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出会い
私の過去
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【地下街・夜/レヴィア宅】
明かりを落とした部屋には、かすかな呼吸音だけが残っていた。
マチルダはいつものように、壁に背を預けて座ったまま、目を閉じている。眠ってはいない。
レヴィアも、簡素な寝具に横たわり、ただ目を閉じていた。
「……おやすみ」
沈黙のなかにレヴィアの低い声が落ちる。
それに対して、返事はなかった。
だが、しばらくの静寂を破るように、少女の声が、闇の中からぽつりとこぼれた。
「……お兄ちゃんと、弟がいた。親はいない」
レヴィアの目が、うっすらと開く。
寝返りも打たず、ただ、耳を澄ませる。
「殺し屋一家で育ったの。毎日が訓練ばっかりで……」
「……」
「お兄ちゃんの名前は、カルト。──ずっと、ずっと、カルトに仕込まれてきた」
どこまでも感情のない語りだった。
朗読のように、ただ事実を並べるだけの声。
「……何百人も、殺したことある。
でも……アルカと話す時だけは、“人間”でいられた」
マチルダは目を閉じたまま、続ける。
「弟。病弱で、訓練もしてなくて──でも、優しかった。
私に“ここから一緒に逃げたい”って言ったの。
だから、頑張ろうって……約束した」
レヴィアはゆっくりと上体を起こして、暗がりのなかでマチルダを見つめる。
少女の表情は見えないが、その背中が微かに震えていた。
「でもね、アルカは──カルトに殺された」
レヴィアの拳が、膝の上でゆっくりと握られる。
「“お前に甘えが出るから”って理由で……」
「……」
「気がついたら、カルトの上にいた。ナイフで、何度も……。
何も考えてなかった。ただ、体が勝手に動いてた」
それでも、声は震えなかった。
涙も出なかった。
ただ、乾いた空気のなかに、淡々とした“過去の断片”が積み上げられていく。
「そのまま、死のうとした。
でも、死に損なって、アンタに出会った」
レヴィアの喉が、ごくりと鳴った。
彼女の小さな体に、どれだけのものが詰め込まれていたのか──その重さを思い知らされる。
「……これが、私の過去」
その一言で、話は終わった。
感情を挟まない、否──挟むことを“許されなかった”ような語り口。
それが何より痛ましかった。
しばし沈黙。
そして、レヴィアが小さく問いかけた。
「……何で、涙ひとつ見せねぇんだよ」
マチルダは少しだけ目を開けて、天井を見つめた。
「泣くのは甘え。感情なんて、いらない。
殺し屋は、感情があると命取りになるから……」
「……」
「アルカの前でだけ、“人間”になれた。
でもそれも……もう終わった」
レヴィアは、マチルダに何か言葉を返そうとした。
だが、すぐに口をつぐんだ。
“そんな生き方はおかしい”
“泣いていい”
“もう戦わなくていい”
──そんなことを、このガキが素直に受け入れるわけがない。
だが、何も言わないままではいられなかった。
「……これからは俺がそばにいる」
マチルダが、わずかに目を動かした。
「人殺しでも、殺し屋でも──構わねぇ。
もうお前を一人にはしねぇよ」
マチルダは何も返さなかった。
けれど、ただ目を閉じ、ほんの一瞬だけ──力が抜けたように見えた。
それは、彼女が初めて“誰かの言葉に反応した”瞬間だった。
レヴィアはゆっくりと横になり、静かに息を吐いた。
明日もまた、戦いのような日常が始まる。
だが、今夜だけは──ただ、少しだけ、静かな時間が流れていた。
明かりを落とした部屋には、かすかな呼吸音だけが残っていた。
マチルダはいつものように、壁に背を預けて座ったまま、目を閉じている。眠ってはいない。
レヴィアも、簡素な寝具に横たわり、ただ目を閉じていた。
「……おやすみ」
沈黙のなかにレヴィアの低い声が落ちる。
それに対して、返事はなかった。
だが、しばらくの静寂を破るように、少女の声が、闇の中からぽつりとこぼれた。
「……お兄ちゃんと、弟がいた。親はいない」
レヴィアの目が、うっすらと開く。
寝返りも打たず、ただ、耳を澄ませる。
「殺し屋一家で育ったの。毎日が訓練ばっかりで……」
「……」
「お兄ちゃんの名前は、カルト。──ずっと、ずっと、カルトに仕込まれてきた」
どこまでも感情のない語りだった。
朗読のように、ただ事実を並べるだけの声。
「……何百人も、殺したことある。
でも……アルカと話す時だけは、“人間”でいられた」
マチルダは目を閉じたまま、続ける。
「弟。病弱で、訓練もしてなくて──でも、優しかった。
私に“ここから一緒に逃げたい”って言ったの。
だから、頑張ろうって……約束した」
レヴィアはゆっくりと上体を起こして、暗がりのなかでマチルダを見つめる。
少女の表情は見えないが、その背中が微かに震えていた。
「でもね、アルカは──カルトに殺された」
レヴィアの拳が、膝の上でゆっくりと握られる。
「“お前に甘えが出るから”って理由で……」
「……」
「気がついたら、カルトの上にいた。ナイフで、何度も……。
何も考えてなかった。ただ、体が勝手に動いてた」
それでも、声は震えなかった。
涙も出なかった。
ただ、乾いた空気のなかに、淡々とした“過去の断片”が積み上げられていく。
「そのまま、死のうとした。
でも、死に損なって、アンタに出会った」
レヴィアの喉が、ごくりと鳴った。
彼女の小さな体に、どれだけのものが詰め込まれていたのか──その重さを思い知らされる。
「……これが、私の過去」
その一言で、話は終わった。
感情を挟まない、否──挟むことを“許されなかった”ような語り口。
それが何より痛ましかった。
しばし沈黙。
そして、レヴィアが小さく問いかけた。
「……何で、涙ひとつ見せねぇんだよ」
マチルダは少しだけ目を開けて、天井を見つめた。
「泣くのは甘え。感情なんて、いらない。
殺し屋は、感情があると命取りになるから……」
「……」
「アルカの前でだけ、“人間”になれた。
でもそれも……もう終わった」
レヴィアは、マチルダに何か言葉を返そうとした。
だが、すぐに口をつぐんだ。
“そんな生き方はおかしい”
“泣いていい”
“もう戦わなくていい”
──そんなことを、このガキが素直に受け入れるわけがない。
だが、何も言わないままではいられなかった。
「……これからは俺がそばにいる」
マチルダが、わずかに目を動かした。
「人殺しでも、殺し屋でも──構わねぇ。
もうお前を一人にはしねぇよ」
マチルダは何も返さなかった。
けれど、ただ目を閉じ、ほんの一瞬だけ──力が抜けたように見えた。
それは、彼女が初めて“誰かの言葉に反応した”瞬間だった。
レヴィアはゆっくりと横になり、静かに息を吐いた。
明日もまた、戦いのような日常が始まる。
だが、今夜だけは──ただ、少しだけ、静かな時間が流れていた。
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