オフィスにラブは落ちてねぇ!!

櫻井音衣

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大嫌いな男

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大嫌いな緒川支部長に『おまえ』と呼ばれた愛美は、心の中で『おまえってなんだよ、偉そうにするな!』と叫ぶ。
それに今このタイミングでそんなことを聞く必要があるだろうか?
もし仮に自分に彼氏がいたところで、緒川支部長にはなんの関係もない。

「……そういう事を聞くのも、セクハラのうちに入るらしいですよ」
「そうか……。やっぱりいい、悪かったな」


出来上がった弁当を受け取り、また3人で支部に戻った。
相変わらず愛美の隣を歩いていた緒川支部長は、行きと違って黙って何かを考え込んでいた。
支部に戻ると、愛美は休憩スペースのテーブルの上に弁当を置き、3人分のお茶を淹れた。
愛美が緒川支部長と高瀬FPにお茶を出し、自分のお茶を持って内勤席に行こうとすると、緒川支部長がテーブルを指先でトントンと叩いた。

「菅谷もここで食え」
「いえ……私は……」
 (おまえの顔見てたら、せっかくの鶏そぼろ弁当がまずくなるだろうが!!)
「食事はここで。支部の規則だろ?」
「……はい……」

愛美は仕方なくテーブルにお茶を置き、弁当を広げた。
この支部の決まりで、仕事用のデスクでは飲み物とお菓子程度なら許されてはいるが、食事はしない事になっている。
いつもはこの場所で営業職員のオバサマたちと一緒に食事をするのだが、今日は珍しく緒川支部長と食事時間が一緒になったので、自分の席で食事をしようとしたら止められてしまった。

(あーあ……。高瀬FPと二人ならきっと楽しかったのに……)

愛美はモソモソと弁当を食べ始めた。

「菅谷さんのお弁当、美味しそうですね。それ、何弁当ですか?」
「鶏そぼろ弁当です。すごく美味しいですよ。あのお弁当屋で一番の私のお気に入りです」
「へぇ、僕も今度、それ食べてみます」
「男の人には少なめかも知れませんね。うどんのセットもありますよ」

高瀬FPとは笑いながら会話している愛美を見て、緒川支部長はまた小さくため息をついた。
そして愛美の弁当から、鶏の照り焼きを一切れ箸でつまみ上げて口に放り込んだ。

「あ、美味い」
「なんで勝手に取るんですか!!」
「おまえの弁当、美味そうだったから」
「信じられない……」
「悪いな。お詫びにこれやる」

緒川支部長が唐揚げを差し出した。
愛美はそれには見向きもせず、自分の弁当のそぼろ御飯に箸をつける。

「結構です」
 (おまえの使った箸で触った物なんか要らんわ!!)

高瀬FPは、子どもみたいな事をする緒川支部長と、やけに緒川支部長にイライラしている愛美を交互に見て、だし巻きを口に運びニヤリと笑った。


食事を終えると、愛美は一刻も早く緒川支部長から離れたくて、すぐに自分の席に戻った。
コーヒーを飲みながら読みかけの音楽雑誌をパラパラとめくる。
雑誌を読んでいるふりをしながら、愛美はさっきの緒川支部長の言動にまだイライラしていた。

 (なんなんだ、あれ……。最近やけに構ってくるな……)

「菅谷さん」

不意に高瀬FPに声を掛けられ、愛美は慌てて顔を上げた。

「あ……はい、なんですか?」
「この後、企業訪問に行ってきます。企業向けの定期保険のパンフレット、そこの棚にないんですけど……」
「わかりました、倉庫から取ってきます。ちょうど他にも補充する物があったんです」
「じゃあ僕も一緒に行きます」

愛美が倉庫の鍵を引き出しから取り出して立ち上がると、緒川支部長が高瀬FPの肩を叩いた。

「俺が行く。ついでがあるから。高瀬は企業訪問の準備してろ」
「そうですか?じゃあ、お願いします」

また邪魔をされて、愛美は緒川支部長を殴りたい衝動を必死で堪えながら、倉庫の鍵をギュッと握りしめた。

 (またかよ!邪魔ばっかしやがって!!)

「菅谷、行くぞ」
「……はい」
「お願いします」

高瀬FPに笑顔で見送られ、愛美は仕方なく緒川支部長の後をついて歩いた。

 (なんで私がこんな男と……)


倉庫の鍵を開けて中に入り、愛美は高瀬FPに頼まれた企業向けの定期保険のパンフレットを探した。

「えーっと……あっ、あった」

しかしずいぶん高い所にあるので、手が届きそうにない。
脚立を取りに行こうと振り返った愛美は、すぐ真後ろにいた緒川支部長にぶつかり転びそうになった。

「わっ……!!」

転びそうになった愛美を、緒川支部長は軽々と片手で受け止める。

「大丈夫か?」
「だっ……大丈夫です」
 (だから早くその手を離せぇ!!)

愛美の心の声とは裏腹に、緒川支部長は愛美を受け止めたまま、その手を離そうとしない。

「あのっ……もう大丈夫なんで!離してもらえます?」

愛美がその手から逃れようとすると、緒川支部長は愛美を抱きしめた。

「菅谷……おまえ、なんでそんなに俺を嫌うんだ?」
「え……えぇっ?!ちょっ……支部長……!!」
 (な、な、何これーっ!!バカーッ!!離せー!!)
「高瀬が好きなのか?」
「ち、違います!!とにかく離して……」
「イヤだ……」

どんなに力を込めて押し退けようとしても、緒川支部長は愛美の体を強い力で抱きしめたまま離さない。

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