シロワニの花嫁

水野あめんぼ

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本編

第四話:過去と王宮の中庭

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一方、明澄はまだショックに打ちひしがれていたままだった。

憧れの先輩に拉致られ、軟禁状態で未知の世界に連れてこられたのだから。
しかも理由はどうであれ、それを実行したのは憧れの先輩だったといこともあってショックが大きかった。

「……先輩、どうして」

しかも正体を知ったからと言って無理やり連れてこられた挙句、掟に従って伴侶になって欲しいだなんて簡単に納得が出来る訳がなかった。涙をぬぐいながらも明澄はベッドに伏せる。

泣きつかれたせいもあったせいかベッドに横になった途端、明澄はまどろみの中へと落ちて行った。

(ボクはどうしてこんな目にばっかり遭うんだろう……)

明澄はなぜ自分はこんな目に遭うのか考えながら眠って行った。
実は明澄には人には公言できない、海辺で嫌な事をされた過去があったのだった……。

――それは明澄が小学校6年の時だった。

明澄は幼い頃、車で数十分歩けば海に近い場所に住んでいた。

明澄は海に泳いだり、貝殻やサンゴを集めるのが好きだったためよく家に帰ればしょっちゅう一人で海に行っていた。そんな時だった、明澄にとって忘れたくても忘れられない嫌なことに遭遇したのは……。

それは夏休みに入る前の真夏日、明澄がいつものように学校に帰った後、海に行っていた時だった。

明澄は女顔で白い肌を持っていたということもあってか、海で泳ぐ姿は人魚みたいと大人の女性に言われることもしばしばあった。女顔であることを気にしてはいたが、今ほどではなかった。

誰もいない浜辺で泳ぎ疲れて少し木陰で休んでいた時だった……。

『ちょっといいかな……?』

急に顔の知らない男に声を掛けられた。

 男は一緒に探し物をしてほしいと言ってきて、男性は本当に困っていると鵜呑みにして明澄は何も考えず承諾してしまったのだった。そして、迂闊にも男について行ってしまった。

男は岩陰に明澄を連れて行くなり豹変し、明澄に襲いかかった。恥ずかしい写真を写されたり、身体をまさぐられたりした。

『――早く来て、こっちに誰か襲われてる!』

その時誰かが大声を出して、男を蹴散らしてくれたおかげで最後までされなかったのは救いだったが明澄のトラウマを植え付けるには十分だった。

 襲われたショックで視界が白黒していたせいもあって助けてくれた人物の顔は分からなかったが、その人は明澄が泣き止むまで傍にいてくれた……。

そして誰かがこっちに来るとその人は姿を消した、そして自分は病室のベッドにいた。

 話に寄ればショックで打ちひしがれて身動きが取れなかった自分を、たまたま浜辺を通りかかっていた人が両親に連絡してくれたようだった。

浜辺を通りかかった人に寄れば自分と同じくらいの少年が、明澄が襲われていることを教えてくれたので駆け寄ったとのことだった。

しかしその後、その事件のせいで両親は揉めて不仲になり離婚まで至ってしまった……。

離婚成立後、明澄が一人で浜辺に行くことを両親特に母は嫌がり海から逃げるように自分を連れて引っ越した。

 明澄はきっと浜辺を通りかかった人の証言に出てきたその少年こそが、自分をされる直前に大声をあげて助けてくれた人物だと思っていた。機転を利かして声を上げて助けてくれた相手は自分が襲われたショックで打ちひしがれていた時に心配して傍に来てくれたのをうっすら覚えていたから。

離婚後、母に黙ってこっそりあの浜辺に行った。彼がもしかしたらまた現れるのではないかという一縷の期待があったから。トラウマは拭えないものの、自分が最後までされる直前に大声を上げて自分が泣き止むまで傍にいてくれた彼にどうしても会ってお礼を言いたいと思っていた。

――しかし、彼は今まで明澄の前に現れることはなかった……。

明澄が浜辺に近い場所で一人暮らしを始めたのは彼に会えるなら会いたいと今でも思っているからでもあった。





「ん……」

明澄はまどろみの中から目が覚めた。

「顔色良さそうだな、よかった……」

「――!?」

詠寿の顔がすぐ近くに有って明澄は体を跳ねあがらせて起き上がった。

「すまん、すまんびっくりさせたな」

詠寿はくすくすと笑いながら冗談交じりに謝る。

「さめ、ぶち……さん」

何を考えているのか全く分からず詠寿の名前を呼ぶと……、

「なぁ、明澄……頼みがあるんだ。」
「--?」

「――で呼んではくれないか?」

詠寿は何を思ったのか、下の名前で呼んでほしいと願い出る。

「何、言ってるんですか……」
「……冗談さ、攫って置いてそんな図々しいこと言わないさ」

詠寿の突然の願い出に明澄は動揺すと彼は失笑し少しばつが悪そうな顔をして冗談だと言う。

「……良くそんな恰好で動けますね」

「? ――あぁ、まぁな。これがあるからな」

 下半身が魚である詠寿を見て明澄は良くそんな体で動けると言うと、詠寿は腰元に掛けているベルトを指差してこれのおかげで移動できると明かし、明澄の隣にベッドに座るとそのベルトを外して明澄によく見せた。

「城下町を眺めてて思っていたんですが、このベルトいったい何なんですか?」

明澄は何となく察しはついてはいるが、ベルトの正体を詠寿に聞く。

「これか? お前達の世界では……魔法のベルトとでも言うのかな? これをつけている間、人魚たちは空中遊泳が出来るのさ」

詠寿はベルトの正体を教え、これをつけていれば人魚たちは水のないところでも移動できると説明した。

「俺達の祖先が、水なしでは移動できないという欠点を解消するために考案して作ったものらしい」

そう説明しながら詠寿はベルトをまた腰元に装着する、立ち上がると彼の下半身は5センチ10センチほど浮く。おそらく浮かないと尾ひれを引きずることになるからなのだろう。

「人魚界は人間界と違って魔法が発展していてな、お前が住む人間界と違って化学がない代わりに人魚の世界では祖先たちが生き残りの為と考え抜いてくれたおかげで魔法が発展してるんだ。」

 化学のない人魚たちの世界では、生き残るために詠寿たちの祖先が魔法を発展させた歴史があるのだと詠寿は説明する。

「俺が人間に化けることができたのも魔法で作られた薬のおかげだ、人魚姫……彼女に薬を与えた魔女の子供こそ人化薬の発展者だったのさ」
「実在したんですか!? 人魚姫って……」

まさか人魚姫の言葉が出るとは思わず、明澄は驚愕する。

「あぁ……実在したよ、彼女に王子を殺すよう言った姉妹たちの一人は俺の先祖おばあちゃんだからな」

「――!?」

詠寿は自ら自分は遠くとも人魚姫の血が流れていることを話した。

「童話では悪く書かれているが、聞けばあの魔女は恋する乙女の背中を押したかっただけで悪気はなかったものらしい……」

 そして詠寿の祖先である人魚姫の姉妹の一人が言うには、魔女は恋する妹の背中を押しただけで童話と違い、悪意があってあの行動を起こした物ではないものらしい。

「まあ俺もあくまで耳で聞いただけの話なんだがな。あぁ、ちなみにそのばあちゃんの妹に契約を交わした魔女の血は絶えてないよ。今もその末裔たちはベルトこれとか人化薬作ったりこの人魚界に尽力を注いでくれている」

詠寿はベルトを作った人魚姫の魔女の末裔たちはまだ存命であることや、結果人魚姫を不幸にしてしまった祖先の罪滅ぼしを代行するかの如く人魚界に尽くしてくれていることを話した。

「だから、人魚界は人間界と違って薬や魔法が発展していると……」

は詠寿の祖先と人魚姫の関係や人魚姫に人になれる薬を渡した魔女のその後を聞いて人魚界が何故薬と魔法が発展しているか詠寿の説明で納得出来た。

「それより明澄、王宮の散歩でも一緒にどうだ?」

「――えっ?」

詠寿は明澄に王宮の散歩でも一緒にどうか誘った。

「ほら、人間界に返すことは出来ないが……、気分転換にどうだと思ってな。」

 人間界に返してあげることは出来ないものの、王宮を出歩くことは別に禁止されていないので気分転換として王宮を案内ついでに散歩しないか詠寿は提案してきた。

詠寿は照れ隠しのつもりか、パタパタと尾ひれを動かして顔を赤くしている。

(……散歩か)

明澄は少し考えた後……、

「いいですよ……少しくらいなら」

先程、厳生に言われた「逃げても無駄」の言葉を思い出し、どうせ王宮には自分を逃がすまいと衛兵たちが目を光らせていると思った、でもこの部屋にずっといるよりはましだと思ったので明澄は提案に乗ることにした。

「そうか、実は王宮ここには中庭があるんだ……中庭に行こう。」

その言葉に少し嬉しそうにぱあっと明るい表情を見せ、詠寿は明澄の手を引いた。

--ガコン

「! ――王子!?」

扉を開けるなり衛兵たちが、詠寿が明澄の手を引いていることに気付いて呼び止める。おそらく明澄を逃がそうと下のではないかと疑ってかかったのだと思われた。

「心配いらん、中庭を散歩するだけだ。」

明澄を部屋から出したことに衛兵たちが焦って問い詰めるが、詠寿が強くそう言い放った。

「わっ、分かりました……」

衛兵たちは詠寿の「中庭で散歩するだけ」という言い分に納得し、詰め寄るのを止めた。

「こっちだ、明澄」

 そう言いながら手を引いて詠寿は中庭へと明澄を連れて行った。詠寿の下半身が少し浮いているせいなのか手を引かれている感覚に少し違和感が覚え慣れない。すれ違った衛兵や召使いにはよく見ると下半身が魚の下半身を持つものの二股だったり、下半身が普通の魚だったりする者がいた。

数分王宮内を歩くと、少し大きめの扉が目に映り詠寿が手を放してそこに止まると扉を押して開ける。

ギィ……

「さぁ、着いたぞ明澄。」

そう言われたので顔をあげて中庭を見ると……、

「――っ」

 空中を魚たちが泳ぎ、海草とサンゴ礁が映える光景に目を見開いた。あまりの美しさに明澄は息を詰まらせた。熱帯魚たちが水もなしに空気中を不思議なことに泳いでいるのだ。

「嘘……」

不思議な現象と光景に明澄は目を見張り驚いて言葉を失うばかりだった。

「――どうだ?」

中庭の幻想的な姿に詠寿は明澄に感想を聞く。

「――すごい、この魚たちはどうやって泳いでいるの?」

明澄はこの魚たちはどうやって遊泳しているのか感動しつつも、この中庭の仕組みを聞いた。

「この中庭は密閉空間になっていて、この空間には魚でも呼吸できる空気になるように特殊な香が四六時中焚いてある。」

詠寿が説明しながら何かに指を指す。

指を指した先には中庭の真ん中にアロマポットのような大きい灯篭があった。
灯篭の下には火か何かを管理するところだろうか、戸が付いておりその灯篭には上に巨大な皿がついている。

「――上皿のような物があるだろ? あそこに大量の原液を入れて香を焚いているのさ」

「でも……、臭いがしませんね」

詠寿は香がどうやって焚かれるのか仕組みを説明していが香を焚くというのでてっきり匂いがするかと思って部屋の臭いを嗅いでみると、不思議なことにアロマというようなにおいは全然しないのだった。

「無臭だからな、あくまで魚たちの生命を維持させるために作っただけに過ぎないから臭いなんてない」
「へぇ……」

香と言ってもあくまで魚たちの生命維持のために作った代物の為、芳香剤などに使われるような薬草などのにおいはしないというものらしい、詠寿から説明を聞いていると泳いでいた熱帯魚の何匹かが明澄たちの前に近づいて来た。

「あっ、エンゼルフィッシュだ! クマノミもいる……!」

目の前に魚たちが通り過ぎるのを見ると、明澄は軟禁状態であることを忘れて無邪気にはしゃぐ。

「気に入ってくれたか?」
「――!」

詠寿は明澄が満更でもない反応を見せたことに安堵したのか感想を聞いて来た。

「……はい、自分が水槽の中にいるみたい」
「そうか……」

明澄は一瞬返答を迷ったが、素直にそう答えるとその返事に詠寿は嬉しそうに安堵した。

「待っていてくれ、今……魚たちの餌を持って来よう」

そう言うと詠寿は扉を開け、そこに偶然通りかかった召使いの一人を呼び出した。
その召使いは大人しそうな雰囲気をまとった青いマダラの尾ひれを持った下半身を持つ少年だった。
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