血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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出会い

運命が近づく

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【地下街・マチルダの部屋/夕刻】

「ふふ、アルカの髪ってふわふわしてる。……あったかい」

マチルダは、穏やかな笑みを浮かべたまま、弟の頭をなでていた。

アルカはすやすやと微かな寝息を立てている。
この時間だけが、自分を“普通の子ども”に戻してくれる。

けれど──

その静けさは、乱暴な扉の開閉音で破られた。

バン。

重たい音が、部屋の空気を裂く。

「……マチルダ」

聞き慣れた、冷たい声。

カルトが帰ってきた。

薄いジャケットの肩には血が乾きかけており、顔色は相変わらず感情の気配を見せない。

けれどその目の奥だけが、どこか満たされたように滲んでいた。

「訓練の続きをやるよ」

マチルダは顔を上げた。

さっきまでの柔らかい表情が、すっと消える。

「……うん」

アルカの横にそっと毛布をかける。
その動作も乱さずに、マチルダは静かに立ち上がった。

「今から“反応を消す訓練”だ。前よりも厳しくする。逃げたら倍になるからね」

「うん、わかった」

マチルダはもう、何も疑問を抱かない。

ただ従う。
それが“愛される”ということだと、信じている。

カルトにとっての“愛”は、マチルダを壊すことと同義だった。
マチルダはそれを知りながら、受け入れるしかなかった。

薄暗い廊下に、足音が響く。
マチルダはカルトに連れられて、奥の訓練部屋へ向かっていた。

途中──

ふと、マチルダが立ち止まる。

「……?」

「何?」

カルトが振り返る。

「……なんでもない。……風が……吹いた気がした」

地下に風などない。
けれど、一瞬、何かが背筋を撫でた気がした。

温かいような、冷たいような。
胸の奥が、じんわりと何かに触れられたような──

(なに、これ……)

次の瞬間、背後の暗がりに、人影がゆっくりと歩いていく幻のように見えた。

足音はない。
その姿には顔も輪郭もなかった。

けれど、なぜか──

(……なつかしい)

まだ会ったことのない“誰か”に、心が一瞬だけ反応した。

マチルダは、何かを振り払うように首を横に振った。

「行こ、お兄ちゃん」

「早くしろ。遅れたらまた──やり直しだからね」

「うん……」

そしてマチルダは、また“無”の仮面をかぶり直した。

訓練部屋の奥。
痛みと冷たさの中へ、また一歩、足を踏み入れていく。

でも──
その背中には、ほんの微かに“風”の気配が残っていた。

その風は、遠く離れた路地裏の薄明かりの下。
静かに佇む、一人の若者の足元をそっと撫でていた。

足音のない歩み。
誰にも気づかれず、誰にも縛られず。

その男の瞳が、一瞬だけ誰かを探すように、暗がりを見つめる。

まだ出会っていない。
けれど、出会いは確かに、近づいていた。
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