閉じたまぶたの裏側で

櫻井音衣

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男友達の裏の顔

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應汰との約束の金曜日。
仕事を定時で終えた私は、休憩スペースでコーヒーを飲みながら應汰を待っていた。
すぐ終わるから少しだけ待ってて、というメッセージを受け取ってから、既に30分が過ぎている。
應汰め、どこが『少しだけ』だ。
待たされた分、今日は思いっきり飲んでやる。
そんなことを思いながらスマホでネットニュースを眺めていると、勲がコーヒーを片手に私の隣に立った。

「こんな所で何やってるんだ。仕事終わったんだろ?帰らないのか?」
「友達と約束があるんです」

無愛想に返事をしてスマホの画面に視線を戻すと、勲はテーブルに手をついて私の顔を覗き込んだ。

「……男?」

──まただよ。
私にそんなくだらない詮索をする暇があるなら、さっさと仕事を片付けて、若くて綺麗な奥さんが待ってる家へ帰ればいいのに。
喉元につかえた苛立ちを流し込むようにコーヒーを飲み干して、潰したカップをゴミ箱に投げ込んだ。

「主任、それセクハラです」
「セクハラって……」
「仕事の後まで上司に干渉されたくないので、失礼します」

勲に背を向けて歩き出すと、後ろでため息が聞こえた。
会社の外で待ってると應汰にメッセージを送ろうと思いながらエレベーターを待っていると、降りてきたエレベーターのドアが開き、ちょうど中に乗っていた應汰が手をあげた。

「おう、お待たせ」
「あ、降りなくていい。そのまま行こう」

タイミング悪い。
應汰と約束してるってバレただろうな。
私と應汰はただの友達だけど、仮に付き合っていたとしても勲に文句を言われる筋合いはない。

つまらない嫉妬なんかしないで。
たまに男友達と一緒に飲みに行くくらい、どうって事ないでしょ?
あなたと違って、私は独身なんだから。


会社の近くの居酒屋に入った私と應汰は、いつものようにテーブル席に向かい合って座った。

「遅くなってごめんな」
「ホントだよ。その分、飲むからね」
「おぅ、いいぞ」

生ビールをジョッキで注文して乾杯をした。
二人でお酒を飲んでも、私と應汰は勲が心配しているような色気のある関係じゃない。
應汰はビールを飲みながらネクタイを緩める。

「芙佳と飲みに来るの久しぶりだな」
「そうだね。前に来た時は、舞と付き合い始めて2か月だって言ってた」
「もうそんなになるか?」

運ばれてきた料理を少しずつ取り皿に乗せて手渡すと、應汰は満足げに笑った。
これもいつものことなのに、何がそんなに嬉しいんだろう。

「サンキュー。あれだな。やっぱ芙佳といると落ち着くわ。痒いところに手が届くって言うか、なんも言わなくてもいいからラク」
「何それ?」

世話やいてもらって落ち着くって、誉め言葉のつもり?
應汰は私に母性を求めているんだろうか。
古い付き合いだし頻繁に一緒に食事をするから、應汰の食べ物の好みくらいはだいたい把握しているつもりだけど、應汰が言うほど私は應汰を知らないと思う。

「なんでも男にやってもらって当たり前って思ってる女の子、けっこう多いな」
「そんなもんなんじゃない?若い子は特にね。世話焼きの私はさしずめ、オカンってとこ?」
「オカンとまでは言ってないだろ。よく気が付くんだよ、芙佳は。あれして欲しい、これして欲しいって言わなくても、それを察して先回りしてくれる」

何も言わなくてもわかって欲しいって、普通は女が言うものじゃないの?
それともあれか、熟年夫婦の阿吽あうんの呼吸みたいなものを彼女に求めてるのか?
なんにせよ、そんなことを言う應汰はきっと亭主関白になることだろう。

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