血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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出会い

ありがとう

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薄く射す陽の光の下で、マチルダは静かに笑っていた。

たった数秒──けれど、半年以上一緒にいて一度も見たことのない表情だった。

(……笑った、のか)

信じられなかった。
あのガキが、泣きもせず、笑いもせず、感情のすべてを切り捨てたように生きてきたマチルダが──

今、目の前で。
まるで何でもないことのように、自然に笑みをこぼしていた。

(……気づいてねぇな、本人)

それがかえって、胸に刺さった。

口角がふっと緩んでいた。
頬がほんの少しだけ柔らかくなっていた。
目元の冷たさも、わずかに和らいでいた。

それは、地下街では到底見られない人間らしさだった。

(……こいつ、本当にガキだったんだな)

ようやく、ほんの少しだけ。
そう思えた。

 * * *

「ここでね、アルカにレヴィアのこと話してたの」

マチルダがふいに語り出した。
墓の前、膝を抱えて、膝に頬を乗せながら。

「俺のこと?」

思わず聞き返すと、マチルダはこくんと頷いた。

「アルカはね、病弱だったから……ほとんど外に出たことがなかったの。地上のことも、外の人も、何も知らなかった」

(だから、お前が“外の世界”になってやってたのか)

「外にはちゃんと優しい人がいたって伝えてた。……私のこと助けてくれたのはレヴィアで、今はレヴィアのそばでちゃんと生きてるって──そんな話」

「……」

レヴィアは黙って、墓の前の土を見つめる。

(“ちゃんと生きてる”──)

その言葉がやけに重たく、静かに沁みてきた。

「アルカが死んだ直後はね、私も一緒に死にたかった。……でも、たぶん私が死んだら、アルカは悲しむ。だからもう、死ぬのはやめたの」

「……」

レヴィアは何も言えなかった。
何も言葉が思い浮かばなかった。

マチルダの声は淡々としていて、涙もなく、感情の抑揚すらなかった。
それでも、はっきりと感じた。
言葉の奥にある決意と、脆くて強い心を。

「ありがとう」

小さな声だった。けれど、確かに聞こえた。

「レヴィアのおかげで、ちゃんと生きてる」

「……」

言葉が喉に詰まる。
何か言いたかったが、何も出てこなかった。

「……アルカの所、レヴィアじゃなきゃ連れて来なかったよ」

「……!」

胸が、少しだけ痛んだ。
目の奥が、少しだけ熱くなった。

(──こいつ、ようやく……)

この半年、何度も背中を見せなかったマチルダが。
今日、自分の背中を見せて靴紐を結び、
今、こんなにも静かに、心を見せてくれている。

ほんの少し。
でも、確かに。

このガキは、心を開こうとしている。

(……あぁ、やっぱり……手放せねぇ)

レヴィアは、そっと小さく、こう呟いた。

「……そうか。ありがとな」

マチルダは少し不思議そうにこちらを見た。

レヴィアはそれに気づかないふりをして、
空を見上げた。

──地下に差し込む光が、墓の上を静かに照らしていた。
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