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沙藍ちゃんの家に招かれました②
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『買い物に行ってきます。鍵は締めていくので、帰る時は連絡ください』
丸っこい文字を数回読み返して、スマホとともに回収、床に腰を落ち着ける。さすがに、もう一度ベッドに座る気にはなれない。
メッセージアプリを起動して、指は止まった。この場合、なんて送るのが適切か。まずは謝罪からかとも思いつつ、謝らなければならない事象が多すぎて『ごめんね』スタンプひとつで済ませるはずがない。
時計の針の音がする。室内に時計はみっつ。ベッドの脇と机の上、部屋の壁。沙藍さんが遅刻してきたことは一度もないな、と思った。すぐに目につく場所に置いて時間をまめに確認する姿が目に浮かぶ。
その代わり、テレビはないようだった。実家暮らしの身としては、テレビがない生活というものはあまりピンと来ない。そこそこ新しい型のノートパソコンが机の上にあるので、もしかしたら動画はそれで見ているのかもしれない。その脇にちょこんと座っているのは、先日の水族館デートでお土産に購入したメンダコのぬいぐるみキーホルダーだ。つぶらな瞳に和ませてもらう。
視線を移す。扉のすぐそばにはポールハンガーがあり、彼女がよく使っている鞄が掛けられていた。てっぺんには帽子が重ねられている。見覚えのあるものばかりで、なんだか嬉しくなった。
「……」
結局、スマホは伏せて床に置いてしまった。彼女が家を出たのはいつ頃だろう。眠ってしまった直後に家を空けるような性格には思えないから、20分くらいは起きるのを待っていたのではないか。そこからメモを残して外出。道すがら近所にスーパーやコンビニがあったのは記憶している。きっと慌てて用事を済まそうとするだろうから、帰ってくるならきっともう、すぐだ。
大きく息を吐き出して、目を閉じた。今日このときまで部屋に招かなかった彼女は賢明だった。あまりにも無防備に、彼女の情報が見てとれて、秘密を除き見ているようで居た堪れない。なによりーー
ガチャン、と錠のまわる音に、パッと立ち上がって扉を開けた。廊下の先の玄関で、彼女が小さく声を上げる。
「起きてたんだ。ごめん、もしかして、連絡くれたか、な…」
言い終わるより先に、衝動のまま抱きしめる。突然のことに彼女の身体は硬く強張ったから、口から飛び出ていきそうな言葉をギリギリで留める。
好きです。
彼女の匂いがする部屋で、ああ、こんなところを好きになったんだ。そんないじらしい君を少しでも多く笑わせたかったんだ。と思えば思うほどに、もどかしかった。早く抱きしめたくて仕方なかった。
「あの、汗…かいてて…」
触れた途端、室内にいるよりずっと色濃く感じた。ますます腕に力を込めて、肩口に顔を埋める。
「…っ」
小さく息を飲んだ気配に一瞬我に返る。話すべきことは山ほどあるはずで、そっと頭を撫でられてしまえば、もう駄目だった。
どうか、キスだけ。どうか、許して。
丸っこい文字を数回読み返して、スマホとともに回収、床に腰を落ち着ける。さすがに、もう一度ベッドに座る気にはなれない。
メッセージアプリを起動して、指は止まった。この場合、なんて送るのが適切か。まずは謝罪からかとも思いつつ、謝らなければならない事象が多すぎて『ごめんね』スタンプひとつで済ませるはずがない。
時計の針の音がする。室内に時計はみっつ。ベッドの脇と机の上、部屋の壁。沙藍さんが遅刻してきたことは一度もないな、と思った。すぐに目につく場所に置いて時間をまめに確認する姿が目に浮かぶ。
その代わり、テレビはないようだった。実家暮らしの身としては、テレビがない生活というものはあまりピンと来ない。そこそこ新しい型のノートパソコンが机の上にあるので、もしかしたら動画はそれで見ているのかもしれない。その脇にちょこんと座っているのは、先日の水族館デートでお土産に購入したメンダコのぬいぐるみキーホルダーだ。つぶらな瞳に和ませてもらう。
視線を移す。扉のすぐそばにはポールハンガーがあり、彼女がよく使っている鞄が掛けられていた。てっぺんには帽子が重ねられている。見覚えのあるものばかりで、なんだか嬉しくなった。
「……」
結局、スマホは伏せて床に置いてしまった。彼女が家を出たのはいつ頃だろう。眠ってしまった直後に家を空けるような性格には思えないから、20分くらいは起きるのを待っていたのではないか。そこからメモを残して外出。道すがら近所にスーパーやコンビニがあったのは記憶している。きっと慌てて用事を済まそうとするだろうから、帰ってくるならきっともう、すぐだ。
大きく息を吐き出して、目を閉じた。今日このときまで部屋に招かなかった彼女は賢明だった。あまりにも無防備に、彼女の情報が見てとれて、秘密を除き見ているようで居た堪れない。なによりーー
ガチャン、と錠のまわる音に、パッと立ち上がって扉を開けた。廊下の先の玄関で、彼女が小さく声を上げる。
「起きてたんだ。ごめん、もしかして、連絡くれたか、な…」
言い終わるより先に、衝動のまま抱きしめる。突然のことに彼女の身体は硬く強張ったから、口から飛び出ていきそうな言葉をギリギリで留める。
好きです。
彼女の匂いがする部屋で、ああ、こんなところを好きになったんだ。そんないじらしい君を少しでも多く笑わせたかったんだ。と思えば思うほどに、もどかしかった。早く抱きしめたくて仕方なかった。
「あの、汗…かいてて…」
触れた途端、室内にいるよりずっと色濃く感じた。ますます腕に力を込めて、肩口に顔を埋める。
「…っ」
小さく息を飲んだ気配に一瞬我に返る。話すべきことは山ほどあるはずで、そっと頭を撫でられてしまえば、もう駄目だった。
どうか、キスだけ。どうか、許して。
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