5 / 52
男友達の裏の顔
1
しおりを挟む
應汰との約束の金曜日。
仕事を定時で終えた私は、休憩スペースでコーヒーを飲みながら應汰を待っていた。
すぐ終わるから少しだけ待ってて、というメッセージを受け取ってから、既に30分が過ぎている。
應汰め、どこが『少しだけ』だ。
待たされた分、今日は思いっきり飲んでやる。
そんなことを思いながらスマホでネットニュースを眺めていると、勲がコーヒーを片手に私の隣に立った。
「こんな所で何やってるんだ。仕事終わったんだろ?帰らないのか?」
「友達と約束があるんです」
無愛想に返事をしてスマホの画面に視線を戻すと、勲はテーブルに手をついて私の顔を覗き込んだ。
「……男?」
──まただよ。
私にそんなくだらない詮索をする暇があるなら、さっさと仕事を片付けて、若くて綺麗な奥さんが待ってる家へ帰ればいいのに。
喉元につかえた苛立ちを流し込むようにコーヒーを飲み干して、潰したカップをゴミ箱に投げ込んだ。
「主任、それセクハラです」
「セクハラって……」
「仕事の後まで上司に干渉されたくないので、失礼します」
勲に背を向けて歩き出すと、後ろでため息が聞こえた。
会社の外で待ってると應汰にメッセージを送ろうと思いながらエレベーターを待っていると、降りてきたエレベーターのドアが開き、ちょうど中に乗っていた應汰が手をあげた。
「おう、お待たせ」
「あ、降りなくていい。そのまま行こう」
タイミング悪い。
應汰と約束してるってバレただろうな。
私と應汰はただの友達だけど、仮に付き合っていたとしても勲に文句を言われる筋合いはない。
つまらない嫉妬なんかしないで。
たまに男友達と一緒に飲みに行くくらい、どうって事ないでしょ?
あなたと違って、私は独身なんだから。
会社の近くの居酒屋に入った私と應汰は、いつものようにテーブル席に向かい合って座った。
「遅くなってごめんな」
「ホントだよ。その分、飲むからね」
「おぅ、いいぞ」
生ビールをジョッキで注文して乾杯をした。
二人でお酒を飲んでも、私と應汰は勲が心配しているような色気のある関係じゃない。
應汰はビールを飲みながらネクタイを緩める。
「芙佳と飲みに来るの久しぶりだな」
「そうだね。前に来た時は、舞と付き合い始めて2か月だって言ってた」
「もうそんなになるか?」
運ばれてきた料理を少しずつ取り皿に乗せて手渡すと、應汰は満足げに笑った。
これもいつものことなのに、何がそんなに嬉しいんだろう。
「サンキュー。あれだな。やっぱ芙佳といると落ち着くわ。痒いところに手が届くって言うか、なんも言わなくてもいいからラク」
「何それ?」
世話やいてもらって落ち着くって、誉め言葉のつもり?
應汰は私に母性を求めているんだろうか。
古い付き合いだし頻繁に一緒に食事をするから、應汰の食べ物の好みくらいはだいたい把握しているつもりだけど、應汰が言うほど私は應汰を知らないと思う。
「なんでも男にやってもらって当たり前って思ってる女の子、けっこう多いな」
「そんなもんなんじゃない?若い子は特にね。世話焼きの私はさしずめ、オカンってとこ?」
「オカンとまでは言ってないだろ。よく気が付くんだよ、芙佳は。あれして欲しい、これして欲しいって言わなくても、それを察して先回りしてくれる」
何も言わなくてもわかって欲しいって、普通は女が言うものじゃないの?
それともあれか、熟年夫婦の阿吽の呼吸みたいなものを彼女に求めてるのか?
なんにせよ、そんなことを言う應汰はきっと亭主関白になることだろう。
仕事を定時で終えた私は、休憩スペースでコーヒーを飲みながら應汰を待っていた。
すぐ終わるから少しだけ待ってて、というメッセージを受け取ってから、既に30分が過ぎている。
應汰め、どこが『少しだけ』だ。
待たされた分、今日は思いっきり飲んでやる。
そんなことを思いながらスマホでネットニュースを眺めていると、勲がコーヒーを片手に私の隣に立った。
「こんな所で何やってるんだ。仕事終わったんだろ?帰らないのか?」
「友達と約束があるんです」
無愛想に返事をしてスマホの画面に視線を戻すと、勲はテーブルに手をついて私の顔を覗き込んだ。
「……男?」
──まただよ。
私にそんなくだらない詮索をする暇があるなら、さっさと仕事を片付けて、若くて綺麗な奥さんが待ってる家へ帰ればいいのに。
喉元につかえた苛立ちを流し込むようにコーヒーを飲み干して、潰したカップをゴミ箱に投げ込んだ。
「主任、それセクハラです」
「セクハラって……」
「仕事の後まで上司に干渉されたくないので、失礼します」
勲に背を向けて歩き出すと、後ろでため息が聞こえた。
会社の外で待ってると應汰にメッセージを送ろうと思いながらエレベーターを待っていると、降りてきたエレベーターのドアが開き、ちょうど中に乗っていた應汰が手をあげた。
「おう、お待たせ」
「あ、降りなくていい。そのまま行こう」
タイミング悪い。
應汰と約束してるってバレただろうな。
私と應汰はただの友達だけど、仮に付き合っていたとしても勲に文句を言われる筋合いはない。
つまらない嫉妬なんかしないで。
たまに男友達と一緒に飲みに行くくらい、どうって事ないでしょ?
あなたと違って、私は独身なんだから。
会社の近くの居酒屋に入った私と應汰は、いつものようにテーブル席に向かい合って座った。
「遅くなってごめんな」
「ホントだよ。その分、飲むからね」
「おぅ、いいぞ」
生ビールをジョッキで注文して乾杯をした。
二人でお酒を飲んでも、私と應汰は勲が心配しているような色気のある関係じゃない。
應汰はビールを飲みながらネクタイを緩める。
「芙佳と飲みに来るの久しぶりだな」
「そうだね。前に来た時は、舞と付き合い始めて2か月だって言ってた」
「もうそんなになるか?」
運ばれてきた料理を少しずつ取り皿に乗せて手渡すと、應汰は満足げに笑った。
これもいつものことなのに、何がそんなに嬉しいんだろう。
「サンキュー。あれだな。やっぱ芙佳といると落ち着くわ。痒いところに手が届くって言うか、なんも言わなくてもいいからラク」
「何それ?」
世話やいてもらって落ち着くって、誉め言葉のつもり?
應汰は私に母性を求めているんだろうか。
古い付き合いだし頻繁に一緒に食事をするから、應汰の食べ物の好みくらいはだいたい把握しているつもりだけど、應汰が言うほど私は應汰を知らないと思う。
「なんでも男にやってもらって当たり前って思ってる女の子、けっこう多いな」
「そんなもんなんじゃない?若い子は特にね。世話焼きの私はさしずめ、オカンってとこ?」
「オカンとまでは言ってないだろ。よく気が付くんだよ、芙佳は。あれして欲しい、これして欲しいって言わなくても、それを察して先回りしてくれる」
何も言わなくてもわかって欲しいって、普通は女が言うものじゃないの?
それともあれか、熟年夫婦の阿吽の呼吸みたいなものを彼女に求めてるのか?
なんにせよ、そんなことを言う應汰はきっと亭主関白になることだろう。
0
あなたにおすすめの小説
サディスティックなプリテンダー
櫻井音衣
恋愛
容姿端麗、頭脳明晰。
6か国語を巧みに操る帰国子女で
所作の美しさから育ちの良さが窺える、
若くして出世した超エリート。
仕事に関しては細かく厳しい、デキる上司。
それなのに
社内でその人はこう呼ばれている。
『この上なく残念な上司』と。
小野寺社長のお気に入り
茜色
恋愛
朝岡渚(あさおかなぎさ)、28歳。小さなイベント企画会社に転職して以来、社長のアシスタント兼お守り役として振り回される毎日。34歳の社長・小野寺貢(おのでらみつぐ)は、ルックスは良いが生活態度はいい加減、デリカシーに欠ける困った男。
悪天候の夜、残業で家に帰れなくなった渚は小野寺と応接室で仮眠をとることに。思いがけず緊張する渚に、「おまえ、あんまり男を知らないだろう」と小野寺が突然迫ってきて・・・。
☆全19話です。「オフィスラブ」と謳っていますが、あまりオフィスっぽくありません。
☆「ムーンライトノベルズ」様にも掲載しています。
とある高校の淫らで背徳的な日常
神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。
クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。
後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。
ノクターンとかにもある
お気に入りをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
体育館倉庫での秘密の恋
狭山雪菜
恋愛
真城香苗は、23歳の新入の国語教諭。
赴任した高校で、生活指導もやっている体育教師の坂下夏樹先生と、恋仲になって…
こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載されてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる