シロワニの花嫁

水野あめんぼ

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本編

第三十二話:悪癖の治療へ……

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「王子……取りあえず、症状が出た時覚えている限りでいいのでどういう心境だったか教えていただけますか?」

 クエシスがまず口を開き、悪癖特有の症状である我を忘れて相手を血祭りにあげようとした時の心境を出来る限り教えてほしいと願い出る。

「そうだな……あの時、悪癖だということも乗じて阿久津への怒りで一杯だったうえに本気で殺そうと思っていたと思う。」

明澄の過去の事を思うと阿久津の事は許せなかったので、悪癖の症状も相まって殺そうとしたと思ってしまったことを詠寿は正直に話した。

「でも、明澄が『ダメだ』って叫んだ時。普段なら誰かに『ダメだ』と止められてものに……」

今まで症状が出た時は、誰の静止の声を聞いても興奮に支配された脳と体はいうことをきかなかったはずが明澄に大声で静止を掛けられた時なぜか我に返ることが出来たと話した。

「――そうか、我々や厳生たちの静止の声は脳や体に響くことはなかったけど静止の声は届いた……か」

この部分にヒントのようなものに聞こえたらしくクエシス達は少しだけ考え込むと……、

「明澄様、その時、貴方血は流したかい?」
「――えっ!? いいえ……」

 今度はクローディオが明澄に血を流すような怪我をしたか聞いて来た、明澄は血を流したのはあくまで阿久津であって自分は血を流すような怪我はしていないと答えた。

「召使いのあの子から話で聞いていたけど、って聞いてたけど……?」
「あぁ、その相手が明澄ちゃんだよ」

 クリアから車で移動中に大体の事は聞いていたが、詠寿には六年間思いを寄せていた相手がいたはず
だったことを思い出し確認するためにそう聞くと、それが明澄だとリョウジが教える。

「――おぉ、そうだったのか。6年越しの恋は成就したんだ。おめでとうさん」
「まっ、まぁな……」

クエシスは明澄が今詠寿と深い関係にあることを知ると少し考え、何か閃いた顔をして明澄の傍に近付くとある頼みごとをしてきた。

「申し訳ありませんが、少し王子を貸していただけませんか? これをヒントに悪癖を治せるかもしれないのです。」
「――えっ!?」
「いきなりで申し訳ないとは思ってはいる、でも詠寿様が第一の悪癖の第一の完治者になればきっと人魚界にいる鮫の人魚たちは信じて薬を服用してくれるようになると思います」

 クエシスが言うには完全に完治する薬を詠寿が服用して成功すれば、他の鮫の人魚たちも信じて服用して治せるようになるし、鮫の人魚を伴侶と選びたがらない人魚たちの説得の材料にもなれるというのだ。

「でも万が一失敗すれば……」

――はっ!

厳生の不安の声にあることに明澄は気付いた、厳生の言う通り万が一失敗すれば詠寿はどうなるのか。
そう考えると不安に駆られるが、詠寿を思うと簡単に首を縦に振ることはできない。しかし、逆に失敗してしまったらと思うと不安でたまらなくなる。

不安そうに詠寿の方を見ると、詠寿も思い悩んでいた。しかしすぐ覚悟を決めた表情をすると……

「――分かった、お前の言葉に従おう。」

治療薬が完成次第それを試すと腹をくくったのだった。

「……でも、詠寿さん!」
「――俺でなければ意味がない、王族である俺が大丈夫と言えば絶対的な証明となる。ならば、俺がその体で試す。」

詠寿はクエシスの言う通り自分が証明する成功例として立てば自分を含む鮫の人魚への偏見が軽くなると考え、詠寿はクエシスの提案に乗ることに決めたのだった。

「――ありがとうございます、王子様。その覚悟を裏切らない様必ず成功させて見せます!」

クエシスは詠寿が協力をしてくれることに感謝の意を込めて、跪き御礼と意気込みの言葉を述べた。

「大丈夫……絶対帰ってくる。そして、悪癖が完全に治ったらちゃんとお前のご両親に挨拶しに行こう」

詠寿は明澄を抱きしめ、絶対に悪癖を完全治療して明澄の元に戻ると誓った。
その言葉に明澄は少し迷いを感じるが……、

「――わかった、待ってる。……詠寿さんは、ボクのもとにいつも駆けつけてくれた。」

過去の時も、何度襲われそうになったときもいつだって詠寿は駆けつけてくれた。
きっとまた、自分のところに戻ってきてくれると信じることに決めた。

「だから待ってる……信じて待ってる」

「クリア……俺がいない間、明澄を頼む。」
「――はい。」

明澄は詠寿が完全に悪癖を治すまでちゃんと待っていると誓った。

真剣なまなざしで詠寿は、自分が人魚界に戻るまで明澄の傍にいてくれるようクリアに頼んだ。
クリアは覚悟を決めた詠寿の言葉に複雑な表情を浮かべながらも、了承の返事をする。

「リヴェラに助けられたという者たち、返答はしばらく待っていてくれ……。治療もかねて父たちに伝えて置くから」

詠寿はしばらく人魚界の王たちの返事は待ってほしいと長門にお願いすると、長門たちはそれを了承した。

――明澄達は浜辺に移動し、先に持病を治すと言う面目で一時人魚界に帰る詠寿を見送る。

「では、一旦人魚界に戻りましょう。不知火王にも連絡取らないといけませんから」
「あぁ……」

詠寿はカバンに入ってあったベルトを腰元に装着し、上着を脱いで海に飛び込んだ。
続いてアリヴ達も厳生も詠寿について行くように海に飛び込んで行った。

「さて、水中呼吸薬飲んでから俺らも行きましょうかね」
「――えっ!? 人魚なのに?」
「兄さん、ハイギョだから水中呼吸が長く続かないんだよ……」

人魚なのに水中呼吸薬を服用するのかクリアが驚いてクエシスに聞くと、クローディオがクエシスの魚種であるハイギョの影響が出てしまうためクエシスは長く水中呼吸できないことをかわりに教えた。
クエシスは水中呼吸薬を一気に飲み干すと……、

「――さて、帰りましょうか。ノゼルの事もあるし」
「あぁ、言い忘れてたけどノゼルは今漸くとっつかまえて手伝わせているから安心して。あと、あの子ってやつは明澄様に散々迷惑かけたんだぞ?」
「そうかい、あの馬鹿弟にも仕事手伝わせるか……」

ノゼルのお仕置をどうするか兄弟の間で会話しながら海に飛び込んで人魚の姿に戻った後、海から顔を出した。

「――おぉ、すごい」

「詠寿さん……!」

長門たちは人魚たちが多くいるその様子に、感嘆の声を上げる。明澄は駆けつけて海に膝が浸かるほど入り、詠寿が明澄の傍まで泳いでくる。明澄の傍に寄ってそっと頬に触ると……、

「大丈夫、俺を信じてくれ。明澄……」
「待ってる、帰ってきたら……“サバの塩焼き”作って待ってる。」

――クスッ

「――あぁ、頼んだ」

愛おしそうに言い聞かせ、必ず持病を治して戻ってくることを改めて誓った。
明澄は返事として一緒に食べる約束をしていたはずのサバの塩焼きを作って、待ち続けると誓う。

詠寿はアリヴ達を連れて、手を振って人魚界がある深い海に去って行った。

「……明澄様」

クリアが心配そうに声を掛けると丁度その頃に長門が呼んだ警察が来たと知らせるサイレンを
鳴らしたパトカーが2台来た。

「――葉月明澄さんと言いましたか? 事情聴取をさせてもらってもよろしいでしょうか? 阿久津あの男が貴方に何をしたのか仕事上詳しくしないといけないので……」

 阿久津から直接被害に遭った明澄に事情聴取をしたいので、長門は同行してくれるようお願いしてきた、明澄は留守をクリアに頼み込み、事情聴取に協力することにした。

「あの時は逃がしてしまったけど、今度はもう逃がしはしないさ」

長門は阿久津を連行し、被害者である明澄も重要参考人として同行することになった。
漸く阿久津に植え付けられたトラウマから、明澄は解放されたのだった。

――詠寿が治療を兼ねて人魚界に帰ってしまった後、眠れない日が続いた……。

大学のレポートを書き上げている時も、自分はいつからこんなに詠寿に依存していたのだろうという考えや、もし詠寿が戻ってこなかったらなんて縁起でもないことさえ考えてしまう。

阿久津は事情聴取の後、自分以外の子にも暴行を働いていたらしくそれも相まって懲役数年の罰が下ったと長門から聞いた。

詠寿からは何の音沙汰もない、詠寿の正体を知ったあの浜辺にいないかと毎日のように足を運ぶが
そんな影は見当たらない。明澄は彼が投げ捨てたあのTシャツをタンスから取り出す、あの後拾い上げて
洗濯してずっととってあった。そしてそれを不安そうになるといつも抱きしめていた。

最初は大丈夫だと言い聞かせていたが、数日も続くと自分が抱いていた一抹の不安が本当になってしまったのではないかとさえ思ってしまう。Tシャツからは彼のにおいが微かにしていた、何度も何度も危険にさらされては自分を助けてくれた彼の姿をふと思い出す。

あの優しい笑顔に、言葉にいつも励まされていた……。

自分は漸く晴れてわだかまりも解けて両想いとなれたあの日から、これから詠寿とともに人生を歩んで
行くんだろうと勝手に思っていた。どんな困難があっても彼となら乗り越えられると、『幸せになれる』……そう思っていた。

――“愛”に種族なんてない。

リヴェラの、彼女の言った言葉が本当なら自分は絶対に幸せになれる。

『そういう人がそばにいてくれたら……俺は、人魚界を守れる王になろうって頑張れる気がするんだ』

「帰ってきて……詠寿さん」

もし、どんなに世間の目が冷たくたって彼さえ傍にいてくれれば自分だって何もいらない。詠寿がなかなか帰ってこない不安に押しつぶされながら明澄は彼が着ていたTシャツを抱きしめるように握りしめた。

その様子を影で見ていたクリアは、心配そうに見つめることにしか出来なかった。
クリアは何か詠寿に関しての手掛かりが少しでも掴めないかと、駄目元でテレビをつける。
たどたどしい操作でリモコンのボタンを押していると……、

しかし、テレビをつけた途端クリアは映されているテレビの内容に驚愕する。

「――明澄様、明澄様!」

クリアは慌てて明澄がいる部屋に赴き、テレビを見るように促す。

《なんと、首相が人魚たちとともに現れ……彼らをこの国を中心に受け入れを許可して人権を認める方針を伝えました!》

「――!?」

何と人魚界の者たちがテレビに映し出されているのだ、しかもこれは生放送のニュースだった。
そして一番前列に不知火王と、顔の知らぬ3人の王らしき人物たちとこの国の現・首相が立っていた。

《驚きです、人魚たちが我々の目の前に姿を現しているのです!》

勿論、人魚である東西南北の人魚界の王たちと首相はカメラのフラッシュの嵐の的になっていた。
しかも首相はいきなりこの国に人魚たちを呼び出し、人魚たちがこの国を中心に人魚たちの受け入れを
許可しようという方針をいきなり出してきたのだ。

そして首相はメガホンを警察の者から借りると……、

《いきなりな事を言ってすまないと思っている。だが彼らは、我々のせいで絶滅の危機に追いやられているのだ》

首相は、順を追って国民全員に人魚との共存政策を作ろうと思うに至った理由を説明していく。

《彼らは……我々人間が海を汚したことが原因で徐々に人口が減っていると聞かれたのだ、私は彼らに
助けられたと言う友人から説得されて人魚族かれらに会うことにしたのだ》

「――!?」

首相の言葉で友人とは誰なのか最初分からなかったが、ちらっと映ったその姿に明澄は首相の友人というのが誰なのか分かった。長門が呼んだ環境庁で働いていると言っていたあのリーダーらしき中年男性の姿がそこにあったからだった。

「もしかして不知火王は……彼らの言葉を聞いて」

――ピンポーン

「「――!?」」

するといきなりインターホンの音が鳴り響き、明澄達は慌てて玄関に駆けつける。
戸を開けると厳生が目の前に立っており、横にはクローディオ達もいた。

「――明澄様、お迎えに上がりました」

「――厳生さん!? 詠寿さんは今どこに!?」

詠寿は一体どうなったのか、悪癖の治療は成功したのかいろいろ聞きたいことがあってつい詰め寄ってしまった。その言葉に厳生は少し驚いた後、笑みを浮かべる。

「貴方と最初に出会ったあの浜辺で……待っていますよ。悪癖の治療を終えて……貴方が来てくれるのを待っています」
「――!?」

厳生はあの浜辺で詠寿は待っていると話した、そして悪癖の治療は無事成功して終えたことを伝えた。

「――大丈夫、治療はちゃんと成功したよ。」
「リヴェラとの約束も守れたんだ……」
「早く来てやってください、詠寿様が待っていますよ」

リョウジ達は悪癖の治療成功させリヴェラとの約束は守れたと話し、早く詠寿の元に行くよう明澄に発破をかけた。その言葉に明澄は涙しながら首を必死で縦に振った。
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