しかも外にいたものたちと同じ、詠寿にも腰元にベルトのような物がついている。
どういう仕組みなのか分からないが外の光景を見る限り、これがあるおかげで詠寿を含んだ人魚たちは空中を簡単に遊泳することが出来るのだと明澄は確信した。
「ふふっ、驚いて声も出ないか? 人魚ってガラの顔してねえもんな……俺」
その様子を見て詠寿はくすくすと笑っている。
「ここはどこ? 家に、帰して……」
声を出そうとしない声帯を叱咤するように声を絞り出し、明澄はそう詠寿に懇願する。
「ここは“人魚界”、人魚だけが住む国だ。人間たちは到底来ることが出来ない場所。」
詠寿は途端に表情を変えて詠寿は、明澄が今いる場所は人魚たちだけが住む国であることを教え、人間からは到底来ることは出来ない場所だと明かす。
「すまないが……、お前を家に帰すことは出来ないんだ」
明澄がいる場所を教えたのち、家に帰すことは許されないのだと言う。
「そっ、そんな……酷い、お願い帰らせて!」
もう一度涙ぐみながら明澄は願い出るが……、
「――それは許されない、“人魚族の掟”なんだ。」
しかし、涙を流しながらの懇願でも詠寿は受け入れてくれなかった。
「どっ、どうして……!?」
掟とはどういうことなのか、何故自分の願いを聞き入れてくれないのか明澄は聞き出す。
「……それは、人魚族が生き延びていくために定められた掟によるものだからです。」
「――!?」
すると違う声が会話の間に入ってくるように部屋の中に響いた。
「あっ、貴方は……!?」
詠寿より身長は低いが年上に見える若い人魚の男が一人、明澄の前に姿を現した。
突然姿を現したのは、明澄が見た詠寿と会話していた人魚の男だった。よく見るといかにも几帳面を絵にかいたようなきりっとしたいでたちをした男性の人魚だった。黒色のヒレが特徴的な銀色の下半身が美しく思える。
「初にお目にかかります……、私は“厳生”。この王宮で詠寿様の執事兼お世話係を務めています。」
そう厳生は明澄に挨拶を手短に済ませた。
「なっ……何で? 掟って何!?」
どういう事なのか分からず、明澄は聞き返す。
「我々人魚族は生き残るために人間界に出向き、人に化け……心に決めた人物と出会えば人魚族の子孫を残すように仕向ける。しかし運命の相手となる方やそうでもない方、はたまた片思いの相手となる方問わずに素性を知られれば……そのものと“番”にならなくてはならないのです。」
「――!?」
厳生は人魚族の掟についてたんたんと説明していく。
厳生の説明に寄れば、人魚族が生き残るためには人間に化け、運命の相手と思ったものに自分の子供を宿す手伝いをしてもらうものだということだった。
「素性を知られたら……その人間と!?」
厳生が話してくれた人魚族の掟に明澄は混乱するばかりだった……。
つまりその掟通りならば、詠寿の正体を知った自分は強制的に詠寿の伴侶にならなければならないというものだった。
「酷い! そんなの……、不可抗力で素性を知ってしまった人間や知られてしまった人魚を不幸にするだけじゃないですか!」
興味本位で聞き耳を立てた自分にも非はあれど、そんな掟に巻き込まれた明澄からすればたまったものではなかった。そんな掟あんまりだと明澄は抗議する。詠寿が人魚だったなんて、想像すらしていなかったのだから。
「詠寿様の曽祖父様が定められた掟です、人魚族は人間が海を汚すようになってから人口減少に悩まされている故に出された解決策なのでございます。」
悲痛な顔をして訴える明澄に顔色一つも変えず、厳生は詠寿の曽祖父の決めた掟であるため自分に訴えられても困ると言い、人魚族の今の現状を明澄に教えたのだった。
「特に……鮫の人魚は“特殊な悪癖”の為、人魚族同士でさえ番になれる確率が他の人魚より少ないのです。不憫な悪癖を持ってしまっている鮫の人魚である詠寿様の為にも……明澄様、ご理解の方よろしくお願いします。」
そして厳生は、鮫の人魚が他の人魚より番が出来る確率が少ない現状も教えた。
厳生は淡々とした口調で掟に抗うことは許されないことと、王子であり鮫の人魚である詠寿の立場を守るためにも子孫繁栄に協力するしかないと明澄に一方的に理解するよう求める。
「厳生、一方的に理解しろと言うのはさすがに傲慢だ……。」
詠寿は一方的な厳生の物言いに注意した時、詠寿の手が明澄の肩に触れた時だった――。
「――っ」
--パシ!
明澄はつい、詠寿の手を強く払ってしまったのだった。
「……あっ」
「―……っ」
詠寿は掟だからと言って無理やり連れてきた自分に非があるとはいえ、少しショックを受けているようだった。明澄は一瞬不味いことをしたと思った。
「!? ーー無礼者!」
厳生が予想通り、詠寿の手を振り払った明澄に怒りを現す。
「止めろ、明澄の反応は……当然だ」
自分が掟に抗える立場ではまだ無いから仕方なく従ったとはいえ、明澄を拉致した。
明澄に軽蔑されても仕方ないと詠寿は厳生を諌める。
「しかし……」
「今は部屋を出よう。明澄、また部屋に来る。扉の傍に衛兵がいるから何かあれば扉をノックしてくれ」
厳生は意見をしたそうに言葉を詰まらせるが、手を払ったというのに詠寿は負い目を感じている表情で部屋を出て行こうとする。
「……」
明澄は詠寿の言葉に何も答えなかった。
「……言っときますが、逃げようなんて思わない方がいいですよ? 逃げても人魚界から飛び出せば貴方は高確率で溺れ死にます。衛兵たちや召使い達にも貴方を逃がさないよう言ってあります。分かりましたね?」
--バタン
厳生は厳しく明澄にそう言いつけるなり部屋を出て行ったのだった。
「--うぅっ! うぅ~~っ!」
明澄は床に伏せて床を涙で濡らしたのだった。
「……」
自室に戻る際中、詠寿はずっとばつの悪い顔をしたままだった。
「厳生、あの言い方はないだろう……」
部屋に戻る途中沈黙を先に破ったのは詠寿だった、詠寿は明澄は一方的な掟に従って欲しいなんて納得できるわけがないのを理解していたため、一方的な厳生の言い方に注意した。
「でも貴方を思えば明澄はイライラします、貴方は仮にも明澄を助けてくださった方でもあるのに明澄は貴方の事をこれっぽっちも理解しようとしない」
詠寿のことを明澄は思い出そうともしないことに苛立ってしまうのだと厳生は明澄への不満を漏らす。
「俺は掟とはいえこんなやり方……あいつと同じところに堕ちてしまっているようで」
掟とはいえ、このようなやり方は自分が嫌っているある人間と同じ道に堕落しているみたいで嫌だと詠寿は逆に未だ他の解決策が見つからない限り定められている掟に不満を漏らしていた。
「王子……そんなに思いつめないでください、貴方様を思えば仕方のない事なのですから」
厳生は詠寿にそう言い聞かせるものの、やはり詠寿自身は明澄を強制的に連れてきたことに負い目を感じているようだった。
「そうはいっても……」
「――彼も貴方の事を知れば分かってくれるはずです。」
厳生は明澄はきっと詠寿のことを知れば、心を開いて詠寿の気持ちに答えてくれるはずだと言う。
「貴方は本来お優しい方です、彼にそれが分かるまで今は時間を見て待ちましょう?」
「厳生……」
そして今の明澄には理解をするには時間が必要と見た厳生は詠寿にそう言い聞かせた。
「後、私はどんなことがあっても貴方の味方ですから……それだけは忘れないでください。」
そしてどんなことがあっても自分は詠寿の味方だと厳生は言い聞かせた、詠寿は少し黙りこんで考えたのち……
「わかった、今は時間を置く。だが、あまり明澄に厳しい言い方はしないでくれ」
今は厳生の提案に乗ることにすると伝えるのと同時に詠寿は、もう少し明澄に優しくしてほしいと願い出た。
「……分かりました。」
厳生はそう言って詠寿の願いを聞き入れ、明澄にはもう少し穏やかに接することを了承した。
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