34 / 35
本編
最終話:“シロワニの花嫁”
しおりを挟む
―――すると、自分を呼ぶようなクラクションが外から鳴った。覗いてみると大きな車があり、助手席に乗っていた長門が降りてきた。
「――早く乗りな?」
長門は明澄に車に乗るように言った。
――車の移動中……、
「今生放送のニュースになったのは一体? ……首相まで前に出てきて」
「――あれは俺の伯父なんだよ。」
「――えぇっ!?」
長門は、ビッグニュースになるまでの工程を話す前に首相が自分の伯父であることを明かした。
衝撃の事実に明澄も驚かずにはいられなかった。
「伯父は最初、信じちゃいなかったけど……詠寿王子が一週間かけて病気を治した後、即座にアリヴさんと厳生さんが話をつけてくれたんですよ」
長門が言うには詠寿が病気を治した後、アリヴ達が長門の伯父である首相に頼み込みに言ったのだそう。
「そして俺達と関塚さんは、代表として不知火王に呼ばれて今後人魚族をどう生き残らせるかと
話し合ったりしていたんです。王子は……貴方と一緒に暮らすためにも自分達人魚が人間と共存できる
世界を作りたいって話してくれたから」
関塚は、話の流れからして伯父の友人でもある環境庁で働いているリーダーらしき中年のことだろう。
不知火王の許可を貰って長門と関塚は代表してリヴェラの墓参りをしたことや、詠寿の王となったら叶えたい夢に興味を持ってくれたと話した。
「俺達も、その夢の懸け橋になりたくて現・首相である伯父を何とか呼び出したんだ。下手すれば拗れる危険な賭けだと承知して王子は伯父と交渉したんだよ。貴方と、人間と共存できる未来を作りたいからって……」
「詠寿さん……」
長門は伯父を人魚たちに顔を合わせ、話を聞いてくれるよう説得したという。駄目元で交渉すると、意外にも伯父は協力すると頷いてくれたと言う。自分のために知らぬうちにここまでやってくれるなんて予想していなかった。
「貴方に言わなかったのは、もし交渉が成立したら驚かせたかったからだと話しています。」
厳生が言うには交渉が成立したらサプライズとして明澄を驚かせたかったからだと言った。ちなみに現・首相は人魚族たちを大変気に入ってくれたと長門は言う。
「そう言えば悪癖の方は……?」
悪癖の方はどうやって治したのか明澄は聞いた。
「3日間で飲まず食わずで、クエシス様は作ってくれましてね……。抑制剤をベースに作った完成品を王子は意を決して飲んだんですよ。クエシス様がいうには暗示のかかる魔法薬を少し入れたんだそうです、自分の愛しい人が悪癖を止めさせる最高のストッパーだと分かったからだと……」
クエシスは三日間で抑制剤をベースに悪癖治療薬を作り、詠寿は反対を押し切ってそれを飲んだと言う。
詠寿が阿久津を殺しかけた時、明澄が叫んだ事がきっかけで我に返ることができたことで悪癖の支配から逃れることが出来たという話からクエシスは暗示効果のある薬を抑制剤に混ぜて悪癖が出た時に明澄の顔が出るように仕向けたということらしい。
「悪癖と闘っている間は、外に出られる状態じゃなくて3日間の激しい頭痛に襲われたんだそうです」
悪癖完治をする際、副作用として激しい頭痛に襲われてとても外に出られなかったと厳生は言った。
「でも……王子はやり遂げました、血の臭いを試しに嗅がせても人を傷つける行為をしようとまでしなくなったんです。王子は……貴方との約束を守るんだって言って悪癖を克服したんですよ?」
激しい頭痛に苛まれながらも明澄との約束を守るために詠寿は薬の副作用を超え、血を嗅いでも興奮しなくなったと厳生は言う。
「詠寿さん……」
「大丈夫です、もう……元気になられていますよ」
自分のいない間、そこまで苦しんでいたのかと思うと張り裂けそうだった。心配して不安そうにする明澄に厳生はもう詠寿は普通の生活に戻っていると話す。
「伯父が言うにはあの生放送のニュースはおそらく世界にも注目されるからこれから緊急首脳会議を行なわれると思うってさ。」
「人魚たちの受け入れ……世界中の他の人は、受け入れてくれるんでしょうか?」
長門が言うには人魚族の存在は公になった為緊急首脳会議で人魚たちを今後どうするか話し合われると思うと言うと世界中の人々は自分たちを受け入れてくれるのか不安になってクリアがそう聞く。
「伯父もこの国を中心に人魚たちが受け入れられる世界をつくると公言しているから……きっと上手く行く。伯父はよく決意してくれたって思う。」
首相である伯父は人間と人魚たちがともに暮らせる世界にという詠寿の夢に協力すると言ってくれたので、人魚族の良さを分かってくれればきっと世界中にも受け入れられるはずと長門は言う。
「……リヴェラにも見せてやりたかったな」
後部座席の一番後ろに乗っていたリョウジはリヴェラにこの瞬間を見せてやりたかったと呟く。
――キキッ
「さぁ、到着したよ……?」
助手席にいた長門が、明澄達に詠寿が待っている浜辺に着いたと車を停める。
降りた瞬間、明澄は浜辺に向かって行って詠寿の姿を探した。
――そして見つけた、その傍には瑠璃音と王妃もいた。
詠寿の姿を見つけた瞬間、明澄は詠寿のところにめがけて走った。詠寿も明澄がこっちに向かってくる姿を見つけ出す、明澄は突進するようにジャンプして詠寿に抱きついた。
「遅いよ……、どれだけ心配したかと!」
「ただいま。」
「――お帰りなさい! お帰りなさい!!」
詠寿は、最初は抱きつかれて驚いていた顔をしていたが穏やかな顔になってただいまと呟いた。
明澄は嗚咽を漏らしながら「お帰り」と連呼する。マスコミが明澄と詠寿の姿に気付いてざわついてカメラを映しているが、そんなこともう二人にはどうでもよかった。
「悪癖は、本当に?」
「もう、大丈夫だ。……これでもう明澄を傷つけない。」
本当に悪癖は治ったのか聞くと、詠寿は完治した報告をして嬉しそうな顔をする。
その様子を横から見ていた瑠璃音と王妃は、二人の様子を見て温かく見守る。
「――あれは何だ!?」
「――!?」
マスコミの一人が、背後から何かが出てきたことに驚いていた。背後の海景色を見ると海からイルカ車が出てきたのだった。そして乗車部分の入り口が開き、意外な人物が姿を現した。
「――よぉ、アスミ様」
「! ――君は、ノゼル君!?」
ノゼルがばつが悪そうに姿を現したのだった……。
「その、悪かったな……色々と。」
ノゼルは明澄に謝罪しに来たようだった、明澄の前に歩み寄るなり頭を下げた。
イルカ車から続いてクエシスが出てきてクローディオも明澄達の前に駆け寄ると……、
「ホント、この馬鹿弟が……!」
「ご迷惑をおかけしました!!」
「――痛いって、兄貴たち!」
二人は詫びながらノゼルにもっと頭を下げるように、頭を下に押し付けた。
「ノゼルも俺の持病を治す薬の開発を手伝ったんだぞ?」
詠寿は、ノゼルも悪癖を完治する薬の開発に協力してくれたことを教えた。明澄は彼も治療薬製造に協力してくれていたことに驚く。
「それとこれ、一番腕のいい職人に作ってもらったんスよ」
「あぁ、ありがとう。届けてくれたのか……」
ばつが悪いのか、そっぽ向きながらノゼルは小さい袋を詠寿に手渡す。
「――両手で手渡しなさい、このバカ!」
――ぽかっ
「――痛いっ」
「クローディオさん、もういいって。」
作法と礼儀がなっていないノゼルに、軽く頭を叩いてクローディオは叱責する。
明澄はもう自分は気にしていないからもう許してやってほしいと、慌てて宥める。
その様子にクエシスは頭を抱え、詠寿は苦笑いを浮かべていた。
そして咳払いをして、詠寿は改めて明澄にある物を袋から取り出して見せる。
「明澄、これ……」
「これは……?」
明澄は赤いリングのような物を見せられてこれが一体何なのか聞く。
「赤珊瑚のリングだよ、人魚界では不滅の愛の象徴なのよ……そして安産祈願の象徴なの」
「――!」
瑠璃音が赤珊瑚のリングだと正体を明かし、赤珊瑚は不滅の愛と安産祈願の象徴だと教える。この言葉で詠寿の言いたいことが分かった。
「ノゼルに頼んで一番上等の赤珊瑚で作ってもらった……改めて言う、俺と一緒になってくれ!」
安産祈願の象徴でもある赤珊瑚で作ったということは、前に自分が言った言葉を詠寿はちゃんと憶えてくれていたのだ。詠寿は改まって人生を共に歩んでほしいと頼み込む。
明澄の返事はもう既に決まっていた……。
「……はい」
その返事を聞くと詠寿は、嬉しそうにそのリングを袋に戻した。
「では、これ……婚約の儀まで預かってもよろしいですか?」
「ーーあぁ」
厳生も嬉しそうにリングの入った袋を婚約の儀の日が決まるまで預かると申しでた。
「サバの塩焼き……」
「そうですね、作りましょうか……」
そう話しながら二人は笑い合う。
――その様子を見ていたリョウジは、嬉しそうな表情をして……。
「人魚姫は王子の思い違いから失恋して、自ら命を絶つ真似をした。……だが詠寿王子は、人魚姫の遠縁の子孫である彼は、ちゃんと想い人である明澄と結ばれた。」
かつて人魚姫は童話の通り自ら命を絶ったが、人魚姫の遠縁の血筋を引く詠寿は人魚姫とは違って今、明澄と永遠の愛を誓い合った。その様子をただ温かくリョウジは見守っていた。
「クエシス達、魔女の子孫は漸く役目を果たせたな?」
「……そうですね」
これでクエシス達人魚の子孫も報われたし、自分もリヴェラとの約束を守れたことにリョウジも満足し厳生にそう聞くと、彼も同意していた。
――数か月後、人魚界にてとうとう王家伝統の婚約の契りをかわす式が執り行われる。
「ほらほら、早くなさい。花嫁がぼんやりしてちゃダメ!」
「――婚約の儀でまだ結婚じゃないってば、母さん」
「どっちにしろ、アンタにとっては大切な日なんだからぼんやりしちゃダメでしょ!」
母親に発破を掛けられて明澄は慌てて支度をする、クリアも支度に手伝ってくれている。
詠寿からのプロポーズの言葉を受け取ったあの後、予想通り緊急首脳会議が行われた。
一時はどうなるかと思ったが、人魚族たちが基本無害だということを理解してくれた世界中の国々も人魚族たちを受け入れる方針をすると長門首相が言うと、他の国々の代表者たちも詠寿の夢を全力で支援したいと発言してくれた。
人魚族と人間の共存の日はそこまで遠くないかもしれないとさえ、明澄も思った。
あの後、明澄は王子である詠寿との関係がマスコミに報じられた……。
勿論両親にこの事はバレたし、色々問い詰められたがクエシスが記憶の泉を使って詠寿が
明澄を助けた過去を見せると最初は半信半疑だったが、詠寿の人柄の良さを気に入って両親は
徐々に納得してくれた上に婚約を認めてくれるまで至った。
「――いろんなことがありましたね。」
「……そうだね」
正体を知った人間は強制的に連れて行く人魚族の掟……不知火王は人間との共存を示すためにあの掟は撤廃の方針に至ったという話だ。
勿論この掟を話さない訳にもいかず、首相たちにもこの掟の事を話して不知火王たちは代表して頭を下げた。最初は批判されるかと思ったが長門たちや人魚たちと夫婦の契りを交わした人間たちの擁護もあってお咎めも小さくなった。
人魚族たちは大手を振って人間の前に姿を現せるようにもなったのだ……。
――その頃、会場では……
「花嫁殿はまだかなぁ?」
「喜ばしいな」
貴族たちが集まり、花嫁の登場はまだかと待ち続けている。
司会進行を任せられたショットが必死でプログラムをチェックして後ろにいる衛兵仲間と打ち合わせをする。
「王子……そろそろ準備ができると言っております。」
「――そうか」
アリヴが明澄の準備ができると詠寿に報告する、その言葉で詠寿は緊張する。
詠寿も正装しているため動きがぎこちない……。
《――えぇ~、来てくださった貴族の皆様、誠にありがとうございます。ただ今から婚約の儀を始めます。》
ショットが参加してくれた貴族たちに感謝の言葉と開式の言葉を述べた。
「……さぁ、この扉の向こうに詠寿様が待っていますよ」
「――うん。」
クリアが明澄に合図を送ると明澄はそう返し、クリアは扉を開けた。
会場の中央に、詠寿が今かと待っている。
貴族たちと使用人と衛兵たちの拍手喝采に包まれながら、明澄は詠寿の元に歩み寄って行く。
厳生は指定席に座りながら詠寿の長年の初恋が成就し結ばれた様子に涙を流し、アリヴに背中を撫でられていた。不知火王たちも二人を温かく見守り、明澄の母は不知火王たちの隣の席で今の父に寄り添って息子の晴れ姿に感動のあまり泣いていた。司会進行を任されたショットも、温かく見守る。
一番後ろの席ではクエシス、クローディオ、ノゼル達兄弟とリョウジが温かく見守っている。
(本当にいろんなことがあった……)
そう思いながら、詠寿がいるところの距離を一歩一歩歩きながら徐々に縮めていく。
――僕は今日、大好きな人と婚約します。
そう……6年もボクを守って、思いを寄せてくれたあの人と。
詠寿と同じ場所に立つとお互い一礼し、使用人の人魚が持って来た赤珊瑚のリングを手に取る。
――ボクはもう少し先の未来で、とても心の優しいシロワニの人魚の花嫁になります。
その誓いを、今します。
そして明澄は笑顔に包まれながら、詠寿とあのリングを嵌めるのだった……。
「――早く乗りな?」
長門は明澄に車に乗るように言った。
――車の移動中……、
「今生放送のニュースになったのは一体? ……首相まで前に出てきて」
「――あれは俺の伯父なんだよ。」
「――えぇっ!?」
長門は、ビッグニュースになるまでの工程を話す前に首相が自分の伯父であることを明かした。
衝撃の事実に明澄も驚かずにはいられなかった。
「伯父は最初、信じちゃいなかったけど……詠寿王子が一週間かけて病気を治した後、即座にアリヴさんと厳生さんが話をつけてくれたんですよ」
長門が言うには詠寿が病気を治した後、アリヴ達が長門の伯父である首相に頼み込みに言ったのだそう。
「そして俺達と関塚さんは、代表として不知火王に呼ばれて今後人魚族をどう生き残らせるかと
話し合ったりしていたんです。王子は……貴方と一緒に暮らすためにも自分達人魚が人間と共存できる
世界を作りたいって話してくれたから」
関塚は、話の流れからして伯父の友人でもある環境庁で働いているリーダーらしき中年のことだろう。
不知火王の許可を貰って長門と関塚は代表してリヴェラの墓参りをしたことや、詠寿の王となったら叶えたい夢に興味を持ってくれたと話した。
「俺達も、その夢の懸け橋になりたくて現・首相である伯父を何とか呼び出したんだ。下手すれば拗れる危険な賭けだと承知して王子は伯父と交渉したんだよ。貴方と、人間と共存できる未来を作りたいからって……」
「詠寿さん……」
長門は伯父を人魚たちに顔を合わせ、話を聞いてくれるよう説得したという。駄目元で交渉すると、意外にも伯父は協力すると頷いてくれたと言う。自分のために知らぬうちにここまでやってくれるなんて予想していなかった。
「貴方に言わなかったのは、もし交渉が成立したら驚かせたかったからだと話しています。」
厳生が言うには交渉が成立したらサプライズとして明澄を驚かせたかったからだと言った。ちなみに現・首相は人魚族たちを大変気に入ってくれたと長門は言う。
「そう言えば悪癖の方は……?」
悪癖の方はどうやって治したのか明澄は聞いた。
「3日間で飲まず食わずで、クエシス様は作ってくれましてね……。抑制剤をベースに作った完成品を王子は意を決して飲んだんですよ。クエシス様がいうには暗示のかかる魔法薬を少し入れたんだそうです、自分の愛しい人が悪癖を止めさせる最高のストッパーだと分かったからだと……」
クエシスは三日間で抑制剤をベースに悪癖治療薬を作り、詠寿は反対を押し切ってそれを飲んだと言う。
詠寿が阿久津を殺しかけた時、明澄が叫んだ事がきっかけで我に返ることができたことで悪癖の支配から逃れることが出来たという話からクエシスは暗示効果のある薬を抑制剤に混ぜて悪癖が出た時に明澄の顔が出るように仕向けたということらしい。
「悪癖と闘っている間は、外に出られる状態じゃなくて3日間の激しい頭痛に襲われたんだそうです」
悪癖完治をする際、副作用として激しい頭痛に襲われてとても外に出られなかったと厳生は言った。
「でも……王子はやり遂げました、血の臭いを試しに嗅がせても人を傷つける行為をしようとまでしなくなったんです。王子は……貴方との約束を守るんだって言って悪癖を克服したんですよ?」
激しい頭痛に苛まれながらも明澄との約束を守るために詠寿は薬の副作用を超え、血を嗅いでも興奮しなくなったと厳生は言う。
「詠寿さん……」
「大丈夫です、もう……元気になられていますよ」
自分のいない間、そこまで苦しんでいたのかと思うと張り裂けそうだった。心配して不安そうにする明澄に厳生はもう詠寿は普通の生活に戻っていると話す。
「伯父が言うにはあの生放送のニュースはおそらく世界にも注目されるからこれから緊急首脳会議を行なわれると思うってさ。」
「人魚たちの受け入れ……世界中の他の人は、受け入れてくれるんでしょうか?」
長門が言うには人魚族の存在は公になった為緊急首脳会議で人魚たちを今後どうするか話し合われると思うと言うと世界中の人々は自分たちを受け入れてくれるのか不安になってクリアがそう聞く。
「伯父もこの国を中心に人魚たちが受け入れられる世界をつくると公言しているから……きっと上手く行く。伯父はよく決意してくれたって思う。」
首相である伯父は人間と人魚たちがともに暮らせる世界にという詠寿の夢に協力すると言ってくれたので、人魚族の良さを分かってくれればきっと世界中にも受け入れられるはずと長門は言う。
「……リヴェラにも見せてやりたかったな」
後部座席の一番後ろに乗っていたリョウジはリヴェラにこの瞬間を見せてやりたかったと呟く。
――キキッ
「さぁ、到着したよ……?」
助手席にいた長門が、明澄達に詠寿が待っている浜辺に着いたと車を停める。
降りた瞬間、明澄は浜辺に向かって行って詠寿の姿を探した。
――そして見つけた、その傍には瑠璃音と王妃もいた。
詠寿の姿を見つけた瞬間、明澄は詠寿のところにめがけて走った。詠寿も明澄がこっちに向かってくる姿を見つけ出す、明澄は突進するようにジャンプして詠寿に抱きついた。
「遅いよ……、どれだけ心配したかと!」
「ただいま。」
「――お帰りなさい! お帰りなさい!!」
詠寿は、最初は抱きつかれて驚いていた顔をしていたが穏やかな顔になってただいまと呟いた。
明澄は嗚咽を漏らしながら「お帰り」と連呼する。マスコミが明澄と詠寿の姿に気付いてざわついてカメラを映しているが、そんなこともう二人にはどうでもよかった。
「悪癖は、本当に?」
「もう、大丈夫だ。……これでもう明澄を傷つけない。」
本当に悪癖は治ったのか聞くと、詠寿は完治した報告をして嬉しそうな顔をする。
その様子を横から見ていた瑠璃音と王妃は、二人の様子を見て温かく見守る。
「――あれは何だ!?」
「――!?」
マスコミの一人が、背後から何かが出てきたことに驚いていた。背後の海景色を見ると海からイルカ車が出てきたのだった。そして乗車部分の入り口が開き、意外な人物が姿を現した。
「――よぉ、アスミ様」
「! ――君は、ノゼル君!?」
ノゼルがばつが悪そうに姿を現したのだった……。
「その、悪かったな……色々と。」
ノゼルは明澄に謝罪しに来たようだった、明澄の前に歩み寄るなり頭を下げた。
イルカ車から続いてクエシスが出てきてクローディオも明澄達の前に駆け寄ると……、
「ホント、この馬鹿弟が……!」
「ご迷惑をおかけしました!!」
「――痛いって、兄貴たち!」
二人は詫びながらノゼルにもっと頭を下げるように、頭を下に押し付けた。
「ノゼルも俺の持病を治す薬の開発を手伝ったんだぞ?」
詠寿は、ノゼルも悪癖を完治する薬の開発に協力してくれたことを教えた。明澄は彼も治療薬製造に協力してくれていたことに驚く。
「それとこれ、一番腕のいい職人に作ってもらったんスよ」
「あぁ、ありがとう。届けてくれたのか……」
ばつが悪いのか、そっぽ向きながらノゼルは小さい袋を詠寿に手渡す。
「――両手で手渡しなさい、このバカ!」
――ぽかっ
「――痛いっ」
「クローディオさん、もういいって。」
作法と礼儀がなっていないノゼルに、軽く頭を叩いてクローディオは叱責する。
明澄はもう自分は気にしていないからもう許してやってほしいと、慌てて宥める。
その様子にクエシスは頭を抱え、詠寿は苦笑いを浮かべていた。
そして咳払いをして、詠寿は改めて明澄にある物を袋から取り出して見せる。
「明澄、これ……」
「これは……?」
明澄は赤いリングのような物を見せられてこれが一体何なのか聞く。
「赤珊瑚のリングだよ、人魚界では不滅の愛の象徴なのよ……そして安産祈願の象徴なの」
「――!」
瑠璃音が赤珊瑚のリングだと正体を明かし、赤珊瑚は不滅の愛と安産祈願の象徴だと教える。この言葉で詠寿の言いたいことが分かった。
「ノゼルに頼んで一番上等の赤珊瑚で作ってもらった……改めて言う、俺と一緒になってくれ!」
安産祈願の象徴でもある赤珊瑚で作ったということは、前に自分が言った言葉を詠寿はちゃんと憶えてくれていたのだ。詠寿は改まって人生を共に歩んでほしいと頼み込む。
明澄の返事はもう既に決まっていた……。
「……はい」
その返事を聞くと詠寿は、嬉しそうにそのリングを袋に戻した。
「では、これ……婚約の儀まで預かってもよろしいですか?」
「ーーあぁ」
厳生も嬉しそうにリングの入った袋を婚約の儀の日が決まるまで預かると申しでた。
「サバの塩焼き……」
「そうですね、作りましょうか……」
そう話しながら二人は笑い合う。
――その様子を見ていたリョウジは、嬉しそうな表情をして……。
「人魚姫は王子の思い違いから失恋して、自ら命を絶つ真似をした。……だが詠寿王子は、人魚姫の遠縁の子孫である彼は、ちゃんと想い人である明澄と結ばれた。」
かつて人魚姫は童話の通り自ら命を絶ったが、人魚姫の遠縁の血筋を引く詠寿は人魚姫とは違って今、明澄と永遠の愛を誓い合った。その様子をただ温かくリョウジは見守っていた。
「クエシス達、魔女の子孫は漸く役目を果たせたな?」
「……そうですね」
これでクエシス達人魚の子孫も報われたし、自分もリヴェラとの約束を守れたことにリョウジも満足し厳生にそう聞くと、彼も同意していた。
――数か月後、人魚界にてとうとう王家伝統の婚約の契りをかわす式が執り行われる。
「ほらほら、早くなさい。花嫁がぼんやりしてちゃダメ!」
「――婚約の儀でまだ結婚じゃないってば、母さん」
「どっちにしろ、アンタにとっては大切な日なんだからぼんやりしちゃダメでしょ!」
母親に発破を掛けられて明澄は慌てて支度をする、クリアも支度に手伝ってくれている。
詠寿からのプロポーズの言葉を受け取ったあの後、予想通り緊急首脳会議が行われた。
一時はどうなるかと思ったが、人魚族たちが基本無害だということを理解してくれた世界中の国々も人魚族たちを受け入れる方針をすると長門首相が言うと、他の国々の代表者たちも詠寿の夢を全力で支援したいと発言してくれた。
人魚族と人間の共存の日はそこまで遠くないかもしれないとさえ、明澄も思った。
あの後、明澄は王子である詠寿との関係がマスコミに報じられた……。
勿論両親にこの事はバレたし、色々問い詰められたがクエシスが記憶の泉を使って詠寿が
明澄を助けた過去を見せると最初は半信半疑だったが、詠寿の人柄の良さを気に入って両親は
徐々に納得してくれた上に婚約を認めてくれるまで至った。
「――いろんなことがありましたね。」
「……そうだね」
正体を知った人間は強制的に連れて行く人魚族の掟……不知火王は人間との共存を示すためにあの掟は撤廃の方針に至ったという話だ。
勿論この掟を話さない訳にもいかず、首相たちにもこの掟の事を話して不知火王たちは代表して頭を下げた。最初は批判されるかと思ったが長門たちや人魚たちと夫婦の契りを交わした人間たちの擁護もあってお咎めも小さくなった。
人魚族たちは大手を振って人間の前に姿を現せるようにもなったのだ……。
――その頃、会場では……
「花嫁殿はまだかなぁ?」
「喜ばしいな」
貴族たちが集まり、花嫁の登場はまだかと待ち続けている。
司会進行を任せられたショットが必死でプログラムをチェックして後ろにいる衛兵仲間と打ち合わせをする。
「王子……そろそろ準備ができると言っております。」
「――そうか」
アリヴが明澄の準備ができると詠寿に報告する、その言葉で詠寿は緊張する。
詠寿も正装しているため動きがぎこちない……。
《――えぇ~、来てくださった貴族の皆様、誠にありがとうございます。ただ今から婚約の儀を始めます。》
ショットが参加してくれた貴族たちに感謝の言葉と開式の言葉を述べた。
「……さぁ、この扉の向こうに詠寿様が待っていますよ」
「――うん。」
クリアが明澄に合図を送ると明澄はそう返し、クリアは扉を開けた。
会場の中央に、詠寿が今かと待っている。
貴族たちと使用人と衛兵たちの拍手喝采に包まれながら、明澄は詠寿の元に歩み寄って行く。
厳生は指定席に座りながら詠寿の長年の初恋が成就し結ばれた様子に涙を流し、アリヴに背中を撫でられていた。不知火王たちも二人を温かく見守り、明澄の母は不知火王たちの隣の席で今の父に寄り添って息子の晴れ姿に感動のあまり泣いていた。司会進行を任されたショットも、温かく見守る。
一番後ろの席ではクエシス、クローディオ、ノゼル達兄弟とリョウジが温かく見守っている。
(本当にいろんなことがあった……)
そう思いながら、詠寿がいるところの距離を一歩一歩歩きながら徐々に縮めていく。
――僕は今日、大好きな人と婚約します。
そう……6年もボクを守って、思いを寄せてくれたあの人と。
詠寿と同じ場所に立つとお互い一礼し、使用人の人魚が持って来た赤珊瑚のリングを手に取る。
――ボクはもう少し先の未来で、とても心の優しいシロワニの人魚の花嫁になります。
その誓いを、今します。
そして明澄は笑顔に包まれながら、詠寿とあのリングを嵌めるのだった……。
1
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
その首輪は、弟の牙でしか外せない。
ゆずまめ鯉
BL
養子ゆえに、王位継承権を持たないオメガで長男のレイン(24)は、国家騎士団として秘密裏に働き、ただ義弟たちを守るためだけに生きてきた。
第一継承権を持つアルファで次男のリオール(19)は、そんな兄に「ごく潰し」と陰口を叩く連中を許せなかった。自分を犠牲にしてまで守る価値はないと思っていた。なにかと怪我の多い国家騎士団を辞めさせたかった。
初めて訪れた発情期のとき。約束をすっぽかされたリオールが不審に思い、兄の部屋へ行くと、国家騎士団の同僚──グウェンソード(28)に押し倒されるところを目撃して激高する。
「今すぐ部屋から出ろ!」
独占欲をあらわにしたリオールは、グウェンソードを部屋から追い出し、兄であるレインを欲望のままに抱いた。
翌朝、差し出されたのは特注の首輪──外せるのはリオールのみ。
「俺以外に触らせるな」
そう囁かれたレインは、何年も首輪と弟の執着に縛られ続けてきた。
弟には婚約者がいるのに、こんな関係を続けてもいいのか。
本当にこのままでもいいのか。
ひたすら執着して独占したがる弟と、罪悪感に苛まれる兄。
その首輪は、いつか弟の牙で血に染まるのか──。
どうにかしてレインを落としたいリオールと、弟との関係に悩むレインのオメガバースです。
リオール・グランケット(19)×レイン・グランケット(24)
※この作品は2015年頃に本文を書き、2017年頃にオメガバースに改稿、さらに2026年に手直しした作品になります。読みにくいかもしれません。ご了承ください。
三人称ですが攻めだったり受けだったり視点がよくかわります。攻め視点多めです。
番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か
雪兎
BL
第二性が存在する世界。
Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。
しかし入学初日、彼の前に現れたのは――
幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。
成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。
だが湊だけが知っている。
彼が異常なほど執着深いことを。
「大丈夫、全部管理してあげる」
「君が困らないようにしてるだけだよ」
座席、時間割、交友関係、体調管理。
いつの間にか整えられていく環境。
逃げ場のない距離。
番を拒みたいΩと、手放す気のないα。
これは保護か、それとも束縛か。
閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。
かえり、みち
真田晃
BL
エセ関西弁の幼馴染みと、歩いて帰る。
明るいコイツのお陰で、外灯の少ない真っ暗な田舎道も怖くなかった。
なのに、何故だろう。
何処か懐かしさを感じてしまう。
コイツとはいつも一緒に帰っているのに。大切な何かを、俺は──忘れてしまっている、のか?
第一章:シリアスver.
第二章:コミカルver.
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる