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仲間
沈黙の刃
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――アルカの墓参りの帰り道
アルカの墓には、今日も花が絶えていなかった。
小さな手で束ねられた白い花。
名もない野花を選んだのは、きっと「贅沢じゃないものがいい」と思ったからだ。
マチルダは、静かに手を合わせていた。目を閉じ、何も言わない。
ただ、思い出さないようにしている過去が、じわりと胸の奥を濡らしていく。
そして――帰り道。
(……つけられてる)
足音はない。呼吸も殺されている。
でも、マチルダにはわかる。ずっと、そうやって生きてきた。
(……足の運び、肺の動き、視線の気配。全部、聞こえてる)
ふと角を曲がると、袋小路。わざとだ。
数歩後ろをつけていた男が、それに気づいたように立ち止まった。
「……あれ、行き止まり、か?」
その瞬間、首元に冷たい鋭さが走った。
「動くと殺す。分かったら、目を閉じろ」
男の肩が跳ねた。声をかけられるまで、背後に気配は一切なかった。
まるで、空気がナイフになったような錯覚――
「ッ……!?」
「……早く」
男――ラナードは震えながら、ゆっくりと目を閉じた。
喉元に突きつけられた刃は、わずかでも力を込めれば肉を割きそうな距離にある。
「アンタ、この前、私とレヴィアのこと見てたよね。胡散臭い男。ロープ降ろしてさ……目的は?」
「ッ……れ、レヴィアを仲間にして……地上に、上がりたかった……!」
ラナードの喉が引きつるように鳴った。
「でもレヴィアに、直接言っても……断られると思った……だから」
「弱そうな子どもの私を狙った」
「――!」
「そうでしょ?よく言われるよ、私。ガキのくせに、って」
マチルダの声は無感情だった。怒ってもいない、呆れてもいない。ただ冷たい水面のように、静かで澄んでいる。
「……けどね、私は人を殺すことに躊躇も感情もない。どうでもいいの」
ラナードの全身から汗が噴き出す。
この子は――子どもじゃない。人を殺す手が、震えない子どもなんて、普通じゃない。
「ひッ……ま、待ってくれ!俺はただ、仲間になりたくて……!」
「だったら、セコい真似せずに直接話せばいい。私を人質にしようなんて……命知らずだね」
言葉のひとつひとつが、刃のように刺さる。
刃は喉元に触れているはずなのに、それ以上に彼女の声が怖かった。
「今度下手な動きしたら殺す」
ラナードは返事ができない。ただ、喉が鳴るだけだ。
「……分かったら返事しなよ。ねぇ?」
「わ、分かった!もう馬鹿な真似はしない!ちゃんと話をしに行く、レヴィアにも……!」
沈黙のあと、刃がスッと離れる気配があった。
「……そう。じゃあ、もう動いていいよ」
ラナードはゆっくりと目を開けた。そして、恐る恐る振り返る。
だが、そこには――誰もいなかった。
誰も、いない。
声も、足音も、気配も消えた。
まるで最初から存在しなかったように。
「……は……っ、はっ……!」
足が震え、腰が抜けた。地面にへたり込んで、両手で顔を覆った。
(……あれは……なんなんだ……)
ただの子ども、のはずだった。
だが、“殺気”は本物だった。
心臓の鼓動が落ち着くまで、ラナードはその場から動けなかった。
アルカの墓には、今日も花が絶えていなかった。
小さな手で束ねられた白い花。
名もない野花を選んだのは、きっと「贅沢じゃないものがいい」と思ったからだ。
マチルダは、静かに手を合わせていた。目を閉じ、何も言わない。
ただ、思い出さないようにしている過去が、じわりと胸の奥を濡らしていく。
そして――帰り道。
(……つけられてる)
足音はない。呼吸も殺されている。
でも、マチルダにはわかる。ずっと、そうやって生きてきた。
(……足の運び、肺の動き、視線の気配。全部、聞こえてる)
ふと角を曲がると、袋小路。わざとだ。
数歩後ろをつけていた男が、それに気づいたように立ち止まった。
「……あれ、行き止まり、か?」
その瞬間、首元に冷たい鋭さが走った。
「動くと殺す。分かったら、目を閉じろ」
男の肩が跳ねた。声をかけられるまで、背後に気配は一切なかった。
まるで、空気がナイフになったような錯覚――
「ッ……!?」
「……早く」
男――ラナードは震えながら、ゆっくりと目を閉じた。
喉元に突きつけられた刃は、わずかでも力を込めれば肉を割きそうな距離にある。
「アンタ、この前、私とレヴィアのこと見てたよね。胡散臭い男。ロープ降ろしてさ……目的は?」
「ッ……れ、レヴィアを仲間にして……地上に、上がりたかった……!」
ラナードの喉が引きつるように鳴った。
「でもレヴィアに、直接言っても……断られると思った……だから」
「弱そうな子どもの私を狙った」
「――!」
「そうでしょ?よく言われるよ、私。ガキのくせに、って」
マチルダの声は無感情だった。怒ってもいない、呆れてもいない。ただ冷たい水面のように、静かで澄んでいる。
「……けどね、私は人を殺すことに躊躇も感情もない。どうでもいいの」
ラナードの全身から汗が噴き出す。
この子は――子どもじゃない。人を殺す手が、震えない子どもなんて、普通じゃない。
「ひッ……ま、待ってくれ!俺はただ、仲間になりたくて……!」
「だったら、セコい真似せずに直接話せばいい。私を人質にしようなんて……命知らずだね」
言葉のひとつひとつが、刃のように刺さる。
刃は喉元に触れているはずなのに、それ以上に彼女の声が怖かった。
「今度下手な動きしたら殺す」
ラナードは返事ができない。ただ、喉が鳴るだけだ。
「……分かったら返事しなよ。ねぇ?」
「わ、分かった!もう馬鹿な真似はしない!ちゃんと話をしに行く、レヴィアにも……!」
沈黙のあと、刃がスッと離れる気配があった。
「……そう。じゃあ、もう動いていいよ」
ラナードはゆっくりと目を開けた。そして、恐る恐る振り返る。
だが、そこには――誰もいなかった。
誰も、いない。
声も、足音も、気配も消えた。
まるで最初から存在しなかったように。
「……は……っ、はっ……!」
足が震え、腰が抜けた。地面にへたり込んで、両手で顔を覆った。
(……あれは……なんなんだ……)
ただの子ども、のはずだった。
だが、“殺気”は本物だった。
心臓の鼓動が落ち着くまで、ラナードはその場から動けなかった。
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