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6、囚われた正体
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「痛えよぉ、なんだよあいつ……。」
グリングに治療を受けながら、ゲーゼが呟いた。
「一体、お前は何を見たんだ?」
器用な手先で治療をするグリングは、一瞬手を止めてから言った。
「一瞬だった。何かが光って……その後一瞬で距離を詰めて来たんだ。あいつが何かは……見てない。」
そう言った後、ゲーゼは涙をこぼして啜り泣いてしまった。
たしかに、一瞬だった。もう少し速ければ感知できないほどの速さ。
しかも、それは暗闇の中で光ったという。
やはり生きているのか。そして、人を襲うのか。
まったく、なんて厄介な存在だ。そんな強いやつがなんでここにいるんだよ。
その時、俺の思考の中で最も最悪な展開を思いついた。
もしかして……結界が解けたのか?
リノン・ミキにより封印されたはずの、俺の奥深くに眠る要塞。
結界が解けて、かつての魔物が地上に出ようとしていると考えれば、この不思議な状況の説明もつく。
いや、まさかな……。そもそも結界が解けるわけが……。
ピピピッピピッ
「あ、こちらグリングです。現在、ゲーゼが攻撃を受けて戦闘不能です。応援をお願いします。」
グリングが何かの魔法を使って会話をしている。
小さな石と魔法陣を手に、ゲーゼの怪我の様子やこの洞窟の場所を伝えているらしい。
「……はい。……はい……あ、ゲーゼ・リノです。……へ?あ、2日ですか?あ……はい、分かりました。よろしくお願いします。」
絶妙に役に立っていなさそうな通信を終えたグリングは、どこか得意気に思えた。
応援が来るのか。応援……そもそも、こいつらは誰だ?
兵士なのか諜報員なのか。いや、冒険者っていう可能性もあるのか。
まぁ、それは今はどうだっていい。問題は、この場所が、再び戦争の舞台になる可能性があるということだ。
数えきれないほどの犠牲者を出した、魔王マラの時代。あの凄惨な光景を記憶しているのは俺だけだろう。
俺にできることは何かあるだろうか。
……うーん、正直思いつかない。
考えているうちに辺りは暗くなり、野生の魔物が出て来る時間になった。
あのふたりはずっと草むらにいるつもりだろうか。
この辺りで一番安全なのは、この洞窟だ。
魔力の塊も、今のところ円形の広場から出て来る気配はない。
出て来たら……その時はその時だ。天井の岩でも落として、あいつらが逃げる時間くらい稼いでやろう。
日が落ちてから、随分と時間が経った。ふたりはまだ洞窟に入ろうとせず、草むらにいるようだ。
たまに人の気配を察知した魔物がふたりに近づくが、魔法弾を打って撃退をしている。
俺は疑問に思った。あいつらは草むらから外の様子を見ることはできないはずだ。
しかし、まるで見えているかのように魔法弾の命中率は高い。
より細かく感知できるように水脈を動かす。気がつくと、俺は蜘蛛の巣のように水脈を張り巡らせ、ふたりの情報を観察していた。
そこで分かったのは、彼らが透視の魔法と、念動の力を使っていることだ。
透視の魔法を使って草むらの外を感知し、念動の力を使って魔法弾の軌道を調整する。
それにより近づく魔物を発見して、高い確率で撃退することができるのだ。
これだ。これを使えば、あの魔力の塊の正体が分かるかもしれない。
この場所を守る。そう決意をした時、空は夜明けを迎えた。
グリングに治療を受けながら、ゲーゼが呟いた。
「一体、お前は何を見たんだ?」
器用な手先で治療をするグリングは、一瞬手を止めてから言った。
「一瞬だった。何かが光って……その後一瞬で距離を詰めて来たんだ。あいつが何かは……見てない。」
そう言った後、ゲーゼは涙をこぼして啜り泣いてしまった。
たしかに、一瞬だった。もう少し速ければ感知できないほどの速さ。
しかも、それは暗闇の中で光ったという。
やはり生きているのか。そして、人を襲うのか。
まったく、なんて厄介な存在だ。そんな強いやつがなんでここにいるんだよ。
その時、俺の思考の中で最も最悪な展開を思いついた。
もしかして……結界が解けたのか?
リノン・ミキにより封印されたはずの、俺の奥深くに眠る要塞。
結界が解けて、かつての魔物が地上に出ようとしていると考えれば、この不思議な状況の説明もつく。
いや、まさかな……。そもそも結界が解けるわけが……。
ピピピッピピッ
「あ、こちらグリングです。現在、ゲーゼが攻撃を受けて戦闘不能です。応援をお願いします。」
グリングが何かの魔法を使って会話をしている。
小さな石と魔法陣を手に、ゲーゼの怪我の様子やこの洞窟の場所を伝えているらしい。
「……はい。……はい……あ、ゲーゼ・リノです。……へ?あ、2日ですか?あ……はい、分かりました。よろしくお願いします。」
絶妙に役に立っていなさそうな通信を終えたグリングは、どこか得意気に思えた。
応援が来るのか。応援……そもそも、こいつらは誰だ?
兵士なのか諜報員なのか。いや、冒険者っていう可能性もあるのか。
まぁ、それは今はどうだっていい。問題は、この場所が、再び戦争の舞台になる可能性があるということだ。
数えきれないほどの犠牲者を出した、魔王マラの時代。あの凄惨な光景を記憶しているのは俺だけだろう。
俺にできることは何かあるだろうか。
……うーん、正直思いつかない。
考えているうちに辺りは暗くなり、野生の魔物が出て来る時間になった。
あのふたりはずっと草むらにいるつもりだろうか。
この辺りで一番安全なのは、この洞窟だ。
魔力の塊も、今のところ円形の広場から出て来る気配はない。
出て来たら……その時はその時だ。天井の岩でも落として、あいつらが逃げる時間くらい稼いでやろう。
日が落ちてから、随分と時間が経った。ふたりはまだ洞窟に入ろうとせず、草むらにいるようだ。
たまに人の気配を察知した魔物がふたりに近づくが、魔法弾を打って撃退をしている。
俺は疑問に思った。あいつらは草むらから外の様子を見ることはできないはずだ。
しかし、まるで見えているかのように魔法弾の命中率は高い。
より細かく感知できるように水脈を動かす。気がつくと、俺は蜘蛛の巣のように水脈を張り巡らせ、ふたりの情報を観察していた。
そこで分かったのは、彼らが透視の魔法と、念動の力を使っていることだ。
透視の魔法を使って草むらの外を感知し、念動の力を使って魔法弾の軌道を調整する。
それにより近づく魔物を発見して、高い確率で撃退することができるのだ。
これだ。これを使えば、あの魔力の塊の正体が分かるかもしれない。
この場所を守る。そう決意をした時、空は夜明けを迎えた。
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