神話の牢獄

おにぎり

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5、再来と変貌

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 暗い空間に意識を伸ばす。明かりのない、ひんやりとした場所だ。
 たまに生き物の気配を感じるが、それが何かは分からない。

 その空間があまりにも広すぎて、全てを感知することができない。
 どれだけ意識の糸を伸ばしても、最奥に行き着くことができない。
 迷宮のように、いくつもの分かれ道が存在する空間に、俺は全容を解明することをついに諦めた。


 しかし、分かったこともある。
 崩れた岩から少し行ったところ。何かがある。
 円形の広場のような空間の天井は高く、その中に大きな魔力の塊を感じる。
 それが何かは分からないが、俺に害をなす存在ではないようだ。



「おい、こんな草あったか?」

「なかったと思う。もしかしてこの洞窟じゃなかったか?」

「いいや、ここのはずだ。それに、俺が作った椅子もそこにある。」

「あぁ、本当だ……。じゃあ、この洞窟……か。」


 暗い空間に意識を集中させていたせいで気が付かなかったが、洞窟の中に誰かが入って来た。
 見たことある2人組。名前は確か……

 俺は以前、ふたりが名前を彫っていた壁を見た。

 ゲーゼ・リノ
 グリング・クルノ

 たしか、髭の太っている方がゲーゼで、長細い方がグラングだ。
 こいつら、また来たのか。


 ふたりは少し困惑している様子。こいつらが出て行ってから精霊が来て植物を増やしているのだから、当然だ。

 精霊は2人組の男を怖がっている様子。奥の岩の影で身を潜めている。


 そもそも、ふたりはなぜ戻って来たのだろうか。

「なあ。」そう言って太っている方が話し出す。

「なんか、雰囲気変わってないか?」

「そりゃそうだろ。こんな植物生えりゃ雰囲気だって変わるさ。」
 グリングは呆れながらあしらう。

「いや、そりゃそうなんだが……。俺らが前ここに来たのっていつだ?」
 ゲーゼは髭を整えて、洞窟を見回しながら言う。

「前はたしか……ビーン城の任務の帰りだったから……5日前くらいだったか?」

「あぁ、そあだよな。なぁゲーゼ、葉っぱってこんな早く育つか?」

「……うーん。まぁ……こんな、早くはないかもな」


 ふたりは洞窟が緑で覆われていることを不思議がっているようだ。
 実は、俺もそう思う。

 精霊が住み着いてからというもの、洞窟の中の光が当たらないところでも植物が育つようになった。
 さらに、今までは苔しか育たなかったが、今では赤い実をつける植物や、黄色に輝く実をつける植物もある。

 植物に覆われているというか、植物に支配されている、と言った方が正しいかもしれない。

 今までもいくつか精霊を見て方が、これほどの力を持つ精霊は初めてだ。


「それにだ」
 そう言って、ゲーゼは洞窟の奥に指を向ける。

「なんか、あそこ崩れてないか?気のせいか?」

 グリングは目を凝らしてから首を傾げる。
「うーん、前も崩れてなかったか?……というか、俺が記憶力ないの知ってるだろ。俺に聞かないでくれよ。」

「お前、それくらい覚えておけよ。だからいつも偵察失敗するんだろ?」

「はぁ?お前、言ったな?」


 喧嘩が始まってしまった。このふたり、前も喧嘩してなかったっけ?
 まぁ、思い出すだけ無駄だろう。


 日が傾いて辺りが薄暗くなって来た頃、ようやくふたりは静かになった。

 まるで意味の分からないことで喧嘩するのだから、本当に迷惑だった。精霊はもう岩の中で寝てしまって、スピーと音を出している。


「なぁ、あの穴入ってみようぜ。」
 ゲーゼが言う。

「軽々しく話しかけんな。馬鹿が。」

「あん?じゃあお前はここで待ってろ。宝石が出て来てもお前には分けてやんねぇからな。」

「は?こんなクソ洞窟に宝石なんてあるわけがないだろ。」


 何か気に触る会話だ。まぁ、今は許そう。
 崩れた岩の奥に入って行くゲーゼを追う。

 彼は慎重に壁を伝って奥に入り、やがてあの円形の広場に行き着いた。
 そして彼がが円形の広場に足を踏み入れた瞬間、あの魔力の塊が、ものすごい速度で動き出した。
 それと同時ににゲーゼは叫び声を上げて、慌てふためきながら洞窟の外へと出て来て、もう夜で暗い地面を転がって行った。


 思わず呆気に取られてしまった。
 一体あの広場で、何が起きたというのか。
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