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異世界生活
緊急依頼《3》
しおりを挟む「フッ――!!」
突っ込んだ勢いのまま俺は、一匹の狼の前に飛び出すと、その首を一閃して斬り落とす。
流れる動作で、そのまま反対の手に握る妖華ではない短剣を走らせ、付近にいた二匹目の首もまた、胴体と泣き別れさせる。
と、背中の方から飛び掛かって来た別の狼の攻撃を身を低く倒して回避し、ソイツが俺の身体の上を通り過ぎ様にその胴へと小太刀を突き刺し、縦に真っ二つに裂く。
時間差の攻撃で、低い位置からこちらに走り寄り、足に噛み付こうとしてくる狼を蹴り飛ばして空中に身を躍らせ、ソイツの首筋に一閃。
コイツら、この群れを率いるトップが余程優秀なのか、かなり統制の取れた動きをしているが……まあ、所詮は犬畜生である。
二刀流系統のスキルは、あんまり多く取っていないのだが、これだったらスキルを発動させずとも何とかなりそうだな。
ちなみに、俺が妖華とは別にもう一本握っている短剣、コイツの銘は『シュバルツァー』。
小太刀の妖華よりも刀身は短く、セイハの使うダガーよりは多少長い程度。
漆黒という表現がピッタリ来るような黒一色の刀身をしており、刀身の反対側に突起が付いた、いわゆるソードブレイカーという種類の武器だ。
若干妖華よりはグレードが下がるのだが……まあ妖華がちょっとおかしなだけで、この武器もレア度としては相当高いんだけど。
本当は対人戦に有効な武器なのだが、刀剣類の中だと妖華の次に使い慣れている武器なので、今回もまたこれを使用している。
「ッ、狼どもの連繋が崩れた、行くぞッ!!」
その俺の吶喊に呼応し、防御に回っていた冒険者どもが、雄叫びを上げてこちらに突っ込んで来る。
彼らの様子に、ある程度の敵は任せていいだろうと判断した俺は、すれ違いざまに飛び掛かって来るロックウルフの首を正確に斬り落としながら、群れの中枢へと向かって行く。
「――お、いたいた」
「……グルルゥ」
――やがて、周囲を狼に囲まれながら俺は、ソイツと対面する。
そこにいるのは、静かにこちらを睨み付け、ひしひしと敵意をぶつけてくる、他の狼どもより一回りも身体が大きく俺より少し高い位置に頭がある狼。
毛並は滑らかで美しく、まるで夜の暗闇のような真っ黒の体毛をしている。
周囲の狼どもが俺を囲むだけで襲い掛かって来ないのは、あのトップが俺に攻撃しても無駄だとすでに理解しているからだろう。
俺に向かって飛び掛かろうとしているヤツはいるのだが、その真っ黒狼がグルンと首を向けて小さく唸り、囲いを崩さないように部下を抑制している。
これが、いわゆる上位種と呼ばれる魔物……いや、アイツ、もしかして希少種か?
ロックウルフの上位種は、確か身体が普通のロックウルフより大きいだけで、その毛並は同じ茶色だと聞いている。
対してコイツは、姿形こそは他の狼どもと似通っているものの、その体毛は全く違う色である。
希少種というのは、なんかそういう、ちょっと違った変化をするのだと聞いている。
……なるほど、この一団に襲い掛かって来たのは、それが理由か。
恐らくは、ボスのコイツがいれば、勝算があると考えての攻撃だったのだろう。
希少種の魔物は、上位種の魔物より著しく戦闘能力が高いって話だからな。
――ヤバい、どうしよう。
欲しくなって来てしまった。
「……ふむ。お前、ウチの子にならないか?」
「グルゥッ!!」
俺の言葉を理解しているのかどうかは知らないが、ふざけるな! とでも言いたげに土魔術を発動し、俺の足元に土の剣山を出現させる。
察知系スキルでその発動を予め予測していた俺は、トンと跳んでそれを避け――同時、その避けた先に向かって、真っ黒狼がこちらに向かって突撃をかます。
その脚力は凄まじく、ほぼ瞬間移動のような勢いで突進して来たが……まあ、慣れている。
背後に生えていた木を蹴り飛ばし、三角跳びの要領で突進を躱した俺は、そのまま真っ黒狼の背中の上に飛び乗ると、両足で締め付けるようにして騎乗する。
「よし、いいぞ。伏せだ、伏せ」
「グルルァァッッ!!」
が、当然言うことを聞くはずもなく、苛烈に暴れ、俺を振り落とそうとする真っ黒狼に、俺は――。
「聞こえないか? 伏せだ、と言っているんだ」
――『威圧』スキルを、発動。
「……フゥ、フゥ、グッ、グルルゥ……」
途端、下の真っ黒狼の抵抗が極端に弱くなり、まるで見えない何かと戦っているかのように、荒く呼吸を繰り返し始める。
――『威圧』は、ゲームにおいてはただ、雑魚モンスターを寄せ付けないためのスキルであった。
だが、こちらの世界においてこのスキルを発動すると、相手が雑魚モンスターならずとも実力差がある相手には、こうして委縮させることが可能であることが、すでにわかっている。
と、明らかに威圧スキルの効果を発揮しているのにもかかわらず、なおも毅然とした態度を取り、屈しようとしない真っ黒狼に、俺はニヤリと笑みを浮かべる。
いいぞ。その気高い精神は大変よろしい。
「聞け。ここでお前が、俺に屈するならば、お前の仲間はこれ以上殺さないでやる。どこかへ散るなりなんなり、逃げるがいい。これ以上人に襲い掛からず、どこかに逃げりゃあ、討伐もされねーだろうさ」
「…………グルルルゥ」
「お前らは、負けた。こちらに襲い掛かり、そして返り討ちにされ、負けた。それとも、まだ負けてないと思うか? お前ら全員で、俺に襲い掛かってみるか?」
「…………」
未だ何かに抗う姿勢は見せるものの、唸るのをやめる真っ黒狼。
「よく、考えろ。お前は、群れの長だろう。ならば、どうするべきか。今後、どうすることが、一番お前らの群れにとって、お前の仲間にとって、為になるのか考えろ」
――その、俺の言葉に。
全てを理解した、とは流石に思わないが……だが、やはり、相当賢いヤツなのだろう。
「…………クゥン」
やがて真っ黒狼は、小さくそう鳴き声を上げ――俺を乗せたまま、その場で伏せの態勢を取る。
抵抗をやめ、恭順の姿勢を示す。
「よし、良い子だ。お前は……『夜華』だ。これからは、俺を主として、俺の仲間の一員となり、俺に付いて来い」
「……クゥ」
まるで返事のように、そう鳴き声を上げる真っ黒狼、夜華の首筋を、俺はポンポンと撫で――。
『ウオオオオ―――!!』
その雄叫びに慌てて周囲を確認すると、武器を振り上げ、勝ち鬨の声を上げる、いつの間にか近くまで来ていた冒険者ども。
さらに周囲を見渡すと、トップが負けたのを見るやこちらに敵わないと判断したらしく、こちらから逃げ出している最中の、俺と夜華を囲んでいた狼の群れ。
「オイオイ、マジかよ!!」
「すげぇぜ、希少種を手懐けやがった!!」
「誰だ、あの男は!?」
ノリよく、囃し立てる冒険者のヤツら。
対して俺は――大人しくなった夜華の上で、完全に我に返り、冷や汗をダラダラと流す。
……マズい。
途中から、もう全く目的を忘れて行動していた。
ゲーマーの性で、レアなものを見てテンション上がっちゃって、その衝動のままに動き出しており、もうなんか、完全に周りのことなんか意識から無くなってしまっていた。
…………ま、まあいいだろう。
今回は、程よく実力を証明して、護衛組から調査組に鞍替えするのが目的だったからな。
ちょっと、やり過ぎた気もしなくもないが……いや、冒険者ランクを上げる必要がある以上、功績が増えるのは良いことのはずだ。
そうだ。俺は、最初から全て計画通りに動いていたんだ。
そういうことに、しておこう。
――後で、ネアリアに何を言われるだろうか。
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