神話の牢獄

おにぎり

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3、精霊は夢を見る

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 気が遠くなるほどの遅さ。浮遊しているようで、倒木の間を揺れながらこちらに来る。

 火の玉と思ったが、どうやら違うらしい。
 黄色がかった緑色は、時々弱々しくなりながら向かってくる。

 空に浮かぶ星座がかなり位置を変えた頃、ようやく光が洞窟の前に辿り着いた。

 光る点のように見えていたそれは、よく見ると人の形をしていた。
 転がっている石ころほどの大きさのそれは、頭をぐったりと下に垂れて、なんとか浮んでいる状態。


 彼女は2人組の男が残した木製の椅子を見るなりそこへ飛んで行き、すぐに体をうずめた。
 まるで温泉に入るように木に溶け込んだ彼女は、小さな吐息をついてから寝てしまった。


 俺は彼女に似た生きものを見たことがある。
 それは俺が初めて水脈を動かすことができたあの時だ。

 かなり前のこと。人間の感覚で言うと、たぶん太古の昔くらい前だ。
 その日の朝方、鳥の糞の中からタネが発芽した。そのタネは最初こそ元気に根を伸ばしていたが、次第に動きが鈍くなっていった。
 水で飢え始めていたのだ。


 目の前の命を助けたい。しかし手が届く距離にいながら、俺は助けることもできないのか。そんな自分を責めた。

 タネが枯れて最後の力を振り絞っている時、俺の中で何かが動いた。今まで感じることしかできなかった水脈が、俺が思う通りに動き始めたのだ。

 早速タネに水脈を繋げると、タネはその日のうちに大きな木に成長し、美味しそうな実をつけた。


 翌日、ひとつの実から人の形をした光が飛び出した。そして俺の頬にキスをして、どこかへ飛んで行った。
 俺は、その光のことを精霊と呼ぶことにした。


 スピー
 スピー

 緑色の精霊が寝ている。顔色はだいぶ良くなったよう。たまに寝言を言いながら寝返りを打っている。
 精霊は倒木では回復できないのかな。あの2人組の男も少しは役に立ったな。
 そんなことを考えているうちに、暗い夜が明けた。


 目を覚ました精霊は洞窟の奥へ行って、岩を触っては外に出てを繰り返している。
 特に何か意味があるわけではなさそう。たぶん、ただ遊んでいるだけだ。
 彼女なら、いつまででもここにいてほしい。

 そう思っていると、ボコボコッという音がして、地面に何かを感じた。
 急いで見てみると、昨夜精霊が寝た家具から根っこが生えて、地面の岩を囲んでいた。

 思わず目を疑ったが、少しの間様子を見ることにする。
 精霊は喜んでいるようで、両手を上げて飛び跳ねている。


 根は俺の中を進み、やがて水脈へと辿り着いた。家具から伸びたツルは壁の岩を掴んで離さない。
 ツルは葉を茂らせて、やがて小さな赤い花を咲かせた。

 3日が経つ頃には、洞窟は緑あふれる空間へと変貌していた。
 灰色一色の世界に、これほど他の色が入り込んだことはなかった。
 俺はなんだか感動して、水脈のひとつが太くなるのを感じた。


 俺は根が水を吸いやすいように水脈を動かし、面倒を見ることにした。

 精霊は心地よく過ごしているようで、たまに外へ出て朝露を集めている。
 なんと可愛い生き物だろうか。

 この精霊を増やせることなら増やしたいな。
 そう思った時、洞窟の奥の方。いちばん大きな岩が、音を立てて倒れた。

 あぁ、まずいことになった。
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