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嫉妬する資格なんかない
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うろたえてじたばたすると余計に変に思われてしまうと思い、私はただ黙ってその手が離れるのを待つ。
エレベーターが1階に着くまで誰にも見つかりませんようにと気が気でない。
ようやくエレベーターが1階に着くと、ドアが開く直前にやっと勲が私の手を離した。
誰にもバレなくて良かった。
息をするのも忘れそうなほど緊張していたせいで、私の手はイヤな汗でジットリと湿っている。
勲の手の感触ごと消し去りたくて、ポケットの中でハンカチを握りしめた。
「河合、降りないのか?」
ホッとしたのもつかの間、少し足がすくんで動けずにいた私に、勲が声をかけた。
私は勲のせいでこんなに焦っているのに、そう仕向けた本人は涼しい顔をしている。
まだ勲への気持ちが断ち切れていないことを見透かされたような気がして、背筋にまたイヤな汗がにじんだ。
「あ……いえ、降ります」
私は先にエレベーターから降りていた應汰に慌てて駆け寄った。
何も知らない應汰は挙動不審な私を不思議そうな顔で見ている。
「どうかしたのか?」
「いや……なんにもないよ。ちょっとぼんやりしてた」
「そうか?ならいいけど……ところで今日は何食う?」
親しげに話している私と應汰に、勲がまとわりつくような険しい視線を送る。
お願い、もう私に関わらないで。
やっと少しずつ前に進めそうな気がしていたのに、その手で私を引き留めないで。
思っていた通り、金曜の夜の街は浮き足だった人たちで賑わって、どのお店もとても混雑している。
いくつかの店をまわってみたけれど、店先に行列ができていたり、店内のテーブル席だけでなくウェイティング席まで満員だったりで、長時間待つ覚悟がなければ入れそうになかった。
「どこもいっぱいだな。どうする?」
私はぼんやりとさっきのエレベーターでの事を考えていて、應汰の声が耳をすり抜けた。
「芙佳?」
「ん?ああ……ごめん、ぼんやりしてた」
「さっきからなんかおかしいぞ。体調悪いなら無理しないで帰るか?」
「ううん、ホントに大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」
應汰に変な心配はかけたくないし、應汰と一緒にいる時に勲のことを考えて上の空なんて、あまりにも失礼過ぎる。
さっきの事はなかった事にして、早く忘れてしまおう。
「どの店もいっぱいだな。どうする?もうちょっと足伸ばしてみるか?」
「この辺りの店はかなり行き尽くしたもんね」
「それだけ俺らが一緒にいるってことだな」
毎日のように一緒にいても、私たちは恋人同士じゃない。
だけどただの友達とか、同僚という一言では足りない。
そんな微妙な関係だと思う。
「あ、そうか。世間では給料日明けの金曜だから、どこ行っても混んでるんだな」
うちの会社は世間でいうところの給料日より遅れて給料が振り込まれる。
世間が給料日だとはしゃいでいても、私たちにとっては給料前だ。
「ほとんど毎日だけど大丈夫?給料日までに生活費使い果たしたりしない?」
「ちゃんと成績上げてそれなりに稼いでるからな。その辺は心配すんな」
「だけど毎日だと出費がかさむでしょ?無理しなくていいんだよ」
「いや、俺が芙佳と飯食いたいんだ。毎日芙佳の作った飯食えたら最高なんだけどな」
さらっと照れくさい事を言うな……應汰は……。
さすがに手料理を毎日とはいかないけど、たまには應汰の期待に応えるのも悪くないかな。
「簡単な物でも良ければ作ろうか?」
「え?」
「しょっちゅうごちそうになってるし、そのお礼に……って言えるほどのたいした料理はできないな。やっぱりどこかで食べようか」
應汰は私の手を掴んで、目をキラキラさせた。
「食べたい!作って!!」
「え?うん……いいけど、あんまり期待はしないでよ……?」
「やったぁ!!」
應汰は子供みたいに嬉しそうに笑った。
こういうところは素直でかわいい。
これだけ喜んでくれるなら作り甲斐がある。
しかし料理を作るのはいいとして、どこで作るのかが問題だ。
エレベーターが1階に着くまで誰にも見つかりませんようにと気が気でない。
ようやくエレベーターが1階に着くと、ドアが開く直前にやっと勲が私の手を離した。
誰にもバレなくて良かった。
息をするのも忘れそうなほど緊張していたせいで、私の手はイヤな汗でジットリと湿っている。
勲の手の感触ごと消し去りたくて、ポケットの中でハンカチを握りしめた。
「河合、降りないのか?」
ホッとしたのもつかの間、少し足がすくんで動けずにいた私に、勲が声をかけた。
私は勲のせいでこんなに焦っているのに、そう仕向けた本人は涼しい顔をしている。
まだ勲への気持ちが断ち切れていないことを見透かされたような気がして、背筋にまたイヤな汗がにじんだ。
「あ……いえ、降ります」
私は先にエレベーターから降りていた應汰に慌てて駆け寄った。
何も知らない應汰は挙動不審な私を不思議そうな顔で見ている。
「どうかしたのか?」
「いや……なんにもないよ。ちょっとぼんやりしてた」
「そうか?ならいいけど……ところで今日は何食う?」
親しげに話している私と應汰に、勲がまとわりつくような険しい視線を送る。
お願い、もう私に関わらないで。
やっと少しずつ前に進めそうな気がしていたのに、その手で私を引き留めないで。
思っていた通り、金曜の夜の街は浮き足だった人たちで賑わって、どのお店もとても混雑している。
いくつかの店をまわってみたけれど、店先に行列ができていたり、店内のテーブル席だけでなくウェイティング席まで満員だったりで、長時間待つ覚悟がなければ入れそうになかった。
「どこもいっぱいだな。どうする?」
私はぼんやりとさっきのエレベーターでの事を考えていて、應汰の声が耳をすり抜けた。
「芙佳?」
「ん?ああ……ごめん、ぼんやりしてた」
「さっきからなんかおかしいぞ。体調悪いなら無理しないで帰るか?」
「ううん、ホントに大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」
應汰に変な心配はかけたくないし、應汰と一緒にいる時に勲のことを考えて上の空なんて、あまりにも失礼過ぎる。
さっきの事はなかった事にして、早く忘れてしまおう。
「どの店もいっぱいだな。どうする?もうちょっと足伸ばしてみるか?」
「この辺りの店はかなり行き尽くしたもんね」
「それだけ俺らが一緒にいるってことだな」
毎日のように一緒にいても、私たちは恋人同士じゃない。
だけどただの友達とか、同僚という一言では足りない。
そんな微妙な関係だと思う。
「あ、そうか。世間では給料日明けの金曜だから、どこ行っても混んでるんだな」
うちの会社は世間でいうところの給料日より遅れて給料が振り込まれる。
世間が給料日だとはしゃいでいても、私たちにとっては給料前だ。
「ほとんど毎日だけど大丈夫?給料日までに生活費使い果たしたりしない?」
「ちゃんと成績上げてそれなりに稼いでるからな。その辺は心配すんな」
「だけど毎日だと出費がかさむでしょ?無理しなくていいんだよ」
「いや、俺が芙佳と飯食いたいんだ。毎日芙佳の作った飯食えたら最高なんだけどな」
さらっと照れくさい事を言うな……應汰は……。
さすがに手料理を毎日とはいかないけど、たまには應汰の期待に応えるのも悪くないかな。
「簡単な物でも良ければ作ろうか?」
「え?」
「しょっちゅうごちそうになってるし、そのお礼に……って言えるほどのたいした料理はできないな。やっぱりどこかで食べようか」
應汰は私の手を掴んで、目をキラキラさせた。
「食べたい!作って!!」
「え?うん……いいけど、あんまり期待はしないでよ……?」
「やったぁ!!」
應汰は子供みたいに嬉しそうに笑った。
こういうところは素直でかわいい。
これだけ喜んでくれるなら作り甲斐がある。
しかし料理を作るのはいいとして、どこで作るのかが問題だ。
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