血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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出会い

人間に戻れる時間

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【地下街・マチルダの部屋/マチルダ10歳・アルカ5歳】

地下の石作りの一室。
照明は薄暗く、壁に打ち付けられた鉄パイプからは常に湿った空気が流れていた。

けれど、その部屋だけは、不思議とあたたかかった。

マチルダは膝を曲げて床に座り、小さな子どもの前に薄い毛布を敷いていた。
その上に寝転んでいるのは、アルカ。
体は細く、頬は少しこけている。
生まれつき体が弱く、外に出ることも、訓練を受けることもなかった。

カルトはそんな弟にほとんど興味を示さなかった。

「アルカ、今日もお腹痛いの?」

「うん……でも、昨日よりは、だいぶ平気」

アルカは、ふにゃっと笑う。
その笑顔に、マチルダの頬がほんのわずか緩んだ。

その表情は──兄・カルトの前では決して見せない、柔らかなものだった。

「……よかった」

「お姉ちゃんは? 今日も“おしごと”したの?」

マチルダは少し黙ってから、こくんと頷く。

「うん。今日は……走って、切って、黙ってる訓練。あと、痛みのやつ。……途中で、お兄ちゃんどっか行ったけど」

「いたくなかった?」

その言葉に、マチルダはふと小さく目を伏せる。

ほんの一瞬、表情から力が抜けた。

「わかんない。痛みは“感じちゃいけない”から……感じたかどうかも、忘れたほうが褒められる」

アルカは静かに、マチルダの手を握った。

小さくて、まだ温かい手。

マチルダのその手は、冷たく乾いていたが──アルカの指が絡むと、ほんのり体温が戻ってくる気がした。

「ぼく、お姉ちゃんが……いたくないといいなって、思ってるよ」

マチルダの目が、ふわりと揺れる。

「……ありがと」

声が、少し震えた。

涙ではない。悲しみでもない。
ただ“人としての感情”が、そこにあった。

「今日のごはんね、地下の市場でね、ジャガイモいっぱい売ってたんだって。おばさんが言ってた」

「へぇ……じゃあ、明日はポテトスープかな?」

「えへへ、いいね。……お姉ちゃん、あったかいの好きでしょ?」

「うん……アルカも、あったかいの、好き?」

「だいすき」

二人は、なんでもない話を続けた。

そこに、血も訓練も、殺しも存在しなかった。

ただ、兄妹として──“人間”としての、かすかな時間。

マチルダは、自分がまだ“誰かを大事にできる”ことに気づくたび、安心するようにアルカの髪を撫でた。

(この子は、守りたい)

(カルトが何と言おうと、訓練でどれだけ人間を捨てさせられても……)

(アルカだけは、絶対に守る)

それが、マチルダの唯一の“祈り”だった。
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