オレのモノになればいいのに。

RuuA

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03.お前、バカか

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::葵唯side::

─ザアアア……。

雨止まないなあ……。

季節も梅雨期。

最近の天気予報は全国各地、雨マークで埋め尽くされてる。

3回目の日直の今日、職員室に行ってくると言った依織くんの帰りを自分の席で待つこと20分。

─ガラガラ。

「遅いよ、依織く……ん……」

教室のドアの開く音に振り返ると──

「悪かったな、三神じゃなくて」

ゆ、悠雅くん!?

「なんでここに……」

「俺のクラスなんだからいてもおかしくなくね?」

「だってもう4時半だよ? みんな帰ってる時間なのに……」

「部活に決まってんだろ? 雨ばっかだから筋トレしか出来ねーけど」

部活か……。

……って、そういえば私、悠雅くんの部活まだ知らない……。

「アンタって何部なの?」

自分の机の中をあさくってる悠雅くんに質問してみる。

悠雅くんは探す手を止めないで答えた。

「サッカーだけど?」

「依織くんと一緒!?」

「どこに驚いてんだよ」

まあ、サッカーって感じの顔してるもんね。

サッカー部って雰囲気とかで大体わかるよね。

「葵唯は? 何やってんの?」

「私は何部にも入ってないよ」

「部活じゃねーよ、いま!」

「あー、日直」

悠雅くんと話すの、久々だな……。

掲示係は3ヶ月に1回ぐらいのペースらしく、4月のあの日にしてから2回目はまだ。

隣の席って言っても、話すことはそんなにない。

悠雅くんは友達といるし、私も凛といる。

なかなか話さないし、SNSのトークも私の未読無視のまま進んでない。

依織くんとのトークのやりとりだけがほぼ毎日続いてる───

「ねぇ」

「ん?」

「何探してんの?」

「ゴム」

「ゴム? ゴムならあるよ! 貸してあげよーか?」

私はカバンの中からポーチを取り出した。

ピンとゴムとクシしか入ってない女子力低めのポーチだけど。

「はい!」

私は新品のゴムをひとつ取り出して、悠雅くんに差し出した。

それを見るなりフリーズする悠雅くん。

「葵唯、何のジョーダン?」

「へ?」

「高校生のくせにゴムで最初に思いつくのがソレかよ」

「女子は大体そーでしょ。んー、輪ゴム? 輪ゴムはさすがに───」

「コンドーム」

……………。



いま、なんて?

悠雅くんの口から学校ににつかわしくない言葉が発せられた気が……。

「男子は大体コレが最初に思いつく」

そう言って机から取り出したのは手のひらサイズの袋みたいなもの。

「それ……もしかして……」

「ゴムだけど。みたことねーの?」

ほ、ほんもの!!

途端に目線をそらす私。

見るだけで顔が真っ赤になってしまう。

威力半端ない。

「だ、大体! なんでそんなもの学校に持ってきてんのよー!」

「使うからだろ」

「はあああああ!?」

使うー!?

学校で!?

バカじゃないの!

ハレンチすぎるーー!!!

「オレとエッチする?」

「だ、だからしないってば!!」

悠雅くんの方を向き、睨みつけながら断固拒否!

やっぱり変態だ!

ものすっごーく変態!!

「俺が誘ったら全員脱いだんだけど」

「あ、あっそ……」

─ズキン。

胸が痛い……。

全員って……。

みんな、悠雅くんのこと好きなんだ……。

悠雅くんが色んな人と……エッチ……。

なんでこんなに胸が痛いの……?

恋心なんて忘れたはずなのに……。

……なんていうのは嘘で……。

忘れようとしても忘れられない。

悠雅くんを見れば見るほど好きになっていく。

だけど、依織くんのことも気になってて……。

って、私、二股してるみたい……。

依織くんのほうが断然いいのに……。

なんでこんなに悠雅くんに惹かれるのかな……?

─ガラガラ。

「ごめん、葵唯! 遅くなって………大和?」

笑顔で入ってきたのに、悠雅くんを見るなり怪訝そうな顔をする依織くん。



どうしたのかな?

依織くんのこんな顔、初めて見た。

「そーいや、葵唯、三神待ちだったな」

「なんで大和が?」

いつもよりちょっと低い依織くんの声に驚きを隠せない私。

なんでこの2人仲悪いのー!?

「ここ、俺の教室でもあるから。いて何が悪いんだよ。まあ、もー用は済んだし、帰るわ」

そう言って、悠雅くんはドアの所に立ってる依織くんの隣を通り過ぎて出ていった。

ケンカでもしたのかな……?

「葵唯、大和と仲いいの?」

さっきの依織くんとは打って変わって、いつも通りの雰囲気に戻ってる。

だけど、質問を投げかけた声は真剣そのもので……。

「学級委員で同じでしょ? だからかなあ」

「そっか……」

安心?したよーな声で笑顔を取り戻した依織くん。

「日直の仕事しよっか!」

「う、うん!」

さっきの依織くんに驚きを隠せないけど、直ったみたいだから大丈夫……だよね?

* * *

「あのさ、葵唯」

「ん?」

書き終わった日誌を閉じながら依織くんを見上げる。

真剣な顔……どうしたのかな?

「今週の土曜、俺とデートして下さい」

「え……えええええ!? で、で、で、デートォ!?」

デート!?

デートってあのデートだよね?

もう何ヶ月もしてないけど!!

あたふたしながら答えを考える。

えっと、土曜って何も予定なかったよね?

「わ、わかりましたっ!」

「え、マジで!? よっしゃ」

依織くんは小さくガッツポーズをした。

依織くんとデート……。

今からドキドキが止まらないよ……。

* * *

「どーしよ、凛! 何着ていったらいー?」

私は等身大の鏡の前で服をとっかえひっかえ。

デートなんて久々すぎてどんな服着ていってたか覚えてないよー!

「とりあえず、勝負下着は絶対だからね!」

「え!? し、勝負下着!?」

あまりの驚きにスピーカーにして机の上に置いてたスマホを勢いよく振り返った。

「だって見られないじゃん……!」

「見られる見られないとかじゃなくて、気持ちの問題! それにもしかしたら……ってこともあるし」

もしかしたら……。

考えるだけで顔が真っ赤っか。

勝負下着……。

「私、勝負下着なんて持ってないよ」

「明日の放課後買いに行こ!」

私の気弱な声とは反対に力強い凛の声。

いい友達を持ったわ───

* * *

「服は? 決まったの?」

翌日の放課後、凛とファッションのお店が立ち並ぶアーケードに来ていた。

勝負下着をかうために。

「決まんなかった……半袖とかワンピ、可愛いのないんだもん……長袖はいっぱいあるけど」

「そーだよねー。じゃあ、服もついでに買お」

おおおおお、神だあ!

凛はセンスもいいしコーディネートしてもらうなんて嬉しすぎ!

「ココだよ、私お気に入りのランジェリーショップ」

「オシャレ~!」

キラキラした店内だけど、黒い壁やタイルの床が落ち着いた雰囲気を醸し出してる。

私もすぐに気に入った。

ランジェリーショップで下着なんて買ったことないよ……。

量販店で洋服も下着もバッグも靴も買ってる。

時々ブランド品を買うぐらい。

その時点で女子力の差がもう目に見えてる。

「いらっしゃいませ」

綺麗な佇まいでお辞儀をした店員さんにつられ、慌てながらペコリ。

こんな優雅なお店初めてだよ~。

凛と一緒で良かった。

1人じゃ入ることもままならなかったと思う。

「葵唯に似合うのは……白かな。でも、水色好きだし、勝負下着だから黒もいいかも!」

そう言いながら下着を見ては次の下着。と、いろんなものを手に取る凛。

ピンクのレース下着。

黒のリング下着。

水色のリボン下着。

白のヒモ下着。

色々見たけど、凛はこの4つに絞ったみたい。

「よし、当ててみよ」

そう言って4着の下着を交代に私の体に当てながら首を傾げる凛。

これがいいかな? これかな? と、悪戦苦闘してるみたい。

どれも可愛いんだけどなあ……。

「もし薄手の服着るんだったら白かなあ。葵唯も白って感じだし」

そう言って凛は残りの3着を元の場所に直した。

素早くて的確な凛の買い物。

ありがたき。

「次は服だね」

ランジェリーショップでお店のオシャレなビニール袋に下着を入れてもらい、再びアーケードへ。

「どのショップがいーかなー? 葵唯に合う服……」

んー?と首をかしげながらあるく凛。

コーデのテーマとかジャンルによって買う店を選べるなんて……。

私、全然わかんないよ。

あっ!とひらめいたように呟いたような凛は足早にそのショップへ。

私も負けじとついて行くけど足が長い凛に追いつくには小走りしないとムリ。

ローファーは運動神経が悪い私にとって走りづらい。

「ココだよ」

凛はショップの前で立ち止まった。

外観はカジュアルで、落ち着いた木目調のお店。

「いらっしゃいませ」

中に入るとオシャレな服を着こなしてる店員さんが挨拶をしてくれた。

私も慌ててペコリ。

「初デートだしー、相手が三神ならちょっと攻めたほーがいーかもね。あいつ見るからに草食系だし」

「攻め?」

戦うの?

草食系……なのかな?

こないだはちょっと肉食系混ざってたけど。

「これとかどーお?」

凛が手に取ったのはミニミニミニミニのデニムのショーパン。

短すぎー!

「ミニすぎでしょ」

「パンツは見えない」

そーゆー問題じゃない!!

足丸見えじゃん!

「トップスなんかはコレがいいね」

ショーパンを左手に持ち替え、トップスを右手にとり、私に2着を上下にして見せた。

肩が開いてる水色のシャツ。

可愛いけど!

可愛いんだけども!!

「露出しすぎじゃない?」

「そーかな? これぐらい攻めなきゃでしょ」

攻めって……。

「とりま試着しよ」

─シャーッ。

凛の勢いに促され、試着室に押し込まれた私。

手には凛が持たせた服。

この服でデート……。

ってか、こんな露出しすぎてたら日焼け止め塗りまくんなきゃじゃん!

* * *

そんなこんなで迎えたデート当日の今日。

依織くんとの待ち合わせ場所───駅前の公園に10分前に着いた私。

公園の真ん中に立ってる時計は3時50分をさしていた。

依織くん曰く、映画見に行って夜ご飯を食べさせてくれるらしい。

嵐のようにすぎた昨日を思い返し、そっと胸元に手をやる。

慣れない紐ブラに苦戦しながらがんばった。

ヒモなんて初めてだからどーやってつけるのか分かんなかったけどいっぱいググってやっと結んだ!

昨日凛に選んでもらった水色のショルダーカットアウトブラウスと超ーミニ丈デニム。

白と黒の落ち着いたサンダル。

赤いハートのイヤリング、いつもつけてる星のネックレス、腕時計、黒のブレスレット、白いリボンのヘアピン、ポシェット。

日焼け止め塗りまくった結果、なかなかいい感じになったと思う。

やっぱり凛のセンスは抜群!

4時前の空は少し日が傾いていて、そろそろ夕焼けになる頃。

デート……。

何ヶ月ぶり?

少なくとも高校に入ってからはした覚えがない。

……ってことは……。

何ヶ月ぶりどころか何年ぶりって話じゃん!

私、そんなに彼氏いなかったんだ……。

華のJKをムダにしてる。

「彼氏……かぁ」

ぼそっと呟いた。

“彼氏”その言葉を思い浮かべた時浮かんだ顔───

私は……誰が好きなの……?

依織くんといると楽しいし、キュンとする時もいっぱいある。

デートに誘われた時も素直に嬉しかった。

なのに……。

なのに……なんでアイツの顔が浮かぶの……?

ハレンチなことしか言わないし、イジワルだし……。

だけど。

アイツの顔を見ると嬉しがる自分がいて、アイツといるとドキドキする自分がいる───

……きっと。

一目惚れの効果が続いてるだけ。

はやく切れないかなー?

一目惚れの効果───

* * *

私は右腕の腕時計を確認した。

針は5時30分をさそうとしていた。

約束の時間から1時間半が経過した。

依織くん、どうしたのかな……?

スマホのSNSの画面を開き、何度目かの確認。

依織くんからのメッセージはない。

電話番号交換してないから電話もかけられない。

あと少し待とう……。

* * *

─キーンコーンカーンコーン。

6時を知らせるチャイムがなった。

夕日はもう山頂近くまで落ちていた。

スマホを開いても依織くんからの連絡はない。

もうすぐ暗くなるし、帰らなきゃ。

私はベンチから立ち上がり、家の方向へ歩き始めた。

依織くんは約束を破る人じゃない。

きっと何かあったんだ……。

そう言い聞かせても、やっぱり辛くて……。

「……っ」

そっと涙が頬を伝った。

悲しい……。

何かあったんだって言い聞かせても、どこかで依織くんを疑ってしまう私もいる。

最低だ。

そんな自分が恥ずかしい……。

もし依織くんが他の……友達と遊んでいても、私がどーこー言えないこと。

私みたいなフツーの女の子と遊ぶ約束してくれただけでも嬉しいことなんだから。

─ポタっ。

へ?

顔に水滴が落ちてきた。

うそ……。

─ポタ……ポタポタ……。

─ザーッ。

突然の雨。

私は手を頭の上に置いて家路を走った。

手なんかで雨は遮れないけど、雨宿りできるとこまでなんとか……。

そんな私の思いも虚しく、雨は酷くなっていくし、私の体もずぶ濡れ。

もういいや……。

手で遮ることをやめ、私は家路を歩いた。

きっと涙を消してくれてるんだ。

ほかの人に泣いてるとこなんて見られたら恥ずかしいし……。

その時──

「……っ!?」

なに、これ!?

どーゆーこと!?

突然の出来事に頭がついて行かない。

誰、この人!

急に私の腕を掴んで走り出した人。

だれだれだれ!?

怖いんですけど!!

「あの!! やめてください!!」

反抗してもその声は雨の音に消され、手を離そうとしてもこの人の力が強くてふりほどけない。

なんなの?

恐怖心がどんどん膨らんでいく。

怖い……怖い……。

その人が連れてきたのはどこかの建物。

私の手を掴んだままその人は建物の軒下に入った。

「はあ……はあ……」

運動不足が裏目に出た。

走りすぎてキツイし、サンダルを履いてる足も痛くてたまらない。

「あんた、バカなの?」

「へ?」

私のこと?

手を掴んでるその人を見上げた───

「「…………っ!?」」

お互いに息を飲んだ。

なんで……。

なんでアンタが……。

「葵唯……」

なんで悠雅くんがここに……。

「お前、バカか! 雨に濡れながら歩くとか正気かよ、風邪ひくだろ!」

─ビクッ。

真剣な表情で私を叱る悠雅くん。

悠雅くんがいってることは間違いない。

建物で雨宿りもせず、ただただ雨の中を歩くなんて変だもんね……。

風邪ひいちゃうし。

「くしゅんっ」

「もう風邪ひいてんだろ」

そんな口調強くなくてもいーじゃん。

うつむいてふてくされる私。

─パンッ、パンッ。

─ビクッ!

突然の大きな音に肩を揺らし、悠雅くんの方を見た。

なんの音……?

「これ着とけ」

そう言って私の体をジャケットで包んだ。

あの音は、ジャケットについた水滴を飛ばしてた音だったんだ。

悠雅くんの優しさに胸がキュンってなる。

嬉しくて嬉しくてたまらない。

私はジャケットを握りしめた。

あったかい……。

悠雅くんがさっきまで着てたからだね。

悠雅くんのあたたかさがじんわり、私の体を温めてくれる。

「とりあえず入るぞ。シャワー浴びたほーがいーだろうし」

「うん」

そう言って悠雅くんは私の腕を掴んだ。

─ドキッ。

悠雅くんの手が私の手に……。

───って。

ちょっと待って。

ここどこなの?

シャワーって何!?

* * *
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