血に濡れた約束は廃墟に眠る

まちにゃ

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出会い

習慣

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レヴィアは風呂から上がったばかりのマチルダの髪先から、水滴がぽたぽたと床に落ちていくのを見て、眉をひそめた。

「おい、髪から水が垂れてる。ちゃんと拭け。」

「別に平気なのに……」

「お前が平気でも部屋が濡れる。貸せ。」

ぶっきらぼうに言いながらタオルを取り上げると、マチルダの頭にかぶせて拭き始めた。
マチルダはされるがままに椅子に座って、じっとしている。

「……相変わらず潔癖だ……」と、小声で呟く。

「何か言ったか?」

「別にー」

乾いたやりとりの中にも、どこか家庭じみた空気が流れていた。
けれどレヴィアの中には、ずっと拭いきれない違和感があった。

――このガキ、一度も熟睡してねぇ。

ここに来て10ヶ月。必要な会話は交わすようになったし、時折軽口だって叩いてくる。少しずつ心を許してきているのは分かる。

だが夜、マチルダは決して深く眠らない。
明かりを消した後も、物音にすぐ反応し、寝息も浅い。
それがどうしても気になっていた。

タオルを外し、レヴィアはふいに口を開いた。

「……お前、ここに来てから一度も熟睡してねぇだろ。いい加減体が壊れる。俺は何もしねぇし、ここには誰も来ない。」

マチルダはきょとんとしたような顔で首を傾げる。

「???」

「……なんだよ、その顔は。」

「お兄ちゃんといた時も熟睡したことないよ?」

「は?」

平然と、当たり前のことを言うように続ける。

「殺し屋って、いつ刺されるか分からないからさ。寝てても少しでも物音や気配がしたら起きて、すぐにナイフ握れるように訓練してた。」

――淡々と語られる“殺し屋の常識”が、レヴィアには信じられなかった。
このガキは、まだたったの10歳……そんな世界で生きてきたのか。

「だから、私が人前で熟睡するのって……無理なの。レヴィアでも難しいかな。」

そう言ったマチルダは、悲しそうでも、苦しそうでもなかった。
ただ事実を述べるように静かだった。

レヴィアはしばらく黙ってマチルダを見た。
もう十分だ。
このガキにはもう、そんな世界と同じ理屈で生きてほしくねぇ。

「……チッ、勝手に決めんな。ここでくらい、ちゃんと寝ろ。」

そう言ってタオルを無理やりマチルダの頭に被せて、わしゃわしゃと髪を再び拭いた。

「うわ、なにすんの!」

「黙ってろ。乾かさねぇと布団が濡れる。」

「潔癖……」

「うるせぇ。」

マチルダが薄く笑った気がして、レヴィアは口元をほんのわずかだけ緩めた。
この先も、時間はかかるかもしれねぇ。
でも、いつか――このガキが、安心して眠れる夜を取り戻せるように。
それだけは、俺が必ず守ってやる。
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