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過ちに真の実は生らぬ
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「あのね……ひとつだけ教えて」
「なんだ」
「私が彼と付き合ってる時から別の人と付き合ってたとか言ったのは……紗耶香?」
私が尋ねると、順平は目をそらして口をギュッと閉じた。
「知ってるんだよ。紗耶香の子供……壮介じゃなくて、順平の子供なんだよね?」
「えっ……なんで……」
「順平が電話でその事話してるの、聞こえちゃったの。順平は私が留守だと思ってたみたいだけど、その時私、すごい熱があって部屋で寝てたんだ。その電話の後、順平は全然気付かずに出掛けちゃったけど……」
次の日バイトの時間になっても私が姿を見せず、電話にも出なかったので、心配したマスターがここに来て、ひどい脱水症状を起こして意識がなかった私を病院に運んでくれたのだと話すと、順平はかなり驚いているようだった。
「一晩入院してたのに、それにも気付かないんだもんね。私が好きだった順平なら、そんな事は絶対にないよ」
「……気付かなくて悪かった」
順平はバツが悪そうな顔でボソッと謝った。
「それはさておき、ホントの事を教えて。紗耶香は順平の事、私が付き合ってた順平だと思ってた?」
「ああ……。バイト中に急に声掛けられて……」
「やっぱり……。それで二人で手を組んだ……って事でいいの?」
「……そんなとこだ」
順平と紗耶香の関係は私の予想していた通りだったらしい。
こんなにも似ていたら紗耶香が見間違うのも無理はないだろう。
「うん……そっか……。壮介がね、元はと言えば自分の責任だから、子供は自分の子として紗耶香と育てるって。子供かわいいって言ってた。壮介はこれからも騙されたふりしてるって言ってたから……この事、紗耶香には黙っててね」
「わかった」
「順平は……私をどうしようと思ってたの?」
順平はしばらく手元を見つめて、ため息をついた。
「陽平がおまえの事をめちゃくちゃ大事にしてたのも、おまえに病気の事を打ち明けたのも知ってる。ホントはただ陽平がおまえの名前を呼びながら死んでいった事だけを伝えたかったんだ。でも……陽平は最期までおまえに会いたがってたのに、陽平を捨てて他の男のところに行ったおまえが許せなかった。陽平のふりしておまえを傷付けて捨ててやろうって思ってた」
「そう……。もっと上手に騙してくれたら良かったんだけどな……。それなら仕方ないって思えたのに……順平、顔以外は全然似てないんだもん」
手の中の封筒をギュッと握りしめた。
彼は私に何を伝えたかったんだろう?
「これ……順平は読んだの?」
「いや……何度も読もうと思ったんだけどな……。陽平が何を思ってたのか知るのがつらくて、一度も読めなかった」
志半ばで若くして逝った双子の弟の最期を看取ったことは、順平にとっては半身をもがれるのも同然のつらいことだったんだと思う。
その痛みを背負った順平を差し置いて、彼が残した想いを私が受け取ってもいいのだろうか。
「読んでみてもいいかな……」
「それは陽平がおまえ宛てに書いた手紙だ。あとはおまえの好きにしろ。俺が話せるのはそれだけ。あと……おまえの元婚約者のところにいた女は……」
「知ってる。佐倉代行サービスのサクラなんでしょ?壮介から聞いた」
「そうか。それならいい」
順平はソファーから立ち上がり、自分の部屋に戻った。
私はしばらくの間、封筒に書かれた『朱里へ』の文字を見つめていた。
それから、少し震える手で封を開け、便箋を開いた。
懐かしい彼……陽平の、少し乱れた文字が並んでいる。
「なんだ」
「私が彼と付き合ってる時から別の人と付き合ってたとか言ったのは……紗耶香?」
私が尋ねると、順平は目をそらして口をギュッと閉じた。
「知ってるんだよ。紗耶香の子供……壮介じゃなくて、順平の子供なんだよね?」
「えっ……なんで……」
「順平が電話でその事話してるの、聞こえちゃったの。順平は私が留守だと思ってたみたいだけど、その時私、すごい熱があって部屋で寝てたんだ。その電話の後、順平は全然気付かずに出掛けちゃったけど……」
次の日バイトの時間になっても私が姿を見せず、電話にも出なかったので、心配したマスターがここに来て、ひどい脱水症状を起こして意識がなかった私を病院に運んでくれたのだと話すと、順平はかなり驚いているようだった。
「一晩入院してたのに、それにも気付かないんだもんね。私が好きだった順平なら、そんな事は絶対にないよ」
「……気付かなくて悪かった」
順平はバツが悪そうな顔でボソッと謝った。
「それはさておき、ホントの事を教えて。紗耶香は順平の事、私が付き合ってた順平だと思ってた?」
「ああ……。バイト中に急に声掛けられて……」
「やっぱり……。それで二人で手を組んだ……って事でいいの?」
「……そんなとこだ」
順平と紗耶香の関係は私の予想していた通りだったらしい。
こんなにも似ていたら紗耶香が見間違うのも無理はないだろう。
「うん……そっか……。壮介がね、元はと言えば自分の責任だから、子供は自分の子として紗耶香と育てるって。子供かわいいって言ってた。壮介はこれからも騙されたふりしてるって言ってたから……この事、紗耶香には黙っててね」
「わかった」
「順平は……私をどうしようと思ってたの?」
順平はしばらく手元を見つめて、ため息をついた。
「陽平がおまえの事をめちゃくちゃ大事にしてたのも、おまえに病気の事を打ち明けたのも知ってる。ホントはただ陽平がおまえの名前を呼びながら死んでいった事だけを伝えたかったんだ。でも……陽平は最期までおまえに会いたがってたのに、陽平を捨てて他の男のところに行ったおまえが許せなかった。陽平のふりしておまえを傷付けて捨ててやろうって思ってた」
「そう……。もっと上手に騙してくれたら良かったんだけどな……。それなら仕方ないって思えたのに……順平、顔以外は全然似てないんだもん」
手の中の封筒をギュッと握りしめた。
彼は私に何を伝えたかったんだろう?
「これ……順平は読んだの?」
「いや……何度も読もうと思ったんだけどな……。陽平が何を思ってたのか知るのがつらくて、一度も読めなかった」
志半ばで若くして逝った双子の弟の最期を看取ったことは、順平にとっては半身をもがれるのも同然のつらいことだったんだと思う。
その痛みを背負った順平を差し置いて、彼が残した想いを私が受け取ってもいいのだろうか。
「読んでみてもいいかな……」
「それは陽平がおまえ宛てに書いた手紙だ。あとはおまえの好きにしろ。俺が話せるのはそれだけ。あと……おまえの元婚約者のところにいた女は……」
「知ってる。佐倉代行サービスのサクラなんでしょ?壮介から聞いた」
「そうか。それならいい」
順平はソファーから立ち上がり、自分の部屋に戻った。
私はしばらくの間、封筒に書かれた『朱里へ』の文字を見つめていた。
それから、少し震える手で封を開け、便箋を開いた。
懐かしい彼……陽平の、少し乱れた文字が並んでいる。
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